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タイ野菜は、まずいと思っていた。

    僕はほぼ毎日料理を作る。


    金土日は外食。
    だから、
    平日は台所に立つ。


    料理教室で習ったタイ料理。
    得意な和食。
    最近は、
    その組み合わせが多い。


    料理をしている時間は好きだ。
    無になれる。
    頭の中が静かになる。


    だから今日も、
    野菜を切る。


    ただ、
    一つだけ苦手なものがあった。


    タイ野菜だ。


    短いきゅうり。
    なんだか、
    みずみずしさが足りない。


    スライムみたいなミニトマト。
    独特な味がする。


    慣れない。
    どうしても慣れない。


    だから僕は、
    日本食材スーパーに通っていた。


    ここが最高だ。
    本当に最高だ。


    ライフか。
    サミットか。


    そんな錯覚をする。


    見慣れた野菜。
    見慣れたパッケージ。
    見慣れた調味料。


    そして、
    日本で生まれ育った僕には、
    絶大な安心感がある。


    きっと美味しい。
    きっと失敗しない。


    そんな信頼だ。


    ただ、
    問題がある。


    高い。
    とにかく高い。


    きゅうり一本。
    300円!?


    キャベツ一玉。
    800円!?


    家計を圧迫する。
    なかなかの迫力である。笑


    そんなある日。


    自宅から歩いて10分ほどの場所に、
    地元の八百屋を見つけた。


    野菜が山積みだった。
    種類も多い。
    しかも安い。


    日本食材スーパーの、
    三分の一から半分ほどの価格だった。


    最初は少し不安だった。


    知らない野菜も多い。
    見たことのない形もある。


    でも、
    買ってみた。


    料理してみた。


    食べてみた。


    うまい。


    普通にうまい。


    いや、
    かなりうまい。


    気づいた。


    タイ野菜がまずかった訳じゃない。


    僕が知らなかっただけだった。


    日本野菜を信頼していた。
    タイ野菜を警戒していた。


    その違いだった。


    安心感の正体は、
    品質だけじゃない。


    慣れもある。
    育った環境もある。
    思い込みもある。


    きっと、
    そういうものだ。


    タイ野菜が、
    うまかった。


    知らなかっただけだった。


    たぶん、
    そういうことは野菜に限らない。


    人もそう。
    言葉もそう。
    国もそう。


    知らないから遠ざける。
    慣れているから安心する。


    でも、
    少しだけ近づいてみると、
    案外好きになる。


    最近、
    八百屋の帰り道が好きだ。


    歩いて10分。


    その道のり、
    得した自分を少しだけ褒めたくなる。笑


    そういえば、こんな話も書いていた。


     
     
    仕事を辞めた次の日、 僕は何も感じなかった。 それが、全ての始まりだった。 ----- 40代・ゲイ・元仕事人間。 パートナーの転勤で、夫夫でバンコクへ。 人生の当たり前が崩れていく過程を、できるだけ正直に書いています。 毎週火・金21時更新。100話まで書きます。

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