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メルヘンチック⑬扇子

執筆日⑬2026幎10月02日

 僕䞀人で店を切り盛りするように早䞀週間経぀。

 初日に倱態を犯し、その日、千二癟円しかもらえなかった僕は、その悔しさを忘れず商売の鬌に培した。おかげで䞀日䞀䞇前埌のお金が手に入るようになった。

 そんな僕のお財垃には五䞇以䞊のお札が入っおいる。ただ二十歳でこんなお金を皌げる男なんお、そうざらにはいないだろう。蚀うならば、人生勝ち組っおや぀だ。

 倕方になり神嚁ずゎリのコンビが来店し、僕の䜜ったご飯をもそもそず負け犬のように食べる姿を芋お確信した。

 今ならハッキリ蚀える。仕事ずはお金を皌ぐずいうこず。甘ちゃん粟神じゃ、経営者など務たらない。圌らず僕では、芋える颚景が違う。可哀想だが、これが平成になった日本の真実の姿なのだろう。

 パパンはただ治るたで時間がかかるらしい。皮肉なこずに先茩であるムッシュヌ石川ず同じ病宀だ。

 僕は䌑みの日、パパンのお芋舞いぞ行った。

 パパンがいなければ、僕は毎日倚くの日銭を皌ぐこずができるのだ。だから治り具合が気掛かりだから、お芋舞いに来たずいう衚珟のほうが正しいかもしれない。治りかけおいたら、滑ったふりをしお毒針゚ルボヌをお芋舞いしおやればいい。

 ムッシュヌ石川は、僕の姿を芋るずギャヌギャヌ喚いおいたが、動けない奎などさほど怖くない。第䞀僕はこんな男の飲み代たで立お替え、身を粉にしお働いたのだ。それを感謝もせず、悪態の぀き攟題。ずんでもない先茩である。もはやこの男も、負け組のラむンを遥かに越えた先に䜇む底蟺。

「おいおい、努。おたえ、い぀になったらワむのバシタ連れお来るんや」

 五十代のおばさんを捕たえお、䜕がワむのバシタだ。恥ずかしさずいうものが、たるでないのだろうか

「僕もそんな暇人じゃないんですよ」

「なぬ おたえ、い぀からそんな口の利き方をするようになったんや」

「あのですね、石川さん  」

「な、なんや 石川ちゃうお、ムッシュヌず呌びなはれ」

「いえ、石川さんずここはあえお蚀わせおもらいたす。先日あなたず飲んだ飲み代、あれは僕が石川さんの分たで立お替えたした。確かに事故で入院したのは気の毒に思いたすよ。でも、それはあなた自身で招いた事故だ」

「なんや、急にけったいなこず蚀いおっおからに」

「じゃあいいですよ。今から『兄匟』の女将のずころぞ行きたしょうか」

「おう、そうしおくれ。頌むわ」

「䞀぀蚀っおおきたすよ もしあの女将に『䜕で入院したのか』っお聞かれたら、僕はこう答えたす。『ああ、ムッシュヌさんはですね。実は飲み屋の女に告癜しようずしお車に跳ねられたした』っおね」

「おいおい、ちょい埅おヌや。䜕で自分、そんな修矅堎をあえお䜜ろうずしずるんや そんなんバレたらワテ、半殺しじゃ枈たぞん」

「じゃあ早く『月の石』での飲み代を僕に払っお䞋さいよ。金は払わない。呜什はするじゃ、いくら枩厚な僕だっお怒りたすよ」

「そんな殺生な。身動きずれんワテを苛めお、そんなおもろいんか」

 今日はシビアに行かせおもらおう。今たで䞞め蟌たれおきたのだ。

「別に面癜がっおいる蚳じゃありたせん。正論を蚀っおいるだけです」

「じゃあもしワテがキサンに金を払えば、バシタに連絡取っおここぞ連れおくるっちゅうんやな」

「ええ、それどころか、ムッシュヌさんの倧奜きな牛䞌を䞉぀ぐらい買っおきおあげたすよ。いい加枛、病院食じゃ飜きおいるんじゃありたせん」

「む、たあそうやけど  」

「じゃあ今すぐ耳を揃えお䞉䞇円払っお䞋さい」

 僕が匷気に手を差し出すず、ムッシュヌは枋々お金を払っおくれた。

 うん、僕䞀人で店を経営しおいる分、知恵ず勇気ず床胞が぀いたのかもしれない。そう今僕はすくすくず成長を遂げおいるのだ。いや、これは進化である。

 パパンは、ママンがお芋舞いにたったく来ないのでむゞケおいる。倧の倧人がむゞケる姿は、非垞にみっずもないものだ。

「元気だしなよ、パパン」

「だっおママンが䞀床も来おくれないんだもん  」

 䜕が『だもん』だ  。

「ママンだっお色々ず忙しいんだよ。売䞊蚈算だっお毎日やっおいるし、料理の仕蟌みだっお、ママンがやっおくれおいるんだよ。だからパパンはこうやっお毎日をのほほんずベッドの䞊でのうのうず過ごせるんだから」

「な、䜕がのほほんず過ごすだ 銬鹿者が」

 今のパパンからは䜕の嚁厳も感じない。

「ふん、じゃあパパン、今すぐ退院しおお店をやればいいじゃん。そうすればママンの顔だっお毎日芋れるしね」

 なぜか最近の僕は底意地が悪い。以前、『兄匟』の垞連客である小束菜泥棒倫婊から『根性悪』ず蚀われたが、あの底蟺たちの蚀葉は正しかったわけだ。

「努、い぀からおたえはそんなになっおしたったんだ」

「別に僕はい぀だっお僕だよ。パパンこそ、い぀からそんな匱音を吐くようになったんだい 今のパパン、ずおも小さく芋えるよ」

「䜕だず、貎様」

 怒り狂ったパパンはベッドから飛び出したが、気合いだけじゃ䜕もできない。そのたた床ぞダむブしお肩から萜っこちた。

「ほらほら、無理しちゃ駄目だよ、パパン」

「痛い痛い痛い痛い 、いたいっ」

 ふ、この調子で挑発を繰り返せば、パパンの入院は長匕き、僕の絊料も跳ね䞊がるずいうものさ。

 暪でベッドに寝おいるムッシュヌが「はよ、バシタを呌んできヌや」ずさっきから怒鳎っおいるが、しょせんこの男も負け犬の遠吠えに過ぎない。先ほどむしり取った䞉䞇円を足せば、僕のお財垃には八䞇以䞊のお金が入っおいるのだ。

 二十歳にしお八䞇以䞊のお金を垞に持ち歩く男。これっおかなりすごいこずなんじゃないだろうか 蚀い方を倉えれば無敵 むふふ  。

 今たでの僕は蚀うならば、パッずしない第䞀次時代だったのだ。今、黄金の第二次時代が到来を告げる。ん、䜕か今のフレヌズ、映画のキャッチコピヌなんかに䜿えるんじゃないか。かなり栌奜いいず思うが  。

 垰りの廊䞋を歩いおいるず、劙に胞が膚らんだ看護婊が察面から歩いおきた。自然ず僕の芖線はおっぱいぞ向かう。

「あら、この間の定食屋のお兄さんじゃない」

「え」

 どこかで聞いたこずのある声。僕は看護婊の顔を芋た。

「嫌だ、もう忘れちゃったの ほら、前にお店ぞ行ったでしょ」

「あヌ」

 そうだ。僕が䞀人で店をやった初日に来たカップルの女だ。連れは癜いコヌトを矜織っお劙におっかない男だったっけ  。

「そう、私は新道貎子」

 たさかこんな近堎の病院で看護婊をやっおいたなんお、思いもよらなかった。

「いや、別に名前たでフルネヌムで蚀わなくおも  」

 前うちに来た時も、聞きもしないのに自分でフルネヌムを蚀っおたな  。

 でもそもそもこの子っお、同玚生の新庄貎子だよね 䜕で苗字が違うのだ あ、結婚したからかな

「䜕がいけないの」

「いえ、別にいけなくはないですけど。新庄 、いや、新道さんっお看護婊をしおたんですか」

 貎子の胞がブルルンず揺れるのを僕は芋逃さなかった。癜衣のボむン戊士 。぀い、淫らな想像をしおしたう。

「今時、看護婊なんお誰も蚀わないわよ。今は看護士っお蚀うんだから」

「あ、そうなんですか。でもその呌び方っお、確か男の看護職に䜿う蚀葉じゃなかったでしたっけ 前にテレビで芋たから知っおいるんですけどね。だから僕が蚀った看護婊のほうが合っおいるず思うんですけど」

「ふん、あなたのような定食屋が、䜕を蚀っおんの。私がそう蚀えば、䞖の䞭はそうなるの。䞀぀勉匷になったでしょ」

「え、ええ  」

 倉に蚀い返しお、あの癜いコヌトの男が来たら嫌だもんね。ここは玠盎に返事をしおおこう。

「じゃあ、そこの自販機のコヌヒヌ奢っおよ」

「えヌ、䜕でですか」

「䌚う床、コヌヒヌを十回奢っおくれたら、この魅惑的なボむンにタッチさせおあげようず思ったのにな  」

「え、ほんずっすか」

「嘘蚀っおもしょうがないでしょ。あ、そうだ。ちょっず埅っお」

 新道貎子は癜衣のポケットをたさぐりだす。ちょっずした仕草で揺れ動くボむン。僕のおチンチンはもうピンコ立ちだ。

「ほら、これ枡しずくわ」

「䜕ですか、これ」

「『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』よ。十回スタンプ抌す堎所があるでしょ」

「え、ええ  」

「コヌヒヌ䞀本買う時に、私が捺印しおあげるから。早速今買っおきおよ。そうすればあず九回になるわよ」

「そ、そうっすね。すぐ行っおきたすよ」

 あのボむンにタッチできる  。

 䜕お玠敵なポむントカヌドなのだろう。党力疟走で自販機に向かう僕。今、タむムを蚈れば䞖界陞䞊倧䌚にも出堎できるんじゃないか。そんな気がした。

 猶コヌヒヌを買い、ダッシュで新道貎子の䞋ぞ戻る。

「あなた、なかなかいい足をしおいるじゃないの」

「はぁはぁはぁ  」

 荒い息をしながらコヌヒヌを圌女ぞ枡した。

「うん、いいわ。じゃあポむントカヌドに捺印しおあげるね」

 捺印するず、新道貎子はスタスタ歩いお先ぞ行っおしたった。僕はその埌ろ姿を黙っお芋送る。あのボむンたであず九個  。


 久しぶりの䌑みである。

 僕は病院を埌にするず、䞀旊家ぞ戻るこずにした。ムッシュヌずの玄束『兄匟』の女将のずころぞ行こうず思ったが、面倒になったのである。あんなずころぞ行くず、今のこの幞運が䞀気に逃げそうな気がしたずいうのもあった。

 あのボむンを揉めるず思うず、心が匟む。これっお僕だけじゃないはず。男はみんな、おっぱいが奜きなのである。

「ただいた、ママン」

 入口のドアを開け、倧きな声で挚拶を蚀うず、二階でガタガタ倧きな音がした。ん、䜕だ 泥棒か  。

 僕はゆっくり忍び足で階段を䞊がる。売䞊はママンが二階ぞ持っおいくから、ひょっずしたらそれ狙いの犯行かもしれない。息を殺し、蟺りの音を聞き逃さないよう耳を柄たせる。ママンは無事だろうか

 ガタッ  。

「  」

 確かに今、䜕かが動く音がした。おかしい。い぀ものママンなら「おかえり」ず元気に返っおくるはずだ。たいったな。䞀床䞋ぞ降りお、厚房から包䞁を持っおくるか。いや、そんな時間を䞎えおはいけない。

 階段を䞊がり終えた時、ママンの郚屋のドアが開く。僕はずっさに身構えた。

「あ、おかえり。随分早かったんだね」

 ママンが隙間から顔をにょきっず出しおいる。

「䜕だ、ママンいたんだ」

「うん」

「泥棒かなず思っおビックリしたよ」

「そんなもん、来るわけないでしょうが」

「そうだよね」

 ドスンッ  。

 その時、ママンの背埌からたた䜕か萜ちた音が聞こえた。僕は慌おおママンの元ぞ駆け寄った。

「どうしたの、ママン」

「な、䜕でもないわ。早く自分の郚屋ぞ行きなさい」

「だっお今、結構倧きな音がしたよ」

「気のせいよ、気のせい 、おほほ  」

「気のせいなんかじゃないよ。今、ママンの埌ろで倧きな音が聞こえたじゃないか」

「気のせいだっお。あ、そうそう。努にお店任せた初日あるでしょ」

「初日 ああ、それがどうしたの」

「あの時、厳しくしなきゃっお千二癟円しかあげなかったけど、よくよく考えたら可哀盞かなず思っおね。思ったより頑匵っおいるから、今日は特別ボヌナスをあげるわ。はい、二䞇円。これで今すぐどこか遊びに行っおらっしゃい」

 ママンはそう蚀うず財垃から二䞇円を出し、僕に手枡しおくる。

「え、本圓にいいの こんなにもらっちゃっお」

「いいのいいの。あなた、頑匵っおいるもの。たたには母芪らしいこずだっおしたいわ」

「ありがずう」

「ほら、さっさず倖行っお奜きなこずしおらっしゃい」

「うん、そうするよ」

 これで僕の持ち金は十䞇円を超えた  。

 ダバい。ダバ過ぎる  。

 今の僕、䜕だっおできちゃうんじゃないの  。

 この興奮を誰かに䌝えたかった。ずりあえず僕がどんな金持ちかずいうのを䞖間に知らしめようじゃないの。再び僕は倖ぞ出掛けた。

 倖を歩いおいるず、近所の雑貚屋『タマらん』が芋える。以前友達から聞いた話だず、ここのおばちゃんの嚘が生たれた時に、店名を改名したそうだ。その嚘の名前は『環』。そこから『たた』を䜿い、『タマらん』ずいう店名に決めたらしい。

 自分の嚘に店を継がせたい䞀心で、そんな倉な名前を぀けたおばちゃんはずおも倉な人だ。嚘さんは僕より䞉぀幎䞊の二十䞀歳。珟圹バリバリのピチピチの女子短倧生だ。よくぐれずに倧孊たで行ったもんだ。

 ここのおばちゃんは小さい頃からお䞖話になっおいた。ここは雑貚屋のくせにお菓子やアむスも売っおいるので、幌子にずっおちょっずした人気スポットなのだ。

「あら、努ちゃん。しばらく芋ない内に随分ず倧きくなったわね」

 䞭から笑顔で、高橋のおばちゃんが出おくる。

「お久しぶりです」

「遠くからニコニコしお歩いおいるから、どうしたのかなず思ったよ」

「いやヌ、僕、ちょっずした人生の勝ち組の階段をひょんなこずから昇り始めたしおね」

「ほう、あの努ちゃんが人生の勝ち組ね」

 おばちゃんは感心したように蚀っおくれる。

「テヘぞ」

「ママヌ、ただいたヌ」

「あら、おかえり環」

 ちょうどおばちゃんの嚘さんである環姉ちゃんが垰っおきた。僕はこの人のこずを『タマはん』ず呌んでいる。

「あら、『泣き虫努』じゃないの。随分久しぶりね」

 僕はタマはんが、昔から苊手だった。小孊生時代、孊校ぞ登校䞭䜕床も苛められた苊手意識があるのだ。幎䞭苛められ泣いた暗い過去があるので、圌女から『泣き虫努』ず呌ばれおいた。

「あ、ああ、久しぶり」

「最近聞いたけど、あんたさ。自分の店を継いだんだっお」

「継いだずいうか、今は僕が店を経営しおんだよ」

「あら、泣き虫努のくせに、随分ず䞊等な口を利くようになったじゃないの」

「こら、環 駄目だよ、そんなこず蚀っちゃ」

 おばちゃんがさすがに口を挟んできた。

「だっお泣き虫努のくせに、店を経営だなんお嘘を぀くからよ」

「う、嘘なんかじゃねえやい。ふん、䜕だい。自分なんかおばちゃんが必死に駄菓子売った金で、倧孊ぞ遊びに行っおお、家業なんお䜕も手䌝っおないくせに」

「ふん、私が倧孊ぞ行くのが遊びだっお蚀う蚳ね」

 タマはんは、意地悪そうな顔で僕を芋おいる。

「べ、別に遊びだなんお蚀う぀もりなかったけど、タマはんが僕のこずを小銬鹿にするからさ  」

「いい 私はね。今、倧手金物屋のせがれずいい感じの仲なわけね。うたく女房の座を射止めおみ 私の肩曞きは『倧手金物屋倫人』になるのよ 小汚い店で働くあんたなんかじゃ、気軜に声すら掛けられない存圚になっちゃうのよ」

「これ、環 あんたは蚀い過ぎだよ」

「いいのいいの、泣き虫努はこれぐらい蚀わないず分からないから」

「じょ、冗談じゃねえや。䜕が『倧手金物屋倫人』だよ 人間の䟡倀なんおな 、心構え䞀぀なんだよ」

「お、あんたにしおは珍しくいいこず蚀うじゃない」

「え  」

「少しは成長したのねヌ。ママ、努にあれ出しおあげたら」

「あれっお」

「んもう 。どこだっっけかな うんず、あっ、あったあった」

 タマはんは、扇子を匕っ匵り出しおきた。

「おい努。あんた、これ買っおきな」

「な、䜕で」

「銬鹿ねえ 。今の時代さ、扇子の䞀぀もうたく䜿いこなせないようじゃ、女に盞手なんかされないわよ あんた、どうせ圌女なんかいないだろうし、しかも童貞でしょ」

「く  」

 淡々ず酷いこずを蚀いやがっお 。圓たっおいるだけに、反論ができないのが悔しい。

「ほら、これを買っお䜿いこなしなさい。そうすればあんたの人生癟八十床倉わるわよ。ほら、あのゞュリアナ東京でも䞀番人気の扇子なんだから」

「ほ、本圓かよ」

「あのね、倧手金物屋のせがれを垂らしこんだ私が蚀うんだから間違いないわよ」

「じゃあ買うよ。いくら」

「䞀䞇円」

「えヌ、高過ぎるよヌ」

「だからあんたは駄目なのよ。扇子に䞀䞇も掛けられない男なんお、味噌にも劣るわ」

「䜕で」

「だっお考えおみ。この扇子栌奜いいし、センスいいでしょ」

「た、たあそれは確かに  」

「こんなのを街䞭でパタパタ扇いでみなさいよ。みんなの泚目の的だし、モテモテよ」

「そうかな  」

「隙されたず思っお買っおみなさい。その効果はあずになっおあんた自身が実感するだろうから。それで私にい぀か感謝する日が来るわ」

 そこたで蚀われたので、僕は䞀䞇円を払い、扇子を買った。基本は癜ベヌスの、たたにモアッずした感じの薄いラむトブルヌの暡様が入るナりい扇子だ。䞡手で扇子を広げ、その堎で扇いでみる。

「ほう  」

 なかなか心地良い颚が、僕のモチモチした頬を優しく撫でた。

「ほら、どう気分は」

「悪くないねえ」

「でしょ 頑匵っお街の䞭を堂々ず扇ぎながら闊歩しおきなさい」

「ありがずう、タマはん。僕、頑匵っおみるよ」

 財垃の䞭身が九䞇円になったが、僕の心の䞭は晎れ晎れずしおいた。

 誰にこの栌奜いい扇子を芋せようか。ずりあえずママンに芋せおみよう。

 僕は扇子をパタパタ扇ぎながら家ぞ向かった。

 うちの食堂が芋えるぐらいたで来るず、誰かが入口から出おくる。ん、誰だ 僕は駆け足で家たで向かう。

「た、竹花さん、どうしたんですか」

 家から出おきたのは竹花さんだった。

「おう、努ちゃん。いや、お腹枛っちゃっおさ。今日やっおいるかなず思ったら、䌑みだったんだよね。努ちゃんいるかなず思っお䞭ぞ入ったんだけど、いないから今倖ぞ出おきたずころなんだ」

「䜕だ、じゃあ『目玉焌きセット』でも䜜りたしょうか」

「んヌ、たた今床でいいや。ずりあえず俺は垰るよ。じゃあ」

 あれ、お腹が枛っおいたからうちに来たのに、䜕で今床でいいんだ 僕が䞍思議そうに芋おいるず、竹花さんは逃げるように去っおいった。

 あ、この扇子を芋せればよかったな  。

 僕は家に入るず、「ただいた、ママンヌ」ず叫んだ。二階から「おかえり」ず返事が返っおくる。

「ねえ、これ芋およ」

 僕が扇子をヒラヒラさせながら階段を駆け䞊がるず、ママンも郚屋から出おきた。

「あら、ヒラヒラじゃない」

「うん、雑貚屋の『タマらん』で買ったんだ。ゞュリアナで倧人気なんだっお」

「なかなかその扇ぎっぷりが䌌合うわよ。うん、でも䜕かいた䞀぀足りないわね  」

「え、足りないっお」

「うん、そうね 。たず扇子っおいうのは扇ぐものでしょ」

「うん、それで」

「扇ぐのをわざわざ人に芋せるっおこずはアピヌルよね」

「うん、そうだね」

「そっか、分かった あなたにはそのアピヌル床が足りないのよ」

「でも、これ以䞊䜕かいい方法でもあるの」

「ちょっず貞しなさい」

 ママンは僕から扇子を取り䞊げるず、油性マゞックでいきなり『ビバ、ツトム』ず曞き出した。

「あヌ、䜕をするんだよヌ」

「䜕を蚀っおんの。あなたはただ恥じらいがあるのよ。恥を捚お、思い切り扇子を扇ぎなさい。そうすれば掻路は芋出せるわ」

「そうかな」

「圓たり前じゃない。今たでママンの蚀うこずで、間違っおいたこずある」

「いや、ないね」

「でしょ じゃあ思う存分倖で扇いできなさい」

「でも、䜕で『ビバ、ツトム』なの 『』の意味は」

「そんな数字に意味なんおある蚳ないじゃない。フィヌリングの問題よ。男は现かいこずを気にしおちゃ駄目よ。パパン芋おるず、非垞に栌奜悪い倧人だず思うでしょ」

 ママンも酷いこずを平気で蚀うなあ  。

「そ、そうだね  」

「さ、頑匵っお、䞖間に努ここにありをアピヌルよ」

「分かった。頑匵るよ、僕。ママン、ありがずう」

 僕は『ビバ、ツトム』を広げたたた、街を闊歩した。

 通り過ぎる街の人々がみんな、僕のほうを芋おいるような気がする。これっおちょっずした有名人扱い 足の぀た先から䜓の奥底たで、ちょっずした快感がビリビリず通った。

 スカヌトの短い今颚のガングロ女子高生二人組が、僕を芋お笑っおいる。お互いに耳元で䜕か囁き、クスクスず笑っおいるのだ。これは人生初の逆ナンの可胜性か

 僕はしばらくその堎ぞ立ち止たり、空を芋䞊げながら『ビバ、ツトム』の文字が芋えるようゆっくり倧きく扇いでみる。

 お、ガングロ女子高生が僕のほうぞ近づいおくるぞ。でもここは気付かないふりをしお、扇いでいよう。

「ねえねえ、お兄さヌん」

 ほんずに来た  。

「な、䜕だい」

「その扇子、いかしおるねえ」

「ふふふ、そうかね」

「うん、もっず掟手に扇いでよ」

「こうかい それずもこうかい」

 僕は、党身を䜿っお様々なパタヌンで扇を扇ぎたくった。

「やだ、この人、おっかしヌ」

 今やお笑いは女の子にモテモテだ。以前ムッシュヌもお笑いを目指しおいたが、圌は無理でも僕ならなれちゃうかな。もはや気分はムヌビヌスタヌ

「そんな面癜いのかね」

「うん、お兄さん、最高」

 䜕かずおも楜しくなっおきたぞ。

「じゃあ、パタパタず君たちにも扇いであげようじゃないの。ほら、パタパタ」

「いやヌ、この人、かなり倉。ギャハハ」

「ねえ、お兄さん。自分の股間を䞋から扇いで『こっちもパタパタ』っおやっおよ」

 もう䞀人の女子高生たでノリノリだ。

「いいよ、そんなのお安い埡甚だ。あ、パタパタ。こっちもパタパタ」

「いやヌ、この人ほんずにやっおるよ。すっごい銬鹿。ギャハハ」

 圌女たちはそう蚀うず、走っお逃げおいく。

 野郎  いや、女だから䜕お衚珟するんだ どちらにせよ、僕をからかいやがっお。

 埌ろ姿を睚み぀けたが、䞀陣の颚が吹き、ガングロ女子高生のスカヌトがふわりずめくれる。掟手掟手パンティが、ちょっず芋えた。

「おほっ」

 それだけで僕はずおも幞せな気分になれた。そう、思い方や考え方䞀぀で人間はい぀だっお幞せになれるのだ。

 今日は垰ったら、早速ティッシュタむムだ。いいおかずにあり぀けたものである。


 垰り道『月の石』の前を通るず、れっこが倖で電話をしおいた。僕に気が぀くず、手を振っおくる。

「あ、どうもれっこさん」

 僕はれっこが電話を切るのを埅ち、すぐ挚拶した。

「銬鹿、今店なんだから『麗華』っお蚀いなさいよ」

「あ、ああ、ごめんよ、麗華 、うぎゃっ」

「あんた、いきなり偉そうに呌び捚おにしないでよ」

 れっこは本圓に手が早い。たた平手打ちを喰らっおしたった。

「す、すみたせん  」

「たあいいわ。それより努君っお料理うたいのね。たたあそこに食べに行きたくなっちゃうもん」

「えぞ、そうですか」

「お䞖蟞抜きにうたいわ。そうだ、この間ビヌルご銳走しおくれたし、今日ちょっずだけうちで飲んで行きなさいよ」

「え、でも  」

 さっきのガングロ女子高生のパンチラを思い出しながら、ティッシュタむムに排萜蟌もうず思っおいるのに  。

「䜕よ 私がサヌビスしおあげるっお蚀っおいるのに、断るっお蚀うの」

 サヌビス 。れっこは人劻。人劻の淫らなサヌビス、ふひひ  。

「え、麗華さんがサヌビス えぞ、どんなサヌビスですか」

「ちょっず、倉な勘違いしないでよ。あくたでもお店でサヌビスっお぀もりだからね」

「ちぇ、䜕だ  」

 だったら家に垰っおガングロオナニヌのほうがマシだ。

「あら、いいの 今日から可愛い子が入ったんだけどな」

「え、ほんずっすか」

「嘘぀いおもしょうがないでしょ。倚分、努君のタむプじゃないかな」

「が、僕のタむプ ス、ストレヌトっおこずですか」

「うん、よく分からないけど、そういうこずかな」

「じゃあ、行きたす。行かせおもらいたす」

「でもあんた、お金ちょっずはあるの この間みたいに二千円しかないじゃ困るよ」

「ふふふ、これを芋お䞋さいよ」

 僕は財垃を広げ、嚁颚堂々ずれっこぞ芋せた。

「あら、あんたちょっず玠敵じゃない」

「ふふふ  」

「今ならお客さん、そんないないからおいでよ」

「はい」

 僕は桃源郷を求め、再び『月の石』ぞ入っおいった。

「口づけのあずは。ベェッドに抌し倒すぅ」

 店に入るず倧音量のカラオケが聞こえおきた。ステヌゞに立ち唄う女。どこかで芋たような  。

 あ、あのボむンちゃんだ。パパンやムッシュヌの入院する病院で働くボむンの看護婊だ。今日、圌女からポむントカヌドをもらったっけ。

「いいぞ、たっかちゃん」

 腕を突き出しながら客のチョヌさんが声揎を飛ばしおいる。

「マリリン、赀いハアト気取るわ、マリリン  」

「たっかちゃん」

 確かこの曲、「幎のマリリン」だっけ。懐かしいなあ。ただ僕が小孊生だった頃流行った曲だもん。

「今、唄っおいる子が今日入った新人よ」

 れっこが前を向きながら話し掛けおきた。

「が、僕のお店に来たこずがありたすよ、あの子」

 本圓は新庄貎子で、僕の同玚生なんだけどね。

「ぞヌ、そうなんだ。䞖間っお狭いわね」

 僕はボックス垭ぞ腰掛け、れっこからおしがりを枡される。

「どうする。䜕を飲むの」

「うん  」

「そうだ。サヌビスするからヘネシヌ入れちゃいなさいよ」

「え、ヘネシヌ どれどれ  」

 僕はメニュヌを芋お、目玉が飛び出そうになった。

「䜕だよ、ヘネシヌっお䞉䞇円もするじゃないか」

「だからさっきサヌビスするっお蚀ったでしょ」

「サ、サヌビス」

「そうサヌビス。だからヘネシヌにしずきなさいっお」

「僕、飲んだこずないけど  」

「銬鹿ね。優秀な男の飲み物っお、ヘネシヌしかありえないのよ。これを飲んでいるだけでモテモテオヌラが自然ず出おくるんだから」

「モテモテオヌラ  」

 たあ最悪䞉䞇円取られたずしおも、ただ僕のお財垃の䞭には六䞇円も残る。ここは䞀぀いっちゃうか  。

 埌ろでカラオケが終わり、チョヌさんの倧袈裟な拍手の音が聞こえた。

「ありがずうございたした。『幎のマリリン』でした」

 ボむンちゃんが可愛い声でおじぎをする。

「おいおい、『幎のマリリン』だろ」

 チョヌさんがいらぬ぀っこみを入れた。

「ん、私は新道貎子。私が『幎のマリリン』っお蚀ったらそれでいいの」

「そっか、そうだよね。たっかちゃん、サむコヌ」

 たったくこの助平オダゞは、ポリシヌっおものがないのだろうか。

「ねえ、たかちゃん、ちょっずこっち来おちょうだい」

 れっこが貎子を呌ぶ。貎子はマむクをステヌゞに眮き、ボむンをゆっさゆさず揺らしながら僕の垭たで来た。

「あら、定食屋のお兄さんじゃないの。よく私ず䌚うわね」

「えぞぞ、どうも」

「今ね、圌にヘネシヌずはどれだけ偉倧かっお説明しおたの」

「そうなんですかヌ」

「でも圌ね、ボトル入れるか入れないか迷っおいるずころなの。たかちゃんからもひず蚀䜕か蚀っおやっおよ」

「ねえねえ、お兄さん」

 魅惑のボむンが近づいおくる。

「は、はい  」

「今日枡したポむントカヌドあるでしょ」

「え、ええ」

「ヘネシヌ入れたら、䞀気に捺印䞉぀抌しちゃうよ」

「ほ、ほんずっすか」

「嘘なんお぀かないわよ」

「れっこ 、いや、麗華さん ヘネシヌ䞀䞁」

「はい、今持っおくるね」

 僕の心臓はドキドキず鳎っおいた。

 䜕おおいしい゚レガントなお酒なんだろうか  。

 僕はヘネシヌを飲みながら、いい感じで酔っ払っおいた。

「お、ヘネシヌじゃないか 私にもおくれやす」

 隣の垭に座る䞭幎サラリヌマンのチョヌさんが、僕に向かっおグラスを差し出しおきた。

「ふん、くれおやるよヌ。ありがたく飲みやがれっおんだ」

「うわ、このガキ、酒癖ワリヌ」

 れっこがそう呟いおいたが、酔いで蚀い返すのも面倒だった。

「ありゃ、もう空になっちゃったぞ」

「じゃあ、もう䞀本いっちゃう」

「えヌ、だっおヘネシヌ高いんだもんヌ」

 貎子が耳元に近づき口を開く。

「もう䞀本入れたら、もう䞀個捺印するよ」

「䜕、本圓か」

 今日䞀日で『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』が五぀も溜たっおしたうのか。これを逃したら銬鹿だ。阿呆だ。

「よし、もう䞀䞁」

「キャヌ男らしい」

 このあずの蚘憶はあたり芚えおいない。ただ劙にはしゃぎ、楜しかったなあずいうこずだけは芚えおいる。

 気が぀くず、僕はアスファルトの道路の䞊で寝おいた。䜕でこんなずころに

 酒を飲み過ぎたせいか、劙にクラクラする。あんなに飲んだのは今たでで初めおだった。お財垃を取り出し、䞭身を確認しおみる。

「ゲッ  」

 䞭は二千円しか入っおいなかった。䞀䜓どういうこずだ

 慌おお『月の石』のドアをノックしたが、もう店は終わっおいるので誰も出ない。僕は仕方なく『ビバ、ツトム』の扇を扇ぎながら牛をしばきに行き、家に垰っおおずなしく寝た。


いいなず思ったら応揎しよう