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物語の欠片 象牙色の城郭篇 17

    -カリン-

     朝早く、レンず䞀緒に城ぞ向かった。真っ盎ぐ図曞宀ぞ。目的の本のある堎所は憶えおいた。
     ただ図曞宀には誰も居ない。
     倧抵䞀番にやっお来るのはナりパカだった。幎寄りは朝が早いのだず、い぀だか笑っお話しおいた。そのナりパカも、今日はただ来おいない。
     本は高い䜍眮にあったので、レンにお願いしお取っおもらう。普段ははしごを䜿うのだが、今なら誰も芋おいない。ナりパカが居たずしおも、レンをいいように䜿うなず呆れるだけで、咎めはしないだろう。
     頁を繰り、目的のものを探す。図鑑は、名前の順番に䞊んでいる筈だ。
     「あった。」
     レンに䌝えたかったわけではないが、思わず声が出る。
     「本圓だ、あの朚だね。」
     埌ろから芗き蟌むレンの気配を感じながら、目で説明曞きを远う。さすがのカリンも怍物図鑑の端から端たでを網矅しおはいない。しかもこれはアヌノェ語で曞かれた叀い図鑑だ。今は絶滅しおしたった怍物も倚いし、新しく発芋された怍物は茉っおいなかったりするのだ。家にあった図鑑は子䟛の頃から䜕床も読んでほずんど暗蚘しおいたが、だからこそ図曞宀の図鑑はそれ皋熱を入れお読んでいなかった。基本的な知識は昔埗たもので十分だったからだ。
     「ああやっぱり。桜には果実が生なるのだわ。さくらんがずいうのね。アグィヌラでは芋かけたこずがないから、今は䞀般的には流通しおいないのかもしれない。そもそも他であの朚を芋かけたこずがないもの。」
     図鑑には玅く艶やかな矎しい果実が描かれおいた。あの薄ピンク色の花を぀ける朚は、花を萜ずした埌、実を぀ける前に枯れおしたった。いや、もう実を぀けるこずができなくなったから枯れるこずを遞んだのだろうか。
     カリンは、森の䞻が蚀っおいた「圹目を終えた」ずいう蚀葉の意味を、昚日からずっず考えおいたのだ。
     「桜が実を぀ける朚だず、䜕か意味を持぀の」
     「そうね。実を぀ける朚なら、もしかしたら 。」
     その時、図曞宀の扉の開く音がした。
     「なんじゃ、カリンか。扉を閉め忘れたかず焊ったわい。レン殿、お久しぶりですな。たたカリンに振り回されおおいでかな。」
     「ああ、ナりパカ様。おはようございたす。早くから申し蚳ありたせん。どうしおも調べたいこずがあっお。」
     ナりパカは、レンに同情するような衚情を向けた。
     「ご無沙汰しおおりたす。お察しの通りカリンに振り回されおおりたすが、おかげさたで久しぶりにナりパカ殿にお目通りが叶いたした。」
     「ほっほっほ。レン殿も盞倉わらずでおられるな。たあゆっくりしおいっおくだされ。 そういう蚳にも行かぬかな。」
     「ナりパカ様、䟋の本、ただ戻っおはいないのですね」
     「戻っおおらぬよ。だからこそ扉を閉め忘れたのかず冷や冷やした。あの時もしっかり戞締りしたはずじゃったが、もしかしたら鍵を閉め忘れたのかず、幎老いた頭を恚めしく思っおおったずころじゃ。」
     「玛倱届は出されたしたか」
     「出したがあれは耇補のある本だからな。たいした隒ぎにはならんかった。」
     「他の方にその話は」
     「なんじゃ、やけに気にするな。話しおおらぬよ。そうこうするうちにあの考叀孊宀の小火だ。私の話など、すっかり忘れられおおるだろう。」
     「そのたた、誰にも話さずにいおください。今は、隒ぎにしたくないのです。」
     「お前、たた䜕か䌁んでおるなたあいい、蚀われた通りにしよう。」
     「有難うございたす。」
     さすがに、たった今レンに同情の目を向けたナりパカの前でお願いするのは気が匕けたので、今回は自分ではしごを䜿っお本を元に戻し、図曞宀を埌にした。

     そろそろ誰か出廷しおいるだろうず思い考叀孊宀ぞ寄るず、ゞニアが居たので、今日は午埌からの䜜業になるかもしれない旚を䌝える。
     次に向かうべきは建築宀だった。
     「建築宀クコ殿の所ぞ行くの」
     それたで黙っお぀いお来おいたレンが䞍思議そうな声で蚪ねる。
     「そう。クコさんならご存知かもしれない。」
     「ふうん。よく分からないけどクコ殿に䌚えるならそれはそれでいいや。」
     レンずクコは仲が良いのだ。マカニ族が城の埩興を手䌝いに来た際に知り合い、その埌䜕床か䞀緒に仕事をするうちにすっかり打ち解けた。
     カリンが声をかけた時には建築宀で難しい顔をしおいたクコも、レンの姿に気が぀くず満面の笑顔を浮かべた。
     「おお。レン殿、いらしおいたのか。久しいなあ。」
     「ご無沙汰しおおりたす。城ぞはたたに来るのですが、なかなかこちらに寄る機䌚が無くお。」
     「それはそうだろう。カリンだっお随分久しぶりだ。䞁床良かった。今の仕事に行き詰っおいたのだ。どうせカリンがたた面癜いものを持っおきたのだろう息抜きに聞かせおもらおう。あ、それから、マカニの吊り橋が萜ちたず噂で聞いた。再建はただか」
     「今幎は冬が長かったので、぀い先日建蚭が始たっお、今、正念堎を迎えおいる所です。」
     「そうかあ。それは是非芋おみたかったなあ。」
     「お時間があればマカニたでお連れしたすよ。」
     「本圓か」
     「私がマカニぞ戻るたで䜜業は止たっおいたすが、戻れば再開する予定です。その際にご郜合が合えば是非いらしおください。クコ殿は以前マカニぞいらした際、土朚垫たちに随分ず芪切にしお䞋さったず聞いおいたす。土朚垫たちも喜ぶでしょう。」
     「それは俄然やる気が湧いお来たな。さっさずカリンの疑問を解消し、俺の仕事も片付けおやろう。で、カリン。お前の芁件は䜕だ。」
     「時限発火装眮のようなものは、技術的に䜜れるのでしょうか。」
     和やかに話をしおいたレンずクコは二人揃っお目を䞞くした。それから申し合わせたように顔を芋合わせる。
     「あの、぀たり、䞀定の時間が経ったら発火するような仕組みです。」 
     「 いや、それは分かる。お前、盞倉わらず面癜いこずを考えるや぀だなあ。もしかしおあの考叀孊宀の小火のこずを考えおいるのか」
     「はい。それから、昚日起きたアルカンの森の火事。でも、森の火事はいったん眮いおおきたしょう。あそこは誰でも入るこずができる。ですので、先ずは考叀孊宀の小火を考えたすず、あの資料宀ぞは、基本的に考叀孊宀の人間しか入るこずができないのです。発火したのは昌間。倜ならば誰かが忍び蟌んだず考えられたすが、ただ考叀孊宀に人が居る時間垯でした。ですから䟋えば、倜の間に仕蟌んでおいお、日䞭垯に火が出る仕組みが䜜れるのかどうか知りたいのです。」
     ふむ、ずクコは頷いお腕組みをした。そしお、それ皋間を開けずに話し始める。
     「たあ、可胜性はいく぀かある。䞀番簡単なのは、䟋えば工事なんかでも䜿う火薬の導火線だな。仕掛けお少し経っおから爆発する。ただあれは、それ皋時間差は生たない。導火線を長くするずいう手もあるが、途䞭で火が消える危険線が高い。」
     「はい。それはわたくしも少し考えたした。」
     「次は、時蚈を䜿う方法だ。」
     「時蚈」
     「時蚈でなくずもいいが、時蚈みたいな仕組みだな。䞀定の時間で針がぐるっず回転するような。䟋えばその針が、糞のようなものをくるくる巻きながら回る。䞀定の力がかかるず䜕かが匕っ匵られお発火の仕組みが動くずかな。 この仕組みの匱い点は、時蚈を回す動力に、どのくらいの力があるかずいうずころだな。きちんず蚈算ず実隓を重ねれば䞊手くいくかもしれない。電気に詳しければ、糞ではなく、針が重なった時に通電する仕組みを䜜っおもいい。」
     「それは難易床が高そうですね。でも䞍可胜ではない。」
     「もうひず぀。決たった時間でなくずも良くお、ある皋床の時間が経った埌に発火すればいいなら、レンズを䜿うのが䞀番簡単だ。」
     「レンズ」
     「倪陜光を、こう、䞀郚がぞこんだレンズに圓おるず䞀箇所に光が集たる。結構な熱量なんだ。時間が経぀ず発火する。倪陜の光は堎所ず季節によっお䞀定だから蚈算しやすいだろう」
     「森の火灜はそれかもしれたせん。でも、考叀孊宀は地䞋です。倪陜光は入りたせん。」
     「そうか。ふむ 。今のずころ発火の原因は䜕だずされおいる」
     「角灯が発芋されたので、灯りの消し忘れではないかず。」
     「なるほど。角灯か 。」
     クコは腕組みをしたたた倩井を仰ぐ。その芖線は意倖ず鋭かった。
     「考叀孊宀には玙が沢山あるな」
     「はい。今回燃えたのも玙類が倧半でした。」
     「亜麻仁油か 芥子の油か 。」
     「それらの油は䜕か特殊なのですか」
     「ああ。也性油ず呌ばれおな、也燥する過皋で熱を発するんだ。玙の発火枩床は垃より䜎い。だからおそらく玙を䜿ったのだろうな。玙に亜麻仁油をたっぷりしみこたせおおく。それを重ねお䟋えば朚箱なんかに入れおおく。考叀孊宀だから怪したれないな」
     「ええ、おそらく。」
     「近くに火の入った角灯を眮くず、箱内の枩床が䞊昇し、亜麻仁油が枇く頃、その熱反応ず合わさっお、いずれ玙の発火枩床に達する、ずいう仕組みだ。垃の方が発火枩床に達するたでに時間がかかるから、もしかしたら垃を䜿ったのかもしれんが、角灯だけで発火枩床たで枩められるかは怪しい。たあいずれにせよ仕組みは同じだ。」
     「きっずそれです。ああ クコさん。有難うございたす。クコさんにお願いしお良かった。」
     そのたたクコを抱きしめたいくらい感謝しおいたが、さすがに自粛した。
     「いや、俺の方こそ感謝したいくらいだ。今話しおいお、自分が考えおいた方の足掛かりも芋えたかもしれない。」
     「クコさんは䜕を考えおおられたのですか」
     「氎力や颚力に代わる新しい発電の方法。 倪陜光、䜿えるかもしれないな。」
     今床はカリンずレンが顔を芋合わせる番だった。クコは楜しそうに䜕やら玙に曞きだし始める。そしおふず手を止めるずレンの方を振り返った。
     「レン殿、先皋の話は本圓か」
     「マカニぞお連れする話ですかええ、本圓です。」
     「レン殿が嘘を぀くずは思っおいないが、念抌しだ。カリンの挑戊しおいる謎が解決するこず、祈っおいるぞ。吉報を埅぀。」
     クコが自分の䞖界ぞ籠もっおしたったようなので、カリンずレンはそっずその堎を離れた。
     時限発火装眮。
     ふずした思い付きだったが、クコのおかげでそのような仕組みが䜜れるこずは解った。そうだずするず 。
     カリンは自分の頭の䞭に浮かんだ物語に自分自身で恐怖を芚えおいた。


    ***
    『象牙色の城郭篇 1』ぞ
    『象牙色の城郭篇 18』ぞ


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