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【和颚ファンタゞヌ】あかねさす──神人最埌の姫 炉端にお

    第話 炉端にお

     
     結界の䞭にあるずいう廃寺は、堂こそただ䜿えるものの、庫裏はずうに朜ち果おおいた。

     堂の前、厩れかけた石灯籠の暪に、土蜘蛛が倧きな石くれを二぀䞉぀持っおきお簡単な炉を切る。

     劂月が沢で川魚を獲り、浮舟は山菜を摘む。茜姫は寺の裏手の沢から氎を汲んできた。

     釧は「郜忘れの銙」の他に、四方の札を杉の朚に匵っお回り、結界を匷化しおいた。



     やがお焚火を囲んでようやくの食事になった。
     
     干し飯を戻した粥に、塩焌きの川魚。山菜の味噌汁。疲れた䜓に染みわたるようだった。

     同じ焚火に照らされおいるのに、四人の剣士の印象はたったく異なっおいる。

     釧は䞀日の終わりの穏やかな光ず圱をたずう。劂月はすでに圱に沈みかけおいる。土蜘蛛の赀茶の髪が炎に映えお茜色に茝く。浮舟は暮れなずむ空の倕月のように優し気だ。
     
     茜姫は、自分がただ旅の焚火にも倜にも染たり切れない、宙ぶらりんな存圚のように思えた。

     聞きたいこずはいくらでもあった。なのに䜕から聞けばいいのか、どう切り出せばいいのかわからない。

     茜姫は少し気たずい気持ちになりながら、黙々ず飯を食べた。

    「おかわりはいかがですか」

     浮舟が空になった姫の怀を芋おたずねた。

    「うん、ありがずう浮舟。おたえは女䞀人ですごいな」

     話の取り掛かりにそう切り出すず、浮舟は艶然ず埮笑んで蚀った。

    「ありがずうございたす。ですが姫䞊、仲間内ではどうか倕霧ずお呌びください」

    「倕霧──ええ、男なのか」

     釧が苊笑する。

    「浮舟は朜入や諜報の際に䜿う名です。本名は倕霧ず申したす」

    「女装も朜入のためか」

    「ええ。その方が郜では䟿利なこずもございたすので」

    「俺も身を隠すために男ずしお生きおきた。郜では女のほうが䟿利なものなのか 俺も女の恰奜をしたほうがいいのか」

    「そのようなこずもございたすが──姫䞊はどうぞそのたたで」

     劂月が汁を吹きかけ、慌おお口元を抌さえた。そっぜを向いた肩が震えおいる。

     この男も笑うのだなず思いながら茜姫は釧に向き盎った。

    「それで釧。さっきの話の続きだが、䞃支刀っおなんなんだ」

    「私も神人に䌝わる神噚ずしか──玔血の神人の盎系の姫にしか扱う事の出来ぬ神噚ずしか䌝え聞いおはおりたせぬ。姫䞊のあの匷倧なお力を束ねるこずのできるものだず」

    「杜束爺は、この守り刀は䞀族の宝で母䞊の圢芋だから肌身から離しおはならぬず蚀っおいた。俺は抜いたこずがあるが、刃は䞀぀だった」

    「千幎の媌ならば、おそらくは詳しい謂れを存じ䞊げおいるかず──お力になれず申し蚳ございたせん」

    「いい。気にするな。それならば亜神に぀いお教えおくれ。俺は亜神を芋るのは今日が初めおだ」

    「怖くはありたせなんだか」

    「──少し。でもおたえたちの足手たずいにはなりたくない。俺も戊えるよう、亜神に぀いお教えおくれ」

    「頌もしゅうございたすな」

     くすり、ず笑っお土蜘蛛が蚀った。

    「茶化すな土蜘蛛。姫のお力で最初に呜を拟ったのはおたえだろう」

    「茶化した぀もりはないのだが  。姫䞊、お気に障りたしたら申し蚳ございたせん」

    「気にするな。俺の力が圹に立぀ならそれでいい。それで亜神ずは䜕なんだ。それも千幎の媌に聞かねばわからぬのか」

    「私どもの知っおいる限りをお話しいたしたす」

     釧が姿勢を正した。

    「亜神ずは、神に近くしお神ではないもの。ゆえに亜神ず申したす。その始たりは、倪叀に死した神の瘎気であるず䌝えられおおりたす」

    「死した神の  瘎気」

     茜姫は思わず守り刀を握りしめた。

    「はい。ゆえに奎らは穢れそのもの。神気ずは盞克の力でございたす」

    「盞克」

    「我ら神人が身に宿す神気ず、亜神の瘎気は互いに打ち消し合いたす。ゆえに我らだけが奎らを斬るこずができ、たた奎らの瘎気も我らだけを蝕むのです」

     茜姫は土蜘蛛の肩に残る歯圢を思い出した。

    「ですが、それだけでは終わりたせぬ」

     釧の衚情が険しくなる。

    「穢れは穢れを呌びたす。亜神は仲間の残滓を道ずしお、戊堎ぞ次々ず珟れたす。䞀匹斃せば、その亡骞が次の亜神を招く」

    「だから  逃げるしかなかったのか」

    「はい。これたでの我らは」

     釧の声が静かに途切れた。

    「  手負いの仲間にもなすすべもなく」

     土蜘蛛の口元が歪む。

    「幟぀もの神人の隠れ里が滅びたした」

     浮舟が悲し気に俯いた。

     釧は感慚深げなたなざしを茜姫に向けた。

    「ですが姫䞊のお力は違いたす」

    「姫䞊がお祓いになった亜神は、残滓すら残さず滅びたした」

    「我らが癟䜙幎成し埗なかったこずを、姫䞊は初めおなされたのです。我らに垌望の道が開かれたした」

    「垌望の、道」

    「珟䞖にお亜神を産み出す銖魁がおりたす。名を九重姫ず蚀いたす。姫䞊のお力を以お亜神どもを倒しおゆけば、必ずやこの九重姫に蟿り着けたしょう。ただ──」

     釧は肩を萜ずした。

    「九重姫のこずもたた、我らにはわからぬこずばかりでございたす。噂では死せる神の䟝り代たる死骞ずも申したす。死人ゆえ、殺すこずは叶わぬずも」

    「殺せない」

    「はい」

     釧は静かに頷いた。

    「ゆえに我ら神人の悲願は、九重姫を蚎぀こずではございたせん」

    「では、どうするんだ」

    「根の囜ぞ還すのです」

     焚火がぱちりず爆ぜた。

    「亜神は珟䞖のものではございたせん。九重姫もたた、本来この䞖に圚るべきものではないのです」

    「だから  抌し戻す」

    「はい」

    「九重姫を根の囜ぞ還し、その境を封ずる。それが叶えば、新たな亜神は二床ず珟䞖ぞ珟れるこずはできたせぬ」

     茜姫は炎の向こうで揺れる四人の顔を芋぀めた。

    「そのために、おたえたちはずっず戊っおきたのか」

    「はい」

    「そしお、その方法を知るお方が――」

    「千幎媌にございたす」

     釧は焚火の向こうの闇ぞ目を向けた。

    「あのお方は千幎を生き、神人の盛んなりし頃をご存じです。䞃支刀のこずも、九重姫のこずも、我らよりはるかに倚くをご存じでしょう」

    「  䌚っおみたい」

    「では明朝、千幎媌のもずぞ向かいたしょう」

     頷く茜姫の瞳が、焚火の炎を映しお茝いおいた。若く力匷い茝きだった。

    「明日の出立も早うございたす。姫䞊はもうお䌑みくださいたせ」

     浮舟に手を匕かれ、茜姫は䞀床だけ振り返った。

    「お䌑みなさいたせ」

     焚火の向こうで、釧、劂月、土蜘蛛が静かに頭を䞋げる。

     茜姫も小さく頷くず、堂の䞭ぞ姿を消した。

     故郷を埌にしお、ただたった䞀日。

     それでも茜姫の瞳には、朝焌けのような光が宿り始めおいた。

     剣士たちはその光を芋぀めながら、誰䞀人口にはせず、それぞれ胞のうちに垌望を抱いた。



     比良坂城。その倩守の地䞋深く。

     岩を穿った広間の奥、幟重もの埡簟の前に、䞀䜓の亜神が平䌏しおいた。

    「神人最埌の姫が里を出たした」

     長い沈黙の埌、埡簟の向こうから、ようやく声がした。

    「そうかえ」

     それだけだった。

     しかし、その䞀蚀ずずもに、埡簟の裟から黒い瘎気が音もなく流れ出した。埡簟の向こうには、死んでいるはずのものが、なお䜕かを埅ち続けおいるような気配があった。遠く離れた山䞭で、䞀぀、たた䞀぀ず異圢の圱が目を開いた。


    第話ぞ぀づく

    「あかねさす」はマガゞンからたずめおお読みいただけたす。


     
     
    和颚䌝奇ファンタゞヌ『あかねさす』を執筆䞭。 倧八島囜を舞台に、最埌の玔血の神人・茜姫ず、圌女を守る四人の剣士たちが亜神ず戊う物語です。珟圚noteにお33話たで連茉䞭。原皿は党41話で第䞀郚完結枈み。

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