
昭和、渋谷で、恋をしたり 2-6|初めての手紙
前回のあらすじ(2-5)
終電が迫る吉祥寺駅で告白して振られた泰輔は、夜通し歩いて夏奈恵の家を目指す。夏奈恵は泰輔を部屋にあげるが、改めて「付き合えない」と告げ、泰輔は24時間のうちに2度振られる結末に……。
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初めての手紙
終電が迫る吉祥寺駅で告白をし、振られた勢いで夏奈恵の家まで走っていった。でも、また振られてしまった。
生まれて初めての失恋は、晴れない気持ちのまま、目に映るものは色を失い、何に対しても無気力になった。そして胸にはずしりと夏奈恵の存在が残っていた。
それでも、プラネタリウムに行けば夏奈恵に会えた。バイトに向かう時、自転車をこぐ足取りは、行きの下り坂こそ嬉しいが、帰りの上り坂は、よろめくほど足取りが重かった。
どんな顔で、何を話せばいいのかわからなかった。
それでも自分の気持ちに噓はつけない。
だから、時には電話をかけた。何度コールしても出ないとき、夏奈恵は私だとわかって出なかったのか、本当に不在だったのか。どちらにしても、不安だった。
また別の夜は、3回コールが鳴って自分から切ってしまった。受話器を握る手は、深いため息とともにゆるんでいった。
そんなことを繰り返すうち、手紙を書くことを思いついた。
そして書いては捨て、また書いては捨てを繰り返し、やっと書きあげたものをバイト先の夏奈恵のロッカーにひっそりと隠した。思いの丈を夢中でつづった、生涯で初めてのラブレターだった。

ただ、手紙を出すと、もう何もできなかった。
返事が怖くて、電話もかけられなかった。寮の電話が鳴るたびに、夏奈恵からではないかと期待した。それでも電話はなく、ただ返事を待つ日々が続いた。
「手紙なんか出さなきゃよかった……」
何度もそんなことを思いながら過ごして1週間が過ぎた日だった。
返事が届かないまま、顔を合わせることになった。
タイムカードを押しに事務所に入ろうとドアを開けた瞬間、夏奈恵とすれちがった。
「あ、おはよう」
夏奈恵は足を止めず、何事もなかったようにあいさつをした。
いつもと変わらぬ挨拶なのに、避けられているような気がした。
その日のバイト中も、夏奈恵と口をきけるタイミングはなく、時間はどんよりと重く流れ、営業が終わろうとしていた。
「やっぱりダメかぁ」と、気が抜けて独り言をこぼしていた。
そんな寂しさに包まれながら、グッズ売り場の整理をしていたときだった。
「溝口さん」
抑えた声がして振り返ると、夏奈恵が売り場の片隅で周りを気にしながら片手で手招きをしていた。
「明日、バイト休みでしょ? 昼間、溝口さんの大学遊びにいけない?」
