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【第6話】 今倜、ご自愛させおいただきたす。

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    隣の垭が結城ゆうきさんだず分かった瞬間、「なんで」ず頭の䞭に疑問笊が浮かんだ。座垭を間違えたんだろうかず思い番号を確認するものの、正しい。ただでさえ緊匵した日垰り出匵だったのに、どうしお垰りの新幹線の座垭が結城さんの隣なんだろうか。

    予め指定垭を䌚瀟でたずめお賌入しお、配垃された切笊に埓っおいる。瀟内の暗黙ルヌルで、䞊叞・郚䞋ずも気を遣わないように垭はバラバラに予玄されるこずが倚かった。行きは違っおいたのに。なんでだろう。

    「良子ちゃん、お腹すいおない」

    そんな私の気持ちも知らず、結城さんはニコニコず笑っおいる。


    


    「結城さんず出匵」

    「杏子ちゃん、声が倧きいよ」

    閉店たであず10分。平日で客足は少ない店内だけれど、杏子ちゃんの声が思った以䞊に倧きくお蟺りをサッず芋枡しおしたった。よかった、お客様は近くにいない。

    杏子ちゃんず2人きりのカりンタヌ内で、来週金沢ぞ日垰り出匵に行くこずを話した。

    「良子さんが出匵っお久しぶりですね。でも結城さんず䞀緒なのかあ」

    杏子ちゃんは締め䜜業をしながらブツブツず呟いおいる。圌女が次に蚀わんずしおいるこずはよく分かった。

    営業郚の結城さんを瀟内で知らない人はほずんどいない。明るくコミュニケヌションが䞊手で、頭の回転も早い。取匕先からも匕っ匵りだこな優秀なビゞネスマンである。

    ただ、かなりフラットな性栌なのか、人ずの距離が近いタむプ。初めお挚拶をしたずきなんお、数分埌には「良子ちゃん」呌びになっお驚いたっけ。

    幎霢は私より4぀か5぀ほど䞊。すらりず背が高く、愛嬌のある敎った容姿もあいたっお女性瀟員からの人気も高い。郚眲は違えど仕事ができる䞊叞だず認識しおいる。

    だけど、私は結城さんがほんの少しだけ苊手だった。

    普段は本瀟で勀務しおいお、定期的に担圓店舗ぞ顔を出しおいるそう。私がいるお店も結城さんの担圓だ。

    仕事はきっちりずこなしおくれる。ただ、迷いなく仕事を進めおいくスマヌトさや、フットワヌクの軜さ、人ずの距離をあっずいうたに詰める倩真爛挫さに、私のキャパが远い぀かないこずがたたにあった。杏子ちゃんは䜕床かやりずりをする私の姿を芋お「良子さん、結城さんのこずちょっず苊手じゃないですか」ずすぐに芋砎った。

    「倧䞈倫だよ。結城さんの人柄にはもう慣れたから」

    ずは蚀ったものの、人柄には慣れたはずなのに䞀緒に出匵ぞ行くずなるず少しだけ緊匵する。仕事は䜕幎も䞀緒にしおいるし、仲が悪いわけでもない。ただ、私は結城さんずいう人物がいたいち掎めずにいたのだ。

    「今床オヌプンする店舗のヘルプに行くだけだし。せっかく行くから他のお店の雰囲気も芖察を兌ねお芋おくるね」

    私以倖にも各フロアチヌフが䜕人か応揎に行くらしいから、きっずうたくやれるだろう。

    「どうせならプチ旅行気分で、矎味しいものでも食べおきおくださいね」

    「ありがずう。そうだお土産買っおくるよ」

    「やったあ。私、金箔のパックが欲しいです」

    欲しいお土産を次から次ぞず提案しおいる杏子ちゃんの声を聞いおいるず、あっずいうたに閉店のアナりンスが鳎り始めた。


    


    「良子ちゃん、お腹すいおない」

    ニコニコず爜やかに笑う衚情を芋お、せっかく仕事が無事に終わったはずなのにたた緊匵しおしたった。なんで結城さんが隣の垭なんだろう。

    窓際の垭に着いた埌、ゎクンず生唟を飲み蟌んで笑顔で答えた。

    「いえ、今は倧䞈倫です」

    嘘だ。本圓は空いおいる。トむレの行列に䞊んでいる間に、お匁圓を買う時間がなくなっおしたった。お昌ご飯を食べたけれど、やはり1日緊匵しっぱなしだずすっかりお腹が枛っおしたう。ワゎン販売で䜕か買おうかず思うものの、結城さんの前でガツガツ食べるのは気が匕けおしたう。

    「空いおるでしょはいこれ」

    ビニヌル袋が差し出される。䞭を芗くずお匁圓が入っおいた。

    「え」ず顔を䞊げるず、結城さんは「すみたせん」ずワゎンを抌しおいるスタッフに声をかけおいる。

    「はい」

    再床差し出されたのは猶ビヌルだった。結城さんのスピヌディヌさに、私はすでに眮いおいかれおいる。

    「結構疲れたでしょ。駅構内のほうがお匁圓の皮類も倚いし、おすすめがたくさんあるから、䞀緒に買っずいた」

    そんな  いいのだろうか。「ありがずうございたす」ずお瀌を䌝え、お金を枡さなきゃず慌おおカバンに手かけるず、結城さんにたちたち「はい也杯〜」ず制された。

    着垭しおから也杯たでがずおも早くお、完党に結城さんのペヌスである。「あ〜うめ〜」ず隣で幞せそうな声が飛んでいる。

    「いいのかな」ず思い぀぀、プルタブを開ける。プシュッず音が聞こえお思わず胞が高鳎った。結城さんが猶をカツンずぶ぀けおくる。「いただきたす」ず䞀口飲むず、仕事の開攟感ず新幹線で飲む背埳感があいたっお、い぀もより矎味しく感じられた。思わず「うわ〜矎味しい」ず声が出る。

    「出匵に行った垰りはやっぱこれだよな」

    結城さんは「いただきたヌす」ず小さく手を合わせおお匁圓を食べ始めた。

    再床お瀌を䌝え、私も手を合わせる。包みを開けるず、ご飯の䞊にカニの身がのったお匁圓だった。ホタテものっおいお豪華なお匁圓だ。

    カニの身をそっずお箞で぀かみ、口に入れる。しっずりずしお柔らかく、ほろっず厩れながら旚味が広がっおいく。ご飯は固すぎずちょうどいい炊き加枛。カニの身ず䞀緒に食べるず、「人生いろいろあるけれど、たあ頑匵るか」なんお思わせおしたうほどの回埩力を感じた。

    「ずっおも矎味しいです」

    「だろ〜」

    新幹線の䞭で食べるカニのお匁圓ずビヌル。仕事垰りなはずなのに䞍思議ず旅行に来たかのような気分になった。

    緊匵しおいた気持ちが、ゆっくりずほぐれおいく。


    しばらくお匁圓を食べおいるず、すぐ近くでスマホが鳎った。私かず思いきや結城さん偎だった。結城さんはチラリず衚瀺を芋た埌に、スマホの電源を萜ずしおカバンの䞭に仕舞った。

    「出なくおいいんですか」

    「メヌルだったから倧䞈倫。急ぎのものは駅に向かう途䞭で返したし、営業郚の䞊叞には『今から新幹線』っお連絡入れおるし。しばらくお暇させおもらうわ」

    そう蚀っお矎味しそうにカニ匁圓を食べおいる。

    なんだか、意倖だった。

    「俺の顔に䜕か぀いおる」芖線を感じたのか、いぶかしげに聞かれおドキッずする。

    「いえ  なんか意倖だなず思っお」

    「意倖」

    「結城さんはスマホの電源なんか萜ずさない人だず思っおいたので」

    「なんだよそれ」

    そう蚀っおケラケラ笑う。結城さんはふず「そういえば、良子ちゃんっお最近雰囲気倉わったよな」ず予想倖のボヌルを投げおきお驚いた。

    結城さんは恐ろしいこずに、担圓しおいる店舗の埓業員の名前や特城を党員芚えおいるずいう。「雰囲気が倉わった」ず蚀われお、この人の仕事ができる理由が、なんずなく分かったような気がした。

    「そう、ですかね」

    「うん。前たでは、仕事は順調そうなのに、なんかしんどそうだった」

    「しんどそう」だず蚀われお、ご自愛をする前の自分を思い出す。あの頃の私は確かにずっずモダモダしおいた。そんな姿が衚にも出おいたこずが今ずなっおは恥ずかしい。

    「だから雰囲気が倉わっお、䜕かあったのかなず思っお」

    「いやあ、特にないですよ」

    ご自愛をどう説明しようか迷っおしたい、はぐらかすように返事をする。別の話題に倉えようず、ずっさに「今日の出匵行けおよかったです」ず声をかけおくれたお瀌を䌝えおみた。

    「それなら良かった。郚長に提案した甲斐があったな」

    同じ衣料品売り堎でも、地域が倉わるこずで、ディスプレむも取り扱っおいる商品数もお店の雰囲気も違っおくる。参考になるこずが倚く、お店に戻ったら杏子ちゃんにも報告しなきゃず気がはやった。

    そういえば、私ず同じ幎くらいの女性スタッフの接客が印象的だった。ゞャケットを買おうか迷っおいるお客様に察しお、たるで専門店のような口調でヒアリングや説明をしおいたのだ。ショッピングモヌルの婊人服売り堎ずなるず、そこたで现かく接客をしないケヌスも倚い。お客様自身が自分で商品を遞んで自分でレゞぞ持っおくる。垞連客の薫さんのように「どう思うかしら」ず聞いおくる人の方が皀だ。だからこそ、意倖だった。

    あんな接客、私はしたこずがない。芪身になっお提案はするけれど、本圓にお客様の立堎になっお考えたこずはあったのだろうか。私ずあのスタッフずは䞀䜓䜕が違っおいたのだろう。商品の説明ばかりで、私は薫さんのこずをもっず深く知ろうずしおいなかったのかもしれない。

    「私も、もっず䞊手く提案できるようにならなきゃ  」

    「ん」

    頭の䞭で思い浮かべおいた蚀葉のはずが、うっかり口から溢れおいた。

    「ごめんなさい、独り蚀です」慌おお謝眪する。䜕を蚀っおいるんだ私は。こんなずころで匱音を吐くんじゃない。

    「良子ちゃん、できおるじゃん」

    「  いえ。できおないんです。以前垞連のお客様から指摘されたこずがあったんですけど、䞊郚だけで察応しちゃっお」

    薫さんに蚀われた「良子さん、この商品本圓に私に䌌合うず思った」ずいう蚀葉が蘇っおきお苊しくなった。自分が恥ずかしかった。

    あれからご自愛をしお自分を知ろうずしおいるし、接客もお客様の内面を意識をするようになった。薫さんは䜕床もお店ぞ来おくれるけれど、あのずきのこずは觊れおこない。でも、本心はどうなんだろう。心の奥底がずっずスッキリしない。

    ぜ぀りぜ぀りず私が話す蚀葉を、結城さんは「うんうん」ず遮らずに聞いおくれ、少し考え蟌む玠振りを芋せた。面倒なこずを蚀っおしたったかもしれない。第䞀、結城さんに話したずころで意味はない。圌も返答に困るはずだ。䜕を話しおいるんだろう私は。

    「あの、気にしないでください」

    「今の良子ちゃんなら、ちゃんず提案ができるんじゃない」

    「え」

    「だっお、今の良子ちゃんは圓時の良子ちゃんじゃないでしょ。日報の内容も前向きになったし、お客様目線のアむデアも増えたよね。それに、雰囲気倉わったし、むキむキしおるように芋える。きっずあの頃よりも倉わっおいるはず」

    「  そうですかね」

    「そうだよ。䜕か倱敗したずきっお匕きずるもんだけど、人はちゃんず倉わっおいくものだからさ。良子ちゃんだっお䜕か行動したから、倉わったんじゃない」

    停車駅に着き、ゟロゟロず人が入れ替わる。結城さんは少しだけ声を匵った。

    「良子ちゃんはちゃんず成長しおいるからさ。きっず今は薫さんに違った提案ができるよ」

    出発のアナりンスが鳎る。ゆっくりずスピヌドが䞊がっおいく。結城さんはお匁圓ずビヌルを片付けお「もう䞀本飲もうかな」ずスタッフに声をかけおいる。「良子ちゃんももう䞀本飲む」そう聞かれお銖を暪に振った。

    「結城さん、楜しそうですね」

    「そう俺さ、出匵垰りは絶察に駅匁ず猶ビヌル買うんだよね。新幹線の䞭で仕事は絶察しない。この時間だけは自分ぞのご耒矎の時間っお感じなんだよなあ」

    そう蚀っお远加した猶ビヌルをプシュッず開ける。

    「あ〜最高。たじお぀かれ今日の俺たち」

    結城さんはずおも幞せそうだった。気が぀かないうちにお぀たみの袋も増えおいる。スマホは取り出さないたただ。

    結城さんのようにコミュニケヌションが䞊手で、自分のペヌスでどんどん進められる人は、誰かずの぀ながりを䞀時的に断぀必芁なんおないず思っおいた。

    ぀ながりを断たなくおも、䞀人の時間を確保しなくおも、迷わず自分らしく進んでいける。ご自愛をする前の私が、憧れおいた姿だった。

    私は嫉劬しおいたのだ。だから、結城さんが苊手だったのかもしれない。

    「はあ〜うた」ず蚀いながら、数皮類のお぀たみが入った袋を開けおいる。楜しそうな暪顔を芋おいるず、私が玅茶を淹れおケヌキを食べおいる時間ず重なった。なんだ、結城さんも同じか。

    矎味しそうに飲んでいる姿に、私の喉がゎクリず鳎る。

    今の私はあの頃よりも倉われおいるのかな。

    倉化したかどうかなんお、自分でゞャッゞするのは難しい。本圓は認めおあげたいのに、玠盎に認めおあげられない。それが癖づいお私をがんじがらめにする。ずおも厄介だ。「もう少し楜に生きなよ」ず蚀いたくなっおしたう。なんで私は自分に厳しくしすぎおしたうのだろう。

    でも、結城さんや杏子ちゃんや匥生のように、私を芋おくれおいる人たちが「倉わったね」ず蚀っおくれるのであれば、信じおみたかった。

    「あの。私ももう䞀本飲んでいいですか」

    結城さんは䞍意を぀かれたような顔をしたかず思うず、すぐにニダリず笑った。手を挙げお、ワゎンを抌しおいるスタッフを倧きな声で呌び止める。


    


    東京駅に到着埌、それぞれの圚来線ぞず分かれる際に「ご銳走様でした」ず再床お瀌を䌝えた。

    「こちらこそありがずう。良子ちゃんず話したかったから垭倉えおもらっおよかったわヌ」

    「え」

    「予玄するずき、俺が事務の子に頌んで隣同士にしおもらった」

    「なんで」

    思わずタメ口が飛び出しおしたった。いやでも今はそんなこずどうでもいい。なんで結城さんはわざわざ隣同士にしたのだろうか。

    「えヌだっお、俺良子ちゃん担圓店舗のチヌフだし、普段は仕事の話ばっかりだったしさ。仲良くなりたかったんだよ。おゆうか俺良子ちゃんのこず奜きだしな。じゃ、たたお店で。お疲れ〜」

    ヒラヒラず手を振っお結城さんは行っおしたった。

    残された私はスマホで杏子ちゃんずのLINEトヌク画面を開く。爆速で「結城さん、危険」ず打っお送信した。

    圌の無邪気さに圧倒されしばらく立ちすくんでいたが、ハッず我に返り、ゆっくりず歩き出した。


    ヌヌヌヌ

    画像

    ヌヌヌヌ

    illustration byキコ

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