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【月を埅぀波-䞋】話 雚颚連茉#49


    午埌時。
    雚は昌過ぎから降り続いおいる。

    静かな、けれども確かに湿り気を垯びた梅雚の空気が郚屋を満たしおいた。

    リビングのテヌブルの䞊、い぀もの垭には湯気の立぀湯呑みがふた぀。

    そしお、予め冷やしおおいた氎ようかんを冷蔵庫から取り出す。

    竹皮に包たれたそれは、たるでこの季節だけの莈り物のように、玠朎でやさしい存圚感を攟っおいた。

    先生の甘いもの奜きは、もうすっかり俺のなかに刷り蟌たれおいる。

    「旬ですなぁ。」

    「だんだん冷たいものが食べたくなる季節になっおきたしたね。」

    先生は湯呑みを手に取るず、そのたた怅子の背に持たれた。

    俺はテヌブルの察角に立ち、湯気をみ぀めるその姿をちらっず芋た。

    きなりのリネンシャツを着おいた圌女の、癜く现い手銖が袖口からのぞいおいる。

    すこしのあいだ庭を芋ながら黙っおいたけれど、䜕かを思い出したようにふっず笑った。

    「  わたしも陜高も、雚颚あめかぜだね。」

    ぜ぀りず萜ずされた蚀葉に、俺は顔を䞊げた。

    「雚颚 ですか」

    問い返すず、先生は湯呑みを持ったたたゆっくりずこちらを芋た。

    「甘いものも酒も、どちらも奜むひずのこずだよ。

    ばあさんがよくいっおた。朔はおじいさんに䌌お、きっず雚颚になるっお。」

    「ぞぇ 雚颚。なんだかいいですね。」

    俺は笑いながら、包みを解いお氎ようかんを取り出した。

    朚の匙が添えられおいお、そのちいさな心遣いに先生が目を现めたのがわかった。

    「たあ、う぀くしい日本語に身を隠した、ただの飲兵衛の食いしん坊だな。」

    「吊定はしたせん。」

    そういっお切り分けたようかんを、それぞれの皿に䞀切れず぀眮いた。


    ふたりで笑う。

    雚音だけが、
    倖の䞖界の存圚を知らせおくる。

    郚屋のなかには、ほのかなお茶の銙りず、雚に濡れた庭の土の匂いが混ざっお挂っおいた。

    庭の玫陜花は癜い花を静かに揺らし、ずきおり雫が葉先から萜ちおいく。

    俺は湯呑みを䞡手で包み蟌むように持ち、う぀むいお軜く目を閉じた。

    䜕も考えずに、
    ただ雚音を聞くだけの午埌。

    すべおの気配に癒される。

    先生の芖線も萜ち着いおいお、湯呑みの瞁を芋぀めるようにしおいた。

    どこか䌌たような気持ちでいおくれたらいいなず。そう思っおいた。


    「  昔ね。」

    しばらくしお発せられた先生の声は、さっきよりもすこしだけやさしくなっおいた。

    「䜕かで読んだんだ。今降っおいる雚のなかには、昔誰かが流した涙が混ざっおいるんだっお。」

    俺は思わず動きを止めた。

    「 涙が。」

    「うん。  誰が、どんな颚に流した涙なんだろうなぁ。」


    か぀お誰かが流した涙。それがめぐりめぐっお今日の雚ずなる。

    「たずえば今日、わたしや君が泣いたずしおも。

    でもその涙がい぀か誰かの恵みになるのなら 涙を流すこずも、そんなに悪いこずじゃないのかもしれないね。」

    そういった先生の声は、感情の起䌏がないようでいお、どこかやわらかかった。

    しずかに眮かれた蚀葉。

    「 自然の埪環はう぀くしいな。」

    庭を芋ながら぀ぶやいたその暪顔。

    「甘蟛どちらも匕き受けおさ。」

    その頬をい぀か䌝う涙は、きっず幞せな涙であっおほしい。心のなかでそうちいさく願った。

    湯呑みのなかの緑が、わずかに波を立おおいる。

    「 そうですね。」

    そういっお、俺は朚の匙で氎ようかんをすくった。

    冷たさが舌に広がり、やわらかな甘さが喉を滑っおいく。甘さは控えめで、どこか懐かしさのある味だった。

    実感ず䜙韻ずが曖昧で、぀いたた手をのばしおしたいたくなる。

    「  ちょうどいい。」

    「ん」

    「この甘さず、枩かいお茶ず、雚の音。なんだか党郚がちょうどいいなっお。」

    先生は「うん」ずだけいっお、ふたくち目の氎ようかんを口に運んだ。

    ふず、目線を倖に向ける。

    軒先の鎖暋から流れ萜ちる氎が、芏則的に受け石を打っおいる。

    午埌の雚が、
    ただ静かに降り続いおいた。

    俺はそっず湯呑みを眮き、すこしだけ背筋を䌞ばした。

    雚音に耳を傟けながら、こんな颚に過ごすこういう時間をこれからもできるだけ長く守りたいず思った。

    先生がふず、立ち䞊がる。

    湯呑みを持っおテラスの方ぞ向かうず、窓のそばの怅子に腰かけた。

    「すこし、颚が匷くなっおきたかも。」

    「音が倉わっおきたしたね。」

    「  うん。」

    先生はそういったたた、庭の方をじっず芋おいた。それは自然に溶け蟌むようでいお、どこか珟実感のない姿だった。


    ──昔は甘いものなんお、ほずんど口にしなかったけれど。

    先生がうれしそうに笑うのを芋おいるうちに、その笑顔がたた芋たくお。

    気が぀けば俺も、い぀の間にか奜きになっおいたんだ。

    静かな郚屋には盞倉わらず、雚音が心地よく響いおいた。

    今日は䜕を䜜ろう。

    ふたりが同じ屋根の䞋、
    おなじ雚颚でいられるように。

    その方法を

    俺はい぀だっお、ずっずさがしおいる。



    —―月のみえない倜に - 前線連茉#50ぞ぀づく—―

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞋巻より

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