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【月を埅぀波-䞋】話 月のみえない倜に - 埌線連茉#51


    家に戻る頃には、
    雚はもうあがっおいた。

    ぬれたサンダルを脱ぎ、手に持っおいた提灯をテラスの隅にそっず眮く。

    しっずりず湿った倜の空気に、土ず草ず、ほのかに甘い匂いがたじっおいた。

    ふず顔を䞊げるず、テラスのテヌブルの䞊に朝䟛えた野菜たちがただ䞊んでいる。

    きゅうり、ずうがらし、枝豆。それに、近所からもらった果物や、砂糖菓子。

    ちいさな呜たちを前にしお、
    自然ず手を合わせた。

    ──ありがずう。

    胞の奥でそう぀ぶやく。

    すこし冷たくなったかごを手に取り、ひず぀ひず぀、静かに包みを片付けおいった。

    包みを手に取るたびに、今日のいろんな堎面が胞のなかにふわりずよみがえった。

    笑っお迎えおくれたお幎寄りたちの顔。陜高ず䞊んで線銙をあげたこず。

    ゆるやかに登った䞘の、涌しい颚。

    ──今幎も無事に、この日を迎えられた。

    そんな深い安堵ず、蚀葉にできない名残惜しさずが、静かに胞の底に沈んでいった。

    暗くなった庭に浮かぶテラスを、倜の颚がやさしくなでおいく。

    そのたた近くのベンチに腰掛けお、そのしずけさに耳を柄たせおいた。

    するずすこししお、陜高がそっず声をかけおきた。

    「先生。今日、離れのキッチンで倕飯の支床をしたので  もしよかったら、向こうで晩酌したせんか。」

    やわらかく、すこしだけ照れたような声だった。

    顔を䞊げた瞬間、目が合った。

    胞の奥が、かすかにざわめく。

    い぀もの晩酌。ただの誘い。

    それだけなのに、それがなぜか特別なものみたいに思えお、ちいさく息をのんだ。

    それに──

    今日は午前䞭からずっずバタバタしおいたのに。

    い぀の間にそんな準備たでしおくれおいたんだろう。

    そのこずに気づいたら、胞の奥に驚きず切なさずが広がった。

    「  うん。ありがずう。」

    なんでもないふうを装っお返事をしながら、気付けば胞にそっず力が入っおいた。

    陜高がほっずしたように笑う。

    その笑顔に救われたような気がしお、わたしもちいさく息を吐いた。


    倜のしずけさのなかを、ふたり䞊んで歩き出す。

    涌しい颚が、衚珟しがたい心をそっずなでおいった。



    離れのドアを開けるず、ひんやりずした倜の空気が流れ蟌んできた。

    雚䞊がりの匂いに包たれながら、わたしはすこしだけ足を止めた。

    こた぀に入った以来の離れ。

    「先生。」

    芋るず、陜高がそっずブランケットを差し出しおいる。

    「さっき雚にも打たれたしたし  倜はただ肌寒いですから。よかったら䜿っおください。」

    静かな声。

    ただそれだけなのに、胞の奥になんずもいえない感芚が残った。

    ブランケットを膝にかけるず、キッチンカりンタヌの方から陜高の声が響いた。

    「すぐ出せるものばかりですけれど  ちょっずだけ、埅っおいおくださいね。」

    そういっお、朚のトレむにちいさな皿をいく぀か䞊べお運んできた。

    枩め盎したトマトチキン。薄切りのバゲット、ポテトサラダ。きゅうりずパプリカ・セロリのピクルス。チヌズずうずらのゆで卵・オリヌブの盛り合わせ。

    そしお

    ちいさな噚に盛られた、クリヌム色に淡いグリヌンの粒を散らしたパテ。

    陜高は、たたすこしだけ照れたようにいった。 

    「去幎、先生がくださった実山怒、すごく矎味しかったので。自分でも挬けおみたんです。それでちょっずだけ、パテに混ぜおみたした。」

    「  わぁ。」

    思わず、ちいさな声が挏れた。

    こんなサプラむズ、うれしいずしか思えない。

    「 すごい。ありがずう。」

    「飲み物はどうしたすカバランがありたすよ。」

    最高か 

    「飲みたい。」

    ブランケットを膝にかけたたた、わたしはそのハむボヌルず陜高の到着を埅った。

    「お぀かれさたです。」
    「ありがずう。」

    炭酞のはじける音ず䞀緒に、さわやかな南囜の銙りが錻をくすぐる。

    そうしお静かな倜のなか、わたしたちの晩酌がゆっくりずはじたった。

    バゲットの䞊に、ちいさくパテをのせる。

    そっず口に運び、噛んだ瞬間──

    コクのあるレバヌず䞀緒に、さわやかな山怒の颚味が口のなかにじんわりず広がった。

    舌を包む枅涌感。それに続く、なめらかな旚みずほのかな苊み。

    「  。」

    蚀葉にならずに、思わず陜高の方をみおしたう。

    目が合ったら
    きっず困るずわかっおいたのに。

    けれど、陜高は䜕も蚊かずに静かに笑った。

    「  よかったです。」

    その声は、
    たるでささやくように静かだった。

    わたしは䜕もいえずに、ただグラスに手を䌞ばした。氷がちいさく鳎る。

    倜の静けさのなかで、目の前の炭酞の音だけに耳を柄たせた。

    ハむボヌルをすこし口にふくむ。

    炭酞がやさしく舌をすべり、ほのかに甘い、ココナッツのような倏の銙りが远いかけおきた。

    ふたり䞊んで、
    静かに倜の空気を味わう。

    ふず陜高が、ぜ぀りずいった。

    「  月宿湖぀きやどこ、きれいでしたね。」

    その声はずおも静かで、どこたでも儚い。

    胞の奥に、圌のやさしさが぀たう。

    私は、そっずグラスを持ち盎しお、「うん。」ず答え、

    それから

    「挚拶たわりに、䞀緒に来おくれおありがずう。」

    そう付け足した。


    ──がっかりさせおしたったらどうしよう。

    あなたがいおくれたおかげで、今幎はそんな颚に思わずに枈んだよ。

    あのずき芋䞋ろした湖ず、
    町の灯りのう぀くしさ。

    静かな倜のなかで、圌ずの思い出がゆっくりず色づいおいった。

    「先生。すこし早いですけれど  」

    芋䞊げるず、垭を立った陜高がそっず手にボトルを抱えお戻っおきた。

    癜いラベルに、ちいさく桁の数字が刻たれおいる。それは、わたしの生たれた幎だった。

    「お誕生日、おめでずうございたす。」

    そういっおわたしの前で膝を぀いお、圌は照れたように笑った。

    蚀葉がすぐには出おこなくお、私はただ、驚いたたたしずかにボトルを芋぀めた。

    ──どうしお。

    どうしおこんなふうに、あたたかく心に寄り添うこずができるんだろう。

    陜高はボトルを持ち盎しながら、ゆっくりず息を敎えるように口を開いた。

    「  先生のお誕生日、ちゃんず知るこずができたので。それで、生たれた幎のワむンを、探したした。」

    わたしのなかに今たでなかったはずの感情を、このひずはどんどん匕き出しおくる。

    「  ありがずう。」

    かすれそうになった声で、
    やっずそれだけ返した。

    ほんずうは、もっずたくさん䌝えたかったのに。

    でもそれ以䞊の蚀葉は胞のなかでぎこちなく枊巻いたたた、ただ倖には出おこなかった。

    「 䞀緒に飲もう。」

    やっずもう䞀蚀、そんなこずしかいえないわたしに

    圌はちいさく
    「よろこんで。」

    そういっお笑った。

    愛しか知らないみたいな、あたたかくたっすぐな目で。

    それから陜高は䜕もいわずに、そっず栓を抜いた。

    い぀もの萜ち着いた、う぀くしい所䜜で。

    そしおゆっくりずボトルを傟ける。

    静かに、
    静かに、
    赀ワむンがグラスに泚がれた。

    最初の䞀滎が、
    ちいさな音をたおる。

    それから、深い玅が螊り出すようにグラスのなかに広がっおいく。

    现くのびる液面がやがお静かに萜ち着き、ほんのりず郚屋の光を映した。


    ──きれいだな、ず思った。

    ワむンだけじゃない。

    この時間が。
    この倜が。 

    ふたりで過ごしおいる、
    この瞬間そのものが。

    たるで自分のものではないみたいに、きらきらしおいた。

    わたしは、そっずグラスを持ち䞊げた。

    指先に、心地よい冷たさが䌝わる。


    ──来幎もたた。

    そんな蚀葉をたたひず぀のみこんで、そっず也杯をした。

    雚で濡れた庭のにおいにたじっおやさしい颚が郚屋に入る。

    倖は暗い。

    䜕もみえない倜だった。

    けれど。

    この芋えない月の倜に、

    自分のなかの確かな䜕かが

    はっきりずその存圚を、䞻匵し始めおいた。



    —―誘い連茉#52ぞ぀づく—―

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    䞊巻バックナンバヌ
    䞋巻バックナンバヌ

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞋巻より

     
    装身具䜜家ずその助手の日垞を描いた連䜜短線 「月を埅぀波」䞊䞋巻構成党55話を掲茉しおいたす。 ※Kindleは諞事情により販売停止䞭です。

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