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物語の欠片 象牙色の城郭篇 16

    -レン-

     レンは、簡単に蚀えば感動しおいた。
     い぀もの通りトンネルを抜けた先には、い぀もず倉わらぬ光景が広がっおいた。倖の森の火事隒動を感じさせないような朚挏れ日に溢れた空間。倧小の呜たちの息遣いをひっそりず感じる。その䞭倮に、森の䞻は静かに䜇んでいた。
     この堎所は、こんなにも倉わらない。䜕ず穏やかな空気感なのだろう。圓たり前が圓たり前にある。そのこずに、ひどく心を動かされたのだ。
     カリンの気配に気が぀くず、森の䞻の葉がゆっくりず振動する。
     「カリンよ、よく来たなあ。」
     「䞻様」
     カリンはトンネルを抜けたそのたたの勢いで森の䞻ぞ駆け寄り、その倧きな幹を䞡手で抱いた。きっずその瞳からは涙が流れおいるだろう。
     「䞻様、良かった 。ご無事で、本圓に良かった。」
     「ほっほっほ。これは有難い慈雚じゃ。しかし、森は燃えおしたった。」
     「はい 。でも、倖の森は私の力で䜕ずかできるでしょう䞇が䞀䞻様が居なくなっおしたったら、私は どうしたら良いか分からない。」
     「そうだなあ。そうしたら、たた新しい理こずわりが生たれるのだろうよ。」
     森の䞻の声は限りなく優しかったが、哀しみを含んでいるように聞こえた。それが、森が燃えおしたったこずに察しおなのか、人間の愚かさを嘆いおいるのか、レンには分からない。党然別なこずに察しおなのかもしれないし、そもそも哀しいのではないかもしれない。森に、人間ず同じような感情を期埅しおいるこず自䜓が間違っおいるのかもしれない。
     しかしカリンは、レンのがんやりずした考えず違うこずを考えたのか、驚いたように顔を䞊げた。
     「䞻様が居なくなっおしたうようなこずが、やっぱりあるの」
     「圹目を終えたら呜を終える。それが、生きるものすべおの宿呜さだめだからなあ。わしずお、䞖界の理の倖にはおらぬのだよ。それがい぀かは解らぬがなあ。でも倧䞈倫じゃ。そなたがわしを必芁ずしおいる間は、きっずわしの呜は続くのじゃろう。」
     「私が 倧地の化身が、ずいうこずねねえ、倧地の化身っおなあに」
     「ほっほっほ。たたその謎かけかね。」
     「ただ、時は満ちおいないの」
     「そうじゃなあ。そのうち分かる。」
     「分かる日が来るのかしら。」
     「時が満ちればな。」
     「倉なの。 でも、䞻様ずお話しおいるず気持ちが萜ち着く。」
     「それでいいのじゃよ。必芁な時にはい぀でもおいで。」
     「あっ。䞻様、トンネルの倖の朚が枯れおいたの。あの、ピンク色の花を぀ける朚。」
     「ああ、あの桜か 。」
     「あの朚は、サクラずいうのね。私が觊れた時、歌っおいたの。サクラサクラっお。ずおも哀しい旋埋だった。」
     「あれもたた宿呜じゃ。」
     「圹目を終えたから、枯れたの」
     「圹目を終えたのか、これ以䞊自分にできるこずは無いず考えたのか。」
     その蚀葉に、カリンはしばし考えこんだ。
     レンからしおみれば、カリンず森の䞻の䌚話党䜓が謎かけのようだった。しかしカリンの気持ちが先皋より明らかに萜ち着いおいるこずは解った。だからレンは黙っおその䌚話を聞いおいた。
     そしおレンも、森の䞻の広堎の光ず声に觊れおいるず、朝からの緊匵の連続が、嘘のように溶けおいくように感じるのだった。橋の建蚭も、アルカンの森の火事も、アグィヌラで起きおいる様々な事象も、倧きな流れの䞭に圚る。自分たちが幟ら足掻いおも、最埌にはなるようにしかならないのかもしれない。自分たちが解決したず思っおいた問題も、結局は倧きな流れの䞭でそうあるべきだからそうなっただけなのかもしれない。
     それならやはり、自分は自分が正しいず感じる道を、ただただ行くしかないのだ。
     「カリンよ。わしはそろそろ䌑むずしよう。気を぀けお垰るが良い。」
     「はい。䞻様。有難う。䞻様がご無事で本圓に良かった。たた来たす。倖の森は、なるべく早く癒しおあげたい。」
     「無理せぬ範囲でな。サルビアのように、呜ず匕き換えるようにしお森が癒えおも、哀しみが残るだけじゃ。」
     「はい。」
     「森は、い぀でもそなたの味方じゃ。」
     そう蚀っお森の䞻は沈黙した。
     カリンは自身の緑色の光が消えた埌も、暫くの間、森の䞻の幹を抱いたたたでいた。
     音はほずんど無い。朚挏れ日だけがきらきらず茝いおいる。その煌めきに、時折鳥の声が調和する。果たしおこの䞊空には、本圓にあのマカニ族の戊士たちが舞う空があるのだろうか。
     やがお、カリンは満足したように森の䞻から離れ、レンの元ぞ戻っおきお、行こう、ずひず蚀だけ蚀った。
     「行こうっおどこぞ」
     蚊き返すずカリンは、はっずした埌、はにかんだような笑いを浮かべた。
     「うふふ。ごめんなさい。ずりあえずシノァさんの所かな。」
     「了解。」
     「レンは、この埌どうするの」
     「うヌん。ずりあえず君をアグィヌラたで送り届けなきゃならないだろうその埌はどうしようかな。シノァさんに盞談する。」
     カリンはトンネルの出口で、少しの間桜の朚に觊れおいた。幹を抱くのではなく手を圓おお、じっず桜の朚を芋詰める。
     「やっぱりもう声は聞こえないわ。」
     レンに蚀ったずも独り蚀ずも取れるような声でそう蚀うず、先に立っお歩き始めた。
     森の䞻の結界を抜けるず、圓たり前だがそこはただ煙の海で、レンずカリンは思わず咳き蟌む。慌おお埀きず同じように垃で顔の䞋半分を芆った。

     「さすがに煀だらけだな。しかし、その顔を芋るず䞭は無事だったか」
     シノァはレンたちの姿を芋぀けるなりそう蚀った。そういうシノァの顔も煀で汚れおいる。
     「うん。䞍思議なくらいい぀もどおりだった。」
     「そりゃあ䞍思議な話だが、ずりあえず良かった。こちらももうすぐ片付きそうだ。」
     「本圓に良かった。」
     「被害は森党䜓の䞉分の䞀くらいかな。コキオが早く芋぀けおくれお良かった。アグィヌラだけでは空からの消火はできなかっただろうし、アグィヌラからマカニぞ協力を芁請しに来ようず思ったっお時間がかかる。吊り橋もただできおいないしな。」
     「僕はこれからアグィヌラぞカリンを送っおいく。その埌はマカニに戻った方がいいよね」
     「いや 。お前は少しアグィヌラに残った方がいいかもしれない。」
     「えでも明日は橋桁が 。」
     「これだけの消火掻動をしたんだ。戊士たちも疲匊しおる。このたた明日の橋桁の䜜業をやるのは危険だ。いずれにせよ明日は䞀日䌑みを入れようず思う。しかしそれを陀いおも、数日橋の䜜業を遅らせおもいいのではないかず思っおいる。」
     シノァも床重なるアグィヌラの事件に䜕か䞍穏なものを感じおいるのかもしれない。カリンの倢や、族長の元ぞやっおきたモミゞの存圚も忘れおはいけない。それから鎌錬。凶兆ずいうには十分すぎる皋の玠材が揃っおいた。もはや䜕が䜕の前兆だったのだか分からないくらいだ。
     やはり耇雑な話は苊手だ。䜕か起こった時のために備えお甚心する。その皋床で十分だずレンは思った。
     「シノァさんがそう蚀うなら、僕ずしおも、そうさせおもらえるず有難い。」
     「族長には俺から話しおおく ず蚀っおも、おそらく族長も同じお考えだず思う。」
     「分かった。それじゃあずりあえず䞉日。それ以䞊になりそうだったら䞀床戻るよ。」
     「それでいい。」
     「シノァさん、有難う。」
     カリンが瀌を蚀うず、シノァは銖を振る。
     「䞭の森が無事で良かったな。この先も無茶するなよ。」
     「うん。族長様にもお瀌を䌝えおくれる」
     「勿論だ。」
     「もう少しで䜕かが繋がりそうなの。」
     「そうか。それはたすたす、気を぀けおな。」

     マカニの戊士たちに別れを告げおアグィヌラぞ向かう間、カリンは無蚀だった。レンも黙っお飛んだ。
     アグィヌラが近づいおきたので、たた城の䞭庭たで飛ぶかず尋ねるず、カリンは城ぞは戻らずペシュアの家ぞ戻ろうず蚀った。煀だらけでもあるし、すでに陜が暮れかけおもいた。それはレンにずっおも有難い提案だった。
     煀だらけで戻った二人を、ペシュアは驚いた顔で迎える。どうやらアルカンの森の火事は、ただ町の方たでは䌝わっおないようだった。
     「そうか。䜕やら城の方が隒がしいず思っおいたらそういうこずだったんだな。レンは橋の建蚭を手䌝った埌でここたで飛んできたんだろうご苊劎だったな。ずりあえず亀代で湯を济びおくるずいい。」
     カリンが先に行けず譲らないのでレンは有り難く先にシャワヌを借りるこずにした。今回のように突然蚪れるこずもあるので、着替えも眮いおある。さっぱりしお戻るず、カリンはひずずおりの話を終えたようだった。
     亀代で怅子に腰かけるず、ペシュアが冷たいお茶を淹れおくれた。気が぀けば随分ず喉が枇いおいお、それはあっずいう間に身䜓䞭に沁み枡っおいった。思わずおかわりを所望する。
     「有難う。生き返ったよ。」
     「そんな顔をしおいる。 ずりあえず森の䞻が無事で良かったな。」
     「うん。あたりにもい぀もず倉わらないから、感動した。」
     「䞍思議な森だな。」
     「そうだね。」
     「俺も時々染料を摘みに行くんだ。もちろん倖の森の方だが。火の手はアグィヌラに近い偎から䞊がったんだろう俺がい぀も行く蟺りも燃えおしたったずカリンから聞いた。参ったよ。」
     「ああ、そうか。ペシュアさんも森が燃えたら困る人のひずりだね。」
     「マカニに近い偎にも、倚くはないが同じ怍物が生えおいるずカリンが蚀っおいた。だからたあ、い぀もより奥ぞ進めば䜕ずかなるかもな。」
     「ペシュアさんが森に居る時でなくお良かったよ。」
     「倧䞈倫。俺より先にペギリが気が぀くさ。」
     「ふうん。そういうものか。」
     「動物は、人間よりもずっず身の危険に敏感だ。」
     「怍物も、そうなのかな。」
     「怍物面癜いこずを蚀うな。」
     「ふず思ったんだ。僕たちにはその声を聎くこずはできないし、怍物は自分で逃げるこずもできないけど、もしかしたら同じなんじゃないかなっお。」
     「きっずそうなんだず俺も思う。」
     「人間が䞀番、鈍いんだね。」
     「それが人間の生きる知恵でもあるのかもしれない。」
     「ああなるほど。ペシュアさん、さすがだ。」
     鋭いばかりがいいわけではない。感じるこずが、自分の凊理できる胜力を超えおしたうず、悪い圱響の方が倧きいのかもしれない。どうしおいいか分からずに、混乱するだけだ。怍物のように、じっず受け止める芚悟が無ければ、立ち行かないのだ。
     湯を济びお出おきたカリンは、どこか䞊の空だった。
     ペシュアず顔を芋合わせ、おそらくふたりずも、カリンが考え事をしおいるのだずいうこずを理解し、そっずしおおくこずにした。
     倜は、穏やかに曎けおいった。少なくずも、レンの䞭では。


    ***
    『象牙色の城郭篇 1』ぞ
    『象牙色の城郭篇 17』ぞ


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