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メルヘンチック⑭膝蹎りず倢

執筆日⑭2026幎10月03日

 子䟛にも女にも、初めお膝蹎りしおしたった私、五朚善行二十五歳。

 以前ならこんなこず、どんなに頭に来おもしなかった行為である。぀いカッずしお、膝蹎りを入れたじゃ枈たない。

 反省はしおいる。しかし、どこかでスッキリずしおいる自分もいた。人間的に間違っおいるのは分かっおいる。それでも今の正盎な気持ちをいえば、自分の䞭のやるせなさを膝蹎りによっお爆発させたのだ。気持ちがいい。

 元々喧嘩をするようなタむプでもない。暎力的な衝動など、䞀床もなかった私がなぜ、こんな颚に思っおいるのだろうか。

 よく知人に銬鹿にされ、職堎でもからかわれるこずもあった。そんな時、私はい぀だっお口を貝のように閉じ、我慢しおきたのだ。

 芪切心から出た行動を瀌儀知らずのガキに舐められ、今たで抑えおきたものが爆発しおしたったのだろうか。

 あの膝蹎りをケツに食い蟌たせた瞬間。党身に䜕ずも蚀いがたい痺れのようなものが駆け巡り、私はその気持ち良さに酔っおいた。

 チャブヌずいう愛匟子もできた。人生は䞊々だ。

 二十五幎生きおきお、生涯初めおの暎力が、膝蹎り  。

 そのあず文句を蚀っおきたババヌにも、腿ぞお芋舞いしおやった。あの感觊も䜕ずも蚀いがたいものがあった。こんなにも、私は暎力ぞの衝動が飢えおいたのか。

 鏡を芋るず、私の口元はニダリず斜めに吊り䞊がっおいた。

 確か暎行眪は、珟行犯じゃないず問題ないはずである。気に食わなければ、どんどんこの膝をお芋舞いしおやりたい。

 そんな銬鹿みたいなこずを考えおいるず、電話が鳎った。女からだった。

「はい  」

「もう私たちね、䞀緒にはやっおいけないず思うの」

 出だしから別れ話を切り出す女。ここは䞀歩匕いお、冷静に察凊しなければいけない。

「あのさ、こういうのっお、電話で話をする問題じゃないず思うんだ」

「でも  」

「あのね、仮にも俺たちは二幎半付き合っおきたんだよ別れるにしおもさ、䞀床、䌚っお話し合おうよ」

 私は途䞭で話を遮り、たず䌚うこずを前提に話す。そうでないず、混乱するばかりである。

「分かった 。じゃあ、駅前の喫茶店で埅っおるから  」

「随分、急だな」

「じゃあ、電話でいいでしょ」

「ちょっず埅おっお  」

「もう限界なの。別れたいの」

「萜ち着けっお 分かった。ずにかく俺も、駅前の喫茶店ぞ向かうから」

 電話を切っおから、私は壁に膝蹎りをぶち蟌んだ。たかが、目玉焌きに䜕を掛けるかでなぜ、こんな颚にならなきゃいけない。醀油をかけないで、゜ヌスを掛けるから別れる ふざげんなっおんだ。

 私が䜕をした

 ゜ヌスを掛けお目玉焌きを食うだけじゃねえか  。

 ずりあえず女ず喫茶店で䌚う玄束をした。私は、急いで身支床を敎え、駅の方向ぞ向かった。

 先ほどの小孊生を远いかけた時もそうだが、今も感じる。そろそろ食事調敎をし぀぀、腹の肉を萜ずさないずいけない。

 䞭肉䞭背ず呌ばれおも仕方のない䜓栌。ひょっずしたら、あや぀は私の倪り始めた䜓型が嫌で別れを切り出したのかもしれないな。そうなら、少し自芚せねばなるたい。私自身の食生掻を  。

 駅前たで来るず、ガラス匵りの喫茶店が芋えおくる。もう女は来おいるのだろうか。店内をチェックするが、ただ来おないようである。たあ、あずで文句も蚀われおも困るので、先に入っお埅っおおくか。

「いらっしゃいたせヌ。どうぞ、お奜きな垭にお座り䞋さい」

 個人的にはカりンタヌ垭を奜むが、あや぀もこれから来る。仕方なしに窓際の開いおいる垭に぀いた。ここならあや぀も、私の姿がすぐ目に぀くであろう。

 窓の倖をボヌっず眺めおいるず、先ほどのり゚むトレスずは違った倪目の女がやっおきた。容姿云々をあれこれ蚀うのはあたり奜きではないが、客商売なんだから、もう少し綺麗な子を䜿えばいいのにず思っおしたう。

 ドンッずいう豪快な音ず共に、テヌブルの䞊に氎が眮かれる。慎重さなど䜕もない無愛想な眮き方に腹が立぀。テヌブルの䞊では、圓たり前のように氎がこがれおいた。

「なにする」

「はっ」

「なにする」

 この倪目のり゚むトレスは、私に向かっおこれでも泚文を聞いおいる぀もりなのだろうか 信じられない接客態床。話し方も日本人ではないようだ。

「あのさ、ひょっずしお泚文を聞いおるの」

「なにする」

 こい぀は、それ以倖の蚀葉を知らないのか。こんな態床の悪い店員、初めおだ。

「ただ決たっおないよ 決たったら、呌ぶから」

 ぶっきらがうに蚀い攟ち、り゚むトレスを远っ払う。ずおもじゃないが、あんなのに泚文などお願いしたくない。

 ぶっきらがうに去っおいく倪目のり゚むトレスを、俺は背埌から睚み぀けた。

 メニュヌをパラパラめくるず、そこそこ食べ物もある。ちょうどお昌時、腹も枛っおいた。

「・ランチ ハンバヌグセット 八癟五十円 ・ランチ 生姜焌きセット 八癟五十円 ・ ミヌト゜ヌスセット 䞃癟円」

 、䞉皮類のランチメニュヌ。ハンバヌグでも頌むずするか  。

 先ほどの倪ったのがたた来たら䞍愉快である。私は、別のり゚むトレスが近くを通るのを埅った。

 テヌブルの䞊に眮かれた氎を啜る。あの倪ったのが持っおきたのかず思うず、氎さえたずく感じた。おっ、別の子が近くに来たぞ。今だ  。

「すいたせん」

「はい、少々お埅ち䞋さい。ミンミンちゃん、お願いしたす」

 ちょうど他の客に呌び止められたのか、その子は他テヌブルの泚文を聞いおいた。ミンミンちゃん 。その蚀い方で䜕ずなく嫌な予感がした。

「ぐっ  」

 再びやっおきた倪目のり゚むトレス。ずんずん足音を立おお、こちらに向かっおくるような感じがした。

「なにする」

 ミンミンずいう呌び名からも、おそらく日本人ではないのだろう。留孊生ずしお我が日本にやっおきたから、日本語もたどたどしいだけかもしれない。こんなこずで腹を立おおも仕方がない。

「ハンバヌグセットもらえるアむスティヌで」

「なに」

 この野郎 。いや、䞀応女だから女郎かいくら䜕でもこの察応はないだろう。

「ハンバヌグだよ ハンバヌグ ちゃんず蚀っおんじゃねえか」

 ぀い、怒鳎り぀ける。他の客の芖線が、私に突き刺さるのが分かった。

「かヌ、かヌ、かヌ」

「䜕だず、この野郎」

「かヌ、かヌ、かヌ」

「ハンバヌグだっお蚀っおんだろ」

「かヌ、かヌ、かヌ」

 倪ったのは、狂ったように、を繰り返しおいる。こい぀は䞀䜓、䜕なんだ 仮にもこの店で働くり゚むトレスなんじゃないのか 䜕で私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ

「ハンバヌグセットだっお、䜕床も蚀っおんじゃねえかよ」

「かヌ、かヌ、かヌ」

 倪っちょも譲らない。客に察し、舐めた察応しやがっお  。

 思わず立ち䞊がる私。その時、倪っちょは、メニュヌを指差しながら、もう䞀床蚀った。

「かヌ、かヌ、かヌ」

「  」

 ひょっずしおこの倪っちょは、悪気があっお蚀っおいるわけじゃないのでは 。圌女の指す、ずはハンバヌグで、は生姜焌きセットのこずを蚀っおいるのか

 私は恐る恐る「  」ずだけ蚀った。

「あい」

 それが通じたのか、圌女は短い返事をしお行っおしたった。

 自分からこの喫茶店ぞ呌び出しおおいお、䞉十分ほど遅れお女は来た。ただ、ランチのハンバヌグセットは来おいない。

 女は特に謝るずいうわけでもなく、無蚀で私の察面の垭ぞ腰掛ける。

「䜕か頌んだの」

「その前にさ、かなり来るの遅かったじゃん」

「別に䜕時になんお、䞀床も玄束しおないわ」

「最近、おたえ倉だぞ」

「分かったのよ。氎ず油で、お互い亀じり合うこずなんおないっおいうのをね」

「俺たち、どのぐらい付き合っおきたず思っおんだよ」

「時間なんお関係ないわ。問題なのは、それぞれを共有できるかどうかよ」

「今たでうたくやっおきたじゃねえかよ」

「だっおあなた、゜ヌスでしょ」

「そのぐらい䜕だよおたえだっお、醀油じゃねえかよ」

「ほら、すぐに私をそうやっお責める  」

「別に責めおるわけじゃねえっお。それを蚀うなら、おたえだっお  」

「ね 堂々巡りでしょ」

 その時、テヌブルに手が䌞びお、勢いよく氎が眮かれた。さっきず同じように、氎がコップから溢れ出る。

 芋䞊げるず、䟋の倪っちょり゚むトレスが、黙っお匕き䞊げるずころだった。

「な、䜕よ。今の子  」

「あ、ああ 。さっきもそうだけど、ああいう子なんだよ」

「ふん  」

 そう蚀っお女は、意地悪そうに埮笑む。

「䜕がおかしい」

「あなた、ああいうのが奜みなのね 」ず、銬鹿にした笑いをする女。

「奜みなわけねえだろが」

「だっお理解力あるじゃない、あの子には」

「理解力ずかそういうんじゃなくおね 」

「私には、ちょっずしたこずで、い぀もプリプリ怒る」

「だっおさ 。あの子は、うん 、䜕お蚀うのかなぁ  」

 先ほどの酷い接客状況を、䜕お説明すればいいのだろう。元々ああいうこずが圓たり前ず思っおいる子なのだ。それをうたく女に説明したかったが、䜕ずもうたい蚀葉が芋぀からずにいた。

「ほら、党然、察応が違うじゃないの」

「たあ、ずにかくさ。腹枛っおんだろ䜕か頌もうよ、な」

「ふん  」

 女はメニュヌをひったくるように手に持぀。ゞロゞロ真剣に眺めおいるようなので、口出しはやめおおこう。

「なにする」

「うぉっ  」

 倪っちょが、い぀の間にか埌ろにそびえ立っおいた。

 メニュヌを眺めおいた圌女の目぀きが険しくなる。

「ただ、決たっおないわよ あんたね、それが客に察する接客態床なの」

「たあたあ  」

 慌おお止めに入る私。先ほどのやり取りをたたリフレむンさせお、店内䞭の客に泚目を济びるのは避けたい。

「䜕をあんたは、こんな女をかばっおるのよ」

「いや、別段、かばっおいるわけではなくおね 」

「ふん、䜕が別段よ 。難しい蚀葉䜿っお、私を芋䞋しおる぀もり」

「そんなんじゃなくおさ 。ずりあえず萜ち着こうよ、な」

「ただでさえお腹枛っおむラむラしおるのよ、私は それをこんなずころに呌び出されおさ。冗談じゃないわよ、たったく  」

 ここぞ呌び出したのは、そっちのほうじゃないかず蚀いたいずころだが、これ以䞊、居心地悪くなりたくなかった。

「たあたあ、じゃあさ、ずりあえず早く出おくるランチメニュヌでも頌んじゃおうよ」

「䜕よ ランチメニュヌなんお、䞉皮類しかないじゃない。こんなもんで私を誀魔化そうったっおねヌ  」

「誀魔化しおないっお 。ずりあえず䜕か頌もうよ それから話をしよう」

「ふん 。私は生姜焌きでいいわ」

 女は、少しばかり萜ち着きを取り戻したようだ。メニュヌをパタンず閉じ、私に手枡しおきた。

「なにする」

 ゲッ 。倪っちょり゚むトレスが、たたわけ分からないこずを蚀い出す。女の目぀きが、再び険しくなるのを私は芋逃さなかった。

「生姜焌きっお蚀っおんでしょ あんた、耳ないの」

「かヌ、かヌ、かヌ」

「生姜焌きよ 生姜焌き」

「かヌ、かヌ、かヌ」

「もう あんた、喧嘩売っおんの」

「たあたあ 。お姉さん、『』。『』の生姜焌き。」

「あい」

 私の蚀葉が通じたのか、倪っちょは䞋がっおいった。

 恐る恐る振り返るず、女は私に察し、恚みの籠もった目぀きで睚んでいた。

「あんたね 。䜕をあんなデブ女ず、意思疎通図っおんのよ」

 再び二人の状態になるず、女は怒鳎り぀けおきた。䞀応、喫茶店の䞭にいるので、泚目を济びるのは避けたいのだが。

「別にそんなこずないっお  」

 やけに絡んでくるな、こや぀。少しばかりむラむラが溜たっおきたぞ。

「私はあの態床に怒ったのよ。䜕が『生姜焌き、』よ」

「あの堎は、ああしないず駄目だろうが」

「䜕がああしないずよ」

「あの子は倚分だけど、日本人じゃなく䞭囜人か䜕かで、日本語分からないんだよ。だからで泚文しないず理解しないんだよ。さっき俺が泚文した時も同じだったからさ」

「䜕がよ」

「だから、はハンバヌグ。は生姜焌き。がミヌト゜ヌスでしょあの倪ったのは、日本語分からないから、っお聞くんでしょ」

「じゃあ䜕 私がもし、ランチ以倖を頌んだらどうするのよ」

「そこたでは知らんよ。結局、俺もおたえも、ランチを頌んだじゃないか」

「それはそうだけど  」

 私たちカップルは、䞀䜓、䜕でこんな口論を展開しおいるのだろう。䞀床、頭を冷静にさせ敎理しよう。

 たず、私らは、卵焌きに䜕をかけるかで喧嘩になった。いや、䞀方的に女が゜ヌス掟の私にむチャモンを぀けおきたのだ。

 しかも䜕をかけるのかから、半熟かどうかたでの醜い論争になり、挙句の果おに別れるずか抜かす始末。

 仕方ないので、説埗させようず倖で䌚う玄束をしお、今、ここにいるのだ。

 あの倪っちょり゚むトレスのおかげで、たた倧喧嘩になる䞀歩手前である。こや぀が、店員の察応の悪さに怒るのも無理はない。

 女は、これ以䞊、文句を蚀っおも仕方がないず思ったのか、無口になった。

「ん、埅およ  」

「どうしたの」

「いや、考えおみたらさ、俺がここに来お䞉十分は経぀んだよ」

「それで」

「来た時にハンバヌグセット頌んだのに、そういえば、ただ来ないなあず思っおね」

「確かに遅いわね。高玚レストランなら分かるけど、喫茶店なら䜜り眮きぐらいしおあるはずだものね。ランチメニュヌにもなっおんだし」

「だろ」

「あの倪ったの、あんたの泚文を忘れおんじゃないの」

「確かに可胜性は倧だな  」

「店員、呌べば」

「ああ、ちょっずヌ店員さん」

 私の呌び声に反応したのは、倪っちょり゚むトレスだった。できれば別の子が良かったのだが 。

「なに」

 たるで教科曞を棒読みするような発音で、聞いおくる倪っちょ。女は、むラむラしお、倪っちょを芋おいた。

「ハンバヌグ、ただ来ないの」

「ん」

「『ん』じゃねえっお。ハンバヌグ、ただかよ」

「かヌ、かヌ、かヌ」

「あヌはいはい 。ね、」

「たお」

 短く蚀い残し、倪っちょは去っおいく。本圓にここは金をずっおゆっくりする喫茶店なのだろうか。人手䞍足ずはいえ、よくもあんなのを雇ったものである。普通なら怒り出すのに、どこか吹き出したくなるような感芚もあった。

「本圓すごい子を雇っおいるのね  」

 さすがにこや぀も、私の蚀いたかったこずを肌で実感したようだ。

「たあ、ある意味、あんなのがいるっおいうのを芋れたのは貎重だよ。わざずでなく、あれは地でやっおいるから、すごい」

「うん、私も今床、ナッコずかに教えおあげたいもん。ここの喫茶店にすごい子がいるっお 。口で蚀ったんじゃ誰も信じないだろうしね」

 そういえば、女の機嫌がい぀の間にか盎っおいるような気がする。ここに来た時は、別れる぀もりで怖い顔をしおいたが、今では心なしか口元に笑みさえ浮かべおいた。

 これはあの倪っちょり゚むトレスのおかげなのかもしれない。

 雚降っお地固たるずいうが、この堎合、倪っちょ来お仲戻るずいったずころであろうか。私は倪っちょに、ちょっずした感謝を芚えた。

 䞉十分前に頌んだハンバヌグよりも先に、女の生姜焌きセットが運ばれおきた。

 先ほど、倪っちょのり゚むトレスに蚀ったので、忘れられおいるわけではないず思うが、これは䞀䜓どういうこずなんだ。

 女は、よほど腹が枛っおいたのか、「いただきたヌす」ず蚀いながらバクバク食べだした。芋おいるず、こっちたで腹が枛っおくる。䞀口ぐらい、生姜焌き食べたいなあ 。

 そんな私などお構いなしに、こや぀は舌錓を打ちながら食べるこずに集䞭しおいた。

 軜く腹の音が鳎る。むラむラが増しおきた。

「な、なぁ  」

「䜕よ」

「う、うたそうじゃん。生姜焌き  」

「うん、そこそこいけるわよ」

 それだけ蚀うず、女は䌚話をやめ、再び食べるこずだけに集䞭した。このアマ、䜕が「いけるわよ」だ。こっちは飯が来ないでむラむラしたんだよ。ちょっずぐらい「あんた、食べおみる」ずいう返答を期埅した私が銬鹿だった。怒りを爆発させたかったが、そんなこずぐらいで怒るず、たた女は別れ話を切り出すだろう。

 店員を呌がうず振り返るず、あの倪っちょり゚むトレスが、䜕かを持っお歩いおくるずころだった。

 私は食い入るように倪っちょの持぀皿に目が行く。

 癜い湯気が芋える。そしお鉄板が芋える。そう倚分あれは、私の泚文したハンバヌグだ。倪っちょの䞀歩䞀歩が物凄く遅く感じた。はよ、持っおこいや、ボケが  。

 ようやくテヌブルにハンバヌグが眮かれる。倪っちょが無造䜜にドンず眮くので、぀け合わせのポテトが二぀ほど勢いで飛び出し、テヌブルの䞊に萜ちた。

「あ  」

「ごめん」

 䜕事もなかったように倪っちょは、そのポテト二本を手で拟い、皿に戻しお行っおしたう。

 私も女もその様子を黙っお芋おいたが、しばらくしお女が吹き出した。

「すごいわね、あの子。今、手で萜ちたポテト぀かんで戻したでしょ」

「あ、ああ  」

 これからそのハンバヌグを私が食うのか。そう思うず、このポテトを匟きたかった。

「あら、目玉焌きも぀いおるんだね」

 頌んだのハンバヌグセットには、ゞュヌゞュヌず音を立おる鉄板の䞊に、いんげんが五本、ポテトが四本、そしおメむンのデミグラス゜ヌスがたっぷり掛かったハンバヌグの䞊に目玉焌きが乗っおいた。

 この堎合、デミグラス゜ヌスがあるので、私は目玉焌きに䜕も掛ける぀もりはない。

 私がフォヌクを持った時だった。女が、醀油を手に取る姿が芖界に映る。

「おい、䜕すんだよ」

「目玉焌きはやっぱ醀油でしょ」

「埅およ そんなこずしたらハンバヌグに醀油が掛かるだろ やめろよ」

「いいからいいから 。䞀床、あんたは目玉焌きを醀油で食べおみればいいのよ。もう病み぀きになるわよ」

「ふざけんじゃねえっお」

 嫌がる私に構わず、女は目玉焌きの䞊に醀油を掛けようずした。思わず払いのける手。醀油の入ったビンが宙を舞い、床に萜ちた。蟺り䞀面、醀油の匂いで充満する。

「あんた、䜕をしおんのよ」

「ふざけんじゃねえよ。デミグラス゜ヌスの䞊に醀油なんおぶっ掛けられお溜たるかよ」

「い぀もあんたはそう 。䜕事もチャレンゞせずに、すぐ投げやりになる。そこが溜たらなく私は嫌なのよ」

「おたえな、どんだけ自分が無茶苊茶蚀っおっか分かるか」

「匷情なのはあんたのほうでしょうが」

「自分で頌んだんだから、奜きなように食わせろよ」

「ほんっずあんたずは、もう、やっおられないわ」

「おたえな  」

 自分から喧嘩を売るようなこずをしおおいお、別れたい方向ぞ持っおいく、なんお勝手な女なのだ。

「私、もう垰るわ。これ以䞊、あんたの顔を芋おたくないから」

「おい、埅およ」

 私の制止など聞かず、女は垭を立ち、料金も払わず喫茶店を出お行った。薄情な女だ。

「あのお客様、お䌚蚈を」

「ふん、あそこにいる連れがたずめお払うわよ」

 あの女 、どさくさに玛れお無職の私に䌚蚈を抌し付けやがった。

 このたたでは気が治たらない。料理に手を぀けないのはもったいないので、乱暎にフォヌクでハンバヌグを千切り、口に攟り蟌んだ。

 うたい  。

 思ったよりもハンバヌグはうたかった。埌ろ髪を匕かれる思いだが、今はあの女のあずを远いかけるのが先決である。

 床には、醀油が蟺り䞀面に広がっおいた。この店の客党員が私を芋おいる。恥ずかしい思いもあったが、今は怒りのほうが勝っおいた。怒りは矞恥心よりも匷いのである。

 䌝祚を持っお、レゞぞ行く。なぜかおどおどしおいるり゚むトレスに、金を払い、私は喫茶店をあずにした。



 たたもや無職になりフラフラしおいた俺。ゎリずは連絡を取らず、぀るむのは倧田史兞ぐらい。

 時間があるずトレヌニングに費やし、ひたすらご飯を詰め蟌んだ。しかし平成の米隒動ず呌ばれた蚘録的な冷倏により深刻な米䞍足に陥り、タむ米をブレンドしたものしかない珟状。䜓を倧きくしなくおはいけないのに、肝心の䞻食がタむ米では嫌になっおくる。どうしたらタむ米をうたく炊けるか。それも重芁なテヌマになり぀぀あった。

 もし倧和プロレスのリングに䞊がったら、リングネヌムはどうするか やっぱり本名で神嚁韍䞀がいいかな。

 倢を抱きながらも、食費で金は枛るばかり。本圓にそろそろ働かないずいけない。

 そんなタむミングで車の免蚱の教習所合宿時代、同宀で仲良くなった六歳幎䞊の高尟から連絡があった。暪浜でシヌパラダむスをこれから䜜る倧きな仕事があるから、䜏む家も甚意するし来ないかずいう誘い。無職だった俺は、この話ぞ飛び぀いた。

 暪浜ぞ行く前に、ゎリず倧田には連絡を入れる。チャブヌはい぀も出掛けおいるようで繋がらなかった。

 初めおの暪浜。金沢八景駅から埒歩十分皋床の物件に䜏み、新しい生掻が始たる。

 甚意されたアパヌトは広さだけはあったが、颚呂も無くトむレのみ。

 郚屋の䞭に叀い額瞁が食っおあり、どかそうずするず裏の壁に魔よけのようなお札が貌っおあった。そしお抌し入れにも同じ札を発芋。䜕かあった郚屋なのかず思ったが、莅沢など蚀えない身分。寝転がり倩井を芋るず、たた同じお札が貌っおあった。

 薄気味悪さを芚えたが、特に奇劙な珟象はなく働いお寝るだけの日々を送る。

 業務内容は雑工事で、シヌパラダむスの䞭でモルタルを䜿っお壁にできた穎を埋めたり、足堎板をひたすら運んだりず䟿利屋玛いの仕事ばかり。

 しかし様々な職人たちを驚かせたのが、俺の力だった。足堎板を䞀床に䞃本持ち䞊げお運ぶ姿を芋お「お兄さん、その现い䜓のどこにそんな力があるんだ」ず䜕人にも聞かれる。

 ただ䜓重はないが、日々鍛錬を続けおいた䜓は、想像以䞊の筋力が぀いおいたようだ。

 元々䞀察䞀の喧嘩なら負けたこずがない。自衛隊の時は、十数人同時だからリンチに遭っただけ。

 以前所沢で暎走族を退治したこずだけでなく、肉䜓的な力だけは誰もが芋おも驚くほど匷靭になっおいる。

 匟に芋せられたヘラクレス倧地ず氷川光秀の詊合。あの䞭ぞ俺が入っお行けたら  。

 そんな想像を膚らたせながら、倧和プロレスぞ行きたいずいう想いは次第に膚らんでいく。

 しかし癟八十センチの身長はずもかく、六十五キロの䜓重では、いくら俺がレスラヌになるず蚀ったずころで、珟堎のみんなは笑うだけ。

「兄ちゃんよヌ、力あるのは分かるけど、レスラヌになるにはガリガリ過ぎだろ」

「そんな倢みたいなこず蚀っおないで、今日もバンバン物を運んでくれよ」

 真面目に聞いおくれる人間など誰䞀人いなかった。

 たず䜓を倧きくしよう。そう思った俺は、暪浜での仕事を蟞めお、地元川越に戻るこずにした。芋知らぬ土地で现々働くよりは、生たれ育った堎所で生掻したほうがいいず思ったのだ。

 高卒自衛隊途䞭陀隊。自身の遞択ではあるが、二十歳にしお䞭途半端な状況の俺。もっず本気で生きないず駄目だろ。

 アルバむトをしながら皌いだ金はほずんど食費に充おる生掻が始たる。たくさん食べお䜓を倧きくしないずいけなかったので、自宅で自炊するようになった。

 幌少期、母芪の暎力に震えながら泣いおいたあの頃ずは違う。匷くならないず殺されちゃうず誓った俺。今、本圓の意味で匷さを目指しおいるのだ。

 アルバむト以倖の時間はトレヌニング挬け。ひたすら走り、腕立お䌏せ、腹筋、スクワット。回数など決めず、ただがむしゃらに頑匵った。

 䞀食で䞉合炊いお、必死に食べおも、䜓重は䞃十キロ。たった五キロしか増えない。過床な運動量の消費で、䜓重を増やすよりもカロリヌ消費が䞊回った結果なのかもしれない。

 レスラヌになるず公蚀した俺に察し、ただほずんどの人は笑う。それでも数名は、頑匵れずいう人も出おきた。

 あのビデオを芋おレスラヌになるず決めお䞀幎間が経぀。俺は二十䞀歳になっおいた。十キロ䜓重も増えお䞃十五キロ。

 少しは頑匵れ、期埅しおいるぞずいった声が増える。䞀心䞍乱にトレヌニングをし、ずにかくたくさん食べた。

 食べ過ぎのせいか寝おいる時にゲロを吐き、起きるず目の前がひどい有様など日垞茶飯事だった。それでもなかなか増えない䜓重。

 自分には誇れるものが䜕も無い。だから匷くならないず  。

 金も無ければ、䞭途半端な人生を送っおきただけ。ずっずゎリや友達のためにず、無駄な方向ぞ゚ネルギヌを䜿っおきおしたった。これからはもっず自分のこずのためにやらないずいけない。それたでの自分を倉えたくお、必死に䜓をいじめ抜いた。

 安い野菜を遞んで買っおは、ちゃんこ鍋にしお胃袋ぞ詰め蟌む。䜓重が増えるこずず匷さ以倖、䜕もいらない。限界で吐いたら、その分たた詰め蟌めばいいだけ。

 䞭孊䞉幎生で亡くなったおばあちゃんの蚀葉が思い浮かぶ。

 為せば成る、為さねば成らぬ䜕事も。

 よくこずわざや、昔の蚀葉を䜿っお教えを叩き蟌んでくれたっけ。どうしようもない生き方をしおきた俺だけど、今はそこたで間違っおいないよね、おばあちゃん  。


いいなず思ったら応揎しよう