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昭和、渋谷で、恋をしたり 2-1 |お見合い写真にいいね

    前回のあらすじ(1-20)
    江ノ島でデートをした泰輔と夏奈恵。夜は新宿のお好み焼き屋で過ごし、帰りに泰輔は夏奈恵をホテルに誘う。夏奈恵は「カメラと私、どっちが大事?」と尋ねると「夏奈恵が大事」と答える泰輔。夏奈恵は「証拠を見せて」と言い、泰輔のカメラを道路に叩きつけてしまうのだった。
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    受話器越しの声

    部屋では壊れたカメラが本棚の一角にむき出しになっていた。
    レンズにはヒビが入り、蓋が取れていた。夏奈恵が叩きつけた弾みで、フィルムは飛び出し、せっかく撮った写真もすべて消えてしまったと思った。

    カメラを修理する気は湧かなかったが、フィルムは試しに現像に出してみた。すると、イルカの写真こそ全滅だったが、夏奈恵が写っている写真が数枚現像されてきた。

    写真を眺めていると、夏奈恵の口元からこぼれる白い歯に、強い想いが込み上げた。オープンしたばかりの東京ディズニーランドに一緒に行ってみようなどと妄想も膨らんだ。
    下心からの勇み足。そんな後悔を癒してくれたのも夏奈恵の写真だった。

    しかし、バイトに行き、夏奈恵と顔を合わせても必要以上の会話はなかったし、何か用があっても「溝口さん」と呼ばれるだけだった。

    佐藤さんとの関係は終わったと言っていた。
    「今がチャンスじゃないか」と自分を鼓舞したくとも、自分からつまずいたのだ。チャンスを前に何もできないもどかしさ。一人になると苛立つばかりだった。

    そして限界まで苛立った夜、思い切って電話をかけた。状況をなんとか打破したくて、焼き増しした写真を渡すのを口実に夕食に誘ってみたのだ。

    「現像できたんだ? 見たい」

    ちゃんと話すのは一週間ぶりくらいだった。
    受話器越しに聞こえた夏奈恵の声が、予想以上にうわずっていて、胸をなで下ろしたものだ。
    その声を聞いて、改めて決心した。


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    お見合い写真

    3日後、アルバイトが終わると、同僚に気づかれないよう宇田川町の交番で夏奈恵と待ち合わせた。
    あの台湾料理屋に行くことにしていたのだ。そして、私が着いてから5分もしないうちに夏奈恵はやってきた。

    「ごめん、待った?」

    日中との温度差が開いてきた夜、半袖のシャツに少し体を震わせていた私に「寒くないの?」と、カーディガンを羽織った夏奈恵がわずかに微笑んだ。

    店に入り、注文を済ませるとすぐに写真を渡した。夏奈恵は手にした写真を一枚ずつ、ゆっくりと眺めていた。

    「イルカの写真は、またいつか……」

    「ううん、カメラ大丈夫だった?」

    「たいしたこと無かったし」

    「修理代、ちゃんと出すから」

    「いいんだよ、ほんとうに大丈夫だから」

    こうして夏奈恵と食事ができたことだけで、もうすべては洗い流されていた。それから気を取り直すように夏奈恵はある1枚の写真をしばらく見つめていた。

    「これ、私? よく撮れてるね……。お見合い写真が必要になったら、溝口さんに頼もうかな」

    夏奈恵が見せてくれたその写真は、私も部屋で一番手にした写真だった。

    夏奈恵が写真と同じ笑顔を見せてくれ、肩に入っていた力が雪解けの水のごとく抜け、頬も自然と緩んだ。

    「こっちこそ、謝らなくちゃ」

    「ううん」

    「ごめん」

    「ううん。私のほうこそごめんなさい」

    すると料理が運ばれてきた。空芯菜の炒めものから、中華スープとほのかなニンニクの香りが鼻をつく。食欲を刺激された私たちは、頭を下げ合うのをやめ、軽快に箸を動かした。

    そして次々と運ばれる小皿を片付けながら、お好み焼き屋で過ごしたように、時間は瞬く間に過ぎていった。

    そして互いが満腹感に浸りだした頃に、ふと思い出したことを尋ねてみた。


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