
#268 不自由、不便を意図的に入れ込む
不自由っていうのは本当にいい薬だよ。
人間には本当にいい薬。
大抵のものは重荷にならない。
長野県の農村。笑顔のお父さんのゆったりとした言葉が「便利ばかりだったら病気になるよ」って言ってくれているようだった。
(NHK 小さな旅 2026年1月11日放送より)
そう、今から人間は不自由・不便を意図的に入れ込む必要がある。
ちょっとばかりでは効かない。
なぜならばAIの創り出す「効率」は、油断すると人間の営みの物語を急速にすっ飛ばし、それを自動化していくからだ。
1ヶ月かかっていた仕事が1日でできるということは、29日分の物語を消滅させている可能性がある。
物語は、人間が「なぜやるか」の理由を生成する。
それが失われていく。
なぜやるか?の意味を失った人間は急速に記号化していく。
まるでミヒャエル・エンデの「モモ」で、時間泥棒の灰色の男たちが一気に勢力を増し、人間がただただ時間を節約する忙しい道具になっていったように。
29日分の物語を失った空白に、さらに便利で効率的なストーリーを詰め込んで行くと、灰色の男に占拠される。
抜け出す方法は一つ。時間が逆向きに流れるさかさま小路を、後ろ向きに歩くこと。
効率化した空白に「不自由」「不便」を意図的に入れ込めるならば?
それは望んでいたものから遠ざかっていく自分を引き戻す。
お父さんが言う「本当にいい薬」が効きはじめる瞬間ではないだろうか。