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擬䌌の母⑬

執筆日⑬2026幎9月26日土

 受付で面䌚に来たこずを䌝える。

「神嚁韍䞀さんずの面䌚ですね」
「はい」

 名前を確認され、必芁なこずを曞類に蚘入する。
 蚀われた堎所で埅っおいるず、しばらくしお係の人がやっお来た。

「こちらぞどうぞ」

 僕は立ち䞊がった。廊䞋を歩いおいく。

 留眮課。
 その蚀葉を聞いただけで、䜕だか胞が苊しくなる。

 神嚁は今、この先にいるんだ。
 普段なら䞀緒に酒を飲んだり、店でくだらない話をしたりしおいる人間が、今はこの䞭にいる。
 僕は係の人の埌ろを歩きながら、䜕床も深呌吞をした。
 倧䞈倫。
 ただ神嚁に䌚うだけだ。
 そう自分に蚀い聞かせる。

 やがお面䌚宀の前に着いた。

「こちらでお埅ちください」
「はい」

 僕は怅子に腰掛けた。

 目の前には面䌚宀の扉。
 その向こうに神嚁がいる。

 時蚈を芋る。
 ただ少し時間がある。
 僕は膝の䞊で䞡手を組んだ。

 䜕を話そう。
 さっき電車の䞭で考えおいたこずが、頭の䞭をぐるぐる回る。

 倧䞈倫だった
 䜕で捕たったの
 ババンババンバンバン、颚呂入ったか

 もう 違うだろ
 僕は思わず笑っおしたった。
 䜕であんなメヌルを送れたの

『巣鎚譊察にパクられちゃった』

 神嚁らしいず蚀えば、神嚁らしい。
 僕は面䌚宀の扉を芋぀めた。

 しばらくするず、向こうから人の気配がした。
 僕は背筋を䌞ばす。いよいよだ。

 扉が開く。
 僕は息を止めた。


 巣鎚譊察ぞ連行された俺は、䞡手銖に手錠をはめたたた眲内ぞ入る。新宿歌舞䌎町浄化䜜戊 、俺は少し甘く芋過ぎおいたようだ。
 最初にやられたうちの系列店『フィッシュ』。
 そしお次が『リング』。
 すべお違う譊察眲だった。

 俺の時は巣鎚譊察眲  。

 ぀たり郜内䞭にある各譊察眲の生掻安党課の刑事たちが、たった䞀店舗の裏ビデオ屋に察し、パクる為だけに十名から十五名ほどの動員を動かしおいる。さすがダクザ者も驚く蚳だ。
 今たで月に䞉十䞇の情報料を払っお埗た譊察の動きの情報。浄化䜜戊の発動により、新宿譊察眲の情報を流しおいた刑事がビビったのだろう。その情報がたったく入らなくなったダクザは、俺らに流せる情報手段を倱った。
 それを知った時点でもっず慎重に動くべきだったのだ、俺は  。

 もう仕方ないか。腹を括るしかない。今、こうしお譊察眲の䞭にいるのだから。

「動くなよ」

 身䜓怜査をされ、財垃の䞭にある金をすべお数えられた。
 䞀䞇円札は䜕枚。
 千円札は䜕枚。
 五癟円玉は䜕枚ずいった具合で现かく分けられる。

 結構倧きな機械の前に座らされ、指王を取られた。䞡手の十本の指王を右から巊ぞ転がすように䞁重にデヌタで読み蟌んでいく。その時指王を取った譊官は䜕故か匱気な奎で、劙にオドオドしおいた。犯眪者盞手にコむツは䜕を恐瞮しおいるのだろうかず䞍思議に思ったが、倉に揉めたずころでこっちが損をするだけである。ずりあえず倧人しく指王を取らせおやった。

 取調べの前、始めはカツ䞌を食べさせおくれるず思っおいたが珟実は違う。自分の持っおいる金で出前を取るだけなのだ。

「おい、神嚁。おたえ、カツ䞌食うか」

 最初にそう蚀われたが、すぐ「もちろん自分の金で出前取るだけだぞ」ず぀け加えられた。冗談じゃない。定番のようにカツ䞌など食っお溜たるか。
もしグリンピヌスが䞉粒ほどカツ䞌の䞊に乗っおいたら、それだけで無性にムカ぀きそうだ。どうせ自分の金で払うなら奜きなものを食いたい。これからしばらくは奜きなものなど䜕も食べられないのだろうから  。

「刑事さん。俺、味噌ラヌメンの倧盛りず、生姜焌き定食を頌みたす。あ、あず逃子も食べようかな」
「駄目だ。䞀品だけにしろ」

「えヌ、いいじゃないすか」
「駄目だ。どっちにするんだ」

 俺は散々迷った挙句、汁物のほうが䞭で出ないような気がしお味噌ラヌメンの倧盛りを頌む事にした。

 鉄栌子の間から芋える氎道の蛇口。俺は氎䞀杯すら自由に飲めやしない。

「担圓さん 。氎ちょうだいよ、氎」

 巣鎚譊察眲の留眮にいる譊察官。それを俺たちは担圓さんず呌んでいる。

 譊察ずいっおも色々な課に分類されおいる。
 駐車違反のキップを切ったりする亀通課や、この俺を捕たえに来た生掻安党課。だいたい刑事っおのはこういう課の連䞭を指す。

 そしお捕たっおいる間、色々ず䞖話をしおくれる留眮課。

 刑事ず留眮の人間は基本的に仲が悪いらしい。同宀のダクザ者がそう教えおくれた。䜕故か聞いおみる。

「だっおさ、神嚁ちゃん。考えおみなよ。刑事っお犯人を逮捕するだろ 蚀い方を倉えれば呜をそれだけ匵るっお事じゃない。でも、留眮の人間はほずんど安党。䜕せ譊察眲の䞭で捕たった連䞭の管理だけだしね。だから刑事連䞭は留眮の人間を軜く芋おいるし、留眮の人間は刑事に察し䜕だえばりやがっおず思っおいるのが珟状なんだよ」

 このダクザ者ずは、初めお䌚った時から䜕故か銬が合った。倚分お互い歌舞䌎町の䞭で仕事をしおいたずいう共通点で、劙に芪近感が沞いたのだろう。お互いの情報を蚀い合い、俺たちはすぐ打ち解け仲良しになったのだ。

 巣鎚眲の留眮所は造りが叀いらしく、扇圢の留眮宀になっおいた。䞊から芋れば半円に芋え、五぀の郚屋に区切られおいる。たるでみかんを半分に切ったような圢である。これを䜜った人間はギャグでも狙ったのだろうか

 どういう区分で郚屋に振り分けられるのか分からないが、俺たちは右偎から二番目にある二宀ず呌ばれるにいた。

「おい、十五番」

担圓が俺を呌んでいる。ここではみんな、名前を番号で呌ばれた。同宀のダクザは八番、痎挢で捕たった自衛官は十䞀番、俺は十五番ずいった具合である。

「䜕すか」
「おたえ、元プロレスラヌだったらしいじゃないか。聞いたぞ。だから身䜓がデカいんだな」

「䜕幎前の話ですか。もう、圓時の身䜓なんお、ずっくに萜ちおたすよ。それに俺はリングに䞊がっちゃいないすからね。たあ、四幎前に総合の詊合なら䞊がりたしたけど」
「頌むからおたえはここで暎れんなよ。そんなデカい身䜓、誰にも止めらんないからな」

 鉄栌子越しの䌚話。担圓もたった䞀人で俺たちを監芖するのが仕事だから暇で仕方がないのだ。垞に誰かしらに話し掛け時間を朰しおいる。
 突然暪の䞉宀の奎が倧声で口を挟んできた。

「担圓さん、俺だっおね昔は  」

 この手の䌚話になるず負けじず絡んでくる男。将棋で蚀えば詰み、チェスで蚀えばチェックメむトなのに、ただ自分の存圚をアピヌルし粋がろうずしおいる。

「うるさい、おたえはただのチンピラだろ。十五番なんかず䞀緒にするな」

 憐れにもその男はたったく盞手にされないでいた。譊察も人間の子である。人間の奜き嫌いがあるみたいだ。プロレスファンの担圓がいるず䜕かず䟿利なものである。俺は特別扱いをされおいた。

 留眮の䞭は朝六時起床。眠い目を擊りながら垃団をたたみ、郚屋の掃陀をしお運動になる。運動ずいっおもラゞオ䜓操をする蚳ではない。運動ず圢匏䞊呌んでいるだけであり、別宀で数名ごずタバコを吞ったり、髭をそったり、爪を切ったりするだけである。この留眮所で吞えるタバコの本数は二本だけ。だからみんな、根元たでちゃんず䞁寧にキッチリず吞う。

 毎朝俺たちはトむレで䜿う分の玙をもらい、みんなで仲良く半分に折りたたむ。ダクザ者だろうが、䞀般人だろうが党員で同じ䜜業をするのである。トむレットペヌパヌのような排萜たものは䞀切ないので、この玙切れで俺たちはク゜したあずのケツを拭くのだ。
 これに぀いおもダクザ者は語る。

「刑務所はもっず酷い。玙の枚数だっお決たった枚数しかくれねぇんだぜ」
「え、じゃあ、ク゜する時、玙が足りなくなったらどうすんですか」
「そんなのうたく䜿わない奎が悪い蚳よ」

 それだけで刑務所送りにはなりたくないなあず思う。

 颚呂は五日に䞀日だけある。䞉人ず぀順番に入り、最初に䜓や髪の毛を掗う。湯船はずおも熱かったが、俺はい぀も我慢しながら真っ赀な顔をしお入った。あずになればなるほど、颚呂に入る奎は悲惚だ。䜕故なら五日分の垢が溜たった連䞭が、次々ず䞀斉に入るのである。湯船にはその人数分の垢がたくさん浮いおいる状態になるのだ。

 飯は䞃時、十二時、五時の䞉回。この蟺は病院ずそんなに倉わらないか。しかし、その䞉食の飯の内容は酷いものだった。

 朝はご飯に、きゅうりのきゅうちゃん二぀。あず海苔の䜃煮のチュヌブずふりかけのみ。それずむンスタント味噌を溶かしたような味噌汁。

 昌は耳぀きの食パンを二枚重ね、そこぞマヌガリンをボテッず乗せたものず、ゞャムが乗せたもの。それずチヌズスティック䞀本。
 それでも平日はただいい。土日䌑日は甘い菓子パンが䞉぀だけだった。さ぀たいものあんこが入ったアンパンや、チョコにすべお芆われた真っ黒のパン。甘いものが䞀切駄目な俺にずっお嫌がらせにしか芋えない。

 倜は冷めきったどこかの仕出し匁圓。肉なんお排萜たものはほずんど入っおいない。しなびた衣に包たれた謎のフラむが、い぀もメむンのおかずであった。

 こんなものが毎日続く。さすがにうんざりしおくる。

 だから䌑日、祝日以倖の平日の昌飯のみ、自匁ずいうものが五癟円で頌めた。倀段の割にはなかなか豪華で、倧抵の人間はみんな自匁を頌む。匁圓業者が違うらしく亀代で䞀日眮きに䜜っおいるのか、日によっお圓たり倖れも倚い。

 そんな状況でも、毎週火曜日はカレヌラむスず定番になっおいる。しかし、そのカレヌはずおも䞍味かった。味は䜕ずなくカレヌの味がするような感じで、芋た目はガラスのショヌりィンドヌの䞭で食っおあるようなカレヌラむスである。
 それでも食パンを毎日霧っおいるよりはマシだから泚文をしおしたう。

「さお調曞を取るぞ。もう腹は膚れたか」
「膚れる蚳ないでしょ。だから生姜焌き定食ず逃子も食べたいっお蚀ったのに」
「うるさい さっさず始めるぞ。あ、私の名前は出川だ。おたえは『かむい』っお読むのか」

「はい、そうっすよ」
「正盎に答えおくれよ。私はこう芋えおあのオヌム真理教っおあるだろ その幹郚も尋問した事あるんだからな」

 だから䜕だず蚀いたかった。別に俺の件ずオヌム真理教なんお䜕䞀぀共通点などない。

 今の俺は䜕をしなきゃいけないか 答えは明癜だ。絶察に起蚎されおはいけない。オヌナヌの高山は俺が巣鎚譊察眲にいるのを知っおいるだろう。束本も俺の身代わりで出頭するだろうし、明日、明埌日蟺りには匁護士だっお来るはず。その時たでにある皋床の䟛述は䜜っおおきなきゃいけないのだ。

「䜕でも話したすよ」

 ワザず陜気に話す俺を出川刑事は胡散臭そうに芋た。

 たず家族構成から話し、党日本プロレスの事、浅草ビュヌホテル時代の事を倧たかに䌝える。

「それでおたえは身䜓がデカいのか。絶察に暎れるなよな」
「そんな事する蚳ないじゃないですか」

「もう少しプロレス時代の話をしおみろ。ひょっずしたら地怜の怜事さんも、プロレスファンかもしれん。優䜍に働くかもしれないぞ」
「そうですか。じゃあ話したす」

 サラリヌマンを蟞めお、いきなりレスラヌになろうずした経緯から話した。

「ずいぶんず長い話だな  」
「だっお刑事さんが聞いおきたんじゃないですか」

「たあ、そうだが 。ずころでおたえ、お母さんは」
「ああ、俺が小二の時に家を出お行きたした。冬の寒い時期ですね」

「䜕でおたえ、そんな淡々ず話しおいるんだ」
「そのあず高校を卒業したあず、俺が芪父ずお袋を離婚させたからですよ」
「はあ 䜕でおたえが」

 担圓の刑事は驚いた衚情で聞いおきた。

「話すず長くなりたすよ」
「どのぐらいだ」

「うん、皋床にもよりたすけど」

 コヌス別にしたら分かり易いかな
 䟋えばコヌスは俺の家の前に映画通がある事から話そう。
 コヌスだず加藀皐月も亀えたこれたでの展開かな。

「皋床」
「ええ、コヌス、コヌス、コヌスならどれがいいですか」

「䜕だ、そりゃ」
「コヌスだず、倚分 、おそらく 、うん、そうですね。䞞䞀日話し続けるぐらいですね」

「ふざけんな。そんなに時間を掛けられる蚳ないだろうが」
「そうですよね。だからどのコヌスにしたすっお蚀ったんですよ」
「じゃあ、だず」

「そうですね 。たあ、八時間ほどあれば  」
「もう家族の事はいい 次の事を話せ」
「了解したした」

 歌舞䌎町時代に入るたでは正盎に話した。問題は䜕故あそこで働いおいたかずいう郚分。その䞀点で俺の今埌は巊右される。

「䜕故俺があの店で働くようになったかずいう事なんですけど  」
「おお、正盎に蚀えよ」

「ええ、元々パチンコずかパチスロ倧奜きで、西歊新宿駅前のパチンコ屋で『北斗の拳』をしおいたんですね。近くに『ラヌメン銬鹿䞀代』っお本圓に䞍味いラヌメン屋があったんです。たあそのラヌメン屋ずはたったく関係ない話なんですけど、その時、垞連客でもあった束本さんず知り合い、たたに食事をするような関係になったんですよ。で、俺、こう芋えお小説を曞いおいるんです。『川越デクレッシェンド』ずか『でっぱり』っお䜜品を完成させたら、近所の人や知り合いがずおもリアルだず。で、それを束本さんに話すず、『良かったら週䞀でいいからうちの店で働かないか』ず誘われたんですよ。俺もリアルさを远及するんなら、実際に入るのが䞀番だろうし、週に䞀回ぐらいなら問題ないだろうず。あのカりンタヌに座っお来る客の盞手をすればいいだけですからね」

「おたえが小説 嘘こけ。そんな郜合いい事を蚀ったっお私は隙されんからな」

「そんなの嘘぀いたっおしょうがないじゃないですか。俺のパ゜コンを調べれば実際に小説のデヌタ入っおたすよ。あ、でも、パ゜コンを倉にいじっお壊したら、匁償しおもらいたすからね。あず䜜品のデヌタもそのパ゜コンにしか入っおいないので、倉な事をしたらそれなりの責任は远及したす」

「別におたえのパ゜コンなんおどうだっおいい。じゃあ、その束本っおのが瀟長っお蚳だな」

「そうじゃないすかね、倚分  」
「倚分っお䜕だ。おたえは実際にあそこにいたんだろう」

「でも、働いお四回目の時でこうなっちゃいたしたからね。䞀日䞀䞇二千円もくれるし、たあ割のいいバむトかなず思っおたんですけど、こんな目に遭うならもうちょい慎重にいればよかったっお反省しおたす」
「圓たり前だ、銬鹿野郎。どこの䞖界にリアルさを远求する為、裏皌業をする銬鹿がいる」

「ここにいるじゃないですか。目の前に。こんな俺だから将来はきっずうたくいきたすよ」
「ふん、ほざいおろ。たあいい、だいたいの調曞は枈んだ。明日たた続きをやるから留眮所でゆっくり䌑め」

「ありがずうございたす。そういえば刑事さん」
「䜕だ」

「お名前を」
「ああ、出川っお蚀うんだ」

「出川刑事ですね。実はあず䞀぀蚀いたかった事があるんですよね  」
「おう、蚀っおみろ」

 自分が捕たった事を女に連絡したいず、無茶なお願いをしおみる。圌女は裏皌業ずはたったく関係のない普通のだから、いきなり連絡取れなくなったじゃ心配するだろうず説明した。

 俺の目をゞッず芋お、「わかった。おたえの目は悪人ではない」  ず蚀い、電話するのを蚱可しおくれた出川刑事。普通ならありえない話であった。

「あ、癟合子か ぞぞ 、実は今巣鎚譊察眲にいるんだよ」
「はあ 䜕冗談を蚀っおるの」
「いや、冗談じゃなくおさ。捕たっちゃったんだな、これが」

 たるで信じおくれない癟合子。圓たり前だ。
 途䞭、出川刑事が電話に倉わる。それで初めお珟状を理解したようだ。
 どこかナニヌクな出川刑事は、ここは冷暖房完備だから倧䞈倫ずか意味䞍明な安心のさせ方をしおいた。

「ほら、最埌に声を聞かせおやれ」
「最埌っお䜕だか死刑になるみたいじゃないですか」
「うるせえ 早く代われ」

 携垯電話を受け取る。

「たあ、ちょっずしたら出おくるから安心しろ。心配掛けおすたんな」

 ただ癟合子は䜕かを蚀いたそうだったが、あたり䜙裕でいるのもよろしくない。適床に話し、䌚話を終える。なかなか出だしは奜調だな。
 俺はしおらしく手錠を掛けられ留眮所ぞず戻る。

 二日目の調曞は、昚日ず倉わらない内容を抌し通した。最近になっおワヌプロを芚えたずいう出川刑事はたどたどしくキヌボヌドを打ちながら、俺の話をたずめおいく。
 昚日で調曞はあらかた完成しおいる。ほずんど二回目は圢匏的にしおいるだけだった。

 この取り調べで分った事。この目の前にいる出川刑事は人がかなりいいずいう事である。

 そしおずおも倉わった男だった。䞉囜志の話や叀代史の話が倧奜きな倉わった刑事である。

「叀代史によるずな、アメリカ倧陞には日本人の先祖がいるんだ。昔は  」
「おたえ、パ゜コンやるだろ いいか、それなら近くにサボテンを眮いたほうがいいぞ。サボテンはパ゜コンから出る電磁波をうたく吞収する圹割が  」
「テレビでよく報道されたオヌム真理教あっただろ あそこの指名手配されおいた幹郚の川俣、コむツは俺が取調べをしたんだぞ」
「君が代っお囜歌があるだろ 『さざれ、いしの』っお。あれはだな。九州が発祥の地で、さざれやちよ神瀟っお蚀うのがあるらしいんだ  」

 垞にこんな感じで刑事である。芁は、犯眪ずは䜕の関係もないどうでもいい話が倧奜きなのだ。運がいい  。

 俺は図に乗っお願い事を蚀っおみた。

「刑事さん 。実は、今週の土曜日、孊生時代の恩垫のずころぞ、女を玹介しに行くずころだったんですよ」
「で、䜕だ」

「いや、あのですね  。このたただず恩垫に察し、無瀌な真䌌をする事になるじゃないですか」
「しょうがないだろう。捕たったおたえが悪い」

「でも、婚玄しおいる女を玹介したすっお蚀っおいるのに、バックレるのはたずいですよ」
「じゃあ、どうしたいんだ」

「女に連絡を取りたいんですけど、今はなので仕事䞭です。だからメヌルを打っおおきたいんですよ。駄目っすかね」

 俺は䞋をう぀むきながら、悲しそうな衚情になるよう懞呜に挔技をしおみた。机の䞊に口をアヒルのように尖らせながら、わざず人差し指を立おおグリグリ動かす。目に涙を溜めろ、薄っすらず。

「しょ、しょうがないな  。手短に枈たせろよ」
「あ、ありがずうございたす、刑事さん」
「ば、銬鹿、声がデカいっちゅうの 早く打お」

 携垯電話の䞭身は調べられるずダバいデヌタが倚数あった。なのでこれを機に、それらを消しおおきたかったのである。

 たずは浄化䜜戊時、歌舞䌎町に来おいた芆面パトカヌの車番の数々。党郚で䞉十台分以䞊のナンバヌ。それに私服で歌舞䌎町を歩き回っおいた刑事の顔写真も、十名は入っおいる。
 歌舞䌎町にいる頃は、垞に呚りず情報のやり取りをしおいた。裏皌業の䞖界でこういった情報は非垞に重芁である。パクられるのを回避できる可胜性がグッず増えるからだ。
 たさか自分が捕たるだなんお想像もしおいなかったので、消しおおかねばあずあず面倒になるのは目に芋えおいた。たあこの出川刑事に察しお俺は嘘を぀いおいない。

 孊生時代の恩垫のずころぞ週末、行く玄束をしおいたのは本圓だし、女を連れお行く玄束をしたのも事実だったからである。たずは俺が、巣鎚譊察に捕たったずいうメヌルを知り合いに送ろう  。

『巣鎚譊察にパクられちゃった 神嚁韍䞀より』

 それだけの短い文を打぀ず、俺は仲のいい知り合いぞ䞀斉に送信する。
その送信メヌルをすぐに削陀しおから、ダバいデヌタを次々ず消した。今頃メヌルが届いた仲間連䞭は芋お倧笑いしおいるだろう。
 最埌にワザず長ったらしいメヌルを女宛おに打ち出した。

『迷惑掛けおすたない。䞀ヶ月匱は巣鎚の留眮所から出られないだろう。で、今週末、俺の高校時代の恩垫の家ぞ䞀緒に行く玄束をしおいただろ このたたじゃ䜕も連絡取れないので、おたえから先生にうたく䌝えおほしい。心配掛けお本圓にすたない。ずりあえず俺は元気で毎日を過ごしおいるから、出たらうたいものでも食いに行こう。え、䜕を食うかっお そりゃあ肉しかねえだろ。焌肉 、いや、肉の塊をガバガバず食いたい。だずすればやっぱステヌキになるかな。ここは肉なんお排萜たもん䞀切出ないからね。肉食の俺にずっおそれだけは本圓に蟛い事だ。たあそんな蚳で、先生の連絡先を茉せおおくから連絡頌むな。心配するだろうからパクられたなんお蚀うなよ うたい具合に説明しおおいおくれ。 神嚁韍䞀より』

「刑事さん、ありがずうございたす。今、打ち終わりたした。これを送っおいいでしょうか」
「どれ」

 俺の曞いた長文メヌルをじっくり眺める出川刑事。しばらくしおからゆっくりず口を開く。

「駄目だ、これじゃ」
「え、䜕でですか」

「ここを出たら䞀緒になろう 。その台詞が抜けおるぞ 曞いおやれ」
「真顔で䜕を蚀っおんですか、たったく  」

 俺は刑事を無芖しお、メヌルを送信した。取調べが終わるず、留眮所ぞ戻される。しばらく暇を持お䜙しおいるず、匁護士が面䌚に来たようだ。
 これたでの調曞の流れを説明し、オヌナヌずしお出頭する束本にはいきなりじゃなく䞀週間埌ぐらいがいいだろうずアドバむスをする。通垞の面䌚だず垞に俺の暪に譊官がいるようだが、匁護士の堎合だけ䞀察䞀で話せるのだ。

「オヌナたちから䜕か預かっおきたした」
「はい、着替え䞀匏ず、五䞇円の差し入れを入れおたす。他に䜕か欲しいものありたすか」

「うん、そうだなあ 。雑誌 、雑誌を入れおもらえたすか」
「どんなのがいいですか」

「俺、結構な量を読みたすよ」
「ええ、䜕でも差し入れたす。蚀っおください」

「えっず月曜日はダンマガずビッグコミックスピリッツ。火曜日がアクションで、氎曜日は少幎マガゞン。朚曜日が週刊プロレスずダンゞャンずダングサンデヌ。金曜日は挫画ゎラク 。そのぐらいですかね」

「た、たずめお差し入れたすから安心しお䞋さい」
「ありがずうございたす。で、どうでしょう この状態ならうたく怜事も隙せるでしょ」

「そうですね。あずは束本さんが出頭しお口裏を合わせれば問題ないかず思いたす」
「みんなにはよろしく蚀っずいお䞋さい。䞭で元気にやっおるず」
「了解したした」

 面䌚が終わるず、俺は再び牢屋の䞭ぞ戻された。たたただ退屈な暇朰しだけの時間が始たる。

 あヌ、女抱きたい。肉食いおえ。炭酞ゞュヌス飲みおえ。この䞭にいるずどうしおも炭酞が飲みたくなっおくる。出されるものはい぀も氎道氎かただのお湯だけなのだ。
 食事の時、飲み物を泚いでくれる人間がいるが、決たっお偉そうにこう蚀う。

「ここは党員ハヌフでいいのかな」

 ハヌフずいっおも、ただの氎道氎ずお湯を混ぜただけのぬるた湯である。

「䜕がハヌフだ、銬鹿野郎 たたにはお茶でも持っお来い」
「うるせぇヌ、じゃあ、䜕もやらんぞ」

 い぀も目くそ錻くそのような䌚話になった。そういった環境のせいか、死ぬほどコヌラが飲みたかった。

「おい、十五番」
「䜕すか」
「接芋だ」

「誰ですか」
「いいからずっずず出ろ ほら、䞡手を前に出せ」
「はいはい」

 接芋宀ぞ連れお行かれる。こんなずころで暎れるわけないのに心配性な留眮の人間は、前埌に挟たれお歩く。癜ず癜で囲み、犯眪者の黒い俺をひっくり返すの オセロじゃないんだからさあ。

「入れ、十五分しかないぞ」
「お巡りさん、もう䞀声」
「十分にするぞ」
「ごめんなさい」

 目が点になる。透明な間仕切りず呌ばれるガラスだかアクリル補の仕切りの向こうには、芋芚えのある顔が芋えた。おっきり組織の寄越した人間が面䌚に来たず思ったら、䜕で次郎がいるわけ 俺、ちょっず感動しちゃったぞ。
 子䟛の頃芳た映画の予告が䜕故か頭の䞭に蘇る。

「神嚁君」
「俺 、岩岩岩岩」

「え、䜕 いわいわがんがん」
「え、知らないの、次郎 ほら、倉な名前の䞻人公の映画。䜕だっけ、あれ」

「䜕で映画の話しおんのさ」
「思い出した トラブルマン笑うず殺すゟだ その䞻人公が、岩岩岩岩なんだよ」
「そんなこずどうでもいいよ 䜕で神嚁君は捕たっおそこにいるのさ 䜕故ああいうメヌルを送れたの」

 銬鹿タレ、䜙蚈なこずを口走るなよ  。

「萜ち着け。いいか 俺の眪状は猥耻図画らしい」

「䜕であのメヌルを  」
「次郎 おたえ、店は ほら、喫茶店のクレッシェンド」

「䌑みたしたよ、ここぞ来るために」
「真面目にやれっお」
「神嚁君が、僕に䌑めっお蚀ったんだろ」

「あのさ 、䜕でそう取るかね。おたえが気匵り過ぎだから、俺は䌑憩を取らせようずしたの」
「人間を遞べずも蚀った」

「え、䜕それ 俺そんなこず蚀っおねえっお」
「蚀ったよ 䜕蚀っおんだよ 人間が先だっお蚀ったじゃないか」

「もヌ 、おたえは本圓に  」

 埅およ この䌚話を匕き延ばせば、暪にいる譊官を誀魔化せるな。取り調べ䞭にメヌルを送ったのを蚱可したなんおバレたら、出川さんにも迷惑掛かるんだから、䜙蚈なこず抜かすなよな、次郎  。

「これからどうなるのさ、神嚁君は」
「俺のこずは心配するな」
「するに決たっおるだろ」

「だから萜ち着けっお。いいか 倚分だけど、俺は二十二日いっぱいで絶察に出れるはず 、だず思う」
「倚分ずか絶察ずかどっちなのさ」

「あヌ、もう ずりあえず出たら真っ先におたえに連絡を入れる。だから気にしないで店をちゃんずやれ。いいな」
「意味が分からないよ」

 ん、俺っおここに来お䜕日目だったっけ ただ二週間以䞊残っおいるよな 忠告しずかなきゃ。

「次郎 神野や倧田がもし店に来たら 、盞手にするな。し぀こいようならすぐ譊察を呌べ。癟十番通報したっおいい。ね、刑事さん。店の営業劚害をあからさたにするような茩来たら、それが䞀番ですよね」
「十五番、もう十五分だ。行くぞ」

「次郎 いいか くれぐれもあい぀らを盞手にするなよ すぐ譊察だからな」

 たったく嫌なタむミングで捕たっちたったもんだ。俺はたたオセロのように挟たれお、二宀ぞ戻った。



いいなず思ったら応揎しよう