🌙リボルテの街① 飾り窓の案内所
この物語は、チュチュ・テイルの世界を旅する記録です。
シルエットで描かれた猫たちや動物たちが暮らす、やさしい世界✨️
白いうさぎの旅人 エトワール の旅日記として綴っています。
はじめての方は、ぜひ固定記事からご覧ください🌙
しあわせの庭のティーパーティを出発する頃には、夕暮れ色だった空は、星の光りはじめる深い青へと変わり始めていました。
ぼくは、魔法の花園から続く、花の橋を渡りながら、ふと後ろを振り返ります。
花園の出口は、もう遠くにありました。
けれど、風の中には、まだ少しだけ、甘いいちごの香りが残っている気がします。
空から舞い降りてきた、
星屑みたいな招待状。
『またサーカス島で会おうね〜!』
大きく手を振っていた、
シュガーキャット。
そして――
『……ちゃんと巡り始めておる』
ヴェールの静かな声が、
ふと耳の奥によみがえりました。
ぼくは、小さく息を吐いて、前を向きます。
花の橋には、装飾の施されたランタンの灯りが並んでいました。
花飾りに囲まれた橋を、やわらかな光が照らしています。
橋の下では、ルーナ国から流れてきた月の湖の水が、静かに揺れていました。
きらきらと、光の粒子が溶け込んだような、不思議な色合いです。
遠くの夜空には――
ルーナ国の上空に浮かぶ、サーカス島の灯りが見えていました。
まだ小さな光なのに、どこか楽しそうで。
ぼくは、少しだけ目を細めます。

シャイニー・サーカス団のショーパレード。
……どんな景色なのでしょう。
なんだか、見てみたい気がしました。
けれど、開催までは、まだ時間があるようです。どこへ向かおうか考えた時、ふと思い浮かんだ場所がありました。
リボルテの街。
ときめきの庭で出会った、猫の職人。
『きれいに見えるのはね、“想い”が形になっているからだよ』
あの言葉が、まだ心のどこかに残っていました。

想いを、かたちにする。
ぼくには、まだ少し……難しい言葉です。
手を伸ばしたくなる気持ちと、本当に触れてしまっていいのか、迷ってしまう戸惑いと。
でも――
だからこそ、気になったのかもしれません。
リボルテの街は、以前、一度だけ通り過ぎたことがあります。
とても美しい街でした。
ガラス窓に映る、きらめく光。
リボンの飾りにあふれた街並み。
行き交う動物たちの笑い声。
そして――
ふと、以前出会った猫の姿を思い出します。
やわらかなドレスに、大きなリボン。
鏡をのぞき込みながら、楽しそうに口紅を引いていた、リボルテの街のプリンセス。
『“好き”を大切にしているだけよ』
そう言って、ふわりと笑っていた姿が、なぜだか、今も心に残っていました。

コスメキャット。
……リボルテは、きっと、あの方みたいな街なのです。
橋を渡り終えるころには、夜空に月が輝き始めていました。
ぼくは、そのまま、リボルテの街へと足を向けます。
まず向かったのは、旅人たちがよく利用する案内所でした。
場所によって呼び方が変わる案内所。
リボルテの街では、「飾り窓の案内所」と呼ばれていました。
建物の正面には、大きな飾り窓。
ガラス越しに、やわらかな灯りが揺れています。
ショーウィンドウに並ぶ服やバッグは、灯りに照らされて、繊細な模様が浮かび上がっていました。

中へ入ると、奥の壁には大きな掲示板があります。
“星巡りの便り”と呼ばれていて、仕事依頼の紙が並びます。
空舟の荷運び。
ショーウィンドウの掃除。
飾り花の設置。
旅の資金を調達するために、旅人がよく利用する事のある掲示板です。
ぼくは、その前を静かに通り過ぎ、受付口へ向かいました。
受付には、灰色の猫が座っていました。
整った服装の、とても静かな猫です。
ぼくの姿を見ると、その猫は、ほんの少しだけ目を細めました。
まるで、最初から来ることを知っていたみたいに。
「……旅の方ですね」
やわらかな声でした。
「はい。少しの間、滞在できる宿を探していて」
そう伝えると、猫は小さく頷きます。
それから、迷う様子もなく、一枚の案内札を差し出しました。
「でしたら、こちらが静かで過ごしやすいかと」

その仕草が、あまりにも自然で。
……なぜでしょう。
少しだけ、不思議な気持ちになります。
まるで、必要な場所へ、そっと導かれているみたいでした。
猫は、それ以上、何も聞きません。
けれど、ぼくが案内札を受け取ると、ほんの少しだけ、やわらかく笑った気がしました。
淡く光る粒子に包まれた札です。
外へ出ると、夜風が静かにローブを揺らします。
リボルテの街は、たくさんの灯りであふれていました。
でも、そのどれもが、不思議と溶け合っているような気がします。
ぼくは、案内札を握りしめながら、空を見上げました。
上空に浮かぶ空舟が、星の道を渡っていく姿が見えます。
街の灯りに照らされて、輝きを増す夜空の中を、ゆっくり進んでいます。
ぼくは、その光を見上げながら、案内札をそっと握り直しました。

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