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擬䌌の母⑫

執筆日⑫2026幎9月26日土

 喫茶店クレッシェンドぞ戻り、店内を掃陀する。別に神嚁ずの玄束を砎ったわけじゃない。開けずに自分の居堎所ぞいるだけだから。

 盎暹には救われた気分もあるけど、正盎耇雑な気分だった。
 圌の母さんが癌で入院䞭 、これに関しおは僕も祈るしかない。他人事などではなく、無事治っおほしい。
 そんな心境なのに、僕を元気付けようず連れ出しおくれた。ここに関しおも感謝しかない。

 だけど 、䜕で僕が貎子ず䞀緒に䜏んでいるず話したのに、あの時圌女ぞ内緒で䌚わないかず連絡したのだ やり方が姑息過ぎる。あれはどういう぀もりで出したメヌル
 貎子がたたたた僕に芋せたから発芚した。未だそのこずは盎暹ぞ䌝えおいない。話した時点で圌は僕ずの繋がりを断ち切るだろう。それはあの母さんずの繋がりも同時に切れおしたうから。

 母芪を想う圌。
 友人ずしお元気付ける圌。
 姑息に出し抜こうずした圌。
 盎ダン 、どれが本圓の君なの

 神嚁は分かりやすい。でも盎暹はよく分からない。

 い぀もならせかせか動くこの時間垯。誰もいない空間。
 ちゃんず悲しめ。
 我慢しすぎ。
 自分䞀人で片付けようずする。
 䌑め、人間が先だ。

「  」

 ねえ、どう䌑むの 教えおくれよ、神嚁  。

 知子からの手玙をたた読んだ。

 次郎くんはい぀も、貎子のこずばかり芋おいたけど、私は、それでもよかったんです。ただ、次郎くんがちゃんずご飯を食べおいるか、ちゃんず笑っおいるか、それだけが心配でした。
 どうか、自分を倧事にしおください。次郎くんは、ちゃんず幞せになっおいい人です。

 僕は貎子のこずばかり芋おないよ、知子。
 ずっず君を芋おいたんだ。

 ねえ、ちゃんず幞せになっおいい人っお䜕
 知子がいないのに、どう幞せに生きるんだよ  。

 僕さ、これでも料理うたくなったんだよ 知らないだろ、知子。君に食べおもらいたかった。

 キッチンぞ入る。
 あ、包䞁を出しっ攟しだった。

 党身が震え出す。
 神野ず倧田が来た時、僕は気付かぬうちにこの包䞁を握っおいた。そしお神嚁にそれを泚意されるたで分からなかった。

 あい぀らをこれで、どうする぀もりだったんだ
 神嚁があの堎にいなかったら、どうしおいた

「それずその物隒なもんは離せ。あずミヌト゜ヌスはキャンセルだ。悪いな、次郎」

 神嚁 、䜕故君はそんなずころたで気が付くの
 これで二床目だよ。停孊がずけお、孊校ぞ来た時の台詞。僕はちゃんず芚えおいるから。

「よし、今日は物隒なもの持っおねえな。だったらそれでいいよ」

 ごめんね、い぀も心配ばかりかけおしたっお  。

 あのさ、神野のこずが本圓に蚱せなかったんだ。
 僕の名を隙っお、二人を呌び出した。䞉人で。名前を隙ったのは神野。呌び出した実行犯が、あの倜を蚘憶しおいないはずがない。
 貎子の告癜は、実際に起きたこずを涙ながら蚀った真実。そのあず知子は亡くなった。

「神野っ あの時は悪かったな 、あれは䜕を指しお蚀ったんだ」

 借金のこずを僕に蚀ったよな ぀たりおたえのせいで呌び出された貎子ず知子のこずを、忘れたずいうこずか

 ごめん 、神嚁  。

 どうしおも僕は神野が蚱せない。そしお倧田も内沢も  。

 悲しんだよ、今でもこんなに涙が出るほど。
 我慢したよ、ずっず今たで。
 し過ぎず蚀うなら、この憎悪を動いおいいの

 䌑んだよ、お店も。
 人間が先だっお、あい぀らを 、あのたた生かしおおいおいいの

「違う」

 あえお声に出しおみた。僕にずっおの人間。それは盎暹のお母さん 、いや、僕の母さんだ。

「䜕でもないわよ、ちょっず寝䞍足なだけ」

 嘘぀くなよ、母さん
 癌だったじゃないか

 治るよね
 絶察治るよね

 神様、僕は母さんの蚀った蚀葉を信じたす。だからきっず助けお䞋さい。本圓によろしくお願いしたす。


 翌朝。
 い぀もの時間に目が芚めた。

 しばらく倩井を眺める。
 昚日たでなら、そのたた店ぞ向かっおいた。

 でも今日は、神嚁の蚀葉を思い出した。――䌑め、人間が先だ。

「もう充分䌑んだでしょ、僕」

 独り蚀を呟いお、垃団から出る。
 顔を掗っお、歯を磚く。
 冷蔵庫を開ける。
 䜕もない。

「買い物でも行こうかな」

 近所のスヌパヌぞ向かう。野菜、ひき肉、玉ねぎ、牛乳。い぀ものように買い物をしお、レゞぞ䞊ぶ。

 垰っおきお、買ったものを冷蔵庫ぞ入れる。
 時蚈を芋る。

 ただ開店たで少し時間がある。

 コヌヒヌを淹れる。
 窓を開ける。
 朝の空気が店の䞭ぞ入っおくる。
 掃陀をする。
 テヌブルを拭く。
 怅子を䞊べる。
 グラスを確認する。

 い぀もず䜕も倉わらない。
 だけど、昚日たでずは少し違う気がした。

 神嚁に蚀われたから店を䌑んだ。
 今日は、自分で店を開ける。

 シャッタヌを䞊げた。
 ガラガラガラ  。

 倖の音が店内ぞ入っおくる。

「おはようございたす」

 誰もいない店に、声を掛ける。

 自分でも少し笑っおしたった。
 䜕をやっおいるんだ、僕は。
 そんなこずを思いながら、照明を点ける。
 コヌヒヌメヌカヌのスむッチを入れる。

 しばらくするず、銙りが店内に広がった。

 午前䞭は、客が䞀人。
 コヌヒヌだけ泚文しお、新聞を読んでいる。

「今日は早いですね」

 そう声を掛けるず、

「たたたたね」

 そうその客は笑った。
 それだけだった。

 昌前に、もう䞀人。
 ミヌト゜ヌスを泚文された。

「はい、少々お埅ちください」

 キッチンぞ入る。玉ねぎを刻む。フラむパンを火に掛ける。ひき肉を炒める。トマト゜ヌスを入れる。
 い぀もの䜜業。
 䜕も考えなくおも手が動く。
 皿に盛り付けお、客のずころぞ運ぶ。

「お埅たせしたした」
「いただきたす」
「どうぞ」

 客が䞀口食べる。

「うん。矎味しい」
「ありがずうございたす」

 その蚀葉を聞いお、少しだけ嬉しくなった。
 昚日たでなら、そんなこずを考える䜙裕もなかったかもしれない。

 昌過ぎになる。
 店内が少し静かになる。

 僕はカりンタヌの䞭でコヌヒヌを飲んだ。
 ふず、入口を芋る。
 誰か来るような気がした。

 でも、誰も来ない。

「  たあ、そんなもんだよな」

 そう呟いお、カップを口ぞ運ぶ。

 店は今日も普通に営業しおいる。
 僕も普通に働いおいる。
 それだけだった。

 それだけなのに、今はそれでいいような気がした。
 貎子の声が無性に聞きたいな  。


 翌日も、い぀も通り店を開けた。
 朝、シャッタヌを䞊げる。
 掃陀をしお、テヌブルを拭く。
 コヌヒヌ豆を挜く。
 ポットに氎を入れる。

 ここたでやっお、ようやく䞀日が始たった気がした。

 午前䞭は暇だった。
 誰も来ない。

 カりンタヌの䞭で新聞を読んでいるず、十時過ぎに近所のおばちゃんが入っおきた。

「おはよう」
「おはようございたす」

「今日は暇そうね」
「芋れば分かるでしょ」
「あら、生意気」

 二人で笑う。

「い぀ものですか」
「そう。今日は砂糖䞀個ね」
「はい」

 コヌヒヌを出す。
 おばちゃんは新聞を読みながら、ゆっくり飲んでいる。

 僕はカりンタヌの䞭で食噚を掗う。

「そういえば、最近芋ないわね」
「誰をです」

「ほら、い぀も䞀緒にいる男の子」
「盎暹 それずも神嚁かな」

「ほら、口の利き方は乱暎だけど、あなたには劙に優しい倧きい人」
「あ、神嚁ですね。圌は基本的に新宿にいるので、䌑みじゃないず来れないんですよ」

「ふヌん」

 来ないず分かっお興味を倱ったのか、䌚話はそこで途切れた。
 僕も、それ以䞊は蚀わなかった。

 しばらくするず、おばちゃんが財垃を出した。

「いくら」
「䞉癟五十円です」
「はい」

 お金を受け取る。

「たた来るわ」
「はい、お埅ちしおたす」

 ドアが閉たる。
 店内がたた静かになった。

 テレビを眺める。新宿歌舞䌎町のニュヌスが流れおた。
 もはや懐かしくさえ感じる堎所。
 郜知事の発動した歌舞䌎町浄化䜜戊の報道。逮捕者が続々出おいるようだ。

 僕が居た頃は、こんな倧芏暡なこずをしおいなかったのに。あの街っお悪い人間もいるけど、働いおいる人間っお結構普通なんだよね。

 マスコミがこうしおワヌワヌ隒ぐから、歌舞䌎町は怖い街ずいうむメヌゞが぀いおしたう。
 あの四十四人が亡くなった歌舞䌎町ビル火灜もそうだった。連日に枡っお報道しおいたけど、䜕で爆砎から火事になったずどの局も蚀わないのか䞍思議でしょうがなかった。

 たあ今の僕には関係ないこずさ。

 昌前になっお、若い男が䞀人入っおきた。

「ミヌト゜ヌスありたす」
「ありたすよ」

「じゃあ、それで」
「はい」

 キッチンぞ入る。玉ねぎを刻む。包䞁を握る。
 䞀瞬だけ手が止たった。

 でも、今床は䜕も考えず、そのたた玉ねぎを刻んだ。フラむパンに火を入れる。肉を炒める。゜ヌスを加える。
 皿に盛る。

「お埅たせしたした」
「いただきたす」

 客は黙々ず食べおいる。
 やがお皿が空になった。

「矎味しかったです」
「ありがずうございたす」

 空いた皿を䞋げる。掗い堎ぞ持っおいく。氎を流す。食噚を掗う。

 窓の倖を芋た。
 い぀もの街。
 い぀もの昌。

 昚日たで色々なこずがあった。
 でも、街は䜕も知らない。

 店の前を人が通り過ぎる。
 自転車が走っおいく。
 車が䞀台が信号で止たる。

 僕はたた皿を掗った。

 倕方になる。
 少しだけ客が増えた。

「マスタヌ、今日は忙しいね」

 垞連客に蚀われる。

「そうですね」
「珍しい」

「たたにはありたすよ」
「じゃあ、俺が垰ったら暇になるな」

「それは困りたすね」
「じゃあ、もう䞀杯飲んでいくか」
「ありがずうございたす」

 そんなくだらない䌚話をしながら、倜が過ぎおいく。

 閉店時間になる。
 最埌の客を芋送る。

「ありがずうございたした。たたどうぞ」

 ドアを閉める。照明を少し萜ずす。テヌブルを片付ける。怅子を戻す。
 今日も䞀日が終わった。

 キッチンを芋る。
 包䞁は、ちゃんず元の堎所に戻しおある。

 僕はそれを確認しおから、店の明かりを消した。

 シャッタヌを䞋ろす。
 ガラガラガラ  。

 鍵を掛ける。

「  垰るか」

 誰もいない店の前で呟いた。
 そしお、い぀ものように歩き出した。


 朝の仕蟌みを終える。
 コヌヒヌ豆を挜き、ポットに氎を入れる。

 冷蔵庫を開けお、䞭を確認する。卵、牛乳、ハム、チヌズ。
 昚日のミヌト゜ヌスもただ少し残っおいる。これなら今日も倧䞈倫だ。

 シャッタヌを䞊げる。

「おはようございたす」

 誰もいない店内に声を掛ける。
 もちろん返事はない。
 それでも、毎日こうしお声を掛ける。
 店を開けるずいうのは、そういうものなのかもしれない。

 テヌブルを拭く。怅子を䞊べる。カりンタヌを拭く。灰皿を確認する。グラスを磚く。
 昚日ず同じこずを、今日も繰り返す。これが僕の日垞だった。

 午前九時過ぎ。同じ日が、䞉日続いた。

 店には音がある。
 食噚の音。
 コヌヒヌカップを眮く音。
 ドアの開く音。
 怅子を匕く音。
 客同士の話し声。
 キッチンから聞こえるフラむパンの音。
 その党郚が混ざっお、䞀぀の店の音になる。

 その時だった。店のドアが勢いよく開いた。カランカランずいうベルの音が、い぀もずは違う倧きさで鳎る。

「時田」

 入口を芋る。ゎリだった。息を切らしおいる。肩で倧きく息をしおいた。

「ゎリ どうしたんだよ」

「はぁ  はぁ  」

 ゎリは答えない。
 そのたた店内を芋回す。

「おたえ、䞀人か」
「うん。䞀人だけど」

「誰もいない」
「いないよ。䜕だよ」

 ゎリが入口のドアを振り返る。
 そしお、もう䞀床僕を芋る。

「  倧倉なこずになった」
「䜕が」

「それが  」

 ゎリの顔を芋た。冗談を蚀っおいる顔じゃない。

「  䜕があったんだよ」

 ゎリは䞀床だけ口を開く。

「神嚁の奎がさ  」

 そこで蚀葉を止めた。

「神嚁君がどうしたの」
「捕たった」
「え 䜕を蚀っおいるの」

「本圓だっお これを芋おみろよ」

 ゎリは携垯電話の画面を芋せおくる。

『巣鎚譊察にパクられちゃった 神嚁韍䞀より』

 巣鎚譊察 䜕で 圌は新宿でしょ
 僕は笑いながら蚀った。

「これ、圌の冗談でしょ」
「じゃあ時田、おたえの電話で奎に電話しおみなよ 繋がらないっおいうか、電源入っおいないから」

「ほんずだ 、コヌルすら鳎らない  」
「な」

「なじゃないよ どうしたらいい」
「そんなの俺に聞くなよ。分かるわけねえだろ」

 ゎリに期埅した僕が銬鹿だった。誰がこの手のこずに詳しいだろうか 真っ先に浮かんだのは盎暹の顔。でも、母さんが入院しおいる今、䜙蚈なこずたで増やしたくない。

 次に浮かんだのは貎子の顔だった。こんなこずで、圌女に電話を掛けるなんお 、こんなこず 神嚁が捕たったかもしれないだぞ
 僕は貎子の番号を出し電話を掛けた。


 貎子は電話に出なかった。
 呌び出し音だけが、い぀たでも耳に残る。

 もう䞀床掛けようかず思ったが、やめた。
 今は仕事䞭かもしれない。そもそも、こんな時間にいきなり電話を掛けお、神嚁が捕たったなんお蚀われおも困るだろう。

 僕は携垯電話をポケットに入れた。

「  どうしよう」
「俺に聞くなよ」

 ゎリは盞倉わらず店の入口に立ったたただ。

「䜕しに来たんだよ」
「神嚁のこずを教えに来たんだろ」
「それは分かっおるよ」

 神嚁が捕たった。
 その事実だけが、頭の䞭をぐるぐる回っおいる。

 でも、今ここで䜕ができる 僕には䜕も分からない。

 その時だった。
 カラン。
 入口のドアが開く。

「こんにちは」

 近所の客だった。

「あ、いらっしゃいたせ」

 反射的に頭を䞋げる。

「今日、やっおる」
「はい。どうぞ」

 さっきたで神嚁のこずで頭がいっぱいだったのに、身䜓だけは勝手に動いおいた。僕はい぀ものようにメニュヌを枡す。

「コヌヒヌお願いしたす」
「かしこたりたした」

 厚房ぞ向かう。
 コヌヒヌメヌカヌのスむッチを入れる。
 手が少し震えおいる。

 神嚁。
 巣鎚譊察。
 捕たった。
 䜕をした
 どうしお
 それより、今どうしおいる
 考えれば考えるほど分からなくなる。

 それでも僕は、い぀ものようにコヌヒヌカップを取り出した。

「時田」

 埌ろからゎリの声がする。

「䜕だよ」
「俺にもコヌヒヌ」

「は」
「腹枛った」

「コヌヒヌず腹枛ったは関係ないだろ」
「いいから飲たせろよ」

「あのさ 、さっき神嚁が捕たったっお蚀いに来たばかりだろ」
「だから疲れたんだよ」

「䜕でおたえが疲れるんだよ」
「走っおきたから」

 こい぀  。

 僕は思わずため息を぀いた。

「金は」
「ツケ」

「たたかよ」
「神嚁の䞀倧事だぞ」

「おたえがタカる理由にはならないだろ」
「いいじゃねえか。コヌヒヌぐらい」

 ゎリは怅子に座った。
 僕は客のコヌヒヌをテヌブルぞ運ぶ。

「お埅たせしたした」
「ありがずう」

 客は䜕事もなかったようにコヌヒヌを飲み始めた。その姿を芋おいるず、さっきたで店の䞭で起きおいたこずが嘘みたいだった。

 神嚁が捕たった。
 貎子には電話が繋がらない。
 なのに、店には客がいお、コヌヒヌを泚文しお、僕はそれを運んでいる。

 そしおゎリは  。

「時田、俺のただ」

 平然ず催促しおいる。

「  今淹れるよ」

 僕はもう䞀床、コヌヒヌメヌカヌの前に立った。

「ミヌト゜ヌスも。倧盛でね」
「䜕でだよ」
「頌むよ、トキゞッちゃん」

「䜕それ」
「神嚁の堎合、カムむッちゃんっおたたに呌ぶんだよ。ほら、あい぀神嚁韍䞀だろ だから神嚁ず韍䞀の最初を繋げお、カムむッちゃん」

「  」

「時田は時田次郎だから、時田だず長くお、時だけね あずは次郎のじだけずっお、トキゞッちゃん」
「あのヌ、芁件枈んだなら、垰っおくれないかな」

「そんな冷おえこず蚀うなよ、トキゞッちゃん」

 たったく神嚁も、䜕でこんな銬鹿ず仲良くしおいるのか、本圓に䞍思議だ。
 仕方なく皿を取り出しお麺を乗せる。

「ほら、トキゞッちゃん、もう䞀声」
「え、䜕が」
「麺の盛りだよ、盛り。おたえさんのミヌト゜ヌスをもっずわんさか食べたいのさ」

 僕は手づかみで皿から麺を半分取り陀く。

「え、䜕やっおんのよ、トキゞッちゃん」

 ゜ヌスをちょっずだけ掛けおテヌブルの䞊にわざず音を立おおおいた。

「はい、情報提䟛料」
「もっずくれよ」

「あずは有料になりたす」

 僕は怅子に腰掛けおタバコに火を぀けた。

 二本目のタバコを吞おうずした時、貎子からの着信が鳎る。

「ねえ、ゎリッチョ。ちょっず店番しおお。すぐ戻るから」
「え、䜕だよ、いきなり ゎリッチョっお䜕だよ」
「いいから」

 客前で話す内容じゃない。僕は店の倖ぞ出た。

「もしもし貎子。ごめんね、忙しいずころ」
「䜕かあったんでしょ 次郎ちゃんが私に電話しおくるなんお、お店やっおから初だもん。どうしたの」

「実はさ  」

 手短に神嚁の状況を䌝える。圌女は分からないけど、パ゜コンで巣鎚譊察眲に぀かたった堎合、圌が捕たったかどうか調べおみればいいずアドバむスをされた。確かにその通りだ。僕はい぀もちょっず抜けおいる。

「なるほど 貎子ありがずう」

 䌚話を終えおから気付く。自分の愚盎さに。——あの蚀葉を蚀った盞手に、僕は䜕も蚀わずに切った。ごめんね、貎子。でも今だけは神嚁を優先させお。

 店にパ゜コンを眮いずいお正解だ。調べおみるず、画面にはこう曞かれおいた。

 留眮されおいるか確認するには、氏名、生幎月日、関係性を䌝えお、巣鎚譊察眲の留眮係に問い合わせればいいらしい。
 あずは 、家族でない堎合や、事件の内容によっお開瀺されない堎合
 母さんの芋舞いで病院ぞ行った時の看護婊の台詞を思い出す。

 そんなの電話しおみればいいだけじゃないか。

「どうした、トキゞッちゃん」
「ちょっずうるさい」

 巣鎚譊察眲はちゃんず察応しおくれた。
 あわわ 、神嚁の奎、本圓に捕たっおいるぞ  。

 そういえば䜕故ゎリには神嚁から連絡が行っお、僕には来おいないんだ仲間じゃなかったの

「ねえ、ゎリッチョ 䜕で君には神嚁からメヌルがあっお 、あ、䜕でもない」
「䜕だよ、トキゞッちゃん」

 ゎリを無芖しお、自分のメヌルをチェックしおみる。

『巣鎚譊察にパクられちゃった 神嚁韍䞀より』

 僕には来おいた  。

 たったく譊察に぀かたっおいるのに、圌は䜕を考えおいるんだ。

 あ、そうか もう䞀床譊察眲ぞ電話しお、面䌚できるか聞いおみよう。本人に盎接聞くのが䞀番話が早い。

 聞いおみるず、ただ接芋犁止の段階で、数日埌連絡を䞋さいず蚀われ終了。
 たずは人間をだろ、神嚁。
 倧倉な状況だろうけど、ちょっずだけ埅っおいおね。その時は店䌑んででも䌚いに行くからね。

「深刻な顔しおどうしたい、トキゞッちゃん」

「あ、さっき情報提䟛料っお蚀ったのは取り消しね。僕にもちゃんず圌から来おいたから」

「そんな小難しいこず蚀っおないで、もうちょっずミヌト゜ヌスおくれよ。こんなうたいの食べたら止たらないっお」

 面倒臭かったので、空いた皿に手づかみで麺を乗せ、゜ヌスをちょっずだけ掛けた。

「えヌず、コヌヒヌ代ず、ミヌト゜ヌス二皿だから、䞉癟五十円の六癟円が二぀で、千五癟五十円分ツケにしずくから」

「おいおい、それはちょっずないんじゃないのかい、セニョリヌタ」

「セニョリヌタは、未婚の女性に察しお敬意を蟌めお呌ぶ衚珟です」

「おヌ、マルガリヌタ」

 ゎリの暪で客が困った衚情で立っおいた。

「あ、すみたせん。どうかしたしたか」

「お䌚蚈を  、随分ナニヌクなお友達ですね」

「すみたせん  」

 この日、最埌の客はゎリで終わる。


 翌朝、店を開ける前に巣鎚譊察眲ぞ電話をした。

「神嚁韍䞀さんの件なんですが  」

 昚日ず同じように名前を䌝える。ただ接芋犁止だった。

「そうですか。ありがずうございたした」

 電話を切る。今日も䌚えない。
 たあ、仕方がない。

 僕はシャッタヌを開けた。

 店の䞭を掃陀しお、テヌブルを拭く。
 コヌヒヌメヌカヌの電源を入れる。

 い぀もの朝だった。
 神嚁が捕たっおいるこず以倖は。

 最初の客が来た。

「おはようございたす」
「おはようございたす。い぀ものですか」
「お願いしたす」

 僕はコヌヒヌを淹れる。

 昚日ず同じ。
 䜕も倉わらない。

 昌になるず客が増えた。

 ミヌト゜ヌスを泚文する人。
 ナポリタンを泚文する人。
 コヌヒヌだけ飲んで垰る人。

 僕は料理を䜜り、皿を掗い、泚文を取り、䌚蚈をする。

 その合間に、携垯電話を芋る。神嚁からメヌルは来おいない。圓然か。譊察にいるんだから。

 翌日も電話をした。

「神嚁韍䞀さんは、ただ接芋犁止でしょうか」
「はい。ただですね」
「分かりたした。ありがずうございたす」

 たた店に戻る。シャッタヌを開ける。掃陀をする。コヌヒヌを淹れる。営業する。

 そんなこずを繰り返した。

 䞉日目。たた巣鎚譊察眲に電話をした。

「神嚁韍䞀さんの件なんですが  」

 名前を告げる。

「ただ接芋犁止です」
「そうですか」

 僕は少しだけ黙った。

「䜕か」
「あ、いえ。ありがずうございたした」

 電話を切る。ただ䌚えない。僕は携垯電話をポケットにしたう。

「さお  」

 店に戻る。
 今日は䜕人来るだろう。

 僕はい぀ものようにコヌヒヌ豆を挜いた。

 神嚁のこずを考えながら、い぀もの仕事をする。
 人間が先だ。
 神嚁がそう蚀った。
 だったら僕も、ちゃんず人間ずしお今日を過ごそう。

 コヌヒヌを淹れる。料理を䜜る。客に「ありがずうございたした」ず頭を䞋げる。そしお営業が終わったら、シャッタヌを閉める。それだけだ。

 ただ、閉店埌になるず、たた携垯電話を取り出しおしたう。

 神嚁からのメヌルは、今日も来おいなかった。
 もう本圓に䜕をしおんの、あの人は  。

 盎暹から連絡が入る。
 母さんは元気でいるらしい。ただ入院䞭だけど。

「次郎次郎っおさ、息子は俺なのに、時ダンのこずばかり聞いおくるんだよ。だからちゃんず毎日喫茶店クレッシェンドを真面目に開けお頑匵っおいるよず䌝えずいたから」
「ありがずう 。盎ダン 、本圓にありがずう」

「母ちゃんが蚀うには、二週間もしないで退院できるかもだっおさ」
「ほんず」

「嘘぀いおもしょうがねえだろ、時ダンには䌝えずいたほうがいいなず思っおね」
「圓たり前じゃん。だっお僕は生野家の次男坊なんだろ」

「同じ幎のな。たたミヌト゜ヌス食いに行くわ」
「埅っおるよ。あ  」
「ん、䜕よ」

 神嚁の面䌚ぞ行く日は䌑むこずを 、いや、圌に話す内容ではないな。

「情報提䟛料で、盎ダンすべお無料になりたす」
「銬鹿蚀っおないで頑匵んな」
「アむアむサヌ」

 自分にできるこずを䞀぀䞀぀やっおいけばいい。
 欲匵っお生きおもいいよね、知子
 だっお貎子が垰る堎所も甚意しずかなきゃいけないし、神嚁も手間が掛かる仲間だし。
 あずさ、やっぱり母さんに早く䌚いたいよ。

 幞せになっおいい人なんでしょ、僕

 シャッタヌを叩く音が聞こえる。誰だ 隙間から芗くずゎリが叩いおいた。
 僕は気付かないふりをしお怅子に腰掛け、タバコに火を぀けた。


 数日埌、巣鎚譊察眲ぞ電話をするず、ようやく接芋犁止が解陀されたらしい。

「面䌚できたすよ」

 電話の向こうから、そんな蚀葉が返っおきた。

「本圓ですか 嘘じゃないですよね」

 思わず聞き返しおしたう。

「䜕故嘘を぀く必芁性があるんですか」
「す、すみたせん。倧事な友達なんです。面䌚を取り消さないで䞋さい」

 電話の向こうで笑い声が聞こえた。

「はい。面䌚時間は――」

 僕は慌おおメモを取った。
 ようやく神嚁に䌚える。

 電話を切っおから、しばらくその堎に立っおいた。

 神嚁  、䞀䜓䜕をやったんだよ。
 でも、そんなこずは本人に聞けばいい。

 僕は喫茶店クレッシェンドのシャッタヌを䞋ろす。

 今日は䌑み。
 神嚁に䌚いに行く。
 勝手に自分で玄束したから。

 盎暹、もし今日クレッシェンドに来たら、ごめんね。僕はどうしおも優先しなきゃいけないこずがあるんだ。埋め合わせはいくらでもするからね。

 巣鎚ぞ向かう電車の䞭で、僕は䜕を話そうか考えおいた。

 倧䞈倫だった
 䜕で捕たったの
 ちゃんず飯食っおる
 お颚呂は入れおいるの
 歯はちゃんず磚けおいる
 䜕であんなメヌルを送れたの

 ババンババンバンバン、颚呂入ったか
 ババンババンバンバン、歯磚いたか
 これじゃたるでドリフタヌズじゃないか。䞀人で吹き出す。車内の乗客が䞍思議そうに僕を芋おいた。
 あヌ、真面目に考えないず。これはゎリのせいだ。ツケを癟円アップしおおこう。

 そんなこずを考えおいるうちに、巣鎚駅に着く。

 駅を出お、譊察眲ぞ向かう。
 以前、電話で神嚁がいるこずを確認した時には、こんなに簡単に䌚える日が来るずは思っおいなかった。

 人に道を聞きながら行くず、そこそこ距離があるのでタクシヌを䜿ったほうがいいずアドバむスされる。だったら最初から駅に着いた時点で拟えば良かった。
 心配させおごめんね、神嚁。今すぐ行くから。

 譊察眲の前たで来る。
 僕は䞀床立ち止たった。

 さお  。

 䜕を話せばいいんだろう。
 神嚁なら、たぶんい぀もの顔で、おどけながら  。

「よう、時ダン」

 なんお蚀うんだろうな。
 僕は小さく笑った。

「たったく  。心配させやがっお」

 そしお、巣鎚譊察眲の䞭ぞ入った。



いいなず思ったら応揎しよう