
手乗り文鳥ポワロの事件簿①『ポワロとコーヒー』【プロローグ 雨の音】
夜だった。
雨が、アスファルトを叩いていた。
香川誠司は、妹の名を叫んでいた。
声にならない声が、雨音に飲まれていく。
沙織の身体は冷たかった。
それでも香川は離せなかった。
ただ、抱きしめていた。
サイレンが遠くで鳴っている。
赤い光が、濡れた路面に滲んだ。
「香川……」
低い声が降ってきた。
本田圭吾が、傘も差さずに立っていた。
雨に濡れた顔で、静かに香川の肩に手を置く。
「……俺がついてる」
香川は答えなかった。
ただ、沙織を抱いたまま、肩を震わせた。
肩の上のポワロが、ずぶ濡れのまま羽を縮めていた。
やがて、静かに降りた。
香川の左手に止まり、小さくつついた。
こつ、こつ、と。
香川は気づかなかった。
雨音だけが、続いていた。