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【月を埅぀波-䞋】話 副産物連茉#64


    仕事郚屋の空気は、昌間よりもずっず柄んでいるように感じた。

    ちいさなランプをひず぀灯しお、机の前に座る。

    今日はもう、なにも䜜業をする぀もりはなかった。

    それでも手が自然ず玠材に向いおしたうのは、もうすこしこの静けさのなかに身を眮きたかったからなのだず思う。

    磚きかけのパヌツがひず぀、トレむの隅に残っおいた。

    それをそっず持ち䞊げる。

    真鍮の衚面にうっすらず指王が残っおいお、それを垃でなでるように拭う。

    その単調な動きのなかで、ふず、か぀おの蚘憶が蘇った。


    ――わたしは昔から、感情を䌝えるのが苊手だった。

    うれしいずきも、悲しいずきも。

    声に出した途端に、それがどこか違うものになっおしたう気がしおうたくいえなかった。

    誰かをがっかりさせたり、

    自分が勝手に傷぀いたり。

    それが悔しくお、恥ずかしくお。

    い぀しか恐怖ずなっお。

    いざずいうずきには黙る。

    気が぀いたら、
    そんな人間になっおいた。

    ただ逃げおきた自分。

    そのせいなのか、ちいさなこずばかりに目が向いた。

    物蚀わぬ玠材。

    誰かず話す代わりに、それらずの無蚀の察話をずっず続けおきた。

    ただそこに圚るだけでう぀くしいものたち。それはわたしにずっおの垌望でもあった。

    そんな玠材を前にしおいるず、思い通りにかたちにならなくおも、䜕床もやり盎しお、投げ出すこずができなくお。

    たるで、か぀おの自分を
    救おうずしおいるみたいに。

    䜜るこずで、きっず無意識に自分の䟡倀を芋出そうずしお。

    それをいたもこうしお、
    諊めきるこずが出来なくお。

    きっずどこかで、䜕かに期埅しおいる。あの頃のたたの、䞍噚甚な自分のたたで。

    これたでは、そんな自分をずっず責めおきた。

    ――けれど。

    ふず、机の隅にある瓶が目に入った。

    䜜業䞭気分転換が出来るようにず、陜高が眮いおくれたものだった。

    瓶の蓋をあけおなかをのぞくず、数皮類のフルヌツキャンディずチロルチョコが入っおいる。

    補充しおくれたんだろうか。
    前よりもその皮類は増えおいた。

    それをみお、ふっず息を぀いた。

    きっずこんな颚にひずりで笑うこずも、以前たでならそうなかったように思う。

    圌はわたしを吊定しなかった。

    い぀だっおこうしお、そのきれいな目でわたしをみお、そっず手を差し䌞べおくれたひず。

    圌の目に映っおいるわたし。

    それは、わたしがみおいる自分自身ずはたるで違う人間のようだった。

    奥のビヌズ棚に目をやった。

    ちいさく、もろく、そしおそのくすみすらも垌望に倉えるものたち。

    なかには、時を経お衚面に銀のような光を纏った叀代ビヌズもあった。

    汚れでも、劣化でもない。

    それらは颚ず土ず時間が導き出した、もうひず぀の䞊行䞖界のようなう぀くしさをもっおいた。

    傷぀いたこずからしか、
    生たれなかったもの。

    自分の生きざたに぀いお、これたではそんな可胜性を考えたこずもなかった。

    けれど。

    じゃあ、たずえばそれを持぀必芁もない「理想のわたし」は、はたしおこんな颚に圌ず出䌚うこずが出来たんだろうか。

    こんな自分でなければ、圌ずあんなふうに手を぀なぐこずも、圌に芋぀けおもらえるこずもなかったのかもしれない。

    そのたたのあなたでいいず、いわれる機䌚すらなかったのかもしれない。

    皮肉なものだ。

    蚀葉にするにはあたりに遠回りすぎるけれど、

      でも、わたしはそれをいた、こうしお手のひらで感じおいる。

    それは胞の奥をそっずあたためるような、しずかな実感だった。

    匱い自分。
    吊定ばかりに目を向けおしたう自分。

    それをただ肯定するこずは出来ない。

    ――けれど。

    それに぀いおの解釈の䜙地を、もうすこしだけ広げおあげるこずは出来るのかもしれない。

     そう思えたのもやはり、
    圌のおかげなんだろうけれど。

    ひず぀取り出した风を口に入れお、それから苊笑しながら、パヌツをたたひず拭いした。

    仕事郚屋の窓からそっず庭をみるず、颚にかすかに揺られる葉のなかで、ぜ぀りぜ぀りず青い実を぀けたレモンの朚が芋えた。

    そしおその向こう、離れに明かりが぀いおいるのがみえる。

    それだけでうれしかった。


    「 ありがずう。」

    ちいさくそう぀ぶやいお、わたしはそのパヌツをトレむに戻した。



    —―声連茉#65ぞ぀づく—―

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞋巻より

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    装身具䜜家ずその助手の日垞を描いた連䜜短線 「月を埅぀波」䞊䞋巻構成党55話を掲茉しおいたす。 ※Kindleは諞事情により販売停止䞭です。

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