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TRUNK #056 100万台という夢と、忘れられた一台 マツダ5チャンネル体制の興亡、そしてランティスという後始末

    100万台という夢と、忘れられた一台

    ― マツダ5チャンネル体制の興亡、そしてランティスという後始末

    1989年、マツダは5つの看板を掲げた。マツダ、アンフィニ(旧マツダオート)、オートラマの既存3系列に、ユーノスとオートザムという2つの新チャンネルを加える。バブル経済絶頂期、トヨタの5チャンネル体制に倣い、5年後に年間販売100万台、国内シェア10%という目標を掲げた挑戦だった。

    「モノがあれば売れる」時代の空気そのままに、マツダは自社を5倍に増殖させようとした。

    クロノスの悲劇

    この体制の主力として送り出されたのが、クロノスとその姉妹車群だった。1991年に登場したクロノスをベースに、ほぼ同じ中身の車が各チャンネル向けに次々と仕立てられる。姉妹車の数は、クロノス自身を含めて8車種にのぼった。

    しかし、蓋を開けてみれば結果は惨憺たるものだった。クロノス・ファミリー全車を合計しても、月間販売台数は1万台に届かなかったという。同じ中身の車を看板だけ変えて何台も並べたところで、店舗網は太らない。むしろ「どの店に行っても同じような車がある」という状態が、マツダというブランドそのものの輪郭を薄めていった。

    trunkというのは、増やせば強くなるものではない。むしろ増やすほど、どれが本物か分からなくなる。マツダの5チャンネル体制は、その典型例として今も語り継がれている。

    ランティスという、静かな後始末

    クロノスの大混乱が続く中、1993年にひっそりと登場したのがランティスだった。ファミリア・アスティナとユーノス100という、2つの車種を統合する後継車としての位置づけである。

    ランティスの開発は、他のクロノス・ファミリーとは温度が違う。プラットフォームはランティス専用のCBプラットフォームを新規に採用し、走行実験の一部はニュルブルクリンクで行われた。衝突安全性能にも力を入れ、1996年の衝突安全基準適合の第一号となっている。搭載されたV6エンジンはクロノスと同じ形式を土台にしながらも、吸排気系を見直して専用にチューニングされたものだった。5ドアハッチバッククーペのランティスクーペは、国内のツーリングカーレースにも参戦している。

    つまりランティスは、5チャンネル体制の混乱の中で数合わせのために作られた一台ではなく、きちんと専用の開発リソースを与えられた一台だった。曲面を多用した有機的なフォルムは、のちの魂動デザインに通じる血脈の萌芽ともいえる。だが、この時期のマツダにその価値を正しく伝える余裕は、もう残っていなかった。看板が5つに割れ、どの店で何を売っているのかさえ分かりにくくなっていた市場に、ランティスという丁寧な一台は静かに紛れ込み、そして静かに消えていった。

    看板は、統合された

    5チャンネル体制は1996年、ユーノス店とアンフィニ店の統合をきっかけに終わりを迎える。バブル崩壊、車種の乱立、そして自社競合。100万台という目標は遠く、看板を増やした分だけ、マツダは自らの体力を削っていた。

    皮肉なのは、この失敗が反面教師として、後年のトヨタのレクサス戦略の成立に影響を与えたとも言われている点だ。マツダが身をもって示した「多チャンネル化の限界」は、他社の設計図に生かされた。

    ランティスという一台を思い出すとき、そこにあるのは失敗の象徴というより、失敗の渦の中でも真面目に作られていた一台の記憶だ。看板を何枚も掲げるより、一枚の看板を磨き込むこと。今のマツダが持つ一貫したデザイン言語は、この5チャンネル体制の崩壊を経てようやく辿り着いた答えなのかもしれない。

    あなたの記憶の中に、ランティスという名前は残っているだろうか。

    過去回をテーマ別にまとめたマガジン「TRUNK SPINE」、はじめました。第1弾は「顔」、第2弾は「誰がこの車の後ろにいるのか」――ディーラー資本構造をめぐる12本です。

    この記事に関連して

    5チャンネル体制という「拡張の失敗」の背景にある、マツダという会社そのものの100年史。

    マツダ100年 車づくりと地域(中国新聞社報道センター経済担当)

    ※本記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

    #TRUNK #マツダ #ランティス #5チャンネル体制 #国産車 #自動車史

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    TRUNKです。車の"裏側"が好き。資本構造に気づくと調べてしまう性分です。 Car capital structures fascinate me. Started this with AI. For car lovers, a bit of fun reading.

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