🌙リボルテの街④ 込める想い
この物語は、チュチュ・テイルの世界を旅する記録です。
シルエットで描かれた猫たちや動物たちが暮らす、やさしい世界✨️
白いうさぎの旅人 エトワール の旅日記として綴っています。
はじめての方は、ぜひ固定記事からご覧ください🌙
ぼくは、アルトから受け取った地図を、もう一度だけ見つめました。
小さな赤い印。
『アルトの工房』
その周りには、細い道がいくつも伸びています。
『きらめき通り』
『糸結びの小道』
『花飾り通り』
『音色坂』
道には、それぞれ名前が書き込まれていました。

「迷ったら、とりあえず歩いてみるといい」
奥の作業場から、アルトがこちらに声を掛けます。
「意外と、ふらっと歩いている時の方が、掘り出し物に出会えたりするよ」
……そういうものなのでしょうか。
ぼくは、ときめきの庭をあとにして、地図に書かれた細い通りへ向かいました。
通りを歩いていると、少し不思議なことに気づきました。
アルトが地図に書いていた場所は、キラキラしたショーウィンドウが並ぶ通りではありませんでした。
少し路地へ入ったところに、小さな露店がたくさん並んでいます。
布を広げただけのお店。
木箱を並べただけのお店。
花飾りや、小さなガラス細工。
……こんな素朴な通りが、リボルテにもあったのですね。
歩いていると、色んな動物たちの姿が目に入ります。
小さな子どもを抱いて歩いている夫婦。
花飾りを嬉しそうに見つめているキツネ。
キラキラしたチャームが並ぶ露店。
歩いては立ち止まって。
また歩いて。
気づけば、同じ通りを何度も行ったり来たりしていました。
そんな中、キラキラしたチャームが並ぶ露店で、小さな星形のチャームが棚の端で揺れていました。
……これは。
ぼくは、思わず足を止めました。
光が当たるたび、少しずつ色が変わって見えます。
ぼくがそっと手に取ると、露店のタヌキの店主が小さく笑いました。
「ここにある飾りは、光にあたると色が変わって見えるんだよ」
色が変わる。
ぼくは、小さなチャームを見つめました。
ふと、星柄の靴下を見つけて、カールとメリルが笑い合っていたことを思い出します。
……これを、アルトの工房に持っていこう。

その夜、ぼくは、地図を頼りにアルトの工房へ行くことにしました。
リボルテの街にあるアルトの工房は、ときめきの庭の工房とは少し違っていました。
二階は暮らす場所なのでしょうか。
小さな窓には、カーテンが揺れています。
そっと、入口のベルを鳴らすと、中からアルトが出てきました。
「あぁ、旅人さん。好きに選んでいいぞ」
柔らかい眼差しで、ぼくを迎え入れると、作業場へ案内してくれました。
部屋いっぱいに、パーツや工具がたくさん並んでいます。
小さな歯車。
色んな形の小箱。
リボン。
銀細工。
どれも、輝いてみえるパーツばかり。
「……選べるでしょうか」
ぼくは、星のチャームを握りしめます。
その日から、夜はアルトの工房へ通う日々が続くことになりました。

***
エトワールがパーツ選びに奮闘している頃。
コスメキャットは、小さなティーカップを手にしながら、アルトを見上げていました。
「旅人さん……エトワールさんと言ったかしら。まだ、決まらないの?」
アルトは、小さく笑います。
「だいぶ悩んでるよ」
「毎回、『……違う気がします』って言ってる」
コスメキャットが思わず肩を揺らしました。
「あら」
「ずいぶん悩むのね」
「まぁ、贈りものだからな」
「適当に決めるよりは、いいと思うけど」
コスメキャットは少し考えるように窓の外を見ました。
「……でも」
「ひとりで悩み続けると、余計に分からなくなることもあるわよね」
そして後ろへ視線を向けます。
「ローズ」
「少し、お手伝いしてあげて」
ローズは一瞬だけ目を丸くしました。
「……わたし、ですか?」
「あなた、見つけるのが上手でしょう?」
「小さな変化とか」
ニッコリ微笑むコスメキャットを、少しだけ困惑した表情で見つめながら、ローズは静かに頭を下げました。
「……かしこまりました」

***
今日も、なかなかパーツ選びが進まず、何度もリボンの色を合わせていました。
すると、入口のベルが、小さく鳴ったのです。
振り向くと、ローズが立っていました。
「エトワールさん」
静かに一礼します。
「コスメ様から、お手伝いするように言われました」
そう言ったあと、ローズは入口の近くで静かに立ったまま、ぼくの様子を見ています。
ぼくは、リボンを手に取っては戻して。
小さな飾りを並べては、また考え込みます。
少し置いてみて。
やっぱり違う気がして戻して。
そんなことを何度も繰り返していました。
しばらく、静かな時間が流れました。
そして。
「……ずいぶん、悩まれるのですね」
ぽつり、と。
ローズが、思わず言葉をこぼしたようでした。
少しだけ気まずそうに目をそらし、すぐに口を閉じます。
「……失礼しました」
ぼくは、小さく首を振ります。
「いえ……その通りかもしれません」
ローズは何も言わず、ゆっくり近づいてきました。しばらく、机の上のパーツを眺めると、並んでいたリボンを整えはじめます。
星柄の飾りを、小箱の隣へ。
小さな銀細工を、その横へ。
そして少し考えてから、小さな青いリボンを置きます。

「……こちらは?」
ぼくが尋ねると、ローズは少し視線を落としました。
「見ていると、夜空みたいでしたので」
ぼくは、並べられたパーツを見つめました。
星柄の飾りと、小さな銀細工。
夜空みたいな青いリボン。
……不思議でした。
最初は何を選べばいいのか分からなかったのに。
「星柄が好きな夫婦のようなのです」
気づけば、そんな言葉がこぼれていました。
ローズは何も言わず、静かに耳を傾けています。
ぼくは、並べられたパーツをもう一度見つめました。
その時。
ふと、カールとメリルの姿が浮かびました。
星柄の靴下を見つけて、嬉しそうに笑い合っていたふたり。
あの時の、やわらかな笑顔。
ぼくは、その光景を思い出していました。
……そうでした。
ぼくは、あの笑顔を見てみたかったのです。
ぼくは、並べられたパーツをもう一度見つめました。
……さっきより、少しだけ。
手を伸ばしやすい気がしました。
「最後に必要なのは、これだ」
見計らったように、後ろから声がします。
アルトが、机の奥から小さな鍵を取り出していました。
「……鍵?」
アルトは、小さく笑います。
「想いを入れるための鍵」
そして。
「込める想いは決まったか?」
そう問いかけて、ゆっくりと、鍵を差し出してきたのでした。

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