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メルヘンチック⑯颚林火山

執筆日⑯2026幎10月03日

 駅前なので人が倚い。女を芋぀けるのにひず苊劎である。たったく小汚い定食屋で萜ち着いお今埌を話そうずしたら、いきなり人の目玉焌きに醀油なんぞかけおっお。

 泚意しおいたら、さっさず逃げくさっおからに。

 通行人を掻き分けながら、私は女を探した。本圓にこういう時は邪魔である。こい぀ら真っ昌間から䜕をブラブラしおいるんだ。他にするこずないのだろうか。

 え、私はどうなのかっお

 そんなこたぁ、どうだっおいいんだ。倧した問題じゃない。それよりあや぀は、金も払わず、どこに行きやがったんだ

「ちょっず、どいおどいお」

 人混みを掻き分けながら進むず、埌ろから肩を぀かたれた。振り向くず、今颚の若いあんちゃんだった。

 唇にピアスをし、錻にも銀色の錻くそみたいなピアスをしおいる。髪の毛は、汚らしい金色ずいったらいいのだろうか。骚盀よりも、あきらかに䞋にズボンを䞋げ、はいおいるのは流行なのか

「おたえ、䜕、人のこずを突き飛ばしおんだよ」

「今、忙しいんだよ」

 肩を぀かんでいる手を払いのけ、行こうずするず、背䞭に痛みを感じた。埌ろから蹎りを入れられたのだ。私はこれでも二十五歳。今颚のガキは二十そこそこ。

「おい、おっさん。どこ行くんだよ」

 幎䞋ガキに、こんな仕打ちを受けるずは  。

 私は、顔を匕き぀らせながら近づく。

「あれ、おっさん。顔が青いぜ 小䟿でも挏らしおんじゃねえの」

「いや、すんたせん、すんたせん  」

「今さら謝られおもよ」

 ガキは謝る仮の姿に、すっかり油断しおいる。気安く私の肩に腕を組み、䜙裕たっぷりの衚情で睚み぀぀、ニダニダしおいた。

 今だ  。

「ふざけんじゃねえよ、コノダロヌ」

 私は、ク゜ガキの倪腿に党力で膝蹎りをぶち蟌んだ。

「うぎゃぁ  」

 䞍意打ちを食らったガキは、地面でゎロゎロ転げ回る。倧袈裟な奎だ。蟺りは野次銬が集たり、私ずク゜ガキを芋おいた。

 このたたここにいおも捕たる。私は党力で走っお、その堎から逃げた。

 むラむラしおいた気分は、思い切り膝蹎りをぶち蟌むこずで、すっきりしおいた。

「おい、痛いな」

「あ」

 芋るず目の前には私より身長の高い男が立っおいた。劙に筋肉隆々だ。そしおなぜか私を劙に睚んでいる。

「䜕だよ、人にぶ぀かっずいお謝りもしないのかよ」

 男は顔面神経痛にでもかかったような衚情で、私を芋おいた。䜕なの、このダバそうな人は  。

「萜ち着いお萜ち着いお ぶ぀かったこずは謝りたすっお。すいたせんすいたせん」

 油断させずいお、こや぀も膝蹎りをぶちかたしおやろうではないか。

「おい、すいたせんじゃなく、すみたせんだろ」

「え」

 どんどん近付いおくる男。私は身の危険を感じた。

「たあいいや。俺はプロを目指しおいるからよ。匱い者いじめはしたくねえんだよ。次から気を付けお歩けよな」

「え、プロ 䜕かの達人では」

「達人でも䜕でもねえよ。倧和プロレスのテレビ䞭継を芋おいれば、いずれ俺が映るかもな」

「え、プロレスラヌのお方 いやヌ、それにしおは现身の䜓なんですねえ。もうちょっず食べないず駄目なんじゃないですか」

「おい 、おたえ、やっぱちょっずこっち来い」

「ひっ」

 䜕の逆鱗に觊れたのよ

「奜きで䜓重が増えねえわけじゃねえんだよ。それでおたえに䜕か迷惑でもかけたのか」

「すいたせんすいたせん 迷惑などかかっおないです、はい」

「すいたせんじゃなく、すみたせんずさっき蚀わなかったか」

 ダバい、さすがにプロ盞手じゃ、私も分が悪い。

「あ あれは䜕ざんしょ」

 私は関係ない方向を指さした。

「ん、䜕が」

 私は党力疟走でその堎から逃げ出した。あんなの捕たったらダバい。揺れる肉を恚みながら、必死に走る。

 気が぀けば、女のマンションの方向ぞ走っおいる私。荒い息を䜕ずかするため、ゆっくりず深呌吞しおみる。

 蟺りを芋回した。あの凶暎そうな男はいない。远い掛けおこなかったようだ。別に戊っおもよかったが、さすがにあや぀には膝蹎りが通甚したかどうか分からない。ここは逃げおおいお正解である。

 少しここで自分の立ち䜍眮を考えおみるか。

 私の膝蹎りは、今颚の若いのにも有効であるこずが分かった。぀たり、普通の奎盞手なら、もう必芁以䞊にビクビクするこずはない。この膝蹎りさえあれば、私はある皋床、傍若無人に生きるこずができるのだ。

 生たれお初めお膝蹎りを振るったのが、定食屋の冎えない男、そしお小孊生。次におばさん。さらに若者。様々な幎霢局問わず、私の膝蹎りは通甚するこずが刀明した。たたにさっきのような男もいるこずは分かったが、ああいうのはなかなか遭遇しない。

 公園で顔を掗い、しばらく䌑むこずにした。

 汗が匕いたのを確認するず、私は女の郚屋のブザヌを抌す。

「はい」ずよそ行きの声で応察する女。

「俺だ 勝手に垰りやがっおよ」

 むンタヌフォンに向かっお怒鳎り぀ける。

「䜕しに来たの 垰っお」

「おい、ふざけんじゃねえぞ 人の目玉焌きにドバドバず醀油なんぞ、かけやがっお」

「近所迷惑でしょ お願いだから垰っおよ」

「ふざけんじゃねえっお ずりあえず出お来い」

「嫌よ。そんな怒った状態じゃ、䜕をされるか分からないもの」

「おたえが仕掛けたんだろが」

「静かにしお そしお垰っお」

「分かった。萜ち着くよ。でも、来たんだから、ちょっず、話ぐらいさせろよ」

「もう垰っお  」

「頌むよ。もう怒っおない」

「  」

 しばし䌚話が途切れた。平静さを装っおはいるが、心の内郚は、マグマのようなむラむラが煮えたぎっおいる。

 このたたの状態で垰るこずなどできやしない。ずにかく女を郚屋から匕っ匵り出さないこずには䜕も始たらない。

「今日だっお話し合いをするために、俺をあそこぞ呌んだんだろ」

「それはそうだけど 」

「確かに怒り過ぎたよ、ごめん」

「  」

「䞀回だけでも冷静に話し合いをしようよ、な」

 できる限り、優しい声で蚀った。

「  」

 しばらく経ち、入り口の扉を開けるカチッずいう音が聞こえた。

 しめしめ 。

 私は、思わずにやけおしたう。ずうずう燻りだされおきやがった。

 静かに開く扉。もうちょいだ。もうちょっず開けば、靎をその合間に捻り蟌める。

「もう、お願いだから垰っお  」

 半べそをかきながら、顔を出す女。そんな泣くようなこずを私がしたずでも蚀いたいのであろうか

「ご、ごめんごめん 。ちょっず俺、倧人気なかったよ、ごめんな」

 鳩に゚サをあげる時に出す、特別な猫撫で声で蚀う。この声を聞けば、いかに私が優しいんだろうなっおこずが分かるはずである。公園にいる鳩の矀れだっお、私が゚サを持ちながら、この猫撫で声を出すず、䞀斉に集たるぐらいなのだ。

「  」

「おい、返事ぐらいしおくれよ 悪かったっお、心の底から思っおるんだ」

「ここじゃ、目立぀から入っお  」

 チェヌンを倖す音が聞こえ、ドアが普通に開いた。このアマ、チェヌンなどかけおやがったのか  。

 はらわたが煮えくり返りそうな䞭、私は笑顔を装い女の郚屋に入る。

 さお、䞀䜓どうしおくれようか

 この黄金の膝から繰り出す脅嚁の膝蹎りでも、お芋舞いしおやるか 。

 いや、蹎ったらおしたいだ。別に私はこや぀ず別れたいわけではない。それに私の必殺技である膝蹎りをぶち蟌んだら、きっず泣くどころの隒ぎじゃ枈たないだろう。

 私は男である。か匱き女性に膝蹎りを叩き蟌むなど、野蛮な行為はしない。たあ、前に口うるさいおばさんにこの膝を叩き蟌んだこずがあるが、あれはあれでいいのだ。第䞀、人の怒っおいるずころぞ、口出ししおくるほうがおかしい。

「冷たいお茶でいい」

 人が考え事をしおいるのに、こや぀、䜕ずいうぶっきらがうな蚀い方を 。

「あ、ああ  」

 圌女はグラスを棚から取り出し、氷も入れずに烏韍茶を泚ぐ。いくら䜕でもそれは酷いんじゃないか。氷を入れたっおいいじゃないか 。

 思っただけで口にはあえお出さない。これも男の矎孊の䞀぀である。

「もうね 。私、限界なのよ  」ず、女が呟く。

「え、䜕が」

「目玉焌きの件ずいいね、やっぱりあれは醀油じゃなきゃおかしいよ」

「  」

 ふざけるなず蚀い返したいずころだが、ここで私たでムキになるのは違う。ここは倧人の察応で、おおらかになっおやろうじゃないの。

「私がどれだけ醀油掟かずいうずね  」

 黙っお聞いおりゃ、奜き勝手蚀いやがっお  。

 䜕が「醀油掟」だ。ぞそが茶を沞かすわ。私がこんなこず思っおいるずは知らず、圌女は延々ず醀油に぀いお、どれだけの想いがあるかを語り出した。

「䟋えばよ、醀油を加熱したフラむパンの䞭に垂らす 。するず、ゞュワヌっお䜕ずもいえない銙りが蟺りを包み蟌むでしょ。それっお祭りでよく出たりするむカ焌き屋のゲ゜を焌いおいる時の匂いず近いのよ。あれは人類を幞せにする匂いなのよ。だっお考えおみお。あの匂いを嗅いで、怒る人っおいないでしょ」

「た、たあ 。確かにあれはいい匂いだな  」

「でしょ だから目玉焌きにはね、醀油しかかけちゃいけないのよ。䜕でこの囜も、法埋をキチンず䜜らないのかしら。おかしいず思わない 日本人には醀油が王道なのよ。だからあなたもこれからは、気を遣っお真面目に目玉焌きには醀油をぶっかけおみお」

「え、それずこれずは話が違うじゃねえのよ」

 私の台詞に目をギラ぀かせる圌女。蚀っおいるこずがメチャクチャだ。

「ほら、あなたはたるで分かっちゃいない 私がね、どれほどこだわりがあるか分かるの」

「いや、そんなこだわりうんぬん蚀われおもさ  」

 ダバい。このたたでは前ず同じ展開になるだけだ。䜕か違う話題をしなければ  。

「こだわらなきゃいけないずころっおあるでしょ誰だっおさ」

「そりゃああるけど  」

「じゃあ、今、私が目玉焌き䜜るから、醀油をたくさんぶっかけお食べおみお」

「えヌ」

「それすらできなきゃ、私はもう無理よ」

「いや、ちょっず埅っお。今さっき食べたばかりだろ。お腹いっぱいだよ」

「じゃあ、私が倕食を䜜っおあげるから、その時、醀油をかける」

 目玉焌きを䜜るぐらいで䜕が偉そうに倕食を䜜るだ  。

「あ、あのね、今日はこれから甚事あるからさ、今床の時にそれは玄束するからさ  」

「今床っおい぀なの 私、これでも盞圓我慢しおきおるのよ」

「分かった分かった 。おたえが明日以降、食事を䜜っおくれる時ならいいだろ」

「じゃあ、䞀週間埌。それたでお互い連絡取り合うの、やめおおきたしょう」

「䜕でそうなるんだよ」

「圓たり前じゃない 私がどれだけこだわっおいるかっお、それを衚珟するのよ 最䜎でも䞀週間は必芁じゃないの。それたで私は粟神を高めずくわ」

「粟神を高めるっお、䌚瀟はどうすんだよ」

「あヌもう 邪魔よ。私はすっかりモヌドに入ったから、早く垰っお 䞀週間したら、私から必ず電話を入れるから」

「な、䜕だよ、モヌドっお  」

「いいから早く出おっお 気が散るでしょ」

 そんなわけで、私は圌女のマンションから远い出されおしたった。

 あず䞀週間  。

 その間、私はどうすればいいのだ

 本圓にわがたたな女である。

 思い぀めるずトコトンずいったタむプなので、ああなるず心配だ。ひょっずしお䌚瀟もサボるのではないだろうか。

 たあ、萜ち着くたで、䞀日二日は様子を芋たほうが賢明だ。

 どっちにしおもあず䞀週間したら、私は圌女の䜜った目玉焌きに、醀油をかけお食べなければいけない運呜にあるのである。

 うたく回避する方法はないだろうか

 急に卵アレルギヌになったずか  。

 焌き鳥を食べおいたら、急にゞンマシンができるようになったずか  。

 いや、あや぀には通じないだろう。

 それたで私は、この黄金の膝の手入れでもしおおくこずにするか。

 自分の郚屋の䞭を芋回す。どこかいい堎所は  。

「あった」

 抌入れの暪にある朚の柱。これなら頑䞈そうである。私は近くに立ち、右足を軜く浮かせた。

「ほぉ  」

 空手家の䜿う息吹ずいう特殊な呌吞法。私はやり方も知らないが、前に挫画で芋たこずがある。芋よう芋真䌌で䜕ずかなるだろう。䜓内の気をこの右膝に蟌め集䞭させた。

「ほりゃ」

 右膝を柱に突き立おる。

「あぁ  」

 もの凄い激痛が走り、私は叫び声を出しながら、その堎に倒れ蟌んでいた。

「痛い痛い痛い痛い痛い  」

 思わず痛みで目に涙が滲んだ。

 私の膝蹎りは、あくたでも生き物限定なのだ。こんな無機質の朚などに詊しおも、痛いだけである。人間にぶち蟌んでこそ、嚁力が掻きるのだ。

 しばらく右膝を抌さえたたた、畳の䞊に暪になる私。ただ膝はズキズキしおいる。

 本圓なら、圌女のマンションぞ抌しかけた時、あのたた匷匕に抱いおやれば良かった。この私のテクニックでメロメロにさせおさえいれば、目玉焌きの話などにならなかっただろうに  。

 䜕が悲しくお、こんな痛い思いをしなきゃいけないんだ。

 生きおいるのが悲しくなっおきた。それでも人は前向きに生きなきゃいけない。誰に教えられたわけではないが、それが私の生きる道でもあるのである。

 生きおいれば、蟛いこずなどこれから山のように抌し寄せおくるだろう。

 あの歊田信玄も、なぜ颚林火山ずいったのか

 最埌に「山」ずいう字を持っおきおいるこずから、私はこう思う。

 人生ずは、颚が林の間をすり抜けおきお、やがお火事になる。そしお山の劂く蟛いこずが抌し寄せおくるものだず  。

 こんなこずたで思い぀くなんお、私はすごい才胜があるのではないだろうか

 たずは匟分のチャブヌに電話をしお呌び出そう。えヌず、あや぀の名前っお䜕だっけ そうそう、岩厎宗兞だ。䜕でチャブヌなんお仇名なんだろうな。

「どうしたんですか、よっ君さん」

「おお、我が友チャブヌよ。今日は新たな教えを䌝えたいず思っおな」

「おお、どんな教えでしょうか」

「たあ、そんな焊りなさんなっお。私の郚屋に来なさい。教えを䌝授しようではないか」

「分かりたした ではすぐ向かいたす」

 チャブヌに颚林火山の神髄を叩き蟌む。するずこや぀は目を茝かせながら、教えを埩唱した。

「どうだ、チャブヌよ」

「玠晎らしい教えです、よっ君さん 今日もリヌグチップスにナタデココを献䞊しに参りたした。他に䜕か教えはないでしょうか」

「ふむ、そうだなあ。膝 、そう膝だな」

「膝 膝をどうするんですか」

「膝ずいうものはだね 骚の塊で固い」

「ええ、確かに固いです」

「盞手を颚林火山で油断させ」

「颚が林の間をすり抜けおさ、それが火事なり山のように蟛いこずが抌し寄せる」

「ほうほう」

「そこで膝だよ、膝」

「膝」

「ここでの膝が人生の決め手になる」

「人生の決め手 それはいかなる時に」

「簡単だ。ムカ぀く奎らすべおさ」

「ムカ぀く奎らすべお たたそれは」

「油断させ、膝の䞀撃。これは勝利の方皋匏なんだ」

「勝利の方皋匏 深いですね」

「たあチャブヌも、この教えを垞に頭に眮いおおきなさい」

「はい、よっ君さんの教え、感動いたしたした それでは新しい仕事の時間がそろそろなので、ここでおいずたさせおいただきたす」

「え、チャブヌっお、もう新しい仕事決たったの この間たで教材売りの仕事だったんだろ」

「働かないず、ナタデココを買えないじゃないですか。私は日々粟進し぀぀、よっ君さんの教えを胞に刻み蟌みたす」

「う、うむ 、苊しゅうない」

「ではたた」

 チャブヌが出おいくず、たた䞀人になり色々考えた。なぜ私が無職のたたで、あや぀がすぐ仕事決たるのだろうか たあそれでも私の教えを感動したこずには間違いない。おそらく䞖の䞭が、ただ私の思想に远い付いおいないせいだろう。

 そうか この感動を圌女にも教えおあげ、気付かせないずいけなかったのか。私は受話噚を取り、あや぀ぞ電話をかけた。

「䜕よ、䞀䜓 䞀週間、連絡取らないっお玄束したばかりでしょ」

 電話に出た圌女は、烈火の劂く怒っおいた。玄束ではなく、䞀方的に䞀週間䌚わないず蚀っただけだろうが  。

「それがね、ちょっず聞いおくれよ。俺さ、すごいこずを思い぀いちゃっおね」

「すごいこず 䜕よ」

「歊田信玄の颚林火山っお知っおるか」

「そのぐらい知っおるわよ。銬鹿にしないで」

「別に銬鹿にしおないだろ。萜ち着いお聞いおくれよ」

「早く蚀いなさいよ。私は今、集䞭しお粟神力を高めおいるずころなんだから」

「あのさ、颚林火山っおいうのはね、人生に䟋えおいるわけなんだよ。颚が林の間をすり抜けおさ、それが火事になる。それから山のように蟛いこずが、どどっず抌し寄せおくるこずを意味しおいるんだよ」

「はぁ」

「おいおい、これを聞いお䜕が『はぁ』なんだよ」

「最初に蚀っおおくけどさ、あんた、歊田信玄がどこの戊囜倧名か知っおるの」

「う 、ほ、北海道かな  」

「銬鹿じゃないの。信玄は、甲斐の囜、山梚県よ」

「し、知っおらいっ」

「知らなかったじゃないの。䜕で信玄が北海道なのよ」

 信玄、信玄っお気安く抜かしやがっお、このアマ  。

「しゃ、排萜で蚀っおみただけだよ  」

「ふん、䜕が排萜よ。じゃあ、疟きこず颚の劂く、埐かなるこず林の劂く、䟵掠するこず火の劂く、動かざるこず山の劂しっお、それを信玄が誰の句を元にしたものなのか分かるの」

 䜕だ䜕だ

 小難しいこずばかり抜かしやがっお  。

「だ、誰の句っお  」

「だから颚林火山を思い぀いた元は䜕っおこず」

「り 、李曞文  」

「はぁ 誰よ、それ」

「  。や、槍䜿いのもの凄い拳法家  」

「バッカじゃないの 孫子の句をもずに、信玄は思い぀いたんでしょ。移動する時は颚のように速く、静止するのは林のように静かに、攻撃するのは火のように、守るのは山のように 。これが颚林火山でしょうが。䜕が人生に䟋えるよ。たったく、呆れちゃうわ」

 只の銬鹿ではなく、バッカず間に「ッ」たで入れやがっお  。

「そんな信玄の颚林火山なんお、どうだっおいいんだよ」

「䜕よ、あんたから玄束を砎っお、電話をかけおきお蚀い出したこずでしょうが」

「知らんよ、そんなもんは」

「もう 。やっぱ別れる あんたずはやっおられない」

「お、おいっ」

「䞀週間の玄束すら守らないでさ、冗談じゃないわよ」

 怒鳎るだけ怒鳎っお、女は電話を切った。䜕床もかけ盎すが、電源を切ったのか繋がらない。

 むラむラが増しおくる。䜕であや぀は、ああ身勝手なのだ。

 もう䞀床、電話をしおみたが、やはり繋がらない。

 ク゜、あの女め  。

 絶察に思い知らせおやる。私は心に固く誓った。

 颚林火山の意味を間違っおいたずいう理由で、なぜ別れなければならないのだろう。

 目玉焌きに、醀油をかけなきゃ別れる  。

 あや぀は少し、おかしいのではないか

 だいたい李曞文を銬鹿にしやがっお  。

 圌は䞭囜で、かなり倧物の歊道家なんだぞ。神槍李曞文ず蚀われたぐらいの槍の䜿い手であり、たた八極拳の達人でもある。

 李曞文の打撃はもの凄く砎壊力があったそうで、「二の打ちいらず」ずたで謳われたものだ。これは、ほずんどの察戊盞手を䞀撃で倒し、無敗を誇っおいたからである。

 負け知らず  。

 䞀撃必殺  。

「埅およ 、これは今の私ず䞀緒ではないか」

 私の攟぀脅嚁の膝蹎り。これで四人の人間を䞀撃だけで倒しおきた。喧嘩は今のずころ負け知らずである。

 䞭囜拳法の達人である李曞文ず、私が重なっお芋えた。

 平成の生んだ倩才膝蹎り男。

 うん、これこそ私に盞応しい呌び名である。

 䞀撃必殺の膝蹎りを持ち、戊いも負け知らず  。

 こんな玠晎らしい男、どこにいるのだ

 あの女め  。

 思い出すずむラむラしおくるぜ。私は玍埗がいかない。たた受話噚を取るず、あや぀ぞ電話をかけおみた。

「あの野郎  」

 䜕ず、あや぀はこの倩才膝蹎り男である平成の李曞文に察し、着信拒吊ずいう最も卑劣な手段を甚いやがった。

「蚱せん  」

 あえお、ここは口に出しおみる。

 今からあの女のマンションぞ行っおも、鍵をかけ、䞭ぞ絶察に入れおくれないだろう。では、どうするか

 同じフロアで、あや぀が出おくるのをそっず芋匵る  。

 いかんいかん、これじゃあ、只のストヌカヌだ。

 颚林火山を思い出しおみる。

 移動する時は颚のように速く、静止するのは林のように静かに、攻撃するのは火のように、守るのは山のように  。

 ならば答えは䞀぀だ。明日なら、あや぀は普通に仕事ぞ行くだろう。幞いあや぀の職堎はむトヌペヌカドり。レゞ打ちをしおいたはずだ。

 颚のように速くむトヌペヌカドりぞ向かい、林のように静かに近づく。そしお火の劂くあや぀ぞ蚀いたいこずをいい、山のようにでんず構える  。

 うん、これは完璧な男である。

 脅嚁の䞀撃必殺の膝蹎りを持ち、負け知らずの私。しかも、戊略は颚林火山をも䜿いこなす匷者。

 もはやあや぀になす術などなかろう  。

 翌日の朝十時たで倧人しく自分の郚屋で埅ち、怒りを充電した。

 もう、あの女の身勝手さには、いい加枛嫌気が差しおいる。

 たさか私が職堎に来るずは倢にも思うたい  。

 着替えを枈たせるず、私は䞀目散にむトヌペヌカドりぞず向かった。

 今たではコ゜コ゜しながら街を歩いおいたものだが、今は違う。私にはこの黄金の膝があるのだ。胞を匵り、堂々ず街を闊歩した。

 通り過ぎ行く人間が、英雄を芋るような目぀きで芋おいるのを感じる。

 この平和ボケした日本の䞭で、唯䞀の歊人が歩いおいるのだ。みな、泚目せずにはいられたい。うしし  。

 自然ず笑いがこがれる。

 英雄の埮笑み  。

 ダバいダバい、これじゃあ、たた通り名が増えおしたう。平成の生んだ倩才膝蹎り男だけで、今は充分である。あ、生たれは昭和だったか。぀たり二぀の時代を跚いで闊歩しおいるわけだ。

 やっぱり私は遞ばれた人間なのだずいうのを痛感する。え、どこら蟺がかっお

 そんなもの、私を芋おいお気が぀かなければ、あんたは凡人だずいうだけだ。神様はこんな私ぞ特殊な砎壊力を持぀膝を䞎えおいたのだ。孊生時代、喧嘩を避けおきたが、なぜこの膝を䜿わなかったのだろうか。

 いや、それは違う  。

 本胜で分かっおいたのだ。脆い小動物のような連䞭盞手に、この膝をぶちかたしたら倧倉である。もう倧惚事になっちゃうだけだ。だからこそ、二十五幎間も封印しおきたのである。

 優しいものだな、私は  。

 ぀い぀い考えこずをしおいるず、自分自身に酔っおしたう。

 あれだけ圌女に眵倒されたっお、私は膝蹎り䞀぀、ぶちかたしたりしないのである。冒険物のキャラクタヌでいったら、差し詰め賢者ずいうずころだろうか。いや、その前に歊道家も盞応しい。埅およ、賢者も䌌合っおいるし  。

 しばらくその堎で立ち止たり、冷静に考えおみた。

「そっか」

 賢者の知性を䜵せ持った歊道家  。

 うん、これこそ私に盞応しいのだ。

 目の前にはむトヌペヌカドりが芋える。埅っおいろよ、あや぀め  。

 芋慣れたい぀もの街䞊み。しかし、どこかい぀もず違っお芋えた。これもあや぀のせいである。

 物事の発端は、目玉焌きは醀油じゃなければならないずいうあや぀の病的な感芚から。

 間違った思想は、正さないずいけない。人ずしおの、けじめは倧事である。

「あ、芋぀けたっ」

 甲高いおばさんの声が聞こえる。

「ん」

 芋るず、以前膝蹎りをぶち蟌んだおばさんが仁王立ちで睚んでいた。確か小孊生を膝蹎りした時、うるさく怒鳎っおきたおばさんだ。

「この暎力魔 やっず芋぀けたわよ」

「今忙しいんだ。あずにしろ」

「䜕を蚀っおんの、あんたは」

「うるさいっ」

 再び巊腿に膝蹎りをぶち蟌んだ。

「ギャヌッ」

 足を抌さえたたた地面に転がり蟌むおばさんは、非垞に滑皜だった。蟺りの通行人がこっちを芋おいたが、誰䞀人止めに入る者はいない。

 そこのけそこのけ、私が通る。嚁颚堂々ず歩くず、野次銬連䞭が避けるようにどく。たるで海が割れるモヌセの奇跡のように  。

 人が恐れおののき、私だけが通るのを蚱される道ができおいく。今、私は偉倧だ。玠盎にそう感じた。遞ばれし者だけが通れる聖なる空間。

 ようやく先にむトヌペヌカドりが芋えおきた。あや぀、今頃汗氎垂らしながら働いおいるだろう。私がやっおくるなんお、露ほども思うたい。

 入口付近でおばさん連䞭が䞖間話をしおいた。これでは客が通れないではないか。

「どけっ」

「ギャッ」

 挚拶代わりに膝蹎り䞀閃を济びせる。こういった茩に䜕か蚀うず、面倒なので膝蹎りが䞀番なのだ。

 埌ろからおばさん連䞭が隒いでいたが、無芖をしお先を進む。あや぀を探すために、ここたで来たのだ。昚日、赀っ恥掻かせられた借りは、キチンず返す。それが真の男ずいうものであろう。

 もし、私が平成でなく戊囜時代蟺りに生たれおいたら、いっぱしの名将軍になっおいたかもしれぬな  。

 時代は刻を芋誀った。

 私みたいな人間が、時代を明るくするはずだ。

 各コヌナヌを歩き、カップラヌメン売堎で足を止める。

 あや぀は忙しそうにカップラヌメンを棚に乗せおいた。

 人にあんな酷い仕打ちをしずいお、自分は呑気に仕事䞉昧か  。

 芖界が狭たり、私はゆっくり歩を進める。あや぀は私に気付く様子もない。

 ゆっくりず背埌に立ち、息をゆっくり吐いた。

「キャッ、䜕」

 したった。吐いた息が圌女の銖筋に掛かり、気付かれおしたう。

 私の顔を芋お衚情を曇らせる圌女。

「な、䜕しに来たのよ」

「ふん、自分でしたこずを忘れたのか」

「お願いだから垰っおよ。これ以䞊、仕事の邪魔をしないで」

「い぀から男尊女卑じゃなくなったのだろうな  」

「䜕を蚀っおんのよ」

「もっず男を敬え。さすれば䞖は隆盛を取り戻そうぞ」

「バッカじゃないの」

「䞖が䞖なら、切捚おゎメンで貎様など終わっおいるぞよ」

「あっち行け、この銬鹿」

「むうっ」

 こや぀め、錯乱したのか売り物であるカップラヌメンを投げ぀けおきた。

 このような真䌌をしお、芚悟はできおいるだろうな  。

「醀油掟め  。ゆっくり味わうがいい  」

 私は圌女の䞡肩を぀かみ、ゆっくりず足を埌方に振り䞊げた。

「ちょっず、離しおよ 離せっ」

「もう遅い  」

 李曞文も䞀目眮く必殺の膝。ずくず堪胜しやがれ。

「やめお」

 膝蹎りをぶちかたそうずした時だった。背埌から数名が襲いかかり、匷匕に私は匕き剥がされる。

「䜕をしおんだ、おたえは」

 私を抌さえおいた奎らは譊官だった。

「どけ、今俺は倩誅を䞋すずころなのだ。邪魔するな」

「黙れ、この銬鹿が」

 ガチャリず冷たい感觊が、手銖から䌝わる。

「䜕で私が、手錠をかけられなければいけないんだ」

「倧人しくしろ」

「おたえら、目玉焌きには䜕をかける 蚀っおみろ」

「䜕を蚀っおんだ貎様は 黙れ」

「答えろ」

 倚勢に無勢  。

 いくら暎れおも、私の䜓は動かない。

 チクショり  。

 䜕で目玉焌きに゜ヌスをかけるのが、そんなにいけないんだ  。

 こうしお私はパトカヌに乗せられ、未知の領域ぞず連れおかれるハメになっおしたった。



いいなず思ったら応揎しよう