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Photo byrapid_sorrel8624

ごめんねは確かになかったけど。

     カラカラと麦茶の中で氷が涼しい音を奏でる夏の頃。
     わたしには、まるで頑固親父のような性格の曾祖母がいました。曾祖母との関係性はまさに言う事を聞かないイタズラ小僧と頑固親父だったのです。

     わたしが今でも思い出すのは、野菜柄のちゃんちゃんこを着て、背中を丸めたばあちゃんの後ろ姿。

     当時小学生だったわたしは、仕事が忙しい母に変わりばあちゃんが一緒に留守番をしてくれることがほとんどでした。時々祖母も顔を出しますが、どちらかといえば、お留守番の相棒は曾祖母であるばあちゃんでした。

     一緒に留守番をしてくれるばあちゃんと言ったら、穏やかでひ孫が大好きなおばあちゃんだと思うでしょう?
     けれどわたしのばあちゃんは、まるで頑固親父のような人だったんです。

     それはある日の学校帰り。下校という名の寄り道を終えて家に帰った日のことです。その日は、母もばあちゃんも家にいる日でした。楽しく冒険を終えたわたしは、さっそくお気に入りのお菓子、期間限定のあめ玉を食べようとしたのです。

     当時のわたしはその期間限定のあめ玉をとても楽しみにしており、数日前からいつ食べようか、いつ食べよかと、とっておいたいわゆる゛とっておき゛でした。

     袋を開ける時のときめき、口に入れた瞬間口に広がるあの味、あめ玉を舌で転がす時の幸福感!
     まるでスキップをしてしまいそうな心地であめ玉を取りに行くも、ふとあめ玉がないことを気がつきます。なぜかそのあめ玉だけないのです。その時のわたしの頭の中は真っ白となり、ふと正気に戻って

     あめ玉がない!とっておいたのがない!と騒ぎだしたのでした。

     家族を見渡し、犯人探しを始めるわたし。
     ただ、わたし以外の家族は、誰が食べたかなんで一目瞭然で。わたしが楽しみにしていたのを知っていた母が食べるはずもなく、飴玉を余り好まない祖母もまた同様に。犯人はただ一人。あめ玉が好きなばあちゃんだけだったのです。

     家族の雰囲気から流石のわたしも犯人を悟り、ばあちゃんに詰め寄りました。

    「あめ玉、食べたでしょう!」

     今思えばあめ玉如きに、そこまで怒らなくてもと思います。正直イタズラをしたり、物を壊したり…。よっぽど当時のわたしのほうがばあちゃんに迷惑をかけていましたし、沢山怒られていました。ばあちゃんは怒るとまるで、カミナリが落ちたように怒るんです。怒られれば泣いて謝る当時のわたし。
    でも2.3日すればケロッと忘れてまた、怒られるんです。あの頃は怒られるのが怖くなかったのか、はたまた怒りの裏にある愛情を無意識に感じていたから平気だったのか…。今になっては分かりませんが、ばあちゃんとはそんな関係性でした。

     さて、話は戻り。

     普段は怒られるばかりですが、今回は違います。だってわたしは悪くなくて、ばあちゃんが悪い立場だからです。
     得たり賢し!とわたしは当時のばあちゃんを糾弾します。

     あんなに楽しみにしてたのに!なんで食べちゃうの!

     ギャンギャンと文句を言うわたしにばあちゃんがひとこと。

    「しらん!食べてないよ!」

     あっけに取られた家族ですが、わたしはさらにヒートアップ。泣きながら文句を言い募るわたし。背中を向けて謝る素振りもないばあちゃん。

     見かねた母がわたしを諌めにかかるのでした。当然の如くそこからわたしとばあちゃんは冷戦状態に。母が諌めれば、どれだけ楽しみだったか言い募るわたし。徹底的に無視をするばあちゃん。

     家族は早々に仲直りを諦めていました。家族的にはお互い頭が冷えたら機嫌も直るだろうという考えだったのでしょう。

     ところが一転。わたしもばあちゃんもそれから当分の間口も聞かない日々が続くのです。

     すっかり困り果てた母。我関せず、飛び火はごめんな祖母。引っ込みがつかなくなったわたしとばあちゃん。ただのあめ玉のせいですっかり家の中は居心地が悪いこと。

     そんな家の空気に変化を与えたのもまた、あのあめ玉の袋でした。ある日、友達と遊んで帰ってくると、ポツリとテーブルの上にあのあめ玉の袋が置かれていたのです。

     母さん、ご機嫌取りに新しいあめ玉買ってきたな!要らないって言ったのに!あのあめ玉を食べられたことを怒ってるんだから、新しいのを母さんが買ってきても意味がないの!とわたしの怒りは天井知らずに。

     そんな時母が告げたのです。

    「わたしは買ってきてないよ」と。

     想定した答えをもらえず、びっくりするわたし。
     視線を祖母に向けるも知らない様子。

     残るはただ一人。

     ばあちゃんは足が悪く、杖がないと歩けない、一人で買い物に行くなんて滅多にない人でした。

     びっくりしてばあちゃんを見るも、やっぱりばあちゃんは背中を向けて何も言わず。そんなばあちゃんを見てバツが悪くなった当時のわたしはあめ玉の袋からそっと数個の飴を取り出し。

    「あげる」とひと言。

     ムスッとした顔は変えずに差し出したのでした。


     そのあと結局最後までばあちゃんはごめんねとは言いませんでした。そしてわたしもまた、ありがとうを言いませんでした。それでも、あの時のあめ玉を受け取ったばあちゃんの手と。満足そうなわたしの表情が答えなのかもしれません。

     

     
     
    あの頃の私へ、今の私から。 思い出をめぐるエッセイを中心に書いています。 よかったら覗いてみてください。

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