メインコンテンツへスキップ
見出し画像

空を夢見る魚 第九夜 最終話

    そろそろ空が白んでくる

    波が忙しく打ち寄せ、少し浮き足だっていた


    人魚はそろそろ来るはずだ


    小さな波の音がだんだん近づいてきて
    ぱしゃん、ぱしゃん、と折りたたむように

    岸に近づいて来ていた


    カフリエが走り回り

    一番小さな星までもがチカチカして人魚を待つ  

     
    マーテルミは騒がしい星たちを落ち着かせていた


    「おはよう」


    綺麗な声がした

    人魚の身体は、すっかり海色に戻っている

    しかしどこか緊張して白っぽく泡立っていた


    沈海華をたくさん着けた髪は、
    今まで一番華やいでいる

    手には、古い船の小さな木片を持っていた

    僕は人魚ににっこりした


    人魚が僕に近づく

    そして僕をそっと抱えた


    震えている


    今日は、こぽこぽ聞こえない

    嬉しいような不安なような、
    楽しみなような怖がっているような、
    安心したような、
    よく分からない顔をしていた


    僕は聞いた

    「君は太陽を望む?」

    東の空に向かって
    人魚がまっすぐ


    頷いた





    東の水平線が赤くなった


    色がだんだん濃くなり、強くなる

    濃紺と紅の空に、黄金の光が広がっていく

    人魚が、はぁぁっと息を飲んだ


    太陽は世界を脅かさないように登ってくる

    何よりも人魚を怖がらせないように
    非常にゆっくりと動いていた


    そっと、そっと、光が1本

    垂直に立った


    光はだんだん高度を下げる

    静かに、静かに、人魚に近づいてくる


    人魚が震えていた



    太陽が、尾ヒレを刺した


    透明な尾が固まっていく

    痛みと、硬直していく身体に
    人魚が息を止め、顔をこわばらせた

    それでも人魚は、太陽から目を反らさなかった


    太陽がまた1本、光を出した

    口を刺す

    人魚は僕を抱き締めた


    朝日色の真珠がぽろぽろころころ散らばった

    光を浴びた珠は、今までで一番強く輝いていた


    太陽が顔を半分出した

    人魚も半分動かない


    1本、また1本

    光が人魚の頬を刺し、手を刺し


    胸を貫いた





    …ピシッ










    乾いた音がして

    セイレーンはオーロラ石となって
    動かなくなってしまった


    もう二度と、こぽこぽと聞こえない

    もう二度と、僕はびしょ濡れにされることはない


    人魚はなんだか

    冷たくて硬くて

    汐の香りだけが柔らかく残っていた


    船の欠片は人魚の指からふわりと離れ

    帆船のように
    弧を描いて宙へと消えていく


    僕が人魚を見上げると

    もう動かなくなったはずの口元が微笑んでいた


    太陽が海から上がり、曙の高みへと上がる

    何よりも大きく、美しい星が昇ると
    夜の星達は静かに明かりを消していった

    月だけは、太陽にそっと寄り添った


    …行こうか

    僕は静かなセイレーンに囁いた


    人魚は返事をする代わりに

    ふんわりと浮いた

    焔があがった

     

    太陽に向かって飛んでいく僕らを、
    人々が指差している


    「虹色のハレー彗星」

    あの子供が跳び跳ねて叫んでいた



    第八夜はこちらから

    第一夜から読み直す🧜‍♀️🌅 
       ↓↓


     
     
    スキした作品は必ず読んでいます 新作公開は非常にゆっくりです 更新が止まっている間は他の作品を悩みまくって執筆中

    あなたへのおすすめ