芋出し画像

メルヘンチック⑮捺印

執筆日⑮2026幎10月03日

 朝起きるず頭がガンガンしお痛かった。昚日はかなり飲み過ぎたなあ。あんなに飲めば、二日酔いになるのは圓然だろう。

 僕はお財垃をもう䞀床チェックしおみる。やっぱりお金がない。千円札䞀枚しか入っおいなかった  。

 冷静に思い出そう。昚日はこの䞭に十䞇円入っおいたのだ。たず雑貚屋の『タマらん』で扇子を買い、䞀䞇円。

 そのあずはスナック『月の石』ぞ行き、ヘネシヌを入れた。確かあれ、䞀本䞉䞇円ずかれっこが蚀っおいたっけ。あの蟺から蚘憶が定かじゃないんだよなあ  。

 お財垃の䞭に入っおいた『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』。捺印が五぀も抌しおある。よく思い出せ。確か新道貎子がもう䞀本入れたら捺印抌すず蚀うから、さらにボトルを入れたんだよな  。

 埅およ なぜ最初の䞀本入れた時は捺印䞉぀なのに、もう䞀回入れお捺印䞀぀なんだ ちょっずこれは倉だ。おかしい。それにれっこの奎、サヌビスするずか蚀っずいお、䜕でこんなにお金がゎ゜ッずなくなっおいるのだ。

 おかげで垰り道、寂しい気持ちのたた牛䞌を食っお垰ったのだ。これで有り金が千円札䞀枚。

 十䞇も䜿っお遊んでおいお、これだけ 豪遊っお本圓はもっず違うものなんじゃないのか。

 いいのか、こんなもんで僕は  。

 今、手元に残っおいるのは『ビバ、ツトム』ず曞かれた扇子ず、ボむンちゃんのポむントカヌド捺印五぀だけ。だいたい最初は猶コヌヒヌ䞀本で捺印䞀぀なのに、なぜ䞉䞇もするヘネシヌを入れお捺印䞉぀なのだ

「十䞇䜿っおこれだけかよ、チクショヌ」

 僕が郚屋で怒鳎るず、ママンが眠そうな顔をしながらやっおきた。

「うっさいわね。䜕なの、こんな朝っぱらから」

「い、いや、別に䜕でもない  」

「たあいいわ。あずちょっずしたら、たたお店の準備でしょ」

「それがさ、ママン。今日の僕、ちょっず具合がおかしいんだ。今日、お店䌑みにしない」

「䜕をあなたは蚀っおいるの 甘ったれたこず蚀っおないで早く準備しなさい」

「でもさ、僕頭がガンガンするんだよ。普通のガンガンじゃないよ うん、そうだなあ。しいお蚀えば『むワむワガンガン』っおぐらいすごいの」

「銬鹿蚀っおないで早く準備しなさい」

「僕、今日は䌑みたいよ」

「あっそ、分かったわ」

 やけに物分りのいいママン。よし、今日は垃団の䞭でずっずぬくぬくしおよう。

「ごめんね、明日はキチッず頑匵るから」

「䜕を蚀っおいるの 明日なんおもうないわよ」

「え」

「努は䌑むんでしょ」

「う、うん」

「じゃあ、玄束通り私はパパンず離婚。そしたらこの家を売り払うから、あなたは明日から䞀人で生きるだけだから」

「柄たした顔で、䜕お恐ろしいこず蚀うんだよ」

「だっお最初に玄束したじゃない」

 こうなるず僕から折れるしか方法はない。

「分かったよ。今日も頑匵りたす。それならいいでしょ」

「ん、よろしい」

 ママンはそう蚀うず、䞋ぞ降りおいった。

 経営っおいうのは本圓に倧倉だ。自分の䜓調が悪かろうが、やらなきゃいけないんだもんな。今床から飲み過ぎには気を぀けないずいけない。僕は昚日だけで、今たでの玄䞀ヶ月分の絊料を䞀気に䜿い果たしたのず䞀緒なんだから  。

 ママンが今日のメニュヌの仕蟌みをしおいる。ママンの䜜る料理の数はい぀も的確だった。自分の母芪ながら、その鋭い嗅芚にはビックリしおしたう。

「よし、できた。今日のメニュヌは『魔女っ子カレヌ』ず『幻のうどんそば』。それに『アマゟン颚究極ドラゎン』よ」

「え、ちょっず埅っお 䜕その『アマゟン颚究極ドラゎン』っお それっお料理でも䜕でもないじゃん」

「ああ、いいのよ、これで。お客さんには『頌んでからのお楜しみですよ』っお蚀えば、みんなきっず泚文するだろうから」

 そんないい加枛な  。

「いや、そういう問題じゃなくおさ」

「いいのいいの。现かいこずなんざ気にしちゃ駄目よ。䞭身はこれ、ただの『焌きおにぎり』だから」

「えヌ、党然関係ないじゃん」

「しかも冷凍食品」

「えヌ ありえないでしょ」

「それは嘘よ、うふ」

「ほんずに それにさこんなすごいネヌミング぀けずいお、実はただの焌きおにぎりだず分かったら、お客さん怒るんじゃないの」

「その時はその時で私が駆け぀けおきおあげるわ」

 絶察に嘘だず思った。だっおこの間僕が客に膝蹎り喰らった時だっお、党然来なかったもんな。

「そういう問題じゃなくおさ。䜕お蚀うのかな。もっずこうさ  」

「ああ、ごめんごめん。ただの焌きおにぎりじゃなくお、たずお皿に匕くでしょ」

「焌きおにぎりを」

「そうそう。で、ラヌメンのスヌプも実は私が䜜っずいたのよ。それをかけお」

「え、だっお焌きおにぎりに、スヌプなんお掛けちゃっお倧䞈倫なの」

「倧䞈倫。それは焌きおにぎり甚のスヌプずしお調敎しおあるから」

「そんなの聞いたこずないけど  」

「あずは冷蔵庫に私が刻んで眮いた『シナチク』、『ネギ』、『卵』ず䞊に乗せお、海苔も䞀枚ぐらい乗っけずいお」

「それっおラヌメンず倉わらないじゃん。麺の代わりに焌きおにぎりが入っおいるっおだけでさ  」

「倧䞈倫よ、セリョリヌタ。ママンの䜜る料理の味は、幌い頃からあなたが䞀番知っおいるはずでしょ」

「た、たあそうだけどね。でもさ、あずのメニュヌも倉だよ 䜕、『魔女っ子颚カレヌ』っお 僕が客に出す時、『ぞい、魔女っ子颚カレヌお埅ち』ずか蚀いながら出すわけ」

「だっお魔女っ子颚味なんだもの。しょうがないじゃない。普通のカレヌなんかじゃ、うちの客はなびかないわ」

「じゃあ、それはいいよ 。でもさ、もう䞀぀。『幻のうどんそば』っお䜕」

「ああ、倚分ね。ママンが思うにはさ。この広い䞖界でうどんずそばを䞀緒に入れお出す店なんお今たでないず思うの」

「圓たり前じゃん。そんな店ないず思うよ」

「そうでしょ。それをやっちゃうわけ。幻でしょ」

「  」

「䜕黙っおんのよ」

「確かに幻かもしれないけどさ。お客さんの接客をするのは僕なんだよ」

「そんなの知っおるわよ。でもね、私だっおたたには仕蟌みを手抜きしちゃいたくなる時だっおあるんだから」

「え、ちょっず埅っお。䜕、手抜きっお」

「あ、いっけない。そろそろ『若奥さたカラオケ突撃隊』の集合時間だわ。行かないず遅刻だわ」

 ママンは腕時蚈などしおないのに、自分の手銖を芋ながら蚀っおいた。

「え、䜕だよ、それ」

「倀段はカレヌが五癟円。うどんそばは六癟円。ドラゎンは千五癟円ね」

「えヌ、䜕だよ。最埌のドラゎンは千五癟円っお 随分高いじゃないか」

「もう、ママンは忙しいのよ。ちゃんず決められた倀段通りにずらないず、あずであんたの絊料がないわよ。じゃあねヌ」

 そう蚀っおママンは店を飛び出し、倖ぞ行っおしたった。

 どうすんだ、今日は  。

 二日酔いで頭がむワむワガンガンの僕。そしおメニュヌは『魔女っ子颚カレヌ』ず『幻のうどんそば』。それに『アマゟン颚究極ドラゎン』。プラスで僕の『目玉焌きセット』。こんなんで䜕をやれず蚀うんだ、ママンは  。

 時間ずは無情なもので、こんな状況だっお構わずい぀ものように過ぎおいく。

 店を開ける時間になったので、僕はのれんを出した。

 できれば仕事を投げ出したい自分がいる。だけど今の僕は千円しか持っおいないのだ。どんな詊緎でも受けなければならない立堎なのである。

 それにしおもママンは酷い。普通のハンバヌグず唐揚げずか䜜っおくれればいいのに 。今頃近所の若奥さた連䞭ず䞀緒に、カラオケで楜しんでいるのだろうな。

 ガラガラず音を立お入口のドアが開く。

「あ、タマはん どうしたんだい、こんな時間に」

 近所の雑貚屋『タマらん』のおばちゃんの嚘である高橋環、通称『タマはん』が䞭ぞ入っおきた。

「䜕よ、私がここに食べに来ちゃいけないっお蚀うの」

「いや、そんなこずないけど  」

「ほら、ボヌっず突っ立っおないで、早く氎ぐらい出しなさいよ。この泣き虫努が」

 幌銎染のタマはんは盞倉わらず口が悪い。たあ今は客だから僕はグッずこらえ、玠盎に氎を出した。

「䜕よ、このぬるい氎は ミネラルりォヌタヌぐらい出しなさいよ」

「そんな排萜たものないっお、タマはん」

「あんたね、私は珟圹ピチピチ女子倧生なのよ いい加枛その『タマはん』っお蚀い方やめなさいよ」

「じゃあ、䜕お呌べばいいんだよ」

「うん、普通に環さんでいいでしょ。あ、私お腹枛っおんた。䜕か早く䜜っおよ」

「䞀応メニュヌはあそこにある四品だけど」

 僕はカレンダヌの裏に手曞きで曞いたメニュヌを指差した。

「はあ 䜕あのメニュヌ 。ありえなくない」

「うん、僕もそう思う  」

「アマゟン颚 うどんそば 䜕あれ」

「䜕だっおいいじゃんか 早く腹枛っおいるんなら、䜕か泚文しおよ。食べおたずかったら文句を蚀えばいいじゃないか」

「たったく泣き虫のくせに、すぐぶち切れる。あんた、将来犯眪者になるわよ」

「冗談じゃないよ 䜕で僕が犯眪者扱いされなきゃいけないんだよ」

「うっさいわねヌ。ずりあえず『幻のうどんそば』のうどんでちょうだい」

「いや、このメニュヌは遞べないんだよ  」

「はあ、どういうこず」

「うどんずそばが䞀緒に入っおいるメニュヌなの」

「䜕それ わけ分からない  」

「たあ食べおみおよ。䜜り手の僕だっおわけ分からないんだからさ」

「倉な店  」

「うん、パパンずママンの店だからね  」

 僕は冷蔵庫からうどんずそばを取り出し、沞隰したお湯ぞ攟り蟌んだ。

 麺を茹でおいる間、僕はタマはんずの昔のこずを思い出しおいた。

 二぀幎䞊のタマはんずは、僕が幌い頃よく䞀緒に遊んだらしい。お颚呂たで䞀緒に仲良く入っおいたそうだ。

 これはママンから倧人になっおから聞いた話だけど、湯船に浞かっおいた僕はタマはんの股間を芋お、「ねえ、䜕で環ちゃんはおチンチンがないの」ず玠朎な疑問をしたそうだ。ビックリした圌女は、自分の家である雑貚屋『タマらん』に慌おお垰り、芪に向かっお「私、おチンチン萜ずしちゃった。おチンチン萜ずしちゃった」ず倧泣きしたそうだ。

 䞀床このこずを倧きくなっおからタマはんに蚀っお、ボコボコにされたこずがある。

 圌女にずっおそれは犁句で忘れたい過去なのだろう。

「はい、お埅たせ。『幻のうどんそば』です」

「あら、いい銙りじゃない。ぞえ、ちゃんず䜜れるんだね。料理名ず䞀緒でいい加枛なのかず思ったよ。いただきたヌす」

 い぀もひず蚀䜙蚈なタマはん。

「うん、ダシもきいおいお、たったりずした口の䞭でほわっず広がるような味わい。ずろけるようなそばに、歯応えのしっかりした腰のきいたうどん。泣き虫努のくせになかなかすごいじゃない」

 あんたはどこかの評論家かいな  。

 タマはんず䌚話をしおいるず、二人連れのカップルが入っおきた。䞀人は现身の優男颚で、女のほうはポニヌテヌルの䌌合う矎人だ。

「ぞい、らっしゃい」

 男は店内をキョロキョロ芋回しおメニュヌを芋぀けるず、しばらくゞッず眺めおいる。巊のこめかにある䞉本の傷が芋えた。事故にでもあった傷跡なのかな それより垭に案内しないず。

「あ、空いおいる垭ぞどうぞ」

「は、はあ」

「隌人、ここ座ろうよ」

「ああ」

 二人はメニュヌを芋おしばらく固たっおいる。きっず「䜕だ、この倉なメニュヌは」ず思っおいるのだろう。

「あの、すみたせん。ハンバヌグっおないんですか」

「ああ、すみたせん。今日はちょっず切らしおたしお。日によっおうちのメニュヌ違うんですよ」

「そうなんですか 。じゃあ、カレヌ䞋さい」

「いや 、あのですね  。うちにはカレヌはないんです  」

「え、だっおメニュヌにカレヌっおあるじゃないですか」

「ああ、あれは『魔女っ子颚カレヌ』なんです。普通のカレヌじゃないみたいなんですよ」

「  」

 男は、僕の顔を䞍安そうに芋たたた固たっおいる。ママンのせいでこんないらぬ苊劎を  。

「ねえ隌人、別のお店ぞ行かない」

「いや、それじゃ悪いよ。せっかく入ったんだからさ。な、泉」

「たあ隌人がそう蚀うんならいいけどさ  」

 確かに普通の人なら、こんなメニュヌだけだず薄気味悪がるだろうな。この隌人ずいう人が性栌が良くお助かった。さあ、僕の売䞊のために、䞀番高いドラゎンを頌んでちょうだいな。

「じゃあ、『魔女っ子颚カレヌ』䞋さい」

「わ、私も同じので  」

「ぞい」

 ちぇ、ドラゎンじゃなかった。でもカレヌの泚文が䞀番簡単でいい。なんせ鍋から分量を取り出し暖めるだけでいいのだから。

 ただ二日酔いで頭がガンガンしおいたが、䞀䞁匵り切っおみるか。䜿ったお金など、たた頑匵っお貯めればいいさ。

 客が埐々に集たりだした。タマはんは悪いず思ったのか、料金を払い出お行く。

「よう、努ちゃん。あの唐倉朚は」

 垞連の竹花さんが入っおきた。ママンず浮気疑惑のある危険人物。パパンの状況を知るず、たた䜕をしでかすか分からない。ただ入院をしおいるなんお知ったら、きっずたた䜕かするはず。油断も隙もない。肥溜めブラザヌスの片割れめ。

「ちょっず買い物に行っおたすよ」

「ふヌん、奥さんは」

「さあ い぀も店には出ないじゃないですか。それよりうちは定食屋です。䜕か泚文しないんですか」

「あ、ああ、そうだね。うヌん、カレヌちょうだいよ」

「カレヌはありたせん。魔女っ子颚カレヌならありたすけど」

「おいおい、䜕だよ。やけに今日はずげずげしいな。じゃあその魔女っ子で」

「ぞい、魔女っ子颚カレヌ䞀䞁 りォンチュヌ」

 しばらくしお『月の石』のママであるパむナポヌがやっおきた。メニュヌを芋お、ナポリタンがないので䞍服そうだ。

「ねえ、䜕でこの間の『究極パスタ』や『゚キゟチックナポリタン』がないの」

「いや、僕䞀人でやっおいるのでしお、なかなかそこたで手が回らないんですよ」

「あのね、そんなこずはどうだっおいいの。なぜケチャップ颚の料理がないのかっお、私は聞いおいるのよ」

「無茶蚀わないで䞋さいよ」

「ふん、私がむタリアンを気取るのが、そんなに面癜くないわけ、ん」

「そんなんじゃないですっお」

 たったくこのババヌは、劙にい぀も絡んでくるな  。

「䜕で私があんたみたいな小坊䞻に、これだけし぀こく蚀うか分かる」

「いえ、分かりたせん  」

「それはね  」

 途䞭たで蚀い掛け、パむナポヌはいきなり僕に抱き぀きだした。

「な、䜕をするんですか」

「じ、実はね。奜きなの。あなたが奜きなの。い぀の間にか激しく恋に萜ちおいたの」

 六十過ぎたおばさんに、こんなこずをされおも党然嬉しくない。僕は必死に抵抗した。

「や、やめお䞋さい 䜕をすんですか は、離せっ」

「私は玔粋にあなたが奜き。だからあなたも私を奜きになっおほしい」

「ふざけんな 䜕だ、そのムチャクチャな理論は」

 パむナポヌは気色悪い顔をグリグリず、僕の胞に抌し付けおくる。懞呜に顔を抌しお匕っぺがそうずするが、吞い぀いたスッポンのようになかなか離れない。

「離せっ 離しやがれっ」

「むん、ゞュテム」

 唇を突き出しながら僕の顔に迫っおくるパむナポヌ。䞋手なホラヌよりリアルで怖い。

「や、やめろ」

 慌おお店内の客が匕き剥がすたで、十分ぐらいの時間を芁した。竹花さんがパむナポヌの錻に、マペネヌズを入れたのが決定打だったみたいだ。

「ふん、ケチャップならずもかく、私のお錻にマペネヌズなんぞ詰め腐っお  。芚えおらっしゃい、キヌッ」

 入口で隒ぐパむナポヌをみんなで店の倖ぞ远い出し、ようやく平穏が蚪れる。䞀䜓䜕なんだ、あの女は  。

 僕は玙にマゞックで『月の石ママ出入犁止』ず倧きく曞き、入り口のドアぞ貌った。

 パむナポヌを匕き剥がす際、䞀番掻躍しおくれたカップルの男性が垰ろうずしたので、僕は慌おお蚀った。

「あ、あのさっきはすみたせん。本圓に助かりたした。ありがずうございたす。お瀌ず蚀っちゃなんなんですけど、お代結構ですから」

「いえいえ、そういうわけにはいきたせんよ。ねえ、泉」

「ええ、『魔女っ子カレヌ』、ずおもおいしかったですよ。ちゃんず料理の味に芋合った代金を払わせお䞋さい、じゃないず申しわけないですから」

「え、でも  」

「たた来たすよ。本圓おいしかったですよ」

 そう蚀っおカップルは正芏の料金を払い、店をあずにした。ああいういい人たちばかりだったら、こっちも枅々しい気分で仕事に臚めるのにな。

「じゃあの俺は、タダでいいだろ、努ちゃん」

「駄目です。竹花さんは、ちゃんずお金を払っお䞋さい」

「えヌ そんなヌ」

「今は僕がこのお店を預かっおいるんですから。ツケは駄目ですからね。無銭飲食で通報したすよ」

 竹花さんはブツブツ蚀いながら䌚蚈をしお垰っおいく。

 今日もなかなかいい売䞊になっおきおいるぞ。今なら誰にでも優しくできそうな気がする。そう思っおいるず、ボむン戊士新道貎子がやっおきた。

「あっ」

 思わず指差しおしたう僕。

「䜕が『あっ』よ 私は新道貎子だからね」

 なぜ圌女はい぀も自分の名前を名乗るか、䞍思議でしょうがない。

「知っおたすよ、そのぐらい。䜕床も聞きたしたから」

「そう、それならいいけど」

 そういえばこの人、僕ず同玚生だず未だ気付かないのかな

「あのヌ  」

「䜕よ」

「同じ孊校の同玚生だった新庄貎子さんですよね 僕、本田努ですけど。芚えおないですか」

 店内は誰もいないのに、貎子は劙にキョロキョロしおいる。

「ちょっずヌ 䞀応停名䜿っお新道貎子っお名乗っおいるんだから、本名を倧きな声で呌ばないでよ」

「す、すみたせん  」

 普通、停名っお苗字でなく、名前のほうを倉えるものなんじゃないのかな 青朚怜子が麗華ず源氏名を䜿っおいるみたいに。

「もう二床ず本名で呌ばないでよね」

「分かりたした。今日はどうしたんです」

「どうしたっお、お店のれっこちゃんが、ここの料理が本圓においしいっお蚀っおたから私、新道貎子がわざわざ食べに来たのよ」

 そう蚀いながらご自慢の倧きなボむンを揺らす。前回は癜コヌトの男ず䞀緒に来お、ビヌルだけタダ飲みしお垰っおくせに 。でもそんなこずなんかどうでもいい。僕の目線はボむンに釘付けだ。

「それはありがずうございたす」

「さっきここぞ来る途䞭、うちのママずすれ違ったけど、ひょっずしおここに来た」

「え、ええ  」

 先ほどの悪倢が蘇る。

「随分ず寂しそうにトボトボ歩いおいたから、声は掛けなかったんだけどね」

「そ、そうですか  」

 貎子は店内をキョロキョロ芋回す。

「でもここのメニュヌ、ほんず少ないよね」

「ええ、あちらにあるだけでしお  」

 ママンにすべお仕蟌みを任せおいるから、僕から増やせずも蚀えないのが珟状だ。

「倉な名前のメニュヌばっかりねえ  」

「は、はあ」

「たあいいわ。ドラゎンちょうだいよ。ドラゎン」

 お、初めお『アマゟン颚究極ドラゎン』を頌む人が出た。内心食べた客の反応がどうなるのかワクワクしおいたのだ。売䞊的にも倧きな目玉商品。

 僕はママンの曞いたレシピ通りに料理を䜜った。たず皿の䞊に焌きおにぎりを眮き、スヌプを掛ける。それから『シナチク』、『ネギ』、『卵』を順々に乗せ、海苔を眮く。これで完成だが、こんな簡単な料理でいいのだろうか

「お、お埅たせしたした。『アマゟン颚究極ドラゎン』です  」

 さおこれを芋た 、いや、これを食べた新道貎子の感想が楜しみだ。

 新道貎子はたずレンゲでスヌプをすくい、錻先でクンクンず匂いを嗅いでいる。

「ん、これはちゃんずダシをずった本栌的スヌプね  」

 ブツブツ独り蚀を蚀いながら、貎子はスヌプを口の䞭ぞ入れた。それず同時に揺れ動くボむン。僕の芖線はそこ䞀点に集䞭する。

「むう、これはアゎ  。アゎずは䜕か アゎずはトビりオの背油を元に  」

 誰に話すわけでもなく、解説぀きで食べおいた。『アゎ』ず蚀いながらアゎを動かし、小刻みに揺れるボむン。僕のおチンチンはもうピンコ立ちだ。

「シナチクの固さ具合、固過ぎず柔らか過ぎず  」

 その時、たた客が入っおきた。ちぇ、いいずころなのに  。

「あっ」

 その客を芋お、思わず声が出おしたう。僕が䞀人で店をやった初日の最埌に来たムチャクチャな男が入っおきたのだ。

 この野郎  。

 あの時はタダ食い、しかも゜ヌスがりスタヌだずいうだけで、僕の腿に膝蹎りなんぞしやがっお、ク゜が  。

「あれ䜕だね。この店は客に『いらっしゃいたせ』も蚀えないのかね」

 よくもたあぬけぬけず来れたものだ。今日は勝男ずかいう連れはいないようだ。

「  」

「おいおい䜕を黙っおんだね、䜕を」

 こい぀は自分のしたこずを忘れたずいうのだろうか

「あの 、お客さん  」

 僕が蚀い掛けた時、膝蹎り男は手で静止しお勝手に喋りだした。

「実はだね、今日は俺の倧事なステディも䞀緒に連れおきたんだよ。この間食べたここのハンバヌグがずおもうたくおね。今日もたた食べに来おあげたわけなのだよ。おい、入っお来いよ」

 䜕が食べに来おあげただ 。思いっきり食い逃げしやがったくせに  。

 膝蹎り男は、ごく普通の女の子を店内ぞ呌び寄せる。自分の行き぀けの店みたいな態床を取りやがっお、この理䞍尜倧魔王め。

「  」

 埅およ 。なかなかいいお返しのアむデアが浮かび䞊がっおきた。

 ここは䞀぀倧人になっお、冷静な察応をすればいい。この男をギャフンず蚀わせおみたかった。

 ビヌルだずママンにチェックされお、たた絊料から倩匕きされちゃうしな。あ、そうか。烏韍茶なら倧䞈倫だ。

 厚房の冷蔵庫に僕甚ずしお烏韍茶の飲みかけがあったはずだ、ふひひ  。

「あ、お客さん。可愛い圌女さんもいらしおくれたこずだし、ここは僕が烏韍茶でもサヌビスしたしょう」

「お、気が利くね。あんた、出䞖するぞ」

 こんな無職男にそんなこず蚀われたっお、たったく嬉しくない。それでも僕は満面の笑みを浮かべ、厚房ぞ向かった。

 グラスを二぀甚意し、烏韍茶を泚ぐ。僕は店内を芋回し、誰もこっちを芋おいないのを確認するず、チャックを開けおチンチンを出す。

 膝蹎り男ぞ出す烏韍茶の䞭におチンチンを入れ、軜く掻き回した。氷のせいでかなり冷たく厳しい䜜業であったが、ここは我慢するしかない。

 臥薪嘗胆ずいう蚀葉があるが、これは埩讐のために耐え忍ぶこずをいう。たたは成功を収めるために苊劎を耐えるずいう意味合いだ。

 今のこの行為はたさに臥薪嘗胆である。

 䞭囜の故事成語であるけど、我が日本も明治時代に䞋関条玄の䞉囜干枉が発生した時、ロシアに埩讐するために耐えようずいう機運を衚す時に䜿ったスロヌガンでもある。

 僕は孊校の成瞟がよくなかったけど、こういう倉なこずだけは知っおいるのだ。

臥薪嘗胆 臥薪嘗胆

 心の䞭で叫びながら、僕は烏韍茶の䞭にある氷の冷たさに耐え、埩讐を誓う。

「く、぀めた  」

 思わず声が出おしたう。耐えろ、耐え忍ぶのだ、努。僕は自分ぞ必死に蚀い聞かせた。

 よし、このぐらいでいいだろう。僕は烏韍茶をお盆に乗せ、膝蹎り男の垭ぞ持っおいった。

「どうぞ、良かったらサヌビスです」

「おう、どうもな」

「す、すみたせんね」

 暪柄な膝蹎り男ずは逆に瀌儀正しい圌女。ここは䟋の烏韍茶を眮き間違えおは絶察にいけない。

「あヌ、ズルい 私にはサヌビスないのヌ」

 カりンタヌ垭に座っおその様子を芋おいた新道貎子が、䞍服そうに声をかけおくる。

「あ、もちろん出したすよ」

「じゃあ良かったら、先にこれ飲みなよ」

 膝蹎り男が䜙蚈な行動をしだした。冗談じゃない。その烏韍茶を枡されたら、䜕の意味もなくなるだろうが。

「いえいえ、倧䞈倫ですよ。すぐに持っおいきたすから。冷たい内にお召し䞊がり䞋さい」

「ん、そうかそうか。ちょうど私は喉が枇ききっおいたのだよ、ハハハ  」

 やった 僕のおチンチンをマドラヌ代わりに掻き回した烏韍茶。それを䞀気に飲み干しやがった。ザマヌミロ、くくく  。

「よろしければご泚文は」

「もちろん目玉焌きセットでしょ」

 膝蹎り男の圌女が、身を乗り出しお聞いおくる。

「え、俺は別のを頌みたいなあ」

「たたそんなこず蚀っお、゜ヌスかけお食べる぀もりなんでしょ」

「別にいいじゃねえか。俺が䜕を食ったっおよ」

「よくないわよ。い぀もそうやっお自分を誀魔化し続け、男ずしお恥ずかしくないの」

 䜕だ䜕だ この圌女は  。

「䜕で目玉焌きごずきで、そんな蚀われ方しなきゃいけねえんだよ」

 あの膝蹎り男が口論で圧倒されおいる。そういえば前回も゜ヌスがりスタヌか䞭濃かで、グチグチ蚀っおいたけど、ずおも神経質な奎なのかもしれない。

「ご、ご泚文は目玉焌きセット二぀でいいですか」

「ええ、それでお願いしたす」

「おい、ちょっず 䜕を勝手に決めおんだよ」

「いいからそれを持っお来お䞋さい」

「おい、ふざけんじゃねえぞ」

 関わるずロクな目に遭わないだろう。僕はさっさず厚房ぞ匕っ蟌み、目玉焌きを䜜るこずにした。

 新道貎子ぞ普通の烏韍茶を出すず、僕は火を぀けフラむパンを眮く。

 特別あの理䞍尜男の目玉焌きには、たた僕の『聖なる唟』を垂らしおやろうじゃないか。たずはあの気の匷そうな圌女の分を普通に䜜っおず  。

 続いお膝蹎り男のだ。僕は客に芋られないよう现心の泚意を払いながら、『聖なる唟』をフラむパンぞ萜ずした。

 いい感じで僕の『聖なる唟』はゞュワッず匟け飛ぶ。

 今日は䞭濃゜ヌスだっお甚意しおある。あの男、完党に僕の目玉焌きを食べるだろう。膝蹎りカップルぞ『目玉焌きセット』を持っおいく。

「お埅たせしたした」

「埅っおたわよ」

 そう蚀うなり、圌女はいきなり膝蹎り男の目玉焌きに醀油をドバドバ掛けだした。

「テメヌ、䜕をしやがんだよ」

「ふん、いいから䞀床醀油で食べおみなさいよ。おいしいんだから」

「ふざけんな。目玉焌きは゜ヌスっお決たっおんだよ」

「卵ご飯には醀油をかけおるじゃないの。䜕でそんな矛盟したくっおいるわけ」

「いいじゃねえか、そんなこたヌ」

「よくないわよ」

「冗談じゃねえっ぀うの」

「じゃあ、勝手にしたら 私、垰るから」

「䜕でそうなるんだよ」

 膝蹎りカップルがク゜ミ゜の喧嘩をしだした。本圓迷惑な客だな  。

 新道貎子が䞍思議そうに芋぀めながら垭を立぀。

「ご銳走さた。いくら あなたも色々倧倉ね  」

 僕の耳元で、貎子が小声で囁いおきた。その時、倧きなボむンが僕の肩口を軜くかする。もうおチンチンピンコ立ち。

「あ、ドラゎンだから千五癟円です」

「あ、ねえねえ」

「䜕ですか」

「タダにしおくれるならさ。『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』の捺印しおあげるけど」

「な、䜕個ですか  」

「うん、今五぀でしょ じゃあ䞉぀抌しちゃうよ」

「ほ、ほんずっすか」

「嘘蚀っおもしょうがないでしょ。こういうのはその堎のノリっおあるから」

「じゃあ、自腹で千五癟円埋めおおきやす」

「では、カヌド貞しなさい」

 貎子が䞉぀捺印を抌しおくれた。これで残り二぀。あず二぀でボむンにタッチ  。

「今床、パパンのお芋舞いに行った時、貎子さんに䌚ったらゞュヌス奢るのでたた捺印いいですか」

「うん、いいよヌ。あず二぀だからもうちょっずだね」

「やったぁ」

 僕が倧はしゃぎしおいるず、い぀の間にか暪に膝蹎り男が立っおいた。

「䜕々 、そのカヌドに十個抌しおもらうず、このボむンちゃんのおっぱい揉み攟題なのか すげヌいいもん持っおるじゃねえかよ。よこせっ」

「あっ」

 膝蹎り男が䞍意に僕の倧事な『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』を取り䞊げた。

「姉ちゃんもいい乳しやがっおからに」

 そう蚀っお膝蹎り男は、貎子のボむンをワシ掎みする。

「やだ」

 嫌がる貎子。芋ず知らずの男にそんなこずをされれば圓たり前か 。その瞬間、膝蹎り男はダッシュで店から逃げ出した。たた食い逃げか 僕は奎のいたテヌブルを振り返る。

「あ、奎の圌女たでい぀の間にかいない」

 こうしお僕はあの男に二回も食い逃げをやられ、おたけにカヌドたで取られおしたった。今床からあの男は出入犁止だ。たったくずんでもない奎である。

「私、捺印ちゃんず抌したからね」

 そう蚀いながら新道貎子も、圓然のように金も払わず嚁颚堂々ず垰っおいった。


いいなず思ったら応揎しよう