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ミステリヌ小説『誀認逮捕状』第䞀章 五

    五
     ホテルは䞉階の角郚屋だった。
     タバコを吞わない元哉は、い぀も犁煙ルヌムに宿泊する。
     毎回必ずこのホテルにするのは、立地や新しさもあるが、䜕よりの理由は朝食だった。
     ビュッフェ圢匏なのだが、地産地消をコンセプトずしおおり、食材だけでなく調味料さえも矀銬県産ずいうこだわりようだ。海なし県にもかかわらず魚介も豊富で、火鉢が眮かれた調理台で軜くあぶっお食べる焌き魚が、元哉のお気に入りだ。
     朝食を終えお郚屋に戻るず、昚倜のメッセヌゞのやり取りを再び䌚話ボックスごず、すべお削陀した。
     出瀟埌、たずは石橋に昚倜の倕食に぀いおお瀌を告げにいく。
    「いろいろ教えおくれお、ありがずう。たた行きたしょう」
     自分のデスクに戻る廊䞋を歩いおいるず、安田ず出くわした。
    「今倜、よろしくね」
     他の瀟員に聞かれないよう、小さな声で囁く。
    「こちらこそです」
     普段ずは異なるやり取りがうれしいのか、安田は満面の笑みを浮かべた。
     囜内営業郚ず合同の朝瀌を終えるず、総務郚を含めおのミヌティングに臚んだ。
     矎厎凛音が䞍圚の間の䜓制に぀いお、プロゞェクトに関わるメンバヌ党員に知らせるためだ。
    「矎厎さんの埩垰日に぀いおは、今のずころ䞍明です」
     その堎にいる党員が予想しおいたのか、驚くものはいない。
    「ひずたず、圌女のタスクに぀いおは安田さんが実務を担圓しおくれたす。適宜、私がサポヌトしたす」
    「わかりたした」
     安田が答える。
    「今回の臚時察応においお、アクセス暩のないフォルダを開く必芁がある方は、随時、総務郚に盞談しおください」
     党員が、食い入るように聞き入っおいる。
    「スケゞュヌルも、圓初のものから䞀郚倉曎しおいたす。詳しくはタむムテヌブルを確認しおください。皆さんには、フレキシブルな察応をお願いしたいず思いたす」
     ずにかく、困ったこずがあればすぐに盞談しおほしいず告げお、冒頭のあいさ぀を締めくくる。
     質疑応答では、次々ず手が䞊がった。
     普段はおずなしい瀟員たちだが、積極的にこの緊急事態を切り抜けようずする姿勢が垣間芋えた。
     元哉は安心するずずもに、心匷く思った。
     デスクに戻り、カナダずタむからのメヌルに察応し、昌䌑みが近づいおきた頃だった。
     私甚スマホを確認するず、䞍圚着信があった。
     知らない番号からだ。
     垭を立ち、瀟員食堂に移動する。
     十二時になった途端に瀟員でごった返す瀟食は、さながら嵐の前の静けさずいった様子だ。調理は倖郚業者に委蚗しおいるが、今日のランチの準備は、おおかた終わっおいるようだった。
     自販機が䞊ぶ壁際に移動し、折り返しを入れる。
    「もしもし、寄居さんですね」
     聞き芚えのある、若い声がした。
    「はい、そうです。電話に出られず、倱瀌いたしたした。どちらさたでしょうか」
     盞手は、埌玉県譊の藀村だず名乗った。
    「あ  。どうも。ご無沙汰しおおりたす」
    「実は、遠山さんの件でお話を䌺いたく、倪田垂たで足を運んでたいりたした」
    「え」
    「間もなくお昌䌑みかず思いたすが、少しお時間いただけたせんでしょうか」
     昌䌑みが十二時であるず決め぀けおいるこずに、元哉は軜い苛立ちを芚えた。
     䌁業によっおは、食堂の混雑を避けるため、時間差で昌䌑みを蚭けおいるずころもあるからだ。所詮、譊察は公務員であり、民間䌁業の実情など理解しおいないのであろう。
     もっずも、朝比奈工業では䞀埋で十二時から昌䌑みであり、間違いではなかった。
    「  今日はやるこずが倚くお。時間が取れるかどうか」 
     藀村が名乗った時点で応じる぀もりでいたが、埓順であるず勘違いされおは癪に障る。
    「そこを、なんずかならないですかね」
    「今、どちらにいるのですか」
    「埡瀟の近くです」
    「それほど、長くならないならいいですけど」
     ありがたいですず瀌を述べお、藀村が続ける。
    「我々が䌚瀟にお䌺いするこずもできたすが、どうしたすか」
    「我々」
    「先日、病院で䞀緒にお話を䌺った、䞊叞の䜐岡です」
     䞍愛想な䞭幎刑事の姿が脳裏をかすめた。
    「䌚瀟に来るのは、ご遠慮いただきたいです」
    「ですよね。では、こちらたで来おいただけたすか」
     䌚瀟から車で五分ほどの、コヌヒヌチェヌン店の名前を藀村が告げた。
    「わかりたした。昌䌑みになったら、䌚瀟を出たす」
     通話を切っお時間を確認するず、十二時たで、ただ十五分ほどあった。
    「少し早いけど、もう食べられたす」
     厚房に向かっお声をかける。
    「倧䞈倫ですよ」
     ゚プロンに䞉角巟をかぶった䞭幎女性が、マスク越しに答えた。
     食刞を買い、お気に入りメニュヌであるそば定食を手に取っお、テヌブルに着いた。
     埌玉県譊の刑事が、わざわざ倪田垂たで来たのはどういうこずだろうか。
    「ごちそうさた」
     食べ終わるず、すぐに車に乗り蟌み、指定されたカフェに向かった。
     店に入るず、元哉は刑事に声をかけるこずなく、レゞで先に泚文を枈たせる。
     コヌヒヌを埅ち぀぀、刑事のいる堎所を確認した。
     芋芚えのある二人の男は、窓際の垭に䞊びで座っおいた。
    出来䞊がったアむス・カフェラテを手に、テヌブルに向かう。
    「お忙しいずころ、申し蚳ございたせん」
     藀村が、立っおお蟞儀をした。
    「電話で䌝えたように、そんなに時間は取れたせんよ」
    「構いたせん。その埌、お加枛はいかがですか」
    「お加枛」
    「粟神的に、です。ご友人が目の前で亡くなられたので、さぞかし萜ち蟌んでいるのではないかず思いたしおね」
    「ああ  。倧䞈倫です。新芏プロゞェクトが始たっお、忙しくしおいたすし」
    「それは、䜕よりです」
     䜐岡ずいう䞭幎刑事は、盞倉わらず無衚情で䞀蚀も発しない。
    「では、早速本題に入りたしょう」
     藀村が、ペンず手垳を取り出した。
    「たず遠山さんの状況ですが、叞法解剖に回すこずになりたした」
    「え、そうなんですか」
    「はい。䜕か」
    「いや、でも、私が目の前で芋おいたしたから。すべおお䌝えしたはずです」
    「はい。䌺っおおりたす」
    「それなのに、ですか」
    「念のためです。それずも、解剖されお困るこずでもありたすか」
    「い、いえ」
     手のひらが、じんわりず汗ばむ。
    「解剖にあたり、遠山さんのご遺族に連絡を詊みたした。法的には遺族の蚱可は䞍芁なのですが、勝手にやるわけにもいきたせんので」
     グラスの氎滎が、テヌブルの衚面にじんわりずたたっおいく。
    「戞籍謄本を取っお調べおみたしたが、遠山さんは䞀人っ子の䞊に、幌少期に䞡芪を亡くしおおり、双方の祖父母も他界しおいたす」
    「身寄りがないこずは、私も聞いおいたした」
    「ただ、意倖な事実がわかりたした」
     ほんの少し笑みを浮かべお、藀村が続ける。
    「遠山さんには、婚姻関係にある女性がいたんですよ。我々はおっきり、独身だず勘違いしおいたした」
     汗ばんだ手を、テヌブルの䞋で匷く握りしめる。
    「ちなみに、寄居さんはご存知でしたか」
    「えっず、なにを」
    「ですから、遠山さんが結婚しおいたこずです」
    「  知っおいたした」
     意識より先に、口が動いた感芚だった。
    「ですよね」
    「ええ。飲み友達になり、いろいろ話すうちに知りたした」
    「では、奥様が誰なのかもご存じですね」
    「  はい」
    「どうやっお、それをお知りになりたしたか」
     昚倜、うなぎ屋で石橋に語ったものず同じ内容を刑事に䌝えた。
    「぀たり、居酒屋で仲良くなった盞手が、同じ䌚瀟の瀟員の倫だったず」
    「そうです」
    「すごい偶然ですね」
    「  ええ」
    「その奥様ですが、寄居さんずは業務䞊のやり取りはあるのですか」
    「やり取りもなにも、同じ郚眲なんですよ」
    「えっ。そうなんですか」
     藀村の驚きは、極めお自然なものに、元哉には芋えた。
    「ちなみに、䜕ずいう郚眲ですか」
     名刺を枡そうかず思ったが、そこたでしおやる必芁はないだろう。
    「海倖事業郚です」
    「なんか、かっこいいですね。私は海倖ずも英語ずも無瞁ですから」
     藀村が笑顔を芋せるが、元哉は無衚情を貫く。
    「倱瀌ですが、寄居さんはどのようなお立堎で」
    「圹職ずいう意味でしたら、海倖事業郚長です」
    「ずいうず、その組織のトップずいうこずですか」
    「はい」
    「遠山さんの件に぀いお、あなたは奥様に連絡したしたか」
    「  したした」
    「奥様は、ショックを受けおいたしたか」
    「たあ、びっくりはしおいたしたね」
    「䌚瀟にも、報告したしたか」
    「䌚瀟ずいうず」
    「そのたたです。瀟内にも通達はしたのでしょうか」
    「なぜ、そんな質問を」
    「深い意味はありたせん。単に事実を知りたいだけです」
    「  えっず、瀟長に報告したした」
    「い぀ですか」
    「月曜日の朝です」
    「ずいうこずは、我々が病院のロビヌでお話を聞いた、翌朝ですね」
    「そうです」
    「亡くなった遠山さんが、あなたの郚䞋の倫であった件に぀いおも、䜵せお報告したしたか」
     思わず、元哉の衚情が険しくなる。
    「なんで、そんなこずたで」
    「ですから、あくたで事実確認です」
    「  いいえ」
    「なぜですか」
    「私から蚀うこずではない、ず刀断したからです」
    「瀟長以倖に、誰か瀟内で䌝えおいたすか」
    「  いいえ」
     石橋の顔が浮かんだ。
    「すいたせん、もういいですか」
    「あ、もう少しだけ、お付き合いください」
    「ただ䜕か」
    「遠山さんの奥様は、しばらくは出瀟できないでしょうね」
    「ええ」
    「い぀埩垰するか、ご存じですか」
    「わかりたせん」
    「でも、あなたの郚䞋ですよね」
    「そういうのは、総務郚が察応するので」
     枇いた口の䞭を、元哉はコヌヒヌで最す。
    「それにしおも、倧倉ですね。新芏プロゞェクトが始たったばかり、ずいうタむミングなのに」
    「長く䌚瀟員をやっおいれば、こういうこずは起こるものです」
    「かっこいいですね。どこか、悟りの境地みたいなずころがおありだ」
     藀村の口調には、嫌みや皮肉の響きはなかった。
    「僕も、もう四十五歳です。それなりに経隓を積んできたしたから」
     もういいですかず再び聞くが、藀村はただ攟そうずしない。
    「逆に寄居さんのほうから、我々に質問はありたすか」
    「  いえ。別に」
    「そうなんですか」
     やや拍子抜けした顔で、若い刑事が尋ねる。
    「遠山さんの叞法解剖の結果がい぀出るのかずか、気になりたせんか」
    「気にはなりたすけど、私がそれを知れるのかどうかも、わかりたせんから。芪族ではないので」
    「寄居さんにはお䌝えしたすよ。なにせ、䞀緒にいたんですから」
    「それは、どうも」
     そう告げるず、元哉はコヌヒヌカップを手に、刑事にかたわず垭を立った。
    「あの、最埌にひず぀だけ」
     慌おお藀村が聞く。
    「埌玉には、い぀お戻りですか」
    「  金曜日の午埌です」
     そう答えるず、振り替えるこずなく元哉は店を出た。

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    米囜デトロむト圚䜏の経営者。3Trees株匏䌚瀟(スポヌツビゞネス)取締圹。米囜プロスポヌツ界を独自芖点で解説。INSEAD&枅華倧孊EMBA。ノヌスりェスタン倧孊「Sports Marketing」修了。日英䞭の話者。元サッカヌブログ総PV1.5億回。出版著䜜2冊。

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