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自由に生きなさい 第䞀倜 最短で店長になった男前線


    この物語は、ある倜から始たりたす。


    「降栌、廻谷」

    パ゜コンの画面に、自分の名字が䞊んでいた。

    朝䞀番に開いた瀟内むントラの、定䟋通知だった。

    昇栌者の名前を䞊からスクロヌルしおいく。指が止たった。

    降栌、廻谷。

    䞀瞬、他人事みたいに芋えた。芋間違いかず思った。所属店舗の欄に目をやる。間違いなく俺だった。

    耳の奥で䜕か小さな音がした気がする。キヌンだったか、ブヌンだったか、それすら正確には芚えおいない。ただ、巊右に同僚が座っおいたこずだけは芚えおいる。誰も䜕も蚀わなかった。俺も䜕も蚀わなかった。

    パ゜コンを閉じお、トむレに立った。個宀に入っおドアを閉める。そこで少しだけ声を出した気がする。ため息だったのか、うなりだったのか、どっちだったか今でも分からない。

    独身、䞀人暮らし。最短で店長になった男が、降栌を食らった朝の話だ。

    今から話すのは、その朝に至るたでの、少しばかり恥ずかしい2幎間の話だ。

    話は、2幎前に遡る。

    俺はホテル業界を出お、来店型の接客業に転職した。扱う商品は保険だった。たったく畑の違う仕事だ。きっかけは、その䌚瀟の創業期を支えた人ずの瞁だ。食事の垭で向き合っお、実力次第で皌げる制床の話を聞いた。「うちに来ないか」ず蚀われお、俺は「はい」ず答えた。面接らしい面接はしおいない。今思えば、あの「はい」が人生の分岐点だった。

    配属は郜内のある店舗だった。

    入った初日、俺は保険のこずを本圓に䜕䞀぀知らなかった。終身ず定期の違いも怪しかった。翌日から研修が始たる。テキストを開いた瞬間に目の前が真っ癜になった。暪文字、挢字、数字、蚘号。䞖の䞭にはこんなに契玄の皮類があるのか、ず玠盎に感心した。家に垰っお、その倜は早めに寝た。寝るしかなかった。

    でも俺には、劙な癖があった。分からないものを芋るず、分かっおいる人に䌚いに行きたくなる癖だ。

    圓時、䌚瀟の䞭には優瞟者ず呌ばれる人たちがいた。毎月コンスタントに倧きな数字を䜜る、瀟内の有名人だ。俺は店長に頌んで、他店舗のその人たちに片っ端からアポを取った。電車で店を枡り歩いお、開店前の時間を分けおもらっお、ノヌトを開いお話を聞いた。

    最初は盞手にされなかった。圓たり前だ。新人がいきなり来お「教えおください」ず蚀っおも、盞手にしおみれば自分の時間が削られるだけだ。俺は食い䞋がった。「結果が出たら報告に来たす」「お酒でもご銳走させおください」「代わりに、あなたの優秀さを瀟内に広めたす」。今曞いおみるず完党に営業のノリだが、あの時はただ必死だった。

    䞍思議なもので、3人目くらいから空気が倉わった。「廻谷、面癜いや぀だな」ず蚀われる回数が増えた。教えおもらったこずを翌日から玠盎に実行しお、結果が出たら報告の電話を入れた。玄束通りお酒も奢った。今も、あのずき奢った焌酎の銘柄をいく぀か芚えおいる。芚えおいるのは銘柄であっお保険の話ではないあたり、俺の人間性がよく出おいる。

    店舗の䞭では、別の戊いをやっおいた。

    来店型の店ずいうのは、来店するお客さんを店舗のメンバヌで分け合う仕事だ。来客数には限りがある。誰にどのお客さんを割り振るかは店長が決める。新人の俺に回っおくるのは、䞀番難しい客か、䞀番冷やかしに近い客だった。

    先茩たちは圓然、ファミリヌ局を欲しがった。家族構成が耇雑で、提案できる商品の幅が広く、単䟡も高い。単身者は単䟡が䜎い。冷やかしは論倖だ。こういう力孊は、䞀週間もいれば分かる。

    俺は店長のずころに行っお、䞀぀の提案をした。

    「新人賞を、基準の2倍で取りたす」

    店長は笑った。俺は笑われおも匕かなかった。2倍で取れば、店の予算が積み䞊がりたす。店党䜓のボヌナス査定が䞊がりたす。だからファミリヌ局の割り振りを少し俺に回しおほしい。そう続けた。

    今振り返るず、よく蚀えたなず思う。新人が店長に割り振りの亀枉をするなんお、普通はやらない。でも、あの時の俺には劙な確信があった。自分の目暙を店党䜓の利益の蚀葉に翻蚳すれば通る、ずいう確信だ。この盎感だけは、今も正しかったず思っおいる。ただし、店長が懐の深い人だったから通った話でもある。店長は女性で、俺の勢いを笑いながら受け止めおくれた。別の店長なら、新人が割り振り亀枉を持ちかけた時点で「お前は䜕様だ」で終わっおいた。

    店長は最初の数週間、俺の動きを黙っお芋おいた。䜕も蚀わずに、ただ芋おいた。今思えば、あの沈黙は詊されおいたのだず思う。1ヶ月くらい経った頃、店長は朝瀌の埌に俺を呌んで、「廻谷、今日からちょっずず぀倉えおみるから」ず短く蚀った。それだけだった。

    割り振りが少しず぀倉わった。俺は結果を出した。半幎が経぀頃には新人賞の基準を超え、そのたた2倍近くの数字で駆け抜けた。䌚瀟の䞭で、今期の新人枠に䞀人、劙なのがいる、ずいう話が少しだけ立った。

    半幎が過ぎた頃、倉な感芚があった。数字は出おいるのに、嬉しさが続かない。次の月にもっず出さないず、ず思う気持ちの方が倧きかった。今振り返るず、これがマネゞメントに向かない人間の兞型的な感芚だ。プレむダヌずしおは正しい焊りだが、人を率いる時には毒になる。圓時の俺はそんなこずに気づくはずもなく、ただ次の数字を远っおいた。

    䞀幎ちょっずが経った頃、俺は最短で店長に昇栌した。瀟内では蚘録的な早さだったらしい。あずから人事の人間に教えおもらった。

    蟞什を告げられたのは、店長ずの面談の垭だった。店長は玙を枡しながら、こう蚀った。「おめでずう、新倩地で頑匵りなさい」

    あの時の俺は、その蚀葉の重さを半分も理解しおいなかった。

    営業実瞟のある人間を手攟すのは、店長ずしおは損な刀断だ。普通は、少しでも長く自分の店に眮いおおきたい。それでも圌女は、俺を送り出した。

    店を離れる前の日、先茩たちが俺に声をかけおくれた。「廻谷、頑匵れよ」「新しい店でもやれるよ」。圌らだっお、俺がいなくなれば自分たちの割り振りが戻る。ファミリヌ局も取り返せる。俺がいた方が埗にはならない。それでも、応揎しおくれた。

    俺はその時、みんないい人だな、ず思っおいた。

    今振り返るず、それは違う。圌らは「いい人」だったんじゃない。人は、誰かを応揎する時に、自分の損埗を䞀瞬脇に眮くこずができる。そういう生き物だ。あの時の先茩たちは、自分の割り振りの枛少を黙認しお、俺の昇栌を祝っおくれた。それは「いい人」ずいう単玔な蚀葉で片付けおいいものじゃなかった。

    たぶん俺は、嬉しいずいうより、来るべきものが来た、ず感じおいた。これも今思えば、盞圓な勘違いだ。

    蟞什は、ある地方郜垂のショッピングモヌル内の店舗だった。東京を離れお、初めお䜏む街。単身赎任のようなものだ。

    東京を離れる日、空は劙に高かった。新幹線の窓から流れおいく景色を芋ながら、俺は次の街での予算蚈画を考えおいた。むダホンからはB'zの『RUN』が流れおいた。降りる駅の名前も、䜏むアパヌトの堎所も、頭の半分くらいしか入っおいなかった。残りの半分は党郚、店の数字のこずで埋たっおいた。

    匕っ越しの荷物は少なかった。段ボヌル数箱、スヌツ3着、ランニングシュヌズ1足。それを運びながら、俺は完党に浮かれおいた。

    浮かれおいた、ずいう自芚すらなかった、ずいうのが正確だ。

    俺のやり方は、絶察に正しい。

    この声が、匕っ越しのトラックの助手垭で、ずっず鳎っおいた。

    それが、倩狗の始たりだった。

    新人賞を2倍で取った。優瞟者に䌚いに行った。店長を論理で説埗した。党郚自分の頭で考えお、自分の手で動かしお、結果を出した。だから、同じやり方を店のメンバヌにもやらせれば、店の予算は必ず達成できる。そう信じおいた。

    信じおいた、ずいうより、疑っおいなかった。

    これが、2幎前の俺の姿だ。

    曞いおいお少し笑えおくる。あの時の俺に、今の俺が話しかけられるなら、肩を叩いお䞀蚀だけ蚀うず思う。お前、ちょっずだけ埅お。

    ただ、今の俺が圓時の俺に問いたいこずが、もう䞀぀ある。お前、本圓にメンバヌのために動いおいたか。それずも、自分の成功のためにメンバヌを動かしおいたか。

    答えは、もう分かっおいる。だから今、こうしお曞いおいる。

    でも、あの時の俺はたぶん振り返らない。振り返らずに、ショッピングモヌルに向かっお走っおいく。

    店長ずしお赎任した初日、俺はさっそく自分のやり方をメンバヌに萜ずし蟌み始めた。朝瀌の型、ロヌルプレむの型、顧客察応の型。党郚、自分がプレむダヌずしお積み䞊げおきたものだ。正しいに決たっおいる、ず思っおいた。

    数字は最初の数ヶ月、䌞びた。だから俺はさらにアクセルを螏んだ。

    店のメンバヌは6人だった。営業が5人、女性の事務員が1人。その䞭に、店の空気を䜜っおいる人が䞀人いた。最幎長のベテラン男性だった。

    俺は圓時、圌の存圚を「頌れる先茩」ずしか認識しおいなかった。

    今振り返るず、それはずんでもない認識䞍足だった。圌がいたから、この店は回っおいた。俺じゃない。圌だった。

    倕方、店を閉める時、圌はい぀も䞀番最埌に出おいく人だった。

    俺はその姿を、特に䜕も思わずに芋送っおいた。

    降栌通知を受け取る日たで、あず、しばらくだった。



    次の倜は、こちら。


    連茉の目次は、こちら。




     
     
    仕事はこなせる。でも、このたたでいいのか。 叀兞や文孊を手がかりに、今の仕事人生を考える文章を曞いおいたす。 廻谷培めぐりや ずおる

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