
選択:向かわない
まだ、式まで時間がある。
せっかくだから、少し校内を散策してみたかった。
正面玄関にある靴箱。
右手には卒業生が制作したであろう大きな絵が飾ってあった。
春夏秋冬をモチーフにした作品だ。
なんとなく違和感を覚えたが、わたしの感情は感傷のほうに傾いていた。
ここで、ひかりの新たな生活が始まる。
自分の中学時代など、もう昔すぎて大した記憶はないが、なんとなく記憶を呼び起こしてみる。
わたしは中学生から小説を書くのが趣味だった。
今思えばバカみたいなくだらない小説で、それでも、一生懸命書いては友人に見せていたっけ。
楽しかった気がする。
もう当時の友人は残っていないけれども。
みんな、結婚して子供ができて。
特にわたしはあの事件があってパートナーを亡くしてから、事件ばっかりを追っていたから、昔の友人をことごとく失ってしまった。
ひかりは、あの子には、いい思い出をたくさん作ってもらいたい。
小学校で辛い思いをした分、取り返すくらいの幸せを。
正面玄関をでて、そろそろ体育館へ向かおうかとした矢先。
渡り廊下の角に、誰も気づかないような場所に一枚の紙が貼りつけられているのが目に入った。
(なんだろう)
なんだか、興味がわいた。
近づいて、もうかなりの年数がたっていそうな張り紙を見る。
『探しています』
子猫の写真が写っていた。
茶トラの子猫だ。
なんとなく、我が家のずんだに似ている気がする。
(まあ、猫は柄が似ていれば同じようにみえるわよね)
そういえば、と思い出す。
ずんだをもらってきたのは、パートナーである健太だ。
ちょうど自殺をする数週間前。
後から思えば、まるで自分の死を悟って、自分の身代わりを渡したのかのようなタイミングだ。
よく考えれば、どこから拾ってきたとか、何も聞かなかったな。
ずんだの生い立ちを考えていると、ふと昨日のことがよみがえった。
あの家に入って即、まるで勝手知ったる家のように、一目散に2階のあの部屋へ向かったずんだ。
まさか、あの部屋を知っている?
(そんなわけないでしょ、なんで山梨で生まれた猫を、千葉で拾うのよ)
浮かんだ思いに自分でツッコミを入れるわたし。
おかしなことを考えてないで、そろそろ入学式にいかなきゃ。
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