
思春期のあしおとと十国峠①~子どもが子どもじゃなくなる頃の、新緑の家族旅行~
5月の十国峠。山頂の風は冷たく、空は青く、遠くまで山が連なっていた。 遊園地や川遊びで一日中はしゃいでいた子ども達は、もういない。
ならば、そろそろ「景色」と「グルメ」が主役の旅へ出てもいいだろう。今回のテーマは、「思春期の家族旅行、絶景に泊まってBBQ」。
思春期のドライブは車内もひと工夫
平日の朝、都内を出発する。
午前中の高速は車も多すぎず渋滞もない。快適ドライブだ。
ドライバー歴3年。今でも高速に乗る時はハンドルにグッと力がこもるくらいには初心者。でもやはり、緊張感より遠出するうれしさが勝る。非日常への逃避。
中学生と小学生を連れていくと、移動中はスマホタイムになりがちだ。中学生が見ている動画を、小学生がジュニアシートから身を乗り出してのぞき込む。最近は、座高の高くなった二つの頭で、バックミラーが少し見えづらい。
それぞれに興味の違う一人一人がどう楽しむか。
考えたひとつが車内のクラブハウス化。DJ夫がボカロ好きな子ども達のリクエストをつないでいく。
小学生が推しの曲の解説をしてくれる。3曲に1曲くらい、私のSpotifyに登録したくなる曲がある。子どものセンスも悪くないじゃないか。

とはいえ、ボカロもVtuberもいいけれど、大人も好きな曲に浸りたい。
私も負けじとSTUTSの「Pretenders」をねじ込んだ。
「行きたいところへ行こう Left!Right!」
旅のはじまりにちょうどいい。
漁港の駅TOTOCO小田原
小学生と中学生、そして中年夫婦をつなぐもの、それはグルメ。
十国峠の前に立ち寄って、サクッと小田原の鮮魚を楽しみたい。ネットで見つけた「お刺身食べ放題」をめがけて車を走らせる。
神奈川県を横断してまずは、最初の目的地「漁港の駅TOTOCO小田原」へ。小田原漁港の少し先、2019年オープンの3階建ての施設だ。2時間と少しで到着。

慎重派のゴールド免許ドライバーにとって、駐車場の停めやすさは重要だ。TOTOCO横の駐車場は埋まっていたが、道を挟んで反対側の国道1号線高架下の県駐車場(無料)がすいていた。停めやすい。
予約時間まで1時間ほど余裕があったので、まずは1階の地場物産・土産物売り場をぶらつくことにした。
普段は「買い物めんどい…」とため息をつく小中学生も物珍しそうに品物を手にとる。買い物カゴがどんどん埋まっていく。
いくら醤油、ほたて醤油などの珍しい調味料。
あんと生地に果汁がたっぷり練りこんである湘南みかんパン。
焼きばら海苔は、お味噌汁に散らしたい。





千葉の富津で食べた刺身がむちゃくちゃ美味しかった記憶がある
魚は、その場でさばいてもらうこともできる。
地元の野菜やテイクアウトできるフライもある。
建物脇のテラス席で、2本のカマスのフライを4人で回し食べすることにした。

とはいえ「おさしみ天国」10分前。今は控えるべきなんじゃないのか。しかし容赦なくお腹が鳴る。そして食べ盛りの男子がいると、なかなか順番が回ってこない。
……こちらから伸ばした手も見えていないようだ。
そんな攻防に耐えかねて、気づけば買ってしまったレモンソフト。

レモンがさわやか。

試食コーナーのお姉さんと雑談を楽しんでいるうちに人も増え、予約時間も近づいてきた。
いよいよ、おさしみ天国である。
おさしみ天国・小田原海鮮ゴーゴー!!
なんとも旅のテンションを上げてくれる店名だ。

平日13時の予約で結構すいていた。
受付で説明を聞いて店内へ。
海の見えるテーブルに案内された。
店員さんに促されるまま「Go!Go!」と声出し。
59分の食べ放題スタート。ビニール手袋をつけてビュッフェへ向かう。
夫はまずサラダで様子見。しかし2皿目の刺身盛の豪快さと言ったら。
子ども達もお皿にお刺身を盛大に盛りつけてテーブルに戻ってきた。

まぐろ、サーモン、カツオ、ブリ、ねぎとろ、アカモクetc……!!
まずは、サービスでいただいた中トロのお刺身を。
……極上の脂ノリ!空腹で乾ききった口の中から胃までが、上質な脂で潤っていく……
「うんっま!」
思春期男子も感動。
お刺身が分厚い。回転寿司では出てこない厚さだ。
これを食べたいだけ食べられる。それだけで来たかいがあった。


しっかり揚がった唐揚げはザクッザクッといい音をたてる。
中学生と「どちらが良いASMRを響かせるか」対決が始まった。
読者の皆さんにお聞かせできないのが悔やまれ……いや待て、時間制限がある。ザクザク対決をしている場合ではなかった。
いくらは、1人スプーン1杯の縛りがあるが、家族はチーム戦。大人2人の取り分はいくら大好き小学生の丼ぶりに集結した。多めのいくらコーナーが丼の中にできあがり、小学生はにんまり。
中学生は見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。次々と皿を空にした。
小学生が盛りすぎた分は大人が引き受ける。その点夫は頼もしいのだが、前回の健康診断からかなり日が経っていることが若干気になる。
締めの濃厚魚介出汁茶漬けも、控えめに言って最高だった。

帰りはなぜか「See you!!」の掛け声をかけてもらい、大満足で店を後にした。
立ち寄れなかった2階のフードコートにも「漁港の海鮮カレー」や「うに玉とろみそラーメン」など魅惑的なメニューが揃う。これは再訪したい。
しっかりお腹を満たしたところで、十国峠へ向かう。
小田原をもっと堪能したい方には
・小田原漁港
・鈴廣かまぼこ博物館 体験教室
・フォレストアドベンチャー・小田原
もおすすめだ。
アネスト岩田ターンパイク箱根
小田原漁港から十国峠へ向かう有料道路。山道ドライブを楽しむ。
調べてみると、映画やPR映像の撮影、自動車関連の試乗会に使われたりもするらしい。
確かに車のCMに出てきそうな道だ。
新車CMのドライバーになった気分で走れる。
箱根ターンパイク株式会社 Official YouTube Channelより
子ども達の選んだボカロ曲とともに山道を上っていく。最近海外でミームとなったサカナクションの「夜の踊り子」もリクエストしながら。
しばらく走ると白銀展望駐車場が見えてきた。停まっている車もない。運転に集中していた私も山の景色を見たくなり、立ち寄ることにした。
中学生が「やっほー」と叫ぶ。さすがに「やっほー」と返ってはこなかったが、連なる山に少し低音になった声が響き渡った。
大人たちも小学生も一緒になって、日常へのモノ申しや推しへの思いを神奈川県の端っこの山々にぶつけた。普通に暮らしていると、思い切り叫ぶことなんて、そうはない。
各々、少し上気した顔で山を眺めた。

山あいを勢いよく吹きあがる風。春にしては少し冷たい空気に体温を奪われ、上着を着こんで車へと戻った。
もともと寄るはずだった大観展望台は、「もう景色は見たし」と子ども達によりスルー。芦ノ湖を覆う雲海や、ハイジ気分になれるブランコがあったのだが……
まあ、思春期の機嫌を損ねるわけにもいかない。
チェックイン時間も1時間近く過ぎていた。ここは先を急ぐことにした。
THE GLAMPING 箱根十国峠
十国峠の頂上へ続く最後の細道100メートルも、うまい具合に対向車が来なかった。無事到着。
HPとGoogleマップで何度も確認した駐車場。停めにくそうと思っていた場所も思いのほか横幅があり、スムーズに駐車できた。

しかし、あいにく曇り空。小雨予報でもある。なにより風がとにかく強い。
とりあえずチェックインした後はコテージに荷物を置いて、室内を巡る。




次に、ここを予約した理由のひとつ、敷地内のトランポリンへ向かう。

「サウナ付き」や「ピザ窯付き」、「愛犬と泊まれる」プランもあったが、今回は「トランポリン付き」に小学生が食いついた。
すでに標高770mにいるのに、まだ上に跳んでいきたい人たち。

順番に跳ぶ。最初はぎこちなかったインドア派家族も、少しずつコツをつかんでいった。ボワンボワンと跳ねながらパノラマビューを少しだけ高い場所から眺める。いい感じに息も上がってきた。しかし、大人たちの三半規管は揺れに弱い。早々にギブアップ。
風に運ばれたシャボン玉
コテージの屋上、スカイデッキへ上ってみる。
晴れていたら富士山と夕焼けが一望できたはずだ。相模湾、駿河湾も、霧がかった靄の向こうにうっすらと見えた。
ここで、やってみたかったことがある。
この空に近い十国峠のてっぺんでシャボン玉を飛ばしてみたい。
もうシャボン玉では喜ばなくなった子ども達には相談せず、荷物にシャボン液と吹き口を忍ばせていたのだ。
「よし……シャボン玉、やるよ!」
この人は、また酔狂なことを言いだしたぞ…という空気が流れる。
それはいつものことだ。
山頂の突風に抗って飛んでいく、骨のあるシャボン玉はいるのかね。
フーーーーー。
吹き口の先端から生まれては、すぐに突風に吹き潰されていくシャボン玉たち。
「ちょっと貸して」
子ども達が言った。

やがて、
「あ、飛んだ!すごい!あれ、割れずにいる!」
「え、すご!でかいのできた!」
と勝手に盛り上がり出した。
まだ、そんなはしゃぐ心が残っていたのか……。微笑ましく見守る。
少し風が凪いだ瞬間。
中学生が吹いたシャボン玉の一つが、思いのほか大きく膨らんだ。
10センチくらいの玉虫色の儚い球体が、ふわふわと相模湾のほうへ流れていく。
「うわ~……」
家族みな、その1個を目で追っていた。
10メートル、20メートル……。
真鶴の半島を背にした深い緑のなだらかな山の斜面を、スイ―――ッと進んでいく。心もとなく揺れながら、どこまでもどこまでも割れない。

遠く、私の目では追えなくなったころ、割れたのだろうか。木々の合間に溶けていった。
ふと、私たち家族もいつか、それぞれの風に運ばれていくのだろうか。
そんなことをぼんやりと思った。
部屋に戻ってBBQ
フロントで確認したところ、「BBQはギリOK」とのお話。
旅行となると、いつも予定をギチギチにつめるわが家。遅い時間にキャンプ場へ着くものだから、BBQがミッションとなり慌ただしい。
だから「のんびりBBQを楽しむ」のも、この旅のもう一つの狙い。
だが、風だ。残念ながら、この日の風は強すぎた。
突風が吹き荒れる中でBBQを楽しむ自信はない。
子ども達もベッドに寝ころんで、スマホ・動画タイムに入り始めた。けだるい雰囲気だ。
そこで、早々に室内調理に切り替えることにした。
スマホで音楽をかけながら、用意された食材をゆっくりと調理しよう。
敷地中央のフロント棟では飲み物や軽食も購入できる。ボードゲームの無料貸し出しも。※品揃えは事前の確認を。

キャンプには憧れる。けれど本格的なのは気が引ける。そういうわけで、PICAリゾートのグランピングやお手軽BBQは何度も利用してきた。十国峠はBBQメニューが他施設とは少し違う。それも今回ここを選んだ理由の一つだった。
せっかく、非日常空間に来たのだから、スマホやPCから目を上げて、少しはキッチンに来て手伝いなさいよと思い、最初は「これ切って」「あれを洗って」と促していた。
しかし子ども達は、野菜を切ったと思ったら、すぐベッドへ。
コップを洗い終わっても、気づけばスマホ。
しばらくして、声をかけるのをやめた。
なにかと忙しい現代っ子、グランピングのきれいな部屋で、ごろ寝しながら動画を眺める時間も、きっと格別なのだろう。中年二人でキッチンに立つ。まあそれもいいだろう。

お肉もホタテも野菜も柔らかくておいしい。付属のソースも悪くない。
スタンダードコースでも十分満足なボリュームだ。
子ども達にも好評だったのは、「豚肩ロースと春キャベツ煮込み」にパスタを絡めた一皿。ストーブ鍋で、豚肉もしっとりジューシーに仕上がった。アヒージョ風のソースを絡めると、ちょっとしたイタリアンになる。子ども達もモリモリ食べた。
後編へ続く。
お腹も満たされた家族が、おもむろに人生ゲームを始める。
十国峠の夜は、まだ終わらない。
THE GLAMPING 箱根十国峠 HPはこちら。