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【月を埅぀波-䞊】話 䜙癜②連茉#


    「──では、せめおコヌヒヌで䞀息぀きたしょうか。」

    そういっお戞棚を開けた。

    「あ  むンスタントでいいから。」

    先生のその声に、䌞ばした手がふず止たる。

    芖線だけを棚ぞ滑らせるず、䞊んだ袋のなかに、圌女の奜きな焙煎豆が芋えた。

    「はいはい」ずだけ返しお、その袋を手に取る。

    淹れる手間も、その時間も、
    惜しいず思ったこずはない。

    マグカップを遞び、キッチンぞ戻ろうずしたずころで、ふたたび䜜業机の方を芋おいた先生がぜ぀りず呟いた。

    「最近は なんだか仕䞊がりがたずたりすぎおいお。」

    足を止めお、俺はたずねた。

    「  バランスの問題ですか」

    「おそらくはね。 揃いすぎおいお、窮屈なんだろうな。

    それでもどうやら手は無意識に敎えようずしおしたう。」

    跳ねた髪をかき䞊げながら、先生は続ける。

    「わたしのような人間にもそんな補正力が備わっおいたこずに、ちょっず驚いたよ。

    どうせ補正するのなら、"あえお敎えないように敎える"ぐらいのひねりを加えおくれおもいいだろうに。」

    そうしお、
    どこか自嘲するように笑った。

    俺はすこし考えおから、答える。

    「䞍足、そのものが䞍足しおいるず。」

    先生はしばらく黙っお考えたあず、ふっず目を遠くに向けお呟いた。

    「そう。わたしの制䜜においおは、欠陥こそが必芁䞍可欠な芁玠なんだ。」


    ここで暮らし始めた圓初、先生はほずんど制䜜の話をしなかった。

    雑談皋床なら亀わすこずもあったけれど、どこか掎みどころがなく、

    話の奥にあるものを知ろうずしおも、なかなか手が届かないような気がしおいた。

    それが、同居しおからヶ月ほどが経ったある日のこず。先生が自分の䜜品に぀いお語り始めたので、俺は驚くず同時に内心で喜びを噛みしめた。

    最初は譊戒心を隠しきれおいなかった先生が、こんな颚に自分の思いを話しおくれたこずが、玠盎にうれしかった。

    圌女がすこしず぀心を開いおくれおいるような気がしお、俺はその扉が再び閉じおしたわないように、できるだけトヌンを保぀ようにしお䌚話を続けた。

    朔先生の審矎県には、正盎俺には远い぀けない郚分も倚かったけれど

    先生がずきどき身に぀けおいる装身具は、どれも圌女の雰囲気に自然ず溶け蟌みながらも

    気が぀けば目で远っおしたうような、䞍思議な魅力があった。

    それは䜜品そのものによるものなのか、圌女が匕き出した盞乗効果的な䜜甚によるものなのか、未だによくわからないでいる。

    どちらにしおも、圌女の手を介しおいるずいうこずに違いはないだろう。

    先生も、自分の䜜品に察しおは特別な思いを持っおいるようにみえた。けれど、

    「䜜家がこれみよがしに" THE・自分の䜜品 "を぀けお出歩くこずには抵抗を芚える。」

    ずいっお、普段は䜕も身に぀けないこずを遞び

    たたに装うずしおも、それは初めお䌚った日に着けおいたようなシンプルな䞀粒のピアスやネックレスだった。

    そういうものだろうかず俺は思ったが、

    ああ、これは圌女特有のすこし憂いた考え方なのだろう。そう気が぀くたでに時間はかからなかった。


    やがお、立ち昇る湯気ずずもにコヌヒヌの良い銙りが郚屋を満たす。それに぀られるように仕事郚屋から出おきた先生が、リビングのい぀もの垭に腰を䞋ろした。

    「  いい匂い。」

    がそりず挏らしたその声には、さっきたでずは違う子どものようなあどけなさが混じっおいた。

    「よかったです。」

    先生はすこし黙ったあず

    「  ずるいなぁ、君は。」

    そう぀ぶやいた。

    「どうしおです」

    「黙っおいおも、わたしが欲しいものに自然ず調子をあわせおくれるからね。」

    目を合わせないたたすこし神劙な顔぀きでカップを受け取るず、先生はそれを䞡手で包み蟌み、たた静かな時間が流れた。

    そしお、ひず口。

    「  ん。」

    そのちいさな声ずずもに、
    瞬時にゆるんだ目元。

    それは

    ほんのすこし前たで遠くを芋぀めおいたのず同じ人物だろうかず、疑っおしたうような。

    時々このひずは、心地のよいもの・う぀くしいものを「感じる瞬間」が、そのたた䜜品になったようなひずだなず思う。

    「  だから、先生。先生が口にしたものも、芋たものも、䜜品に反映されおいくんですよ。」

    俺はそういったけれど、

    それがなんだか蚀い蚳じみお響いおしたったような気がしお、すこし恥ずかしくなった。

    先生は驚いたようにこちらを芋䞊げ、

    「  ほう。君の指摘はい぀も鋭いんだねぇ。」

    ずいうず、にっこりず笑った。

    「その、だから  もっず、本圓にほしいものを気軜に遞んでくださいね。」

    俺は、あなたの制䜜掻動を支えるためにここにいるのだから──

    「...ずなるず昚日、陜高が焌いおくれたあの菓子も、ひいおはわたしが䜜るものの䞀郚になるずいうこずだね。」

    先生がそう返したので、䞍意に昚日の䌑憩のこずが思い出される。

    「そうですね。もしそうなればそれは助手ずしおもこの䞊ない喜びですよ。」

    「  いやぁ。あの時は空腹だったし、勢いよくがっ぀いおしたっお申し蚳なかったね。」

    先生の気たずそうな衚情に、
    思わず笑っおしたう。

    「いいんですよ。栄逊ずしお掻きればそれが䞀番ですから。」

    先生はすこしほっずしたように立ち䞊がり、䞊着を矜織るず「テラスで飲もう」ずリビングのガラスの匕き戞を開けた。

    ただ冬の冷たさをほんの僅かに残しながらも、やさしい春の銙りが颚ずずもに舞う。

    季節の気配に觊れながら、ほっずひず息぀けるこの屋根付きのテラスは、先生や俺にずっおも特別な堎所だった。

    「ずはいえだな 」

    そう぀ぶやくず、先生はポケットから袋を取り出した。

    「  こういうものも、実際至犏ではあるのだよ。」

    塩の効いたゞャンキヌなチヌズスナック。

    「先生  朝からそれは  」

    「ほら、陜高も食べなさい。」

    「  じゃあ、いただきたす。」

    手のひらにぜすんず眮かれたスナック。

    劙に満足げな顔をしお、それから先生は庭の空気を吞い蟌んだ。

    「わたしにずっおのう぀くしいものを䜜るためには、倚少の雑味も必芁ずいうこずさ。」

    「 雑味、ですか」

    「そう。完璧じゃないものこそが、芋る人のむメヌゞを開くず信じおいる...

    たずえば、描かれおいない偎に絵を芋出すみたいにね。

    わたしはそれを、離れたずころからでも感じおいたいんだよ。ただ、そこにあるものずしお。」


    ──ゆらぎのなかにもどこか芯があっお。

    けれど、それを自分で愛せるほどには匷くない。

    だからこそ圌女の䜜品は、たるで同志のような人たちの心に刺さるのかもしれない。

    それから、俺たちはコヌヒヌずスナックを手に、朝の颚にたかせるように蚀葉少なに過ごした。

    さらさらず颚に揺れるラベンダヌを眺め、

    この䜕気ない時間もい぀か䜕かの䞀郚かけらになったりするのだろうかず、思いを銳せながら。


    —―雚ずコヌヒヌの蚘憶連茉#3ぞ぀づく—―

     ひず぀前の話ぞ 

    バックナンバヌはマガゞンぞ


    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞊巻より


     
     
    装身具䜜家ずその助手の日垞を描いた連䜜短線 「月を埅぀波」䞊䞋巻構成党55話を掲茉しおいたす。 ※Kindleは諞事情により販売停止䞭です。

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