
未草 第一章 第四話 【月光】
娘は学校に行き、
夫は仕事へ向かった。
洗濯物を干し、
部屋をひと通り
整える。
時計を見ると
まだ
午前中だった。
香菜子は
引き出しから
封筒を出した。
再生紙の
ざらりとした手触りが
和紙と重なる。
ハサミで
封を切った。
中には
便箋が二枚
入っていた。
印刷ではなく
手書きの
文字だった。
丁寧で
余計な言葉は
なかった。
最後に
メールアドレスが
記されていた。
香菜子は
洗い物をしながら、
午後のことを
考えた。
何かを始めても
何も始めなくても、
同じ気がした。
次の日、
香菜子は
スマホを手に取った。
メールの画面を開いて
書かれていたアドレスを
一文字ずつ
入力する。
件名の欄で
手が止まった。
考えた末に、
「香菜子です」
と入力した。
本文の欄に
カーソルが
点滅する。
「お返事
ありがとうございます。」
送信の文字が
光っている。
香菜子は
目を閉じた。
それから
ボタンを押した。
シンから届く
メールには、
移動のことや
その日のことが
並んでいた。
香菜子のことは
何も
聞かれなかった。
「今、羽田空港です。
これから萩に向かいます。」
萩……
「お気をつけて。」
「ありがとうございます。
明日、東京に戻ります。」
下にもうひとつ
文章が
続いていた。
「よろしければ
来週の水曜日、
お会いできませんか。」
夜になり
香菜子は
ベランダに出た。
雲の切れ間に、
月が見えた。