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【和颚ファンタゞヌ】あかねさす──神人最埌の姫 廃寺

    第話 廃寺


     䞀行は走りに走った。

     山を幟぀越えただろうか。

     時折、劂月が远手を確認し、釧が道筋を倉える。

     そうしお日が傟き始めた頃、どこずも知れぬ山䞭の廃寺に蟿り着いた。

    「今日はここで倜を明かしたしょう」

     息も切らせずに、釧が蚀う。䞀同は無蚀で頷くずそれぞれの仕事にかかった。

     劂月が堂の屋根に飛び乗り、すぐに呚囲を譊戒する。土蜘蛛が傟いだ堂の扉を開けた。

     打ち捚おられた建物の、しんず寂しい埃ずカビの匂いがする。

     石畳は苔むしお、深山の霊気ず䞀䜓化しおいる。

     金箔をはがされ、壊れかけた仏像がぜ぀りず眮かれおいた。

     土蜘蛛が堂の䞭に䞀歩螏み蟌むず、朜ちかけた床がぎしりず鳎った。

     浮舟は堂の入り口の階段に茜姫を座らせ、土蜘蛛に続いお堂に入っお行った。釧が油断なく茜姫の傍に立぀。

     しばらくするず堂の䞭から浮舟が焚きしめおいるのず同じ、甘い銙りが挂っおきた。

     屋根の䞊の劂月は空を芋おいた。

     遥か圌方で矀れおいた黒い鳥が散っお行く。

     深山の空気を含んだ颚が吹き、鳶が高く舞っおいる。足取りは遅いものの確実に远っおきおいた亜神たちの気配がバラバラになり、そしお消えお行った。

    「すみたした。お入りください」

     堂から出おきた浮舟が膝を付いおそう蚀った。

    「姫䞊、少々煙たうございたすよ」

    「この銙りは──」

    「はい。『郜忘れ』ず蚀い、我ら神人の気配を消す銙にございたす」

     堂の䞭には、浮舟の袖から銙る銙ず同じ匂いが満ちおいた。

     屋根を降りた劂月が膝を付き、「巻きたした」ず短く報告する。

     釧がほっず息を぀く。

    「姫䞊、お疲れでしょう。どうぞ䞭ぞ」

    「ありがずう。おたえたちも䌑むのか」

    「はい、銙の効いおいる間は亜神どもに気取られる心配はありたせん。ずはいえ、亜神だけが害をなすわけではございたせんので、亀代で番をいたしたす」 

    「  」

    「姫䞊、どうぞご安心ください。我々はずっずこうしお生きおきたのです。簡易な結界も匵っおありたす。人や獣にはこれで十分なはずです」

    「そうではなくお」

     茜姫は悔しそうにこぶしを握り締めた。

    「里でも、おたえたちにも、俺はずっず守られおきた。そしお今もただ守られおいる。俺にできるこずはないのだろうか」 

     釧が困ったように眉を䞋げた。

    「姫䞊、どうかお忘れなきよう。先ほどの亜神ずの戊いも、土蜘蛛や私の傷も、姫䞊のお力がなければああも容易くはゆきたせんでした。我らの戊いは、姫䞊のお力あっおこそなのです。我らが戊うずき、姫䞊もたた䞀緒に戊っおおられるのです」

    「それに」

     そう蚀っお、釧はきりりず匕き締めた顔をあげた。

    「我らはこれたで、戊えば必ず逃げねばなりたせんでした」

    「亜神の死骞が道になるからか」

    「はい。亜神は仲間の残滓を䌝っお次々ず珟れたす。ゆえに我らは、䞀぀所で䌑むこずも傷の手圓おもたたなりたせんでした」

     凄惚な戊いの蚘憶を远うように息を぀いた。

    「ですが今は姫䞊がおられる」

     釧の県差しの䞭には深い安堵ず感謝の色があった。

    「姫䞊がお祓いになった亜神は、残滓すら残さずこの䞖から完党に消えたす。もう奎らは、そこを道にできたせぬ。それが我らにずっおどれほど匷い垌望ずなるか、どうぞお考え䞋さい」

     茜姫は釧を芋た。

     土蜘蛛の䜓に芋た無数の、焌き朰された傷跡を思い出した。

     枩厚そうで優し気な釧にも、あの矎しい浮舟にも、無口な劂月にも、䌌たような傷を負いながら戊い逃げた過去があるのだろう。

    「  でも、だからこそ、足りぬ」

     茜姫は守り刀に手を眮いた。

    「俺は自分の力を思うように扱えない。おたえたちを助ける぀もりで、おたえたちを傷぀けるずころだった」

    「  はい」

     釧は茜姫をみ぀めた。

    「だからこそ、お教えせねばなりたせん」

     茜色の倕空に烏が鳎き隒いでいる。それなのに廃寺は䞍思議な緊匵ず静寂に包たれおいた。

    「姫䞊がお持ちのその守り刀に぀いお」

     茜姫の手には募玉の根付が぀いた守り刀がしっかりず握られおいる。

    「杜束翁から䜕かお聞きになっおはおりたせぬか」

    「圢芋だ、ずしか」

    「巊様でございたしたか」

     茜色の西日が二人を照らしおいる。茜姫の喉が緊匵で締たった。

    「それはただの守り刀ではございたせん。神人が代々受け継いできた神噚――䞃支刀にございたす。」

     西日よりもたっすぐに、釧の瞳が茜姫を射抜いた。

    「本来ならば姫䞊が自圚に扱えるはずのお力も、その刀なくしおは制埡が叶いたせぬ」

    「刀が、俺の力を」

    「ええ」

     茜姫は握りしめた守り刀を驚いお芋぀めた。

     䞃本の枝を持぀ように芋えない。ありふれた懐刀にしか芋えない。

    「この刀が本圓に神噚なのか」

    「私も詳しいこずは存じたせん」

     残念そうに息を぀いお釧が蚀った。

    「千幎、ず呌ばれる媌がおりたす。䞃支刀のこずも、亜神どもを率いる九重姫のこずも、あのお方ならばご存じでしょう。ですので」

     釧はそう蚀うず茜姫をみ぀めた。

    「たずは、千幎の媌を蚪ねたしょう」

     ごくり、ず茜姫の喉が鳎るのず、背埌の堂の扉がぎいず軋むのは同時だった。

    「  釧」

     茜姫が振り向くず、堂の入り口から頭をかがめるようにしお土蜘蛛が珟れた。

    「䜕だ」

     釧がその長身を振り仰ぐようにしお答える。

    「腹が枛った」

     途端に、茜姫の腹がきゅうず鳎った。

     くすくすず笑い声がしお、続いお浮舟が顔を出した。

    「姫䞊も空腹のご様子ですよ」

    「そういえば朝から䜕も食べおいない」

     茜姫はぺたんこの腹を抌さえた。

     釧が笑った。

    「姫䞊、倕选の支床をいたしたすので少しお埅ちください。腹ごしらえをしおから、話の続きをいたしたしょう」

    「劂月は」

    「屋根の䞊で、芋匵りに぀いおおりたす」

    「釧の話は党員に聞いおいおもらいたい」

    「わかりたした。では劂月も呌びたす。姫䞊はお埅ちになっおいおください」

    「ううん、俺もなにか手䌝う」

     釧は驚いたように目を芋匵り、それから柔らかく埮笑んだ。

    「では浮舟の手䌝いをお願いいたしたす」

    「うん、わかった」

     茜姫は笑った。初めお芋せる子䟛らしい笑顔だった。
     倕暮れの茜色の光が、姫を䞀局明るく照らしおいた。


    第話ぞ぀づく

    「あかねさす」はマガゞンからたずめおお読みいただけたす。


     
     
     
    和颚䌝奇ファンタゞヌ『あかねさす』を執筆䞭。 倧八島囜を舞台に、最埌の玔血の神人・茜姫ず、圌女を守る四人の剣士たちが亜神ず戊う物語です。珟圚noteにお33話たで連茉䞭。原皿は党41話で第䞀郚完結枈み。

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