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メルヘンチック㉟むつき

    執筆日㉟2026年10月04日

     江島が用意してくれた部屋は一人にしては、なかなかの広さがあった。テレビをつけてチャンネルを回して見るが、ロクな番組がやってないので消す。リモコンをテーブルに放り投げてベッドへ横になった。

     しばらくここに滞在してゆっくりしよう。ここ一年ほど休みもとっていなかったし、もう無職になったんだから……。

     ゆっくり時間をかけて目を閉じる。アルコールを飲んだせいか、傷の痛みを感じない。このまま眠っている内に、この痛みがなくなってしまえばいいのにな。

     そんな、都合いい事を考えてしまう。

     今、俺は完全な孤独の空間にいる。仕事に行けば、もちろん人はいたし、部屋に帰っても勝男との共同生活で、自分一人だけという時間が考えてみるとあまりなかった。たまにはこういう静寂な何もしないでいい空間というのもいいもんだ。

     シャトレーヌでチェック済ました際、江島が「良かったらどうぞ」とプレゼントしてくれたグレンリベット十二年のボトルを開ける。ショットグラスはさすがに部屋に無いので、そのまま口につけラッパ飲みをした。

     喉にグッと一気にくるこの感覚。やはりチェイサーも必要だな。

     千円札一枚と小銭を適当につかみ、空のアイスペールを持って部屋をあとにした。

     確かエレベーターのところに自動販売機があったな。おっと、カードキーを忘れないようにしないと……。

     夜中なので通路を歩いていても誰にも会わない。静かなものだった。

     エレベーターのところに着くと、自動販売機が並んでいる。プリンスは各階によって自動販売機の種類も微妙に違って設置しているようだ。ジュースの販売機はどの階も置いてあるが、俺の部屋の階は冷凍食品だろうけど食べ物の販売機もあった。どうせ部屋で酒を飲むのだからポテトと焼きおにぎりを買う事にする。

     一つ一つの出てくるまでの時間が掛かるのがこの自動販売機の欠点だが、中で解凍しているのだから我慢するしかないだろう。

     チェイサー代わりに烏龍茶と、朝起きた時用として缶コーヒーも買っておく。製氷機に空のアイスペールを入れ、氷のボタンを押す。ガラガラと音を立てながら、平べったい氷が空のアイスペールを埋めていく。

    「ピッ、ピッ、ピーッ」

     食べ物の販売機のブザーが鳴る。どうやらポテトができたようだ。取り出そうとして紙製の容器に触れた瞬間、思わず手を引っ込めてしまう。

    「アチッ!」

     結構な熱さだった。少しばかり自動販売機の加熱力を侮っていた。ちょっと経ってから紙製の容器を取り出す事にする。続いて焼きおにぎりのボタンを押した。

     ただ自動販売機で物を買うというだけの行為が、とても新鮮に感じる。毎日毎日ゲーム屋で休みなしに働き、店の売り上げから金を誤魔化して抜くだけの生活。そんな事を繰り返していたから、俺の心は徐々に汚していったのだろう。

     そんな汚れた日常の中に突如入ってきた赤崎。顔や体などの外見的なものに惹かれたのも事実だが、初めて見た時にそれ以外の何かを感じた。今までの従業員に比べると、つい赤崎には親切に優しくしてしまう自分がいた。赤崎と出会った時に感じた何かとは、多分、彼の真っ直ぐな青臭い部分に対し、一気に惹かれたのだろう。そんな赤崎に抱かれてみたかった。逆に抱いてもみたかった。誰にも相談できない自分だけの秘密だった。

     明らかに今の俺は金に狂っている。金がすべてだと思いたい。しかし赤崎の顔を想像すると、金だけじゃ割り切れない何かを感じた。あの男の青臭さが、少しは俺にも伝染したのかもしれない。

    「ピッ、ピッ、ピーッ」

     焼きおにぎりができたようだ。

     それらを手で持てるぐらいの熱に冷めるまで、タバコを吸って時間を潰した。

     部屋に帰ると、テーブルに買った物を置く。明日の仕事を気にせずに、部屋で落ち着いて酒を飲むという幸せ。明日は朝になったら携帯の番号を変えに行って、またこの部屋に戻り、いくらでもゆっくりすればいいだけだ。

     俺が今している事は贅沢になるのだろうか。ここで何日か泊まっても俺の持ち金はそんなに減らない。酒を飲む環境を整え、俺はまたグレンリベットを飲みだした。

     時計を見ると夜の一時を過ぎている。

     そういえば俺が店でこんな風になり赤崎はあの場で帰されたが、『ダークネス』はどうなるのだろうか? 遅番の時間で働く新堂と田中は、今の時間なら店で働いているはず……。

     俺の抜きがバレて鳴戸が怒り、あんな事になって店は今、営業しているのだろうか?

     気になると非常に気になりだすものだ。まあ、もう辞めたんだし店の事はどうでもいい。アルコールの酔いが回り、いい感じに気持ち良くなっている。

     また赤崎の事を考えてしまう。

     今、赤崎に連絡してこのホテルにいるけど一緒に飲まないかと誘ったところで、断られるのは目に見えて分かる。

     直接俺が赤崎に電話しても、出てくれなさそうだ。

     赤崎と新堂は仲がいい。新堂を利用したら、もしかして赤崎に会えるかもしれない。いや俺がホモだと分かって拒絶感をあらわにした赤崎が、もう店でも関係ないのに俺に会いたいと思うか?

     そう考えると憂鬱になる。

     新堂にとりあえず電話を掛けてみるか……。

     いや、危険かもしれない。

     もし、新堂と田中が今の時間、店で働いていたとしたら、当然鳴戸や水野の両オーナーは、俺を探す手掛かりに利用されている可能性は充分にある。

     でも最悪、新堂、田中と鳴戸、水野が通じていたとしても、携帯を掛けるぐらいじゃ、俺がここにいるのは分からないだろう。

     新堂だって店の金を抜いていたのは俺も知っている。向こうだって連絡が来たとして、俺を鳴戸らに売ったら、逆に自分たちだって危険な事ぐらいは分かるだろう。そうなったら自分たちが店の金を抜いていたという事実が発覚するだけだ。

     俺は携帯を手に取り、新堂の携帯に電話する事にした。

    「もしもし、岩崎さんか?」

     すぐに新堂は電話に出た。受話器からはポーカーゲームの音は聞こえてこない。

    「どうも」

     客がいないだけかもしれない。

    「大丈夫ですか? 夜になって店に行ったら鳴戸さんと水野さん両方いて、岩崎さんの抜きが見つかり制裁を加えたって聞いて……」

    「今、店ですか?」

    「いや、俺と田中も店の金を抜いていたじゃないですか。何か話を聞いててヤバいなって思い、俺たち遅番も今日で店辞めるって言ったんですよ」

     新堂の話しぶりを聞いていると、嘘ではないと思った。彼は鳴戸とは通じてない。

    「鳴戸とか怒りませんでした?」

    「その前に俺と田中も疑われたんですよ。だからワザと強気に演技して、そんな疑われてまでここで働けないって……。まあ、ある意味逆ギレですけどね。でも岩崎さん、相当やられたって聞いたんですけど、大丈夫なんですか?」

    「確かに酷かったです。こっ酷くやられはしましたけどね。でも別に鳴戸は腕力でってタイプでもないし、そこまでのダメージは残ってないですよ。まあ、散々蹴っ飛ばされたんで、顔はアザだらけですけどね」

    「実際酷いですよねー。俺もこんな事、言っちゃあれですけど、岩崎さんがやられたって聞いて、こっちの身だって危ない訳じゃないですか? その状況で俺たちも疑われたんで、それなら自分たちも辞めますって具合で、そのまま辞めたんですよ」

    「そのほうがいいですよ。あんなムチャクチャなオーナーの下でなんて、やってられないですよね、実際の話」

     何故かすんなり信用できるのは、新堂の話し方から何か伝わってくるものがあるからだろう。安心した俺はグレンリベットを口に含む。

    「水野なんて、ただの金の無い乞食と一緒じゃないですか? 鳴戸は年中人に威圧をかける事だけが生き甲斐のサディスト野郎ですよ」

     新堂も店を辞めてスッキリしたのか、さっきまで鳴戸と水野の両オーナーをさん付けで呼んでいたのに、今じゃもう呼び捨てだ。しかもクソミソにけなしている。

    「相当あの二人にストレス溜まってたんですね」

    「特にあの水野の野郎のセコさ加減には、実際参りますからね」

    「以前、赤崎さんの話を聞いたことありますか?」

    「何かあったんですか?」

    「俺が鳴戸に呼ばれて外行っている時に、赤崎さんと水野が店にいたんですよ。それで出前とろうかってなったらしいんですよ」

    「もしかして水野の野郎は、それなのに赤崎君から金をとったとか?」

    「その通りです。赤崎君、千円だよって、言いながら手を差し出したらしいですよ」

    「ほんと、あいつはチンカス野郎ですね。オーナーなんだから、自分の部下に飯食うかと言っておいて、奢りじゃないなんてクソ野郎ですよ。たまにピンクの水玉模様のついた悪趣味なネクタイなんかしやがって、『どーだ、これ家の女房が選んだアメリカ式なんだ』って訳の分からない自慢するんですよね。ほんと大馬鹿野郎ですよ」

     新堂は水野の悪口になると一気に加速する。胡散臭い口髭にパンチパーマが伸びたインチキ臭い顔。そんな男がピンクの水玉模様のついたネクタイを締めて偉そうに自慢するのを思い浮かべると、思わず吹き出してしまう。

    「バカ水野って一応、奥さんがアメリカ人らしいですよ。以前、自慢してましたよ」

    「ほんとなんですか? 初めて聞いた……」

    「でも、自分もそのアメリカ人の奥さんの自慢話は散々聞きましたけど、写真一枚も見てないですからね。英語も全然話せないくせに……」

    「絶対に嘘ですよ。アメリカ式って言葉を使えば、きっと格好いいとでも思っているんですよ。何故ピンクのネクタイ締めるのが、アメリカ式なのか分かりませんけど」

    「いいじゃないですか。自分の中じゃ格好いいと思わせておけば。とても可愛そうな人なんですから、そのぐらいは温かい目で見てあげないと」

     本当に眠たくなってきた。そろそろ赤崎を誘い出す為の餌をまかないといけない。

    「新堂さん。今度時間作って赤崎さんと田中君も呼んで、みんなで飲みましょうよ」

    「いいですね。多分、鳴戸と水野の悪口大会になりそうですけどね」

     よし食いついた。今日はこの辺で切り上げておこう。

    「じゃあ、また連絡します」

    「岩崎さんもお大事にして下さいね」

     電話を切り終わると、ベッドに横になる。アルコールが効いていた。目を軽く閉じると、いつの間にか眠りに引きずり込まれていった……。


     意外と簡単に番号って変えられるもんだな。

     携帯のサービスセンターに行って、携帯番号を変えてきたところだった。

     歌舞伎町を歩いて偶然鳴戸と出くわすのも嫌なので、俺はすぐ新宿プリンスホテルに戻る事にする。

     途中酒屋に寄り、好きなブランデーやウイスキー、つまみ代わりにチーズやビーフジャーキーを大量に買い込み、ホテルへ向かう。

     部屋に帰ると、ボトルを綺麗に揃えて並べ、つまみ類は冷蔵庫に入れた。時間を見ると十一時ちょっと前だった。そろそろチェックアウトの時間か。

     備え付けの電話をとり、シャトレーヌに連絡を入れる。ホテルの従業員である江島に頼んで、今の部屋の宿泊日数を延ばす事にした。

     こうしてゆっくりできるのはなかなかいい気分だ。昨日までならとっくにダークネスへ出勤している時間である。

     赤崎は今日、出勤したのだろうか? その辺が気になるところだ。

     勝男はあのあと、修羅場だったろうな……。

     この部屋を知っている訳でもないし、俺の携帯に電話したところでもう番号は変えてあるから通じない。あのむつきとかいう女は金が無くなった勝男と一緒にいるようなタマじゃないのは容易に予想できた。

     勝男には酷な事かもしれないが、お詫びの気持ちも込めて百万の金を渡したつもりだ。それで風俗でもキャバクラでも行って、いくらでも他の女に慰めてもらえばいい。

     あいつの事だから、むつきとかいう女に、そのまま百万を渡していてもおかしくないが、どう使おうとそれはあいつの自由だ。

     それにしても、あのむつきという女……。

     結構どころじゃない、かなりいい女だった。

     バッティングセンターの時一度だけ電話で話したが、かなりの曲者だ。性格はひと癖もふた癖もあっててこずりそうだが、一度抱いちまえば女なんて大人しくなるもんだ。一度は抱いてみたい女だった。

     遠目で二度ほど、バッティングセンターの時と、この新宿プリンスホテルに入る時だけしか見ていないが、それでも俺がここまで思うという事は相当いい女だという証。今頃は、何故ダンボールが無くなっているのか勝男に食って掛かっているだろう。勝男の困る顔が頭に浮かぶ。

     ずっと忙しかったから急に暇になっても、何もやる事が見つからない。一時の孤独は人間をリラックスさせるが、リラックスしたあとの孤独とは、非常に辛いものである。

     本来俺って寂しがり屋だったのかな……。

     そう考えると口元がニヤついてくる。金は取り戻したんだ。もう何も言う事はない。いや、もしここに赤崎がいてくれたら……。

     携帯に手を伸ばす。赤崎の携帯番号を画面に出すが、思い留まる。携帯をソファーに投げつけた。

    「出てくれる訳ねえじゃねーか」

     俺はハッキリ拒絶されたのだ。あの時だけでいいから綺麗な女に生まれたかった。

     赤崎の言った台詞を思い出す。

    「す、すいません。俺、彼女いますし……」

     赤崎の口から出た彼女という存在。名前も顔も知らない赤崎の彼女に嫉妬を覚えた。俺の感覚がおかしいのは充分に分かっている。本来俺は、女性的な性格なのかもしれない。赤崎が普通の神経の持ち主で、俺が異常なだけなのだ。

     さっき買ってきたアルコールの中から、適当にボトルを一本手に取った。たまたま手にしたのは有名なコニャックのブランデー、ヘネシーのXOだった。

     さっきの酒屋でブランデーグラスもショットグラスも買ってある。俺は包装紙に包まれたブランデーグラスを取り出し、丁寧に包装紙を外す。取り出したブランデーグラスにヘネシーXOを注ぐ。

     冷蔵庫からミネラルウォーターとクリームチーズとクラッカーを取り出して、テーブルの上に置く。ミネラルをグラスに注ぎ、クリームチーズをクラッカーに塗る。

     ヘネシーを口に含みながら、チーズの乗ったクラッカーを口に放り込んだ。手軽に作れたわりには、なかなかうまい。

     しばらくはここで何も考えず、せめて顔のアザが消えるまで、ゆっくりと休息をとる事にしよう。

     もう一つクラッカーを口に放り込むと、俺は風呂場に行き、ユニットバスの排水口の栓を閉めてお湯を溜めた。廊下に着ている服を脱ぎ捨てて裸になる。

     カーテンを開けて、素っ裸のまま窓際に立ち、歌舞伎町の町並みを上から見下ろす。

     誰も、俺がここに素っ裸でここにいるのを気付く奴なんていない。そう思うと妙なざわざわした開放感が、体を支配して何ともいえない気分になる。

    「ざまーみやがれ、鳴戸の野郎」

     歌舞伎町の町並みに向かって叫んでみた。

     俺は変態だったんだ。このような奇妙な行動を明らかに楽しんでいる。

     股間の局部が興奮でギンギンに勃起していた。どこかで誰かが、窓に素っ裸のまま立っている俺を見ているかもしれないと思うと、さらに興奮してくる。

     心地良い快感に包まれながら、俺はしばらく街の光景を見下ろしていた。


     どのくらいこうして歌舞伎町の町並みを素っ裸で見下ろしているだろう。

     ギンギンになった局部を右手で握り、上下に激しく動かす。

     歌舞伎町の町並みを見ながらマスターベーションをする奴なんて、多分、俺が初めてだろうな。

     赤崎の顔を想い浮かべる。

     自分の想像の中だ。好きにさせてもらう。

     快感が絶頂に届くと、俺の局部は勢いよく射精し、精液が窓に掛かる。

     ゆっくりと垂れ流れる精液を見ながら、俺はブランデーを飲みだした。これじゃまるで精神異常者だな……。

     窓を見ながらニヤリと笑ってみた。

     風呂を見に行くと、バスタブにはお湯がいい具合に溜まっている。そのまま湯船に浸かった。なかなかいい湯加減だ。

     しばらく目を閉じ、全身をお湯に浸かるようにした。このままお湯の中に溶けることができるなら、きっと楽なんだろうな……。

     ん、待てよ。何でお湯に溶けるのが楽になるんだ?

     思考回路が明らかに狂い出している。俺みたいな人間は何の目的もなく暇だと、おかしな方向へいってしまうのかもしれない。

     別に構わないさ、おかしくなったって……。

     再び俺は、赤崎の事を想い浮かべた。

     また元気になる局部。湯船の中でマスターベーションを始めた。赤崎と一緒にお風呂へ入れたら、どんなに幸せだろうか。淫らな想像がどんどん膨らむ。

     湯船の中で俺は射精していた。

     完全に俺は変態の領域に入っている。

     湯船から出て鏡を見ると、ちょっとだけ顔のアザがひいているように見えた。

     ヘネシーXOのボトルを空けて、ベッドに横になる。

     天井がグルングルン回っているように見えた。相当酔っ払ったみたいだ。

     時計を見ようとしてもグルグル回っているので、何時なのかすら分からない状態だ。気持ち悪い……、吐き気を催す。

     立ち上がりトイレに行こうとするがフラフラしてしまい、あちこち壁に体をぶつける。やっとの思いでトイレに辿り着き、便器に屈み込んで一気に汚物をぶちまけた。

     結構胃の中のものを出したつもりだが、まだ気持ち悪い。俺は右手の指を喉の奥に突っ込み、さらに吐き続けた。

     完全に飲み過ぎだ……。

     出すものをすべて吐き出し、ヨロヨロしながらベッドへ倒れ込む。

     顔のアザが布団に擦れて、少し痛みを感じた。

    「赤崎やらせろー、この野郎。くわえさせろ、この野郎。ちくしょう!」

     言葉に出してみると案外スッキリするものだ。

     俺はベッドに突っ伏したまま、いつの間にか深い眠りに落ちていた……。


     どのくらい俺は眠っていたのだろうか……。

     何回か目を覚ましたが、意識が朦朧としていた。二日酔いも手伝いすぐに目を閉じる。

     ホテルのテレビを付けると、芸能人が振袖を着ている。

     ひょっとして俺が寝ている間、新年になったのか?

     最近の自分の時間が麻痺していて分からなくなっている。整理しないと……。

    「確か、鳴戸に抜きがバレてやられたのが二十九日。それで夜にこの新宿プリンスホテルで勝男と会って金を取り戻し、その日にこの部屋に泊まり……、翌日の三十日に携帯の番号を変えてから酒を飲み、夕方になる前に酔って寝た。……で、今が年を越していたって事は……、うーん……」

     時計を見ると昼だった。

     今が元旦だとすると、俺は二日間ほど寝っ放しだったのか?

     今の俺はどうしようもないグズだ。

     まあ今まで元旦だろうがお盆だろうが、ずっと休まずに仕事してきたんだ。ゲーム屋は仕事柄、年中無休だ。しかも二十四時間営業だから、コンビニエンスストアーとスタンスは変わらない。

     振り返ってみると、一生懸命ずっと頑張ってきた。

     客の機嫌を取り、台の設定を考え、従業員の面倒を見る。大変だったがその代償として、俺は売り上げから伝票を偽造したり、台の設定をいじったりと店の金をチョロまかしてきた。

     二年間で溜め込んだ金が今、目の前のソファーに置いてある。ダンボールの中へ無造作に入っている金。中身は二千万円。

     腹が急に鳴った。何も口に入れてなかったから当然だ。

     冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して一気に飲み干した。カマンベールチーズを食べて、クラッカーを口に放り込む。ビーフジャーキーをほお張り出す。

     多少空腹感が満たされると、赤崎は今どうしているのか気になりだしてくる。

     まだあの鳴戸と水野の経営する『ダークネス』で働いているのだろうか? 遅番の新堂と田中も一気に辞めてしまった今、新人の赤崎一人で店は無理だ。店を一時的に閉めている可能性はある。

     突然、部屋の電話が鳴った。

    「もしもし……」

    「あっ、岩崎さん。プリンスの江島です。さっき新年早々ダークネスへ打ちに行こうと思ったら、店が閉まってましたよ」

    「そうなんですか。まあ、そうでしょうね。ダークネスの遅番二人も辞めましたからね」

    「じゃあ、大変じゃないですか」

    「ええ、でも俺は辞めたんでどうだっていいですけどね。そういえば江島さん。あとこの部屋、一週間ほど滞在していいですか?」

    「え、別にいいですけど、お金、結構掛かりますよ?」

    「その辺は問題ないですよ。暇だし、この部屋結構気に入ってしまったんですよ。会計を先に払ってもいいですよ。お願いします」

     江島にお願いして電話を切るが、まだ空腹感を覚える。チーズやビーフジャーキーじゃ腹はそんな膨らまない。

     時間帯的にまだ昼だし、勝男も仕事明けでもまだ起きているだろう。勝男でも誘って昼食でも行くか。

     ポケットベルを鳴らす。十分ほどして勝男は電話を掛けてきた。

    「も、もしもし……。ど、どちらさまでしょうか?」

    「俺だよ、勝男。悪かったな、連絡遅れちゃって。疲れてたからずっと寝てたんだ」

    「や、靖史か! し、心配したんだよ。ぼ、僕は正月も変わらず仕事だけど、や、靖史、だ、大丈夫かなと思ってね」

    「今、どこにいるんだ。飯でも一緒に喰いに行かないか?」

    「い、いいけど、それならこの間、お、面白い喫茶店を見つけたんだ。い、一度その店に靖史を連れてきたかったんだ。そ、そこにしない?」

    「いや、あまり歌舞伎町はうろつきたくないんだ。それに新年早々その喫茶店やってるか?それなら新宿プリンスの地下二階にあるイタリアンはどうだ?」

    「イ、イタリアンって、どういう……」

    「おまえの好きなピザやパスタがメインの店だよ。肉だってあるしさ」

    「じゃ、じゃあそこにしよう」

    「俺は先に行ってるから、あとからおいでよ」

    「わ、分かった。プ、プリンスの地下二階ね」

    「アリタリアって店だぞ」

     電話を切ってシャワーを浴びる。勢いのいい熱いシャワーを浴びると、気だるさが徐々になくなっていく。

     しばらくはこうダラダラ過ごすのも悪くないものだな。鏡を見ると顔のアザはほとんど目立たなくなっていた。

     今、赤崎はどうしているのだろう……。


     料理を喰い終わって自分の部屋に戻る。

     勝男もあのマンションには戻りたくないと言っているので、俺の部屋に来させる事にした。

    「す、すごい広さだねー。ま、前にむつきちゃんと泊まった部屋よりも全然いいよ」

    「この間のシャトレーヌの江島さんが、気を利かせてくれたんだろ。結構安くしてくれたんだよ。まだここに滞在するつもりだけどね」

     勝男は景色を眺めていた。途中で窓の一点をしきりに見ている。

    「ね、ねえ、こ、この窓さー。何か垂れた跡があるよ。汚れかな?」

     俺がこの部屋に泊まった次の日に、窓に向かって射精した精液が垂れ流れた跡だった。そのままにしといたが、勝男にはただの汚れにしか見えないらしい。

    「ハハハ……」

     自然と笑いが出てくる。勝男は不思議そうな顔をしながら笑い出した俺を見ていた。

    「それよりも勝男、仕事は忙しいか?」

    「い、いやー、時期的に暇だから忙しくはないけど、きゅ、急に昨日で一人辞めちゃってね。そ、それでみんなのシフトが、バ、バラバラになったから、み、みんなブーブー言ってるよ」

    「飛んだんだ? その飛んだ奴ってどのくらいやってたの?」

    「い、一週間も働いてないよ。で、でも明日から一人、し、新人が入る予定だから、も、問題ないけどね。ま、真面目な奴だといいけど」

    「そうだな。真面目な奴だったらいいよな」

     俺は赤崎が入ってきた時の事を思い出していた。彼が最初に言った挨拶はまだハッキリと覚えている。

    「始めまして、赤崎です。右も左もまだ分からない新参者ですが一生懸命に頑張ります。よろしくお願いします」

     もうあれから一ヶ月以上の月日が経つなんて、時間が経つのは本当に早い。今頃、どこで何をしているのだろう。

    「ど、どうしたの? や、靖史」

     話している途中、急に考え事をしたので勝男が心配そうに声を掛けてきた。今俺は、こうしてゆっくり過ごしている。現時点で赤崎の事を考えてもしょうがない。

    「勝男、ここでよければゆっくりしていけば? 仕事明けで疲れてんだろ。ベッドで寝てていいよ。仕事行く時間になったら起こしてやるからよ」

    「そ、そんなー、わ、悪いよ」

    「遠慮すんなって、俺とおまえの仲じゃねえかよ。俺はさっきまで寝てたから、全然眠くないんだよ。ゆっくり休みな」

    「あ、ありがとう、靖史。じゃあ、お、お言葉に甘えさせてもらうよ」

    「シャワーから何から好きな物使っていいから、冷蔵庫につまみもあるし、そこに並んでいる酒も好きに飲んでいい」

    「あ、ありがとう、靖史」

     勝男は目をウルウルさせていた。

     昔からの腐れ縁だ。そして俺が唯一信頼のおける友達でもある。この関係だけは大事にしたい。

     正月の元旦、ホテルの一室に二十三歳の男が二人いる。一人はダブルベッドで寝て、もう片方はソファーからテレビを見ている。はたから見ると、かなり異常な風景だろう。

     ベッドを見ると、勝男は熟睡していた。

     テレビを消す。音の無い空間になった。

     俺は勝男が目を覚まさないように、入った金のダンボールとカードキーを持って静かに部屋を出て行く。二日間ほど寝ていたので、体力は有り余るくらいあった。


     とりあえずこのダンボールの金を貯金しておこう。待てよ……。今日って元旦だろ? 銀行などやっている訳ねえじゃねえか。

     すぐ部屋に戻り、ダンボールを置く。このまま持ち歩くのは物騒だ。

     俺が戻っても、勝男はピクリともせず熟睡している。

     一服してから、もう一度外に出た。

     歌舞伎町の街をうろついて、バッタリ鳴戸に出くわすのも嫌だ。適当に目についた風俗でも久々に行ってくるか。

     ブラブラしながら一番街通りを通り過ぎ、セントラル通りを通過し、さくら通りに出る。途中の細い道に入ると、ある看板に気付く。

    『性感ヘルス モーニングぬきっ子』

     こういう馬鹿な名前の店って、ロクなもんじゃないだろう。

     時計を見ると午後の四時だった。時間的に全然モーニングじゃない。店のネーミングセンスを疑ってしまう。

     表に貼ってある料金表を見てみた。三十分で九千円、五十分で一万三千円。相場的には、まあまあこの街に適した値段設定である。

     暇だし、写真だけでも見ていくとするか。

     期待もせず自動ドアを開け、モーニングぬきっ子という名前のヘルスに入る。

    「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」

     ひ弱そうな細い体のメガネを掛けた店員が出てくる。

    「ええ、どんな感じの子がいるかなって思いましてね。いい子いるんですか?」

    「もちろんですよ。お客さん運がいい。今ならメチャクチャ美人の子がつけられますよ。写真だけでも見て行って下さいよ。ほんとに可愛いんですから」

    「どの店に行ったってそう言うの、常套手段じゃないですか」

    「写真見学だけなら一切お金掛からないですから。お客さん、写真見るだけでもどうです?見ていかないと、絶対損しますよ」

    「分かりましたよ。見るだけなら……」

    「写真はこちらです」

     受付けから薄い壁を一枚隔てた隣の小さな待合室に案内されると、ポラロイドカメラで撮影した色々な風俗嬢の写真が、木の板に無造作に貼られていた。

     こういう場所は、ポラロイドの写真が一番信用できる。誤魔化しが利かないからだ。

    端から見てみると、思った通り大した女はいなかった。

    「ん……」

     一枚のポラロイド写真に目が止まり、そこに視線が釘付けになる。

    「あれ、お客さん。モモさんがタイプですか? この子は、当店、ナンバーワンですよ」

     店員が一生懸命話し掛けてくるが、何も耳に入らなかった。

     しばらく呆然としてその場に立ち尽くしてしまう。

     このモモとかいう女……。

     この間、ベッタリ勝男にくっついていたむつきとか言う女にそっくりだった。いや、そっくりというレベルではない。正に本人そのものだ。

     俺はバッティングセンターとプリンスホテルに入る時に遠目ではあるが、ハッキリ顔を見て覚えている。

     向こうは電話で話しただけなので、俺の顔などまったく知らないはず。

     ひょんな事からこの店に入ったが、指名して様子を伺うのも面白い。

     仮にむつきとは別人だったとしても、この写真通りなら、これだけいい女もそうそういないだろう。

    「あのー、お客さん。どうかしましたか?」

    「店員さん。このモモって子いるんでしょ?」

     俺は写真に向かって指を指した。モモ、いやむつきの写真は、可愛らしい笑顔で写っている。偽善に満ちた笑顔。俺はこの女の正体を知っている。

    「もちろんいますよ。運がいいですね。今だったらすぐに、おつけできますよ」

    「じゃー、この子指名で、うーんと時間は五十分で……」

    「かしこまりました。では初回の入会金二千円と指名料二千円。お客様は五十分なので、一万三千円で合わせて一万七千円になります」

     俺は財布からちょうど取り出して店員に金を渡す。そのまま待合室にあるソファーに腰掛け、タバコに火を点ける。

     改めて写真を見る。何度見てもモモは、むつきそのものだ。

    「お客さま大変お待たせしました。ご案内です。こちらどうぞ」

     待合室から出て少し歩くと、通路に安っぽいカーテンがひかれている。店員がカーテンに手を掛けた。

    「はい、モモさんでーす」

     声と同時に店員はカーテンをひく。

     俺の目の前に一人の女が立っていた。

     目の前で現れた女は間違いなく勝男と一緒にいたあのむつきだった。

     動揺を抑えるのに一苦労だ。出来る限り表情に出さないよう努めた。

     モモと名乗る風俗嬢は、ニッコリと微笑んでくる。確かに身震いするぐらいいい女だ。勝男が一気に夢中になったのも理解できる。

     この女にむつきと言ったら、どんな顔をするだろうか?

     そう思うと、思わず口元がニヤけてくる。

    「いらっしゃーい、モモです。んっ……、どうしたの? 何かニヤニヤしちゃってさ」

     むつきは俺の顔を上目遣いで見てくる。思わずゾクッとするような妖しい魅力的な目。この女を抱いて、メチャクチャにしてみたいという欲望に駆られる。

    「いや、こんな綺麗な子が出てきたからビックリしてるだけ」

    「もう、お客さんたら、すごい口うまいんだから」

     肩を軽くピシャッと叩き、むつきは俺の手を握ってくる。とても小さな柔らかい手だった。そのまま薄暗い通路を導かれて進む。

    「そこの九番のお部屋ね」

     九と書かれたドアをむつきが開ける。中は二畳ほどの小さい部屋だ。むつきは俺のコートと上着を丁寧に脱がせて、ハンガーに掛けた。

    「お客さん、ここ来るの初めてでしょ?」

    「ああ、初めてだ」

    「その割には落ち着いているわね。他の店にも色々と行ってんでしょ?」

    「多少はね、でもこんないい女が出てきた事は、今までなかったよ」

    「ほんと、口がうまいわねー」

     ニコニコしながら、むつきもキャミソールを脱ぎだした。

     俺もズボンや靴下、パンツを脱ぎ、バスタオルを手に取る。むつきの体から出る色気に興奮して、俺の局部はギンギンになっていた。見られないよう素早くバスタオルを巻きつける。

     準備が終わると、むつきもバスタオルを胸から巻きつけ、身支度を整えたところだった。

    「じゃ、シャワー行こうね」

     むつきは部屋にある内線電話の受話器を手に取る。横から見てもすごいプロポーションだった。思わず、バスタオルをむしり取りたくなる衝動を懸命に堪える。

    「シャワー入りまーす」

     受付けに連絡してシャワー室へと向かう。

     束の間の疑似恋人体験を演出しているつもりなのか、むつきはシャワー室に向かっている最中も手を繋いでくる。

    「あら、もうビンビンじゃない」

    「言ったろ、風俗でこんないい女に初めて会ったって」

     シャワー室に入るとバスタオルを取り、お互いに裸になる。

     むつきの体は惚れ惚れするぐらい素晴らしいプロポーションだった。圧倒的な威圧感。この体は反則である。顔良し、スタイル良し、サービス精神も良し……。

     このモーニングぬきっ子で、ナンバーワンと店員が言っていたが、歌舞伎町のどの店に行ってもこいつなら、絶対にナンバーワンになれるだろう。

    「すごいエロい体だな。今日はほんとにラッキーだ」

    「何人にその台詞、使ってんのよー」

     むつきは笑顔を俺に向けながら、シャワーの温度を手で確認している。

    「これぐらいの温度で調度いい? 熱くない?」

    「ああ、問題ないよ」

     俺の体に暖めのシャワーを掛けてくる。むつきは首を傾げ、何か考えているような表情をしていたので声を掛けた。

    「何だ。どうかしたか?」

    「うーん、あなたの声って、どこかで聞いたことあるのよね」

    「気のせいだろ」

    「うーん……」

     一生懸命何かを思い出そうとしている。こいつはバッティングセンターの時に、電話でちょっと話しただけだから、気付く事はないだろう。

    「おいおい、仕事しろ、仕事」

    「あっ、ごめーん」

     むつきはペロッと舌を出してからボディソープを手に取り、俺の首の周りから肩、脇の下、胸、背中といやらしい手つきで洗っていく。

     ギンギンになっている俺の一物にもゆっくり撫で回しながら丁寧に洗う。

     シャワーで流し終えるとそのまま下にしゃがみ、俺の局部を形のいい口にくわえ始める。

     すごい舌使いだ。でも、こんなシャワー室で果てる訳にはいかないので、むつきの頭を手で押さえ、ゆっくり離させる。

    「アハ……、もういきそうになったんでしょー?」

    「うるせー、そういうのは部屋に行ってから、やれって」

     むつきは立ち上がり、得意そうな顔をしている。

    「私は超テクニシャンなのだ」

    「はいはい」

     むつきはプラスチックのコップを取り、イソジンの液体を入れてからシャワーのお湯を足し、俺に差し出してくる。

    「じゃー、これ……、うがいしてね」

    「あ、ああ」

     取ろうとすると、むつきは意地悪そうな顔をしてコップを引いた。そのままむつきはコップの中身を口に入れ、不思議そうな顔をしている俺に迫ってキスをしてくる。自分の口に含んだ液体を口移しでゆっくりと流し込んできた。

    「こっちのうがいのほうがいいでしょ?」

     俺はガラガラとうがいして、下に吐く。

    「もう一回したい?」

    「ああ」

     すっかりむつきのペースだ。また口移しで流し込んでくる。

     うがいをし終わると、バスタオルで俺の体を丁寧に拭いてくれた。

    「じゃあ、お部屋に戻ろうか? シャワー出まーす」

     俺とむつきが今こんな事をしているのを勝男が知ったら、絶対あいつに殺されるだろうな……。

     シャワー室から部屋に戻ると、むつきはバスタオルを両手でとり、見事な裸体を披露した。俺の視線は、自然とむつきの体に釘付けになる。

    「ほーら、ボーっとしてないで、ベッドに横になってよ」

     言われるまま、俺はベッドに横になる。

     むつきが俺にまたがってきた。

     蛇の舌のような動きで全身を責めてくる。俺の体は快感で酔いしれる。この女、自分で言うだけあって物凄いテクニックだ。

     むつきの舌の動き、口から漏れる生暖かい吐息、形のいい豊満な胸が、たまに俺の体にかすってくる感触。

     もうそろそろ限界だ……。

     我慢できそうにないので、俺は体勢を入れ替え、攻めに転じた。

     むつきの素晴らしいプロポーションをじっくり眺めてから、舌を絡め合い、乳首を貪る。むつきの体はとても敏感で、攻める度にピクリと体をよじらせた。

     これだけよがられると男冥利に尽きる。俺はこのままどうしても、この女に入れたくなってしまった。

    「気持ちいい……」

     とろけそうな視線で俺を見るむつき。それを見て、さらに興奮は増してくる。何という色っぽい声なんだろう。これ以上の興奮があるのだろうかと思うぐらい、気分が上昇していく。

    「気持ちいいか?」

    「うん、あっ、そこっ……、いいっ!」

     むつきの体が激しく動く。こんなエロい女見たことがない。

    「モモ……。なあ、入れていいだろ?」

    「駄目! ここはヘルスでしょ? 本番は駄目なの」

    「そんなの分かってるよ。でも気持ちいいだろ? だからやらせろよ」

    「ダーメ」

     むつきのガードは固い。

     俺が強引に入れようとしても体を仰け反り、手でしっかりとガードして絶対に俺の局部の侵入を許さない。

     余計に俺はムキになって入れようとする。

    「駄目だったら! やめてよ」

     むつきが真剣な顔つきになっていく。俺はもう何を言われても収まらない状態になっていた。

    「これ以上、しつこいと店員呼ぶわよ?」

    「うるせー、いいからやらせろよ、むつきっ!」

     ここではモモと言う源氏名だが、つい本名を言ってしまった。

     散々抵抗していたむつきの体が、俺のひと言で動きが止まり、こちらを不思議そうな顔で凝視している。

    「な、何……、で……、私の……、名前……、知って……、るの……」

     俺は隙ができた瞬間を見逃さなかった。

     腰をむつきに向かって力強く突き出す。俺の局部がむつきの体の中に突き刺さる。入れた途端、むつきの表情が歪みだす。すごくいい表情をする女だ。

    「だ、駄目っ! あっ、ぬ、抜いてっ……、あんっ!」

     入れてしまえばこっちのものだ。

     俺は口元をニヤケながら、むつきを見つめる。もうこれで俺のペースだ。

     むつきも初めのうちは抵抗していたが、やがて快感に支配されたように自分から腰を振り始めた。

     あまりの気持ち良さに、俺もすぐに果ててしまった。



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