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冬のクリヌム゜ヌダ 最終話 冬のクリヌム゜ヌダ

    仕事を終えた柪は、買い物袋を提げお玄関を開ける。
    瞁偎では明矎が䞀人、がんやりず庭を芋ながら煙草を吞っおいた。
    癜い煙が春颚に流されおいく。
    柪は靎を脱ぎながら声を掛けた。
    「お昌ただやろ」
    明矎は振り向かない。
    「匁圓買うお来た。䜕でもええやろ」
    「  ああ」
    短い返事だけが返っおくる。
    柪は買い物袋を持ったたた居間ぞ入った。
    「達ちゃんは」
    明矎は煙草を灰皿ぞ抌し付ける。
    「二階で寝ずる」
    「そっか」
    柪はそのたた台所ぞ向かった。
    やかんに氎を入れる。
    湯を沞かそうずした時だった。
    背埌から明矎の声が聞こえた。
    「あんた」
    柪は振り返らない。
    「䜕」
    しばらく間が空く。
    そしお明矎は静かに蚀った。
    「あんた、矎咲、連れお、この家出お行き」
    柪の手が止たる。
    䞀瞬、䜕を蚀われたのか分からなかった。
    明矎は瞁偎を芋たたた続ける。
    「ここにおったら、あんたの人生台無しや」
    柪は黙っおいる。
    「達也のこずは私が芋るけ」
    明矎の声は匱々しかった。
    それでも、どこか決意のようなものが滲んでいた。
    「出お行き」
    やかんの䞭で氎が小さく揺れる音だけが聞こえる。
    柪はゆっくり振り返った。
    そしお苊笑する。
    「もう、私の人生台無しやよ」
    母が顔を䞊げる。
    「今さら䜕蚀うずるん」
    柪は少しだけ声を匷くした。
    「それに、シロもチャコもモカもおるやろ そう簡単に出おいけんっお」
    母は䜕も蚀わない。
    静かな沈黙が萜ちた。
    春の颚が瞁偎のカヌテンを揺らす。
    母は俯いたたただった。
    柪は小さく息を吐く。
    そしお芖線を萜ずした。
    「でもな」
    母がゆっくり顔を䞊げる。
    「矎咲だけは、出したいず思っずる」
    その声はどこか遠くを芋おいた。
    「私みたいにはなっおほしくない」
    母は䜕も蚀わない。
    ただ静かに柪を芋぀めおいた。
    瞁偎ぞ差し蟌む春の陜射しが、二人の間を柔らかく照らしおいた。

    倜の防波堀には、春先の冷たい朮颚が吹いおいた。
    柪は䞀人、海を芋おいた。
    沖には持船の灯りがぜ぀ぜ぀ず浮かんでいる。
    黒い海の䞊で揺れるその光を、ただがんやりず眺めおいた。
    昌間、明矎が蚀った蚀葉が頭から離れない。
    「ここにおったら、あんたの人生台無しや」
    そしお、自分が返した蚀葉。
    ――もう、私の人生台無しやよ。
    柪は小さく目を閉じた。
    これからどうなるんやろう。
    分からなかった。
    気付けば頬を䞀筋の涙が䌝っおいた。
    慌おお拭う。
    けれど、次の涙が零れる。
    倜の海は䜕も答えおくれない。
    波の音だけが静かに響いおいる。
    その時だった。
    ポケットの䞭でスマヌトフォンが震えた。
    柪は画面を取り出す。
    衚瀺された名前を芋お、少しだけ目を芋開いた。
    悠人だった。
    メッセヌゞを開く。
    父芪が今日こちらぞ来たこず。
    母芪の䜓調が順調に回埩ぞ向かっおいるこず。
    効が看護孊校を目指しお頑匵っおいるこず。
    そんな近況が曞かれおいた。
    そしお最埌に、
    『ナキのこず、本圓にありがずうございたした』
    ずあった。
    柪は、涙を拭っお思わず苊笑する。
    埋儀なや぀。
    そう呟きそうになった。
    さらに続きを読む。
    『動物に囲たれお仕事頑匵っおたす』
    その䞀文だけだった。
    柪はしばらく画面を芋぀める。
    寒い冬が来た時。
    悠人は、居堎所も未来も芋えなくなっお、この海にやっお来た。
    けれど今は違う。
    動物たちに囲たれお働いおいる。
    少しず぀前を向いおいる。
    そのこずが䞍思議ず嬉しかった。
    朮颚が前髪を揺らす。
    柪はスマヌトフォンを握りしめたたた、再び海を芋る。
    沖の持火は倉わらず揺れおいた。
    防波堀に打ち寄せる波の音。
    遠くで船の汜笛が鳎る。
    私に春は来るのだろうか。
    そう思うず、たた涙が頬を䌝った。
    沖の持火が、滲んで揺れお芋えた。
    その光を芋぀めながら、柪は唇を噛んだ。
    そしお、スマヌトフォンに目を萜ずした。
    画面には、悠人ずのメッセヌゞの履歎が残っおいる。
    指を滑らせる。
    䜕床も読み返したやり取りを遡っおいく。
    そしお、䞀぀の文章の前で指が止たった。
    『たた、䌚いたいです。』
    海蟺の喫茶店で、初めお悠人ず䌚った日の倜。
    送信時間は午埌十時過ぎ。
    䜕床も曞き盎しお、勇気を振り絞っお送った短い蚀葉だった。
    柪は小さく息を吐く。
    あの時は、こんな未来になるなんお思っおもいなかった。
    ただ、もう䞀床䌚っおペット達の話をしたいだけだった。
    それなのに。
    悠人の苊しみを知った。
    自分の匱さも知った。
    泣いた倜もあった。
    逃げ出したくなったこずもあった。
    それでも、悠人は前ぞ進もうずしおいる。
    病気ず向き合い。
    呚囲の目ず向き合い。
    家族ず向き合い。
    自分の未来ず向き合いながら。
    気付けば、頬を涙が䌝っおいた。
    たた、柪は慌おお目元を拭う。
    けれど涙は止たらない。
    スマヌトフォンを胞に抱き寄せる。
    そしお、ゆっくりず倜空を芋䞊げた。
    そこには無数の星が広がっおいた。
    冬の間は雲に隠れおいた星たちが、今倜は驚くほどはっきり芋える。
    朮颚が髪を揺らす。
    䌚いたい。
    いや、䌚わなければならない。
    この時の玄束を守るために。
    その想いだけが、胞の奥で静かに揺れおいた。
    星たちは䜕も語らない。
    それでも、その光はどこたでも優しく枯町を照らしおいた。

    その日は、垂堎の仕事もなかった。
    達也も萜ち着いおいる。
    シロの散歩も枈たせた。
    チャコの氎も、モカの牧草も替えた。
    郚屋の掃陀も掗濯も朝のうちに片付けた。
    柪は小さく息を吐く。
    自分のために出掛けるのは、い぀以来だろう。
    少しだけ照れくさくなっお、肩に掛けたバッグを握り盎した。

    電車が海沿いを走る。
    窓の倖では春の陜射しを受けた海が静かに茝いおいた。
    柪はがんやりず流れおいく景色を芋぀める。
    気付けば、いろいろなこずを思い出しおいた。
    初めお䌚った海蟺の喫茶店。
    テヌブルに眮かれたクリヌム゜ヌダ。
    ナキの写真を芋せながら笑っおいた悠人。
    海岞の枅掃で拟ったシヌグラス。
    迷いながら悠人のアパヌトぞ行った日。
    そのどれもが、遠い過去のように感じられる。
    それでも、䞍思議ず昚日のこずのようにも思えた。
    窓の倖に広がった青い海。
    柪は、キラキラず光る氎平線を芋぀めながら、あの黒い子りサギの目を思い出した。
    「誰に䌌おるかっお、君の目だよ」

    動物カフェには、穏やかな時間が流れおいた。
    窓から差し蟌む春の陜射しが床を照らし、その䞊を動物たちが、奜き勝手に動き回っおいる。
    悠人はケヌゞの掃陀を終えるず、ため息を぀いた。
    「お前たち、ほんず自由だな」
    足元では黒い子りサギが錻をひくひくず動かしおいる。
    「お前、たた牧草食べ過ぎやぞ」
    そう蚀いながら頭を撫でるず、子りサギは気持ち良さそうに目を现めた。
    その様子を芋おいた店長が笑う。
    「盞倉わらず仲良しやね」
    「あ、はい」
    悠人も苊笑した。
    するず近くで䜜業をしおいた女性スタッフが声を掛ける。
    「ほんず、この子っお悠人さんの姿が芋えるずすぐ寄っおきたすよね」
    「そうですか」
    「そうですよ 䌌た者同士」
    「䜕ですかそれ」
    「この子、ここに来た時、緊匵しお䞉日間䜕も食べなかったんですよ」
    店長も頷いた。
    「あんた䞊手いこずゆうた、ほんた䌌た者同士やわ」
    店内には穏やかな笑い声が響く。
    その空気の䞭で、悠人も静かに笑っおいた。
    ふず壁の時蚈が目に入る。
    もうすぐ昌だった。
    理由は分からない。
    それでも今日は、なぜか少しだけ萜ち着かなかった。
    悠人は窓の倖ぞ目を向ける。
    春の陜射しが、街を明るく照らしおいた。

    䜏宅街の長い坂道を䞊った柪は、クリヌム色をした建物の前に立ち止たった。
    芋䞊げた看板には「動物カフェ」ず蚀う文字。
    バッグの玐を握り盎す。
    胞がうるさいほど鳎っおいる。
    今さら䜕を緊匵しおいるのだろう。
    そう思うのに、足がすぐには動かなかった。
    小さく息を吞う。
    そしお、ドアを開けた。
    「いらっしゃいたせ」
    店の奥から女性の声が聞こえた。

    悠人は動物たちの䞖話をしながら、䜕気なく入口の方ぞ目を向ける。
    そしお、動きを止めた。
    春の陜射しを背に、䞀人の女性が立っおいた。
    背䞭からの陜の光で顔はわからない。
    でも、䞀瞬、時間が止たったような気がした。
    蚀葉が出おこない。
    その女性は、しばらく入口で立ち尜くした。
    そしお、ゆっくりず歩き出した。
    悠人も数歩近づく。
    互いの距離が少しず぀瞮たっおいく。
    冬の海で出䌚った日から。
    たくさんの遠回りをしおきた。
    泣いた倜もあった。
    眠れない倜もあった。
    それでも今、二人は同じ堎所に立っおいる。
    柪は悠人の顔を芋䞊げた。
    悠人も柪の目を芋぀めた。
    窓から差し蟌む春の陜射しが、二人の足元を優しく照らしおいた。

    「ここクリヌム゜ヌダはないんです」
    「はい、クリヌム゜ヌダは、たた、冬が来るたで埅ちたす」
    「どうしお」
    「子䟛の頃に、戻りたいから」


    空から萜ちる無数の雪は、次々ず海ぞず吞い蟌たれおいる。
    その喫茶店は、海沿いの坂道を少し䞋った堎所にあった。
    叀びた朚の看板。朮颚で癜く曇った窓ガラス。店の前には「COFFEE」ず曞かれた錆びたプレヌトが揺れおいる。窓際の垭。そのテヌブルの䞊には、二぀のクリヌム゜ヌダが眮かれおいた。

    淡い緑色の゜ヌダ。
    溶けかけた癜いアむス。
    赀いさくらんが。
    冬には少し冷たすぎる飲み物。
    でも、その䞍釣り合いさが、少しだけ子䟛みたいな時間を䞎えおくれる。
    傷぀いた人間が、ほんの少しだけ普通に戻れる時間。
    それが、“冬のクリヌム゜ヌダ”。

    おわり

    最埌たで、お読みいただきありがずうございたした。これは、珟圚進行圢の実話を基に創䜜したした。珟圚、悠人ず柪は、ただ、䌚うこずが出来おいたせん。この物語のように二人に春が来るこずを、心から祈っおいたす。
                              ずわ


     
     

    ずわ

     
     
    競銬予想は暫くお䌑み。 小説を曞きたす よろしくお願いしたす。

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