
【ショートショート】作家ワールドカップ
魔法のノートを拾った。
書いたことは現実になった。
自称作家のぼくは、願望をノートに書き連ねた。
金持ちになった。
直木賞をもらった。
世界は思うままになった。
前半29分。
日本代表の24番が右足を振り抜く。
シュートはGKの手をかすめ、ゴール左隅へ突き刺さる。
ぼくの書いた通り、日本代表は筋書き通り動く。
試合を盛り上げるため、ブラジル選手にも点を入れさせる。
アディショナルタイム、日本が勝ち越しのゴール。
「……面白くない」
所詮、自称作家の書いたシナリオだ。
ぼくはノートに『2時間前に戻る』と書いてみた。
時計は巻き戻り、日本はブラジルに負けた。
でも、面白かった。勇気をもらった。
ぼくはノートを丸めてゴミ箱に捨てた。
「もう、いらないのか?」
その声に飛び上がりながら振り向くと、顔色の悪い男が宙に浮いていた。
「だ、誰?」
「クク……死神だ。いらないならもらってくぞ」
「なに……あ、ノート。もう、必要ない」
ゴミ箱のノートを震える手で取り出す。
「結構書いたな。ひとつの願いに付き寿命10年な」
「は?そんな、勝手に──」
「ここにしっかり書いてある」
ノートの最後のページ、死神の鋭い爪の先には小さな字で注意書きが書いてあった。
死神が手をかざすと、ぼくの中から大事な何かが失われたのを感じた。
「じゃあ、残りの人生……ククッ、アディショナルタイムだな。楽しんで」
そう言って死神は窓から飛び立った。
ぼくは呆然とその後ろ姿を見つめた。
どこか遠くで、笛の鳴る音が聞こえた気がした。
終
4年後を楽しみに。
田原にかさまの毎週ショートショート【作家ワールドカップ】に参加させて頂きました。
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