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『川底のクロイモノ ―スマホを掲げた戦国覇王の懺悔録』(第一幕)

    #創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門

    あらすじ
    長崎県諫早市、本明川(ほんみょうがわ)。 スマホを武器に過去を蹂躙した者は、傲慢さゆえに人としての姿を失い、醜い姿へと成り果てた。 水底から見つめるのは、かつての宿敵であり、現代を生きる二人の少年。 「最新技術」に依存し、大切なものを見失った現代社会への警鐘。 2018年に地域で話題を呼んだご当地ライトノベルが、AIとの共創により物語として今、生まれ変わる。


    前口上(クロイモノ編)

    閃光。

    意識が戻ると、私は川の中に漂っていた。
    かつて私が蹂躙し、支配したはずのこの地を流れる「本明川(ほんみょうがわ)」だ。川は透き通り、どこまでも見渡せるほど美しい。流れは穏やかで、水面や川底を自由に行き来できた。
    川辺に一人の少年が倒れているのが見えた。
    身体から血が流れ、顔がだんだんと青白くなっていく。

    (死ぬのか……? この少年が……)

    その瞬間、少年の意識が濁流のように私の中に流れ込んできた。

    「故郷を変えたい。この諫早を、つまらない場所にしたくない」 あまりに純粋で、眩しすぎる志。 その記憶の傍らには常に、彼と共に歩むもう一人の少年の姿があった。 少年と少年の親友。この二人が、かつての「敵」だった。

    変えようとすれば、その土地の有力者から拒まれる。 神の道具、スマホを武器にこの地を支配した私には、その痛みが痛いほどわかる。拒んだのは私自身だからだ。彼らの存在を恐れた。

    助けようと手を伸ばしたが、つかめなかった。
    なんと指先はヒレになっていたのだ。なんだ。この身体は。
    私は人ではなくなったのか。
    自分の身体がどうなったのかもわからない。
    黒い糸のようなものが漂っているのが視界から見える。
    この糸から振動を感じることができた。

    やがて少年は川の底で動かなくなった。

    (何もできないのか。私は、ただ見守るしかないのか……!)

    その時、私の体が光りだす。存在が消えるような感覚に陥り、視界が歪んだ。 気がつくと、場所が変わっていた。

    浅瀬に少年が立ち、川辺に倒れた者を悲しげに見つめている。
    大柄な男が近づき、少年の頬を叩いて声をかけた。
    川の中にいる私には、彼らが何を話しているのかは聞こえない。
    得体の知れない白い箱が到着して倒れた少年を乗せていった。
    箱が過ぎ去った後、コオロギの鳴き声が虚しく響く。

    なぜ、このようになったのか。
    これから語るのは、事実ではないが真実である。

    私は愚か者だったのだ。
    自らの知識を悪用し、天下さえ取れると慢心していた。
    合戦に敗れ、疑心暗鬼に陥り、私は人の心を捨てた。
    スマホを利用してあらゆる知識を身に着けた。
    時を測れ、物事を調べることができた。
    電波など届かぬこの地でも、
    その板の中に蓄えられた「アプリ」という知恵の塊は、
    過去の人間には理解し得ぬ「術」となっていた。

    二人の少年の前に立ちはだかり、この村を地獄に変えた張本人。
    それが私だ。 村人を駒のように扱い、純朴さにつけ込んだ。
    源平合戦に敗れ、追手に怯える毎日。
    スマホを拾ったのは千載一遇の機会と信じて疑わなかった。

    私は今、己が滅ぼした地を水底から漂うだけの生き物となった。
    身体は人ではない。
    ヌメヌメとした黒い肌。
    平たい頭には、傲慢さを象徴するかのような長い髭が左右に伸びている。
    泥の中に身を潜め、地震を呼ぶと恐れられた姿。それが今の私だ。

    どうか、付き合ってほしい。
    かつて「化け物」と呼ばれた男が、なぜこのようになってしまったのかを。そしてこれを記録に残すことで、
    同じ過ちを犯すものが少しでも減るように。

    終(一馬編)

    なぜ戻れんとやろう。公園橋の近くから川をみていた。
    方法が違うかもしれん。試してみらんばな。

    今度は助走をつけながら川に向かって走る。
    中心部分にめがけて飛び込んだ。水しぶきがあがった。
    川の中に入ると、視界は真っ暗になる。
    伊佐早(いさはや)に戻れるとジッとしていると、
    息が苦しくなり水面に顔を上げた。
    戻れない。伊佐早の時代から変えんとならんとに。

    街に行くやつらは行ったきりで戻ってこない。
    東京、大阪、福岡、羨ましい。
    京介(きょうすけ)もそうだ。
    進学したら戻ってこないだろう。
    環境が恵まれているやつは恵まれ続ける。
    環境を整えようとしても何かが邪魔する。
    何が再開発だ。なんもできてないやろうが。
    映画館、温泉、夢のまま終わるだけやろうが。

    すぐ前まで川の中心で行き来できたんだ。
    いま戻れないと話にならん。
    おれは近くの橋まで走り、橋の手すりによじ登る。

    戻りたい。
    戻りらんば。
    戻りたかとに。
    おいを伊佐早に連れていってくれ。

    川底めがけて飛び込んだ。
    川から水しぶきが上がった。
    すぐに川底が見える。
    次の瞬間、鈍い音が頭に響いた。

    視界は暗くなり、意識が遠のく。
    走馬灯は訪れず、身体の力が抜けていく。
    地元を変えたかっただけなのに。
    こんな夢も希望もない諫早をどうにかしたかった。

    声が聞こえる。

    「一馬。しっかりしろ。」

    誰だろう。耳がよく聞こえない。

    「なんでこんな無茶なことしたんだ。」

    必死やったっさ。
    考えが回らんの。
    力が入らん。
    これはどがんもならんなぁ。
    歴史は変えられん。

    突飛な行動が今ならわかる。

    この結果。自業自得やの。
    これ運命やっとば。橋から飛び降りて。
    普通に考えたら、行動がおかしか。

    オレの考えが一番まとも。
    オレの考えが一番正しい。
    あの人となんも変わらん。

    おれはおれに勝てんかった。
    親父と母ちゃんは泣くやろうな。
    新しい街を作りたかったな。

    おしまいやろうな。
    もう何も……。
    もう二度と……。
    もう全部……。

    手遅れ(京介編)

    僕のすぐ近くに、血だらけの人が横たわっていた
    すぐに親友の一馬(かずま)だとわかった。
    なんでこんな姿になっているんだ。
    辺りを見回す。誰もいない。

    「しっかりしろ。」

    声を大きくしてかける。反応がない。

    「一馬、目を開けろよ。」

    どうなっているかがわからないから、触れることができない。
    上をふと見上げると橋がある。もしかして飛び込んだのか。

    「なんで無茶なことしたんだよ。」

    水の流れに血が混ざっていく。

    「誰か。助けてください。お願いです。誰か。」

    周りに人はいない。スマホを取り出す。
    画面をタップするが反応がない。
    電源ボタンを強く押す。一瞬、画面が点灯した。
    右上の電池残量は「1%」。
    赤いバーが、一馬と重なって見えた。
    119を叩こうとした瞬間、画面は黒くなった。
    どうしたらいいんだ。 僕は空を見上げた。

    「何があったとや。」

    後ろから声がした。

    上手く頭が回らずに説明する。

    「友達が血だらけで。」

    「救急車は呼んだとか。」

    「救急車って。」

    「119に電話したらくるやろが。」

    「電池がなくて。スマホの」

    「つながるぞ。公衆電話で赤いボタンを押したら。」

    教わってない。動画でも、そんなの。
    自分の常識の狭さが情けなかった。

    「わからんとやろ。スマホしかさわらんけんの。」

    言葉が重い心に響く。
    男の人が応急処置をして陸に運んでいった。

    どうしてこんなことに。
    現実だけが突きつけられる。

    都合よく異世界転生はできないんだろうか。
    最近流行ってるじゃないか。

    必死な時に異世界に行って。
    新しい物語がはじまって。
    特殊能力が身について。
    俺が一番強いってなって。

    頭をはたかれた。

    「なん。ボケとるとや。病院までいくぞ」

    小さくうなずく。声がでない。
    どんなにSNSで色々なことを知れても。
    僕は何もできなかった。友人一人救えない。

    何でもできるは何にもできないの裏返し、自信ではなくて過信だった。
    僕が理屈っぽいのは、頭がいいとみてほしかっただけだ。
    本当に目の前の人を考えるなら、だれにでもわかる言葉を使うだろう。
    一馬はどうしていたんだろうか。友人は多く親との関わりもあった。
    今の状況でも的確に動いただろう。
    方言が抜けていないのも、色々な人との関わりがあったからだ。
    その訛りを内心笑っていた。
    理由さえも聞かなかった。
    ださい、かっこ悪いと表面的にしか見てなかった。

    七月の喧嘩がなければこんな結果にはならなかった。
    あのとき話を聞いていれば過去に行くこともなかった。
    過去に行けたことが全てを狂わせた。

    僕は自分のことだけしか考えていなかった。
    誰かのためといいながら結局は自分のことだけ。
    頭の中で天才を気取っていただけ。
    自分だけの小さな世界に閉じこもっていただけなんだ。

    フワフワとした気分でこれが現実か夢か分からなかった。
    風が吹いた。肌寒さを感じた。
    コオロギの鳴き声が頭に入ってきた。
    カラッポな頭に音だけが響く。まだ現実感がない。
    そうか。もう9月なんだ。

    続編第二幕は以下のリンクから


    あとがき

    本作は8年前に執筆を開始した未完の物語です。当時、本明川の歴史を調べ、入所中だった祖母との共通の話題になればと書き始めました。昨年、祖母が他界したことを機に、AIの力も借りて再構成・ブラッシュアップを行い、完結を目指すことにしました。3話ごとにこうした「あとがき」を挟む予定です。ぜひフォローをお願いします。

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