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【6-4】逆襲のシャアラストシーン解説④ 多くの人が「外していい」と思っているダブルゼータにこそあった逆襲のシャア解釈の鍵

    「大佐の命が吸われていきます」とジェガン参戦

     二つの現象が起きた。

     アムロとごく至近距離で接触しながら、大量のサイコフレーム光を浴びて、いい感じに本音トークができそうなシャア。
     その幼少期からの恨みが、アムロによって解放されていくのを、ナナイが感じ取って嘆く。これが一つ目。

    「大佐、大佐の命が吸われていきます」
     しかし、シャア自身からは、生命力がなくなって、死人や病人のようになっている描写はない。

     命が吸われる、とは何だろう。
    「機動戦士Ζガンダム」で、死に瀕したエマがカミーユに「私の命を吸って」と言ったことがある。
     そうして人の意思がΖガンダムに集まって力となり、戦争を終わらせる、と。
     本作で言えば、シャアの意思がνガンダムに(正確には、その受け皿となるニュータイプパイロットの精神に)吸われて、何かの力に変換されるという意味だ。

     シャアのこだわり、過去の恨み、復讐心、怨恨。ジオンの子として生きてこなければならなかった彼の恨み。付随して発揮される強烈なカリスマ。
     それらが、サイコフレームの共鳴によって大きく道ができ、アムロとの(比較的)開かれた対話によって、吸われ、受け止められていく。それをナナイは感じ取っているのだ。

     もう一つは、アクシズ落下阻止作戦をロンドベルにやらせて、静観を決め込んでいた連邦軍のジェガンたちが、地球の裏側から駆け付けたことだ。

     誤解なく、アムロと同じ行動をとりだす連邦軍のモビルスーツたち。
     これは、アムロに操られているわけではない。
    「やめてくれ。こんなことにつきあう必要は無い」
     と、アムロも言っているくらいで、彼もこの自殺行為を止めようとしている。だが、ジェガンたちは次々と集まってくる。
    「さがれ。来るんじゃない」

    ジェガン隊のみなさんの手前、カッコイイ台詞で誤魔化しはじめるシャア

     シャアがこのとき、いまさらのように「完全な作戦にならんとは」と嘆く。

     アクシズ落下作戦が100%ではなく、いいとこ30%の出来映え(質量は半分、落下時に四番艦の核爆発で行う予定だった地球汚染も阻止された)だからとも取れるが、それはかなり前に確定した話である。
     シャアも自分で計算した結果をもって、ついさっきアムロに勝ち誇ったばかりだ。

     このときのシャアは、画面に対して顔を隠して嘆いている。
     彼は、何から顔を背けたのか。

     それは、アムロに共感する者が、実際に現れたことだ。

     自分は、孤独に一人で理不尽と戦い続けてきた。私はいつも一人だと、接近してきたレコアを突き放したこともある。

     しかし、アムロには、こうして仲間が集まって、ともに戦ってくれるのだ。理不尽と戦うには仲間を信じて協力すればよかったのだ。シャアの目の前で見せつけられる厳しい現実。これを、シャアは認められない。
     それで彼は、顔を背ける。
     しかし、アムロを通じて、耳に声が聞こえる。

    「ロンドベルにだけ、いい想いはさせませんよ」
     集まった彼らの額にも汗が浮いている。恐怖を克服して、ここに駆けつけたのだ。ジェガンやジムⅢは、これが部の悪い負け戦だと、わかって来訪している。ただ、アムロに共感して。

     しかも、集まってきたのは、オールドタイプの連邦軍兵士だ。
     ZでもZZでも、ニュータイプに集まってきたのはゴーストだった。

     しかし、アムロのところには(サイコフレームに助けられているとはいえ)、ついに人間があつまってきた。

     この時代に至って、やっとニュータイプの意思が、彼らにも共鳴するようになったのだ。
     シャアがノミだと罵った重力に魂を引かれた地球連邦の人間たちにも。

    「無理だよ、みんなさがれ」
    「地球が駄目になるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ」
     加えて、ギラ・ドーガまでもが、シャアにとっては追い打ちのように駆けつける。

     この感動的なシーンでBGMが無いのは「人類を救うのはこういう敵味方を超越した協力だよネ!」という雰囲気に死んでもさせたくなかった、シャアの分身である富野監督の意地だと思う。

     孤独に戦って仲間を大切にしないでいると、身内ですら手のひらを返すよ、とシャアは、ここでも自分の人生を否定されている。

    「何だ? 何がおこっているんだ?」
     と、シャアがとぼけているのは、それを認めたくないからだ。
     きっと彼は、うつむいた顔の下で、(精神的には)自分の爪を噛んでいじけている。

     いいなあアムロ。私は一人だったのに、お前には協力者が現れるんだ。しかも、ギラ・ドーガなんか、私の身内で、お前の敵じゃないか。
     うらやましい。
     くやしい。
     敵まで味方にするなんて、お前が正しすぎてズルい───このたまらない意思が漏れないように「完璧な作戦にならんとはァ~!」と、シャアは顔を隠して誤魔化す。

     そんなシャアを尻目に、人類の希望の光が集結する。
     ただ、アクシズを押し返そうとする彼らのスラスター光は、あまりにも弱々しい。落下アクシズという理不尽(しかも半分ですら)巨大すぎて、押し戻す力は、表面に毛が生えたほどの頼りなさだ。

    「やめてくれ、こんなことにつきあう必要はない」
     シャアのエゴにつきあっているだけだと、よくわかっているアムロが止める。

    「さがれ、来るんじゃ無い」
     オーバーロードを起こして爆発する機体が出はじめた。推進剤を使い切り、圧縮された大気に吹き飛ばされるギラ・ドーガもいる。それを助けようと手を伸ばすジェガン。最初の「機動戦士ガンダム」でも、「戦場は荒野」をはじめ、敵味方が協力できる可能性が、宇宙世紀において示唆され続けてきた。
    「もういいんだ。みんな、やめろ!」

    泣きながらウソをついている、シャアの最初の「わかるんだよ」

    「結局、遅かれ早かれこんな悲しみだけがひろがって、地球を押しつぶすのだ」
     ここまできてなお、ジェガン隊やギラ・ドーガに聞かれているかと思うと、かっこいいセリフを吐いてしまうシャアである。

     ギラ・ドーガの参加は、サイコフレームの光に洗脳されたからという説もある。ブライトが一番に「ラーカイラムでアクシズを押すんだよ」とアムロの意思を拾って共鳴したように、意思はたしかに感染している。

     だが、注目すべきは、電波も経由せず、意思が通じていることだ。
     さらに、ミノフスキー粒子を経由する(かどうかは一説だが)ニュータイプ同士でもないのに、だ。

     この現象は「オールドタイプの一群が、一斉にニュータイプに目覚める可能性」の始まりなのだ。

     ただ、同時にこれは、シャアが本当に一人であったことの証でもある。
     シャアの嘘っぱちな理想に騙されてついてきた、ネオジオンの兵士たち。総帥の演説に気勢をあげ、賛同していたように見えたが、シャアはやはり一人で突っ走っており、組織をまとめ切れてはいなかった。
     道化を演じ、これだけ理不尽を受けてきたのに、身内までもが自分のアクシズ落とし(エゴによる理不尽のお返し)に反対する。

     対してアムロは、敵からも賛同されている。
     シャアは、自分の人徳の無さが本当に身にしみて泣きそうだ。

     先述のように、ここでシャアが味わっているのは、アムロと比べて浮き彫りになった自身の孤独だ。

    「俺の孤独をわかるんだよアムロ」
     シャアはそう言いたい。
     だが、彼はアムロを唯一の理解者として求めながら、彼を認めたくないのだ。

     だから、シャアは自分を騙す。

    「ならば人類は、自分の手で自分をさばいて、自然に対して贖罪しなければならん」
     ここでシャアは泣きながら、嘘をついている。
     アムロ以外の他者が聞いているからだ。

     音声を消してみると、このときのシャアは、本当に自分が情けなくて泣いてる顔だ。

    「アムロ、なぜこれが分からん」
     私の孤独が、なぜ分からん。
     お前、いま私に、酷いものを見せつけているんだぞ。

     シャアは純粋だから「贖罪せねば」と思っている説も聞くが、だとしても

     母なる地球のために、
     母なる地球を破壊するのが、
     母なる地球への罪滅ぼしだ

     ───というのは、どう考えても無茶苦茶だし、もうアムロが立派すぎて、自分を騙しているのだと思う。
     少なくとも筆者には、そんな顔に見える。

    「離れろ。ガンダムの力は」
     アムロはリニアシートから離れる。彼は、人類を導いて遠く銀河の彼方まで行く存在だ。その位置をいっとき離れて、アムロは他者を排斥したいと願う。

     このとき、νガンダムのコクピット内のサイコフレームと、サザビーコクピット内のサイコフレームが明確に共振を起こした。具体的には両者が接触しているあたりから、段違いの虹彩を持つサイコフレームの光がほとばしる。
     そして、その波が、モビルスーツたちを引き剥がしていく。

    「これは、サイコフレームの共振。人の意思が集中しすぎて、オーバーロードしているのか」
     アムロと二人でいつまでも話がしたいからジェガンが邪魔だな、というシャアの願いと、せっかく集まってもらったけど危険すぎて申し訳ないからジェガンたちを引き剥がしたいな、というアムロの願いが、ちょうど一致したので、それをサイコフレームが叶えたのだ。

    「なのに、恐怖は感じない。むしろあたたかくて、安心を感じるとは」

     これは何だ。
     私は、何を得ているのだ。
     あたたかい、ぬくもり?
     シャアは混乱する。 

     驚くほどサラッと描かれているが、ここでシャアの感じたあたたかさ、そのぬくもりこそが「機動戦士ガンダム」というシリーズ全体を通した、最も重要な要素である。以下に説明しよう。

    「逆シャア観るんなら、1stとZだけでいいよ、ZZは別に観なくていい」なんて言ってる子はいないかな?(僕は言ってました)

     宇宙に上がった人類について、おさらいしよう。
     強制移民で人の魂が解放されないのは、宇宙世紀のはじめから語られている通りだ。アステロイドベルトまで行ったハマーンたちも、寒い寒いと言って結局は地球圏に帰ってきた。宇宙に飛び立ったが、彼らの魂は地球にひかれたままである。
     人類は、移民法によるものではなく、本来は自分たちの中に眠る可能性を信じて、宇宙にでていくべきだった。

     人類は、自らの意思で変わろうとしなければ変わらない。シャアが強制的に地球から人類を追い出しても、ニュータイプへの覚醒は望み薄だ。

     シャアのやり口は、ちょっと不登校やひきこもり対処に通じる。
     なあに、引きこもりの不登校なんざ、ゲーム機をぶっ壊して、力持ちの男性に頼んで部屋から叩きだして、制服一式をもたせて玄関から蹴り出せば、学校に行くだろワハハと、本質的には同じだ。ある人が言っていた。「あいつら、魚を水から出せば歩くと思ってるんだ」

     実際、この強制移民はガンダムの始まり(0079)以前から行われている。人類は増えすぎた人口を宇宙に移民「させる」ようになって半世紀なのだ。
     結果として現在の状態だ。ニュータイプという希望も生まれたが、多くの移民(スペースノイド)は恨みを持ち、アステロイドベルトまで行った人類は、地球に戻り、シャアはその恨みを背負わされている。

     環境に限界があって、仕方がなく発たされた人間は、結局は地球に帰ってくる。
     強制では、人類の魂は飛ばない。
     そして、強制されて、人は変わらない。
     自らの意思で宇宙へ出てこそ、人類の魂は解放されるのだ。

     そこに必要なものは何か。
     様々なガンダムで、すでに言及されている。

     ぬくもりだ。

     ぬくもりを知って、十分に愛されてこそ、人は家庭からも地球からも、強く魂を解放させて飛び立てる。
     ガンダムとは、実は最初から最後まで、そういう物語だ。

     逆襲のシャアの一つ前の作品「機動戦士ガンダムZZ」での最終回で、ジュドー・アーシタは、現時点で人類が到達している最も遠い宇宙である木星に向かって旅立つ。
     この直前に、離ればなれになっていた妹リイナとの再会が描かれる。

    「(兄は私を可愛がりすぎていたから)いま私に会えば(遠くの宇宙に行くという)お兄ちゃんの決意は鈍るでしょう?」というリイナを、彼女を保護していたセイラは「あなたはお兄さんを馬鹿にしているわ」と諭して向かわせる。

     再会に歓喜して抱き合う二人。リイナの心配をよそに、このぬくもりを得て、ジュドーは木星に旅立っていく。

     この数分前に、ハマーン・カーンが言っていた。アステロイドベルトまで行った人類が戻ってくるのは、魂が地球にひかれているからだと。
     寒い寒いと言っていたハマーン。彼女に足りず、シャアに、そしてジュドーに求めていたものこそが、ぬくもりだ。
     ジュドーは、それを得て、木星に飛び立つ。

     このぬくもりがたしかなら、人類の新しいゆめは見つかると「いまはおやすみ(機動戦士ガンダム挿入歌)」でも歌われている。
     そして、あたたかいぬくもりのなかで目覚めた朝こそが、ニュータイプの覚醒であり、人類の夜明けだ。

     ぬくもりを得て、なお、そこから飛び立てる者が真のニュータイプである。
    「永遠にアムロ」でも「振り向かないで」「振り向くなアムロ」と繰り返し歌われている。

     そして、シャアも「地球に残った人間達は、地上のノミだということがなぜわからんのだ」と言っている。
     シャア自身は、地球から様々な恩恵を吸い上げるだけの寄生虫だと言っているが、同時に、ノミは恒温動物にだけ寄生する昆虫である。
     そこに「ぬくもり」があることを、シャアもうっすらとは分かっているのだ。

     アムロには、ララアがいて、ベルトーチかがいて、チェーンがいる。あたたかいぬくもりの中で目覚めて、それから振り向かずに宇宙の彼方を目指して飛び出していく使命を持っている。

     だが、シャアにはこれがわからない。彼は母親を奪われ、つきあってきた女(不本意を含む)も、ララアを除けば、ハマーン、レコア、ナナイ、そしてクエスと、母性からはかなり遠い性格者が並ぶ。
     自身のカリスマの副作用で、年下女性から一方的に好意を寄せられる上に、社会的にも立て続けに理不尽を押しつけられ、重責を耐えながら、早々に決着をつけようとあせってきたシャア。彼に、ぬくもりを感じている余裕はなかったのだ。
     ここがこじれて「帰れる場所を無くさないと人は大人になれない」と、シャアは思っている。

     それを相互に伝えてくれたのが、アムロとのサイコフレームを介した繋がりだった。チェーン・アギの名の通り、彼女が戦場にもたらしたサイコフレーム(試料)がまさに彼らを繋ぐ鎖となった。(ところで、彼女の名前は、チェーン・鍵(カギ)のシャレでは。今回シャアとアムロの繋がりは、ガッチリとロックされている)

     ここでシャアは、ようやく涙とともに理解する。
     人類は、ぬくもりが無ければ、旅立てないのだ。

     だが、それを認める訳にはいかない。
     彼の人生はあまりに理不尽が多かった。
     ラスト数分で気が変わりはしない。醜く、全てをさらけ出してからだ。

     その様子を、次回に語ろう。

    以下次回の目次
    ・開き直った二回目の「わかるんだよ」
    ・人は悲しみ重ねて大人(相手を理解して思いやれるニュータイプ)に成(熟す)る
    ・シャアを解放し、救うために、彼は子供にもどされていく
    ・あかときいろ
    ・おそらくは尺の都合で、極限まで削れる内容を飛ばしている最後の会話
    ・これ以降はすべて「アクシズ」が語っている
    ・ガンダムシリーズにやたら出てくるキリスト教とは関係の無い十字架
    ・喧嘩番長同士の熱い握手───ができれば苦労はなかった


     
     
     
    四児を育てる愛妻家。49歳から小説を書き始めて、51歳で漫画を描こうとしています。

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