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むンディアン・パシフィックの旅 第9話 終【創䜜倧賞2026】

    *この小説は党9話、20章からなる䞭線ものです。
    **note創䜜倧賞2026 恋愛小説郚門に゚ントリヌしおいたす。
    前回の物語はこちら↓

    第十九章 Cookの町

     倜䞭、ふず目が芚めた。
     劻子はあどけない寝顔をみせながら、ぐっすりず眠っおいる。
     列車はいただに、砂挠のど真ん䞭を走っおいた。このたた、人里から離れ続け、私たちは氞遠に元の䞖界に戻れないのではないかず、䞍安になるくらい倖には䜕もなかった。
     やがお列車は、小さな車䞡基地のある街に差し掛かった。挠々ずした地平線の向こうに、小さな建物が芋える。ここはクックずいう町だ。人口はたった数人の、䜕もない小さな街だ。列車の車茪が重苊しい金属音を立おながら、少しず぀枛速しおいく。
     この駅は無人駅である。
     ドアは、朝たで開かないはずだ。
     だが、私の身䜓は自然に倖ぞ誘い出されおいた。幜霊のようにふわりず軜くなった身䜓が、陰気な雰囲気の廊䞋ぞ吞い寄せられ、気が぀くず列車の倖に立っおいた。たるで、自分ずいう肉䜓がどこか遠くぞ眮きされおいるかのようであったが、私がこの䞖に存圚しおいるずいう意識だけは確かにあった。
     屋倖は、極寒の倜だった。昌間に感じた熱気はどこか遠くぞ消え去り、地球の反察偎の空気がそっくりそのたたこちら偎ぞ移動しおきたかのように、党く次元の違う䞖界が広がっおいる。
     数軒の癜塗りの建物の合間を瞫っお歩き出すず、すぐに䜕もない真っ黒な地面が珟れた。芋䞊げる倜空は、先ほど車内からガラス越しに芋たよりもはるかに珟実味を垯びおいる。黒玫色の背景に、乳癜色や赀橙色をした無数の点がただ無造䜜に敷き詰められおいた。
     ふず、遠くに異質な赀い点が芋えた。五キロほど先だろうか。倧地の挆黒を際立たせるかのようなその枩かい色は、荒涌ずした砂挠に取り残された私にずっお、ずおも魅力的に映った。自然ず身䜓がそちらぞず吞い寄せられおいく。だが、近づけば近づくほど、私は来おはいけない堎所に足を螏み入れおいるような悪寒に襲われた。赀い点が次第に倧きくなる。
     近づいおみるず、それは巚倧な篝(かがり)火(び)であるこずが分かった。火の向こうから声が聞こえる。匱々しい、现い糞のような声がいく぀も重なり合い、䞀぀のメロディヌを奏でおいた。原型こそ留めおいないが、それは確かにワルチング・マチルダだった。出発時のホヌムで聞いた時の、あの明るくも悲しい響きずは察照的に、どこか寂しげで、しかし明るい調子で现々ず口ずさたれおいる。
     さらに篝火ぞず近づく。火の呚りには、乗客たちが䞞い円を描いお䞊んでいた。劻子もいた、りィリアムもいた。ただ、圌らは魂を吞い取られたような䞍気味な癜い身䜓を纏(たず)い、無機質な衚情のたた、その芖線をひたすらに篝火の䞭心ぞず向けおいた。篝火は圌らの芖線に呌応するように、勢いよく火柱を倩ぞず䌞ばしおいる。
     私は、炎に吞い蟌たれそうになった。この火には、䜕か人を惹き぀ける猛烈な魔力がある。その力に身を任せるこずは、いたっお自然なこずに思えた。だが、私の现い身䜓は確かな意思をもっお、それに激しく抵抗した。砂挠の颚がビュヌビュヌ吹き荒れ、私の䜓枩を容赊なく倧地に還元しおいく。そうやっお私が抗えば抗うほど、あの篝火は䞀局高く舞い䞊がり、火花を倜空ぞず撒き散らす。私が抵抗すればするほど、その火は残忍な偎面を露わにしおいくのだ。
     その怒りが頂点に達したかず思われた瞬間、篝火は急に勢いを匱めた。燃え尜きた癜い灰が、黒い地面の䞊に音もなく降り積もり、その䞊で、ただ枩かい残り火が、穏やかな赀色を呈しおいる。篝火の呚りに取り憑(぀)いおいた癜い圱たちは、い぀の間にか霧散しおしたっおいた。
     倧地はたた、静かで冷たい倜の空気に包たれる。遠くの南十字星は䟝然ずしお、冷静な茝きを保っおいた。
     その時、南十字星の䞀぀の星が、突劂ずしお匷く茝きだした。それはずおも異質で、月の明かりずも星の明かりずもいえない、䞍思議な光の攟ち方だった。その光に恐ろしさはない。結衣の笑顔のように真っ盎ぐで、玔粋な明るさを秘めおいた。光は次第に倧きくなっおいく。私はあたりの眩しさに顔を芆った。閉じた瞌(たぶた)の裏偎で、この旅で経隓したすべおのこずが、走銬灯のように駆け巡った。それらは䞀぀䞀぀が確かな意味を持っお、私のもずぞ舞い降りおきたように思えた。曖昧でありながらも確かに存圚するものずしお、私の心を匷く錓舞しおくれたのだ。
     光はさらに膚匵し、目の前が真っ癜に染たる。やがお珟れたのは、黒塗りの艶やかな機関車であった。埌方には、いく぀かの客宀が連結されおいる。窓越しに芋える明るい車内には、私の家族、ゞェフィヌ、りィリアム、そしお結衣がすでに乗車しおいた。圌らは皆、楜しそうに蚀葉を亀わしおいる。
     機関車が癜い蒞気を䞊げながら、私の目の前で止たる。客宀から降ろされたいび぀な階段に、䞀歩ず぀足をかける。その䞀歩䞀歩は単玔な動䜜だが、ずおも貎重で、同時にずっしり重たいものであった。
     乗務員に、切笊の提瀺を求められる。私は「持っおいない」ず蚀ったが、乗務員は黙っお私の胞元を指さした。胞ポケットを探るず、そこには結衣の手玙に描かれた、あの䞍噚甚なカンガルヌが印刷された瞞(した)暡様(もよう)の玙が挟たっおいた。その玙切れを名残惜しそうに手枡すず、乗務員はすぐ改札(かいさ぀)鋏(ばさみ)でそれを無残に切り裂いおしたった。
     列車は、どこぞ向かっおいるのか分からない。ただ広倧な砂挠の倧地を、ひたすら北ぞ向かっお走り出した。だが、この列車がどこぞ行くのか、私はたったく䞍安を感じなかった。少し戞惑いながらも客宀の扉を開ける。䞭には、私の倧切な人たちが埅っおいる。もう、恐怖も䞍安もなかった。私が堂々ず足を螏み入れるず、結衣が少し小銬鹿にした口調で私をからかっおきた。
    「あんた、遅い もうこっちは、あんたの愚かな逃走劇を䞉回くらい話しおいるんだからね 早く来お、私に謝るずころからね」
     そうやっお私たちは、たるで叀くからの旧友のように打ち解け合い、語り合った。この旅のこず、アデレヌドでの思い出、家族のこず。手元には、りィリアムの実家から送られおきた、はち切れんばかりに実の詰たったブドりが山のように積たれおいる。私たちはそのブドりの粒を片手に、日が昇るたでしゃべり続けた。倜の空は、ただ静かに、優しく私たちの列車の行く先を芋守っおくれおいた。
     東の空に枩もりが戻り始め、倧地の黒色が䞀局濃い圱を萜ずす。列車は、䜕かに急かされるように速床を䞊げた。
     その時、山積みのブドりがボコボコず異様な音を立お、皮に亀裂が入り始めた。匟けたいず我慢しおいたその実が、䞀気に匟け飛ぶ。匷烈な生呜の息吹を攟぀ブドりに呌応するように、車内がギシギシず軋(きし)み始めた。車茪が歪み、車䜓が倧きく揺れる。車䞡の連結郚の郚品が䞀぀ず぀倖れおいき、ギヌギヌず悲鳎を䞊げながら車䞡がバラバラに厩れ始めた。先頭の機関車はさらに速床を䞊げる。぀いに客車はワラワラず厩れ萜ち、ずうずう私たちは倧空ぞず攟り出されおしたった。
     ただ星の残る早朝の空は、ひんやりずし぀぀も、これから始たる新しい䞀日を粟䞀杯祝犏しおくれるようだった。私たちは手を぀ないだたた、茪を䜜っお宙に浮かんでいる。そしお、どんどん䞊空ぞず浮䞊しおいく。オヌストラリア倧陞の党䜓像が、ゆっくりず芋えおきた。りィリアムず倜空を芋䞊げたナラボヌ高原、結衣ず出䌚ったアデレヌド、ゞェフィヌが生蚈を立おるブロヌケンヒル、私の人生の出発点ずなったシドニヌ。各郜垂で点ず点が繋がり、線ずなり、そこにストヌリヌが生たれ、この倧陞が圢成された。その線が結ばれる蓋然性は、どれだけ科孊が進歩しおも説明䞍可胜であろう。
     そのうち、オヌストラリア倧陞党䜓のすべおが私たちの県䞋にすっぜりず収たった。倪平掋ずむンド掋を繋ぐこの列車は、あれだけの距離を陞路のみで移動する。宇宙の芖点から芋䞋ろせば、それはずおも短くお、取るに足らない行為に過ぎないのかもしれない。だが、今の私には、それこそが生を育むこずの本質に思えた。
     たもなくしお、Indian Pacificの長い旅の終わりが告げられた。
     繋がっおいた手が、ふわりず離れおいく。私たちの茪は少しず぀解(ほど)け、皆それぞれが、本来戻るべき堎所ぞゆっくりず垰っおいくのだった。

    第二十章 新しい始たり

     目が芚めるず、劻子がフリンゞハットを被っお、私のこずを埅っおいた。
     今日は、豪州ぞの出発日らしい。どうやら私は、すっかり寝坊しおしたったようだ。
     だが、そんなこずには気にも留めおいないのか、圌女たちは朗らかな衚情を浮かべお、私の出発合図を埅ち詫びおいるようだった。急いで身支床を敎える。ふず芖線を萜ずすず、嚘の小さなリュックサックから、銀现工の鳩がチラチラこちらを芗(のぞ)いおいた。
     出発前に、列車の切笊を確認する。
     新しい旅が、始たろうずしおいた。
     

    終わり


    最埌たで読んでいただき、ありがずうございたした
    䜕か琎線に觊れるものがあれば、嬉しいです。

    2026.07.02 䞭村拓也河合凪音
     

     
     

    N.Kawai

     
     
    23歳。倧孊院生。ゞャグリング。ピアノ。日蚘や小説。

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