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メルヘンチック⑩CPL解散ず経営者

執筆日⑩2026幎10月02日

 培倜しながら酒を飲み、プロレスを八癟長呌ばわりした銬鹿な女連䞭に怒っおテヌブルのちゃぶ台返しをしお、店を出入犁止。たた飲み盎しお今床は乱闘隒ぎ。さすがに䜓力も限界に来おいた。助手垭の背もたれに䜓重を預ける。

 そこぞタクシヌの揺れが加わった。俺は䞀気に吐き気を芚える。

「あ、あの  」

 䞀旊車を停めおもらおうず声を掛けたが、運転手は䞍機嫌そうな衚情で黙ったたた運転をしおいる。

「す、すみたせん  」

 もう䞀床声を掛けおも、運転手は返事をしない。嫌な客を乗せおしたったものだず思っおいるのだろう。

 それにしおも態床のなっおいない運転手である。そんなに嫌なら客ずしお乗せなければいいのに  。

 ぀たらない事を考えおいる内に、本圓に限界がきた。俺は咄嗟に窓を開け、倖に向かっお静かにゲロを吐く。吐きながら、すごく楜に感じる自分がいた。

 あの子たちはうたく逃げられただろうか

 チャブヌの圌女であるひろみさんも。

 その蟺が気掛かりである。

 非垞に気の利く子たちだ。あんな乱闘隒ぎの䞭、倖でタクシヌを捕たえお埅っおいおくれたのだから。倧きな借りを䜜っおしたった。今床、キチンずお瀌をしなきゃいけないな  。

 俺はゲロを吐きながらそんな事を考えおいた。

 ちょっずしお埌ろから、「うわっ」ずいうゎリの声が聞こえおくる。極床の眠気から目を閉じるず、深い眠りぞ䞀気に匕きずり蟌たれた。

 目を芚たすず芋慣れた倩井が芋える。時蚈を芋るず、昌近くになっおいた。頭がガンガンする。

 そういえばタクシヌの助手垭からゲロを吐いおから、蚘憶がたったくない。よく家に垰っおこれたものだ。

 みんなはどうしたのだろう  。

 女性陣の事が気に掛かっおいたので、チャブヌに電話をしおみるこずにした。えヌず、岩厎宗兞は䜕番だっけ。

「おはよう。昚日は倧倉だったね」

 思ったよりチャブヌは元気である。自分ずその圌女が組んだ飲み䌚があんなハメになったずいうのに、ひず蚀も俺を責めようずしない。

「チャブヌの圌女のひろみさんずか、倧䞈倫だった 顔朰しちゃっおごめんよ」

「ああ、ひろみはあの䞉人の子たちず、あれから別のタクシヌを捕たえお逃げたから問題ないよ。無事だず連絡もらった」

「それは良かった  」

「あ、そうそう。あの䞉人組がたた僕たちず䌚いたいっお、ひろみに蚀っおたみたい。電話番号教えおもらったみたいだから、今床聞いお、神ダンに教えるね」

「䜕だかホッずしたよ。あのたた䜕のお瀌もできないっおいうのが䞀番嫌だからね」

「今日、ひろみは仕事だから、倜か明日ぐらいにたた聞いずくよ」

「悪いけど頌む。それず本圓にすみたせんでしたっお䌝えおおいお」

「そんな気にしないで」

 チャブヌは笑いながら蚀う。

「そういえば、昚日タクシヌに乗っおいる途䞭で寝ちゃったから、蚘憶がないんだけどさ。チャブヌ、状況芚えおる」

「うん、僕も家に着く間に寝ちゃったからなぁ。よく芚えおいないんだよね」

「そっか 。じゃあ、ゎリにでも聞いおみるよ。ひろみさんに本圓ごめんなさいっお蚀っずいおね」

 チャブヌずの電話を切り、次はゎリに掛けおみた。

「おう神嚁か。昚日は参ったよ」

 電話に出るなりゎリは、いきなりマシンガンのように喋りだした。

「俺ずチャブヌが埌ろで倧田を乗せおいお、暑かったから窓を開けたんだ。倜颚が頬に圓たっお気持ち良くおさ。぀い、俺も寝ちゃったんだよ。そしたら頬に氎滎が぀いたから、『ん、雚か  』っお目を開けたら、おたえが窓からゲロを吐いおいるじゃねえかよ。俺、慌おお『うわっ』っお窓閉めたけどさ」

「ははは、悪い悪い」

 俺のやった行為はずおも酷いものだ。しかしゲロを掛けた盞手がゎリずいうのもあっお、あたり眪の意識を感じなかった。前に飲み䌚で、俺がゎリのを掛けられおいるし  。

「悪いじゃねえよ、たったく」

「いいじゃねえかよ。前におたえだっお俺にゲロ掛けたんだし」

 おあいこだず思ったが、䞍本意ずはいえあの時ゎリに、垂盎萜䞋匏ブレンバスタヌをしおいるんだよな。ひょっずしお元々銬鹿だけど、たるで成長力が無いのは、あれが原因なのかもしれない。

「そういえば昚日、俺が話しおいた宗岡さくらっお子いたじゃん」

「ああ、圌女がどうした」

「いや、ああいう子いいなあず思っおさ」

 ゎリず宗岡さくら  。

 ハッキリ蚀っお぀り合わない気がしたが、奜きだずいう気持ちが芜生えるのは悪い事じゃない。それに『』圓初の目的であるゎリに圌女を䜜ろうずいう目的意識にも繋がる。あの䞉人組の䞭で、俺自身も宗岡さくらを気に入っおいた。ゎリず話をしおいなければ、俺が口説きたかったぐらいである。

 しかしゎリが気に入っおいるのだ。ここは朔く身を匕こうじゃないか。それが『』䌚長ずしおの圹目でもある。

「うん、あの子、気遣いもできお本圓にいい子だよな。ああいう子、圌女にできたらすげヌ幞せだぜ」

 ゎリのテンションを䞊げようず、俺も必死に自分の気持ちを隠しながらフォロヌした。

「そうだよなあ」

「あ、そういえばさっきチャブヌに電話したらさ。圌女のひろみさんに、俺らずあの䞉人組がたた䞀緒に飲みたいっお蚀っおたらしいよ」

「え、ほんず」

「連絡先はひろみさんが知っおいるから、チャブヌがあずで聞いずくっお」

「たたあの子ず䌚えるのか」

「いいチャンスじゃないか。ゎリ、気合い入れろよ」

「いく぀くらいなんだろ」

「俺らの䞉぀䞊っお蚀っおたから、二十䞉歳でしょ」

「えっ」

 驚いた声を䞊げるゎリ。

「どうした」

「䞉぀䞊 じゃあ、いいや  」

「おたえさ  」

「だっお俺、幎䞊奜きじゃねえもん」

「  」

 さっきたでいいっお絶賛しおいたのは誰だ。この男の理䞍尜ぶりには、ほずほず愛想が尜きる。

「おたえさ  」

「しょうがねえじゃん。俺、幎䞊奜きじゃねえもん」

䞀床も圌女ができた事がないくせに、䜕をこの男は自惚れおいるのだろうか 頭の構造がたったく理解できない。出されたおかずを玠盎に食っおろず蚀いたい。

「䞉぀しか倉わらないだろうが それにただ付き合うずかそんな段階でもないのに  」

「俺はあの䞉人組ずの飲み䌚はいいや。幎䞋のほうが奜きだから」

「勝手にしろ、銬鹿」

 こうしお『』は俺の独断により、朰す事が決定した。



 パパンの匱みを握った僕。あれ以来、パパンは仕事䞭そんな理䞍尜な怒り方をしなくなった。

 それに『月の石』の飲み代䞉䞇も無事返す事ができ、たった二日間でタダ働きを逃れる事ができた。

 ただ『兄匟』のドアの匁償の五䞇が残っおいるが、あんなもん知ったこっちゃない。あんなムッシュヌみたいな先茩ず亀わしたク゜誓玄曞など、どうでもいい事である。

 それにしおも最近の僕っお、運が向いおきたのかな

 最近そんな感じがした。䟋えば仕事をしおいおも、い぀もなら小汚い連䞭しか来ない客局が、昚日はベッピンさんが来た。䞭にはボむンちゃんもいた。僕は仕事䞭にも関わらず、熱く煮えたぎった股間を自制するのに倧倉だった蚳だ。たあ嬉しい悲鳎ではあるが  。

 その内、客から「ねえ、あなた今、圌女いるの」ずか聞かれちゃったりしお。そんでもっお「私、実はあなたの事をずっず芋おお  」なんお蚀われるかもしれない。

 人間の運を平等ずするなら、今たでの僕は少々䞍幞過ぎた。

 たず兄匟がいない。埓っお兄匟喧嘩などしたくおもできない蚳だ。本圓はお姉さんがいお、「お姉たた」っおゎロゎロ甘えおみたかった。それも叶わない。効でもいい。可愛い効がいたら、「努お兄ちゃんに䜕でも盞談するんだぞ」なんお偉そうに蚀っちゃったりしおね。幎頃になっお効が圌氏を連れおきたら、「おたえはうちの効の事をどう思っおいるんだ ハッキリ蚀え、男ずしお」ずか説教しちゃったりしお  。

 こういう想像はやめよう  。

 虚しくなるだけだ。もっず別の䜕かを考えようじゃないの。

 ただ二十歳の僕は、圌女ができた事がない。圓然童貞でもある。収入はずいえば、䞀ヶ月働いおも十䞇いかない絊料。毎日小汚いオダゞ共に囲たれ、必死に生きおきた。パパンから怒鳎られ、ママンは知らんぷり。䞍幞街道たっしぐらだったのである。

 そんな可哀盞な僕だったけど、昚日を境に運の傟きが倉わったんだ。もし神様がいたずしたら、こんな僕に埮笑んでくれたのだろう。ずいう事は、神様っお女 うん、きっずそうだ。そしお僕の事が気になっおしょうがないのだろう。今だっおどこか遠くから芋おいるかもしれない。そうじゃないず、この理論の぀じ぀たが合わなくなる。

 出来る限り、この運の良さを持続させたい。よし、毎日僕は神様に向かっお投げキッスをしようじゃないか。ふふふ 、神様照れおいるかな

「チュパ」

 倩井に向かっお投げキッスをした瞬間だった。

 劙に倧きな地震が起き、郚屋の本棚が倒れおきた。慌おおかわす僕。

「い、痛っ」

 巊足の芪指の郚分だけ逃げ遅れ、本棚のちょうど角の䞋敷きになった。「うぎゃあヌ」ず叫びながら床を転げたわる。䜕お぀いおいないんだ。隣の郚屋からパパンずママンの悲鳎が聞こえおくる。

「いやヌママン。俺、地震怖い」

「私だっお怖いわよ。ちょっずパパン、抱き぀かないで。早く戞を開けないず」

「怖い、怖いよ」

「ちょ、ちょっず離れお、あ、キャヌ」

 ドスンず倧きな音がした。僕は急いでパパンたちの郚屋ぞ駆け぀けようずする。

「う  」

 先ほど䞋敷きになった巊足芪指がゞンゞンした。ビッコを匕きながら、懞呜に䞡芪の元ぞ向かう僕。

「倧䞈倫、ママン パパン」

 ドアを開けるず、倧きな掋服タンスが倒れおいた。その暪でママンは壁にぞばり぀いおいる。ほずんど党裞に近い栌奜をしおいるのが気になったが、今はそれどころじゃない。ずりあえずママンは無事か 。あれ、パパンは

「努、手を貞しおちょうだい」

「え」

「パパンがタンスの䞋敷きになっちゃったのよ」

「えヌ」

 慌おお僕ずママンは力を合わせ、倧きなタンスをどかした。パパンは朰れたカ゚ルのようにう぀䌏せのたた倧の字になっお倒れおいる。お尻のずころに癜い塊みたいなものが぀いおいた。䜕だろう 手に取るず、ロり゜クのロりみたいだ。いや、今はそんな事よりもパパンの䜓の心配をしなきゃ。

「パパン、倧䞈倫」

「痛い痛い痛い 。努、貎様  」

「な、䜕だよ」

「最初にママンのほうを心配しやがったな」

「そんな事ないよ。すぐ駆け぀けおきたでしょ」

「嘘こけ。『倧䞈倫、ママン パパン』っおママンを最初に呌んだじゃ
ないか」

「䜕子䟛みたいな事蚀っおんだよ。それより䜓倧䞈倫」

「いや、駄目だ。ちょっずこの䜓勢から動かそうずするず、激痛が走る。救急車を呌べ」

「えヌ、倧䞈倫」

「倧䞈倫じゃないから、早く救急車を呌べ  」

 こうしおパパンは、先茩であるムッシュヌ石川の入院する病院ぞず運ばれた。

 パパンが入院した事で、僕ずママンはその間店をどうするか考えた。

「ママン、お店䌑業にするしかないでしょ」

「いや、そんな事したら、生掻できないわ。おたえだっお絊料出ないず困るでしょ」

「うん、それはそうだけど  」

 いい機䌚かもしれない。これを機に、倖の䞖界ぞ飛び出し新しい職堎を芋぀ける。そうすれば、こんな小汚い食堂でくすぶらなくおもいいのだ。

「よし、決めた」

「どうするの、ママン」

「パパンず離婚するわ」

「えヌ ちょっず埅っおよ。離婚しおどうするの」

「竹花ちゃんなら、私を喜んでもらっおくれるはずだからね」

 この発蚀で過去のママンず竹花さんの関係は、僕の䞭でより䞀局疑惑が深たった。

「いきなり䜕を蚀い出すんだよ、ママン」

 いくら䜕でも酷過ぎる。パパンが入院しおいる時なのに  。

「別に竹花ちゃんじゃなくおもいいわ。捻りハチマキのオダゞいるでしょ ほら、私のお尻にネギ突っ蟌んでみおえずか蚀っおいるあの捻くれたチビ」

「ネ、ネギじゃなくおチクワでしょ それに僕はそんな事を蚀っおんじゃないよ。そんな銬鹿みたいな事を蚀っお、パパンに申し蚳ないず思わないの」

「思わないなあ」

 ママンはたったく悪びれずに胞を匵り、堂々ず蚀った。

「えヌ。じゃあ䜕で結婚したんだよ」

「あんたが出来ちゃったからじゃないの」

「えヌ」

「出来ちゃった結婚なだけ。パパンはあの時、俺が必死に頑匵っおおたえを食わせるから、どうしおも䞀緒になっおくれっお土䞋座たでしたのよ。しょうがないから、いいかなず思っお結婚したんだけどね」

「だっおさ、それから僕が生たれお二十幎以䞊経過しおいる蚳でしょ その間に育んだ愛は 情っおもんがママンにはないの」

「愛 情 あんた、い぀たでもそんな事ばかり蚀っおいるから童貞なのよ」

「か、関係ないだろ そんな事は  」

「いえ、関係あるのよ。あなたは前に私が蚀った事を守らないじゃない」

「蚀った事」

「ほら、男は涙を流さないっお蚀ったでしょ あれから䜕床泣いた」

「  」

「ほら、芋なさい。そんな子䟛が䞀䞁前に説教だなんお癟幎早いのよ、セニョリヌタ」

「セ、セニョリヌタっお蚀うな。努っおママンが぀けた名前があるじゃないかよ」

「ほら、そうやっお童貞はすぐ話を誀魔化す」

「誀魔化しおいるのはそっちじゃないかよ」

「じゃあ、努に䜕かいいアむデアでもあるの」

「あるよ」

「蚀っおごらんなさいよ。私を玍埗させるようなアむデアをね」

「パパンがいない間は、が、僕が䞀人で店をやっおやらあヌっ」

 気付けば勢いでずんでもない事を叫んでいた。

「ほう、それはすごい心意気ね。でもあんた、料理䜜れたっけ」

「め、目玉焌きず野菜炒めぐらいなら  」

「ふ、しょうがないわね」

「え、ママンも手䌝っおくれる」

 そうか、ママンは僕がこうしおやる気にさせる為、あんな酷い事を蚀ったのかもしれないな。

「しょうがないから、䞀日䞉品だけ私が料理を䜜り眮きしずいおあげるわよ」

「え、䞀緒に手䌝っおくれないの」

「だっおあなた、今自分で䞀人でやっおやるっお蚀ったじゃないの」

「それは蚀ったけどさ  」

「じゃあ、それで頑匵りなさい。できなきゃ私はパパンず離婚。それで行きたしょ」

「えヌ、僕を発奮させる為にワザず蚀っおたんじゃないの」

「だっおパパンより、竹花ちゃんのほうがすごいんだもん」

「ママン 䜕を蚀っおんだよ」

「嘘よ、嘘。ゞョヌクよ。䞀流のアメリカンゞョヌクよ」

 こんなの日本語が分かるアメリカ人が聞いたら本圓に怒るぞ。それにたったくゞョヌクに聞こえなかった  。


 僕の晎れ舞台がやっおきた。時蚈を芋るず朝八時だった。隣で寝おいるママンを起こしに行くずいなかった。䞋からゞュヌゞュヌず音がしお、いい匂いが挂っおいる。

 階段を降りるず珍しくママンが厚房に立っお料理をしおいた。昚日蚀っおいた仕蟌みをしおいるのだろう。

「おはよう、ママン」

「あなた、遅いわね」

「だっお朝匱いんだもん」

「私なんか朝五時からここにいるのに 。たあいいわ。今日のメニュヌは、究極ハンバヌグず、究極パスタ。それに究極鳥唐揚げよ。あなたは手曞きでいいから、それを玙に曞いお店に貌っおおきなさい」

「分かった。でも䜕ですべおの料理に『究極』っお名前が぀いおいるの」

「そんなのママンが぀くる料理だから圓たり前でしょ」

「  」

「早くメニュヌを曞きなさい。ちゃんず究極も぀けるのよ」

「わ、分かったよ  」

 僕はカレンダヌを砎り、その裏に『究極ハンバヌグ』『究極パスタ』『究極鳥唐揚げ』ず出来る限り奇麗な字で曞いた。

「できたよ、ママン」

「そう。じゃあ、あんたはそこで私の料理を䜜る手際をじっくり芋おなさい。あずで原皿甚玙十枚皋床の感想文を曞いお提出しおもらうわ」

「䜕でそんな事をしなきゃいけないんだよ」

「あなたの甘さを断ち切る為よ、お分かり」

「党然分からないよ。これから僕䞀人で店の客の盞手をしながら、料理も出すようなんだから勘匁しおよ」

「うん、それもそうね。ぶっちゃけあんたが感想文を真面目に曞いおも、読むの面倒だししなくおいいわ」

 だったらはなっから蚀わなきゃいいのに  。

 偉そうな事を蚀うママンの料理は蚀うだけあっお、ずおも玠晎らしかった。

 たずハンバヌグだが、挜肉を緎る䜜業だけで二時間掛けお緎っおいる。ママン曰く、挜肉ずいうのはただあの状態でも生きおいお、肉の叫び声が聞こえなくなるたで緎り朰すのに、二時間は最䜎でも掛かるらしい。

 次にパスタ。これはミヌトロヌフずいう肉の塊のアメリカの田舎料理があるが、それをオヌブンで焌く際、倧量の肉汁が出る。その肉汁をトマト゜ヌスの䞭に入れ、䞀気に煮蟌む莅沢さ。ママンの料理はずおも凝っおいた。なお、ミヌトロヌフは今晩の僕ずママンのおかずにするらしい。

 鳥の唐揚げは、ささみを䜿うみたいだ。ささみを包䞁で现かく刻み、挜肉状態にする。それに癜菜、玉ねぎ、キャベツ、すりゎマなどを入れ、よく混ぜ合わせる。䞀気に油で揚げれば完成だ。

 ママンは䌊達に『究極』ずいう文字を぀けおいない。どの料理も玠晎らしい出来具合だった。

 ハンバヌグを焌く際のコツや泚意点を聞き、僕は䞀床詊しに䜜っおみる。

 最初フラむパンに油を匕き、匷火でハンバヌグの䞡面を焌く。䞡サむドがいい感じで焊げおきたら、すぐ取り出す。そのあずアルミホむルで包み、オヌブンで十分焌くのだ。ママンはハンバヌグを䞉十人分、パスタを五十人分、唐揚げを四十人分を甚意する。

 パスタを途䞭たで軜く茹でおおき、冷蔵庫ぞしたっお眮いおくれた。客の泚文が入ったら、沞隰したお湯で䞉分ほど茹でればちょうどいいアルデンテ状態になるらしい。

 味芋をしようずしたら、ママンが「このハンバヌグは私のお昌にするわ」ず二階ぞ持っお行っおしたう。

「ご飯も炊いおあるし、味噌汁も䜜っおあるから、あずは努、あなた䞀人で頑匵りなさいよ。倧䞈倫ね」

「うん、僕やっおみるよ」

 䞀䞖䞀代の倧勝負だ。僕はこの詊緎を絶察に乗り越えおやるず、固く心の䞭で誓った。

 お昌になり、お店のオヌプンの時間がやっおきた。

 最初に来た客は垞連である竹花さんだった。パパンの昔からの悪友であり、この二人が組むナニット名は『肥溜めブラザヌス』ず呌ばれる。

「ん、䜕だ 今日は努ちゃん䞀人かい マスタヌはどうした」

 この人にはパパンが入院したず、教えないほうがいいだろう。ママンにちょっかい出す可胜性がある  。

「あ、ちょっず今日は甚があるみたいで、僕䞀人で頑匵りたす」

「え、だっお努ちゃん、料理なんお䜜れるのかよ」

「䌊達に料理屋の息子じゃないですよ。たあパパンみたいに、あんな品数は無理ですけどね 。あ、そこの壁に貌っおいるメニュヌを芋お䞋さい。飲み物以倖その䞭からどうぞ」

「ほう、䜕々 。究極ハンバヌグ定食が千円。究極パスタが八癟円。究極鳥唐揚げ定食が九癟円か。目玉焌きセットが五癟円 。ん、䜕で目玉焌きだけ『セット』っお曞いおあるの 倉じゃない」

「いいんですよ。男は现かい事を気にしないほうが栌奜いいですよ」

「たあ、そりゃそうだけどさ 。じゃあ、ビヌルずハンバヌグ単品でちょうだい」

「ぞ、ぞい。ハ、ハンバヌグ䞀䞁」

「あ、ちょっず埅っお。ハンバヌグ定食っお曞いおあるけどさ。単品だずいくらになるんだい」

 え、そんなの決めおなかったぞ どうしよう  。

「え、えずですね 。せ、千癟円です」

「ちょっず、䜕で単品のほうが高くなるんだよ」

「あ、じゃあ千円でいいです」

「䜕で同じ倀段なんだよ」

「じゃあ、九癟円で  」

「たったく頌むよヌ。でも、癟円しか安くならないのか」

「ぞ、ぞい」

「た、先にビヌルちょうだいよ」

「ぞ、ぞい」

 僕は竹花さんにビヌルを出すず、火を぀けフラむパンに油を垂らす。冷蔵庫からママンの䜜ったハンバヌグを取り出すず、䞀気に攟り蟌んだ。

 䞡面がしっかり焌けるたで焌いおず  。

 うん、なかなかいい感じだ。僕だっおやればできるんだ。

 䞡面を焌いたハンバヌグをアルミホむルに包み、オヌブンに入れる。二癟五十床の枩床で十分間ず  。

 䜜り眮きしおあるデミグラス゜ヌスを䞊に掛け、僕はスむッチを抌した。

「ほう、なかなか手際いいじゃないか」

「えぞぞ」

「こりゃ、マスタヌも頌もしい跡取りができたっお喜ぶな」

「  」

 そうか。したった。僕は䞀刻も早くここから抜け出したかったのに、自分で墓穎を掘っおしたったのだ。たあ、パパンが入院ずいう事態だからしょうがないか。

 十分が過ぎ、僕は真っ癜なお皿にハンバヌグを盛り付ける。いい感じでグツグツず゜ヌスも煮えおいた。付け合せのポテトずいんげんを添えお、竹花さんに持っおいく。

「おお、こりゃあうたそうだ。早速いただくよ」

 竹花さんが箞でハンバヌグを二぀に割るず、䞭からドロリず倧量のチヌズず肉汁が出おくる。ママン、こんな仕掛けたでしおあったずは  。

「すげぇっ 努ちゃん、あんた、料理の倩才だよ。達人だよ。どれどれ味は  」

 劙に興奮しおいる竹花さん。別に僕が䜜った蚳じゃないから、偉そうにはできない。

「うたヌいっ トレビアン  」

 竹花さんは、䞀気にハンバヌグを食べおしたった。

「そ、そんなうたかったですか」

「ベリヌグヌ」

「良かったぁ  」

 なるほど、僕はパパンがこの小汚い定食屋にこだわる理由が、䞀぀だけ分かったような気がした。

 僕が店を䞀人で任された初日。こういう日に限っお客がたくさん来るかず思っおいたが、たばらに来おくれたので助かる。

 うん、運の良さはただただ健圚だ。

 竹花さんは珍しくビヌルを䞉杯しか飲たず、おずなしく垰っおいく。パパンがいないず寂しいのだろうか。垰っおいく埌ろ姿は、たさに人生の負け犬ずいう感じがした。

 来る客来る客、始めは品数の少なさに䞍満の声を䞊げたが、料理を食べるず満足そうな笑顔を浮かべ垰っおいった。

「あら、今日は䜕 あんたが料理を䜜る蚳」

 入口に『月の石』のママであるパむナポヌが立っおいた。

「え、ええ  」

「倧䞈倫なの」

「ママの奜きなパスタ料理もありたすよ」

「ふん、それはナポリ奜きの私に察する挑戊状ず受け取っおいいのかしら」

「え、ええ 。お奜きにどうぞ」

「ふむふむ、『究極パスタ』っお名前なのね。じゃあ、これお䞀぀。あ、あずね。もうちょっずしたら麗華ちゃんもここに来るから」

「え、れっこさん来るんですか」

「銬鹿 本名を蚀うんじゃないよ、この小坊䞻が」

「ふ、小坊䞻かどうかは、料理を食べおから蚀っお䞋さいよ、ふふふ  」

 い぀もよりどこか䜙裕のある僕。今日の䜓隓で䞀皮剥けた蚌拠だろう。

「ふん、楜しみだね。あ、麗華ちゃんが来たよ。おい、麗華ちゃん、こっちこっち」

「ママ、ちょっず遅れちゃっおごめんね。あれ、どうしたの努君」

「この小坊䞻は、ここの店の小せがれなんだよ」

「ぞヌ、ちょっずビックリ。努君、料理なんおできんの」

「ふ、䜕を笑止な 。できるからこそ、この厚房に立っおいるんじゃないですか」

「ぞえ、じゃあね 。私は『究極鳥唐揚げ』をもらおうかな あ、ご飯は半分でいいからね」

「かしこたりたした」

 僕はママンの蚀うマニュアル通りに料理を䜜った。料理䞭、たた客が入っおくる。今床は男二人組だ。よく芋るず神嚁君ずゎリのコンビだった。

「ぞい、らっしゃい。空いおいる垭、お奜きにお座りください」

「あれ、今日あのひょうきんな芪父さんは」

「入院䞭だよ」

「え、倧䞈倫なのかよ じゃあ料理は無理か」

「倧䞈倫倧䞈倫、安心しおよ。さ、座っお座っお」

 二人組は怪蚝そうな顔をしながら、カりンタヌ垭の䞀番端ぞ座った。

「あ、努」

 ゎリラ顔のゎリは、汚らしいダミ声で僕を呌ぶ。

「ぞ、ぞい、䜕でしょう」

「ずりあえず、ビヌルもらえる」

「䜕だよ、ゎリ。おたえ、こんな昌間から飲むのかよ」

「別にいいじゃねえかよ、神嚁。おたえはい぀も现けえなあ」

「えヌず、ビヌルは䞀぀でいい」

「あ、俺は飲たないから䞀぀だけで」

「了解」

 神嚁には氎を、ゎリにはビヌルを出す。再び厚房ぞ戻り、料理を開始した。

 究極パスタず究極鳥唐揚げ定食ができるず、パむナポヌたちの垭ぞ持っおいく。

「できたのね。さっきはあんな偉そうな感じで自信たっぷりに蚀っおたんだから、たずかったら芚悟をおし」

「わあ、おいしそう。努君っお料理うたいんだね」

 二人は料理を食べだした。

「う、うたい。こ、こ、これっおむタリアンじゃないの。小坊䞻、あんた、たたうちでタダ働きしな。䜿っおやるから」

「冗談じゃないですよ。䜕でわざわざタダ働きしなきゃいけないんですか」

「うちの店でもこのパスタ出しおほしいからよ。䜕なら絊料出しおもいいわよ」

「いくらですか」

「うん、そうね  。時絊を奮発しお、ご、五癟五十円」

 僕が高校生の頃の盞堎だず、ケンタッキヌフラむドチキンで五癟四十円だぞ 䜕でそれから䜕幎も経぀のに、十円しか䞊がらないんだよ。

「嫌ですよヌ たったく」

 暪で髪をかきわけながら唐揚げを䞊品に食べるれっこ。圌女はパむナポヌの䌚話などたるで聞いおいないようだった。

「あら、ずおもおいしいわ、この唐揚げ。努君、すごいのね」

「えぞぞ 。あ、れっこさんにビヌルでもサヌビスしたすよ」

「え、ほんず 嬉しいな」

「ちょっず私のは」

「ああ 、ママには氎を氷぀きでサヌビスしずきたす」

 僕がれっこのビヌルを泚ぎに行くず、パむナポヌは背埌から醜い眵声を济びせおいた。

「おい、努。こっちも料理の泚文聞いおくれよ」

「あ、ごめんごめん。䜕にするの メニュヌはこちらから」

 ハンバヌグず唐揚げを頌む二人。

 ペチャクチャ音がするので振り向くず、パむナポヌはよほどパスタが気に入ったのか、空になった皿を䞡手で持ち、ベロベロ舌で舐め回しおいた。

「ママヌ、ちょっず恥ずかしいから止めおよヌ」

 さすがにれっこは迷惑そうだ。

「銬鹿、止めんじゃないよ。こんなうたいもん残したら、眰が圓たるよ」

「だからっおお皿たで舐めなくおも  」

「ふん、麗華ちゃんは黙っおな。ああ、むタリアン  」

 僕は気にせず、たた厚房ぞ向かう。二人の料理を䜜り終え、垭たで運ぶず怅子に腰掛け少しゆっくりした。

「お、うめえ、このハンバヌグ 男のロマンだぜ。ちょっず食っおみ、ゎッホ」

「おい、神嚁。そんな事よりよ。あの子いるじゃん」

 自然ず耳に二人組の䌚話が聞こえおくる。あの子ずは、倚分れっこを指しおいるのだろう。今、店内に女性はれっこずパむナポヌしかいないのだから。

「どれどれ  」

 神嚁がさり気なくれっこのほうを芋た。

「おお、矎人だな。で、どうした」

 小声で話しおいるが、厚房にいる僕には䞞聞こえである。

「いや、さっきからこっちをチラチラ芋おいるんだよ」

「ふん、で」

「いや、ひょっずしお俺に気があんじゃねえかなず思っおさ  」

 ふざけやがっお 。今すぐ加熱したフラむパンでゎリの頭を匕っ叩いおやりたかった。れっこがおたえみたいなゎリラ顔を気に入る蚳ないだろが  。

 するず、神嚁は「そうだよ、きっずそうだよ」ずずんでもない炊き぀け方をしおきた。

「そうかなあ」ず照れるゎリ。

「きっずそうだっお。店出たら蚀っちゃえよ」ず神嚁。

 本圓にどうしょうもない二人組である。こんな小汚い定食屋でナンパなどしようずしくさっお  。

 しばらくしおパむナポヌたちが垰ろうずするず、ゎリは立ち䞊がり入口でれっこぞ声を掛けだした。迷惑そうなれっこの衚情。

 僕が止めに行こうずするず、れっこは自分の口で「ごめんなさい、私結婚しおたすので」ず冷たくあしらい、店を出おいった。

 カりンタヌ垭ではゎリのフラれた様子を芋お、神嚁が笑い転げおいる。この男もロクなもんじゃないな。

 意気消沈したたた垰るゎリの背䞭を芋お、ああはなりたくないず思った。


 ドアが勢いよく開く。

 もの凄いボむンの女が入っおきた。あれあれ、ひょっずしお僕にも春がやっおきたかな

「ぞい、らっしゃいっ」

 僕は倧声で気合いを入れ、ボむンちゃんを出迎える。

「あれ、誰も客がいない。倧䞈倫かな、この店  」

「だ、倧䞈倫ですよ。今さっき客が途切れただけですから」

 僕の芖線はボむンに釘付けだった。逃がしおたたるか。

「そう、じゃあ入ろうっず」

「えぞぞ、ビヌルか䜕かサヌビスしずきたすよ」

 䞡手を擊り合わせ、ボむンちゃんの機嫌を取る僕。この子、どこかで芋たこずがあるような  。

「ほんず ラッキヌ。あ、連れ呌んでくるから、ずりあえずビヌル二杯甚意しずいお」

 そう蚀っおボむンちゃんは店を出おいく。

 連れ   誰なんだ 男か それずも同じぐらいでかいボむンの女性か

 再びドアが開き、真っ癜いコヌトを着た男が姿を珟した。䞀芋、普通のサラリヌマンぜく芋えるが、普通のサラリヌマンはこんな掟手なコヌトなど着やしない。

「鳎戞さん、ビヌルをサヌビスしおくれるっお」

 すぐ埌ろから先ほどのボむンちゃんも来た。連れっおこの男の事だったのか  。

「たた貎子が、色目でも䜿ったんじゃないんですか」

 劙に甲高い声を癜コヌトの男は出しおいた。それにしおも䜕でこの人、敬語で喋るんだろうか

 あ、そうか。思い出した。化粧ですぐ分からなかったけど、同玚生の新庄貎子だ。倧人しかった僕のこずなど芚えおいないのだろうけど。確か斜蚭から通っおいたんだよね。䜕お名前だったっけ クレッシェンドの家だ。

 話し掛けたいけど、圌氏ず䞀緒じゃなあ  。

「嫌だな、そんな事する蚳ないじゃヌん。こんなガキに」

 矎人でボむンで芋掛けは最高なのに、䜕お酷い蚀い方をする女なんだ  。

「たあ、ビヌルでも飲みながら食べ物を泚文したしょう」

「はい、ねえねえ、鳎戞さん。向かいじゃなく暪に座っおいい」

「止めなさいよ。公共の堎なんだから」

「䜕だ、ちぇ」

 僕はこんな熱々カップルに、店のビヌルを二杯もタダでご銳走しおしたうのか  。

 たあ蚀っおしたったものはしょうがない。仕方なく僕はビヌルを二人に出した。

「あれ、メニュヌっお四぀しかないの お刺身は」

「え、あのですね 。今日はこの四品の䞭からお願いしたす」

「信じらんないわ、この店。鳎戞さん、もっずいい店行きたしょうよ」

「そうですねヌ」

 え、ひょっずしおこの二人、ビヌルだけタダ飲みか

「ちょ、ちょっず埅っお䞋さいよ」

 僕は男の前に立ち、懞呜に笑顔で優しく蚀った。

「ちょ、ちょっずあんたさ、この人が誰だか分かっお蚀っおいるの」

 ボむンちゃんが、暪から口を挟んでくる。

「え、誰ずは䞀䜓  」

「私の名前は新道貎子」

 新道貎子 あなた新庄貎子でしょ 孊校で人気あったから、フルネヌムでちゃんず僕は芚えおいるんだよ

「い、いや、あのですね。あなたの名前を聞いた蚳じゃなく  」

「私の事でしょうか」

 癜コヌトの男が僕に近づいおくる。

「ええ  」

「䜕か甚でしょうか」

「いえ、うちの料理、四぀しかありたせんが、頬っぺたが萜ちるぐらいおいしいんで  」

「ん、今あなた、頬っぺたが萜ちるっお蚀いたしたね」

「え、いや、それはそのぐらいおいしいっお事をですね  」

「あのですねヌ。私はそんなこずを聞いおいるんじゃないんですよヌ」

 䜕だ、この男は 。䞀気に声のトヌンが䞊がっおいる。それに怒鳎っおいるのに、䜕で敬語なんだろう どちらにしおも僕、もの凄く怖い 。ずりあえず謝っおおこう。

「す、すみたせん  」

「はあ い぀私が謝れなんお蚀いたしたかヌ 私は頬っぺたが萜ちるんですかヌっお、さっきから聞いおいるんですよヌ」

「すみたせん、すみたせん  。頬っぺたなんお萜ちたせん。僕が悪かったです。お代はいりたせんので、勘匁しお䞋さい  」

「たったくしょうがないですねヌ」

「鳎戞さん、こんなガキ攟っずいお、早くいいずころ行こ」

「たったく倱瀌な店ですねヌ、ほんず」

 カップルは、奜き勝手な事を蚀いながら䞀銭も払わず店をあずにした。パパンの倧倉さが、少しだけ身に沁みお分かったような気がした。


いいなず思ったら応揎しよう