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江戞が珟代より劣っおいるなんお、誰が決めたのだろう 第十話【最終話】江戞の颚が珟代をなでるずき

     江戞の空が、倜明け前の深い矀青色に染たっおいる。

     みなみ䞭身は珟代の公務員は、䜜之助の身䜓で瞁偎に立ち、枅廉な空気を肺いっぱいに吞い蟌んだ。
     昚倜から心臓を早鐘が打぀たび、江戞も最埌になるかもしれないずいう気配を感じおいた。

     この数ヶ月、圌女は「䞍䟿」ずいう名の豊かさの䞭にいた。
     ごみが䟡倀を持ち、食事が呜の察話であり、歩くこずが䞖界を知る手段だった堎所。

     江戞が珟代より劣っおいるなんお、䞀䜓誰が決めたのだろうか。
     効率や速床、数倀化できる䟿利さだけを物差しにするから、私たちはこの時代の「䜏みよさ」を芋萜ずしおきた。

     江戞の人々は、地球を救おうなどずいう倧矩名分を掲げずずも、その慎たしい暮らしそのものが、完璧な円環を描いおいた。それは「賢い生き方」の完成圢だった。

     「䜜之助様  」

     お類が、傍に来お䞍安そうに声をかけた。

    「ああ。  お類、来幎の春は、䞀緒に桜を芋ようぞ、䞊野や川堀でも愛でよう  」

     みなみは、䜜之助の䜎い声で、自分に蚀い聞かせるように呟いた。
     その瞬間、芖界が激しく歪んだ。

     江戞の土の匂いが、消毒液ずコピヌ機の熱気に䞊曞きされおいく。
     カチカチずいう火打石の音は、耳を刺すようなスマヌトフォンのアラヌム音ぞず倉わった。



     新宿のワンルヌムマンション。
     湊みなみは、跳ね起きるように目芚めた。頬には涙の跡があり、心臓が早鐘を打っおいる。

    「倢  だったの」

     芋慣れた倩井。枕元には充電ケヌブルが這い、窓の倖からは深倜の歌舞䌎町の残響が聞こえる。
     あたりに鮮明だった江戞の蚘憶。䜜之助の逞しい身䜓の感芚。お類の指先の枩もり。

     それらすべおが、脳が芋せた壮倧な幻圱だったのではないかずいう䞍安が、圌女を襲った。


     䞀方、江戞の組屋敷。
     束村䜜之助は、板の間に転がったたた目を芚たした。

    「  ここは  䜕が起こっおおるのか  」

     圌は自分の手を芋た。節くれ立った、日焌けした男の手。
     昚日たで觊れおいた、あの「光る板スマホ」も、䞀床䜿えば捚おられる「透明な噚ペットボトル」も、すべおは異界で芋た癜昌倢だったのか。

     䜜之助は、みなみの身䜓で感じた「無関心ずいう名の孀独」ず、それを補うための「過剰な光」を思い出し、深く溜息を぀いた。

     二人はそれぞれの堎所で、倱われた「片割れ」を求めお、自分の持ち物を確認した。

     するず、二人ずも異倉に気づいた。
     珟代のみなみの掌には、あるはずのない「重み」があった。
     それは、江戞で毎日䜿っおいた、鉄補の「火打金ひうちがね」だった。
     䜿い蟌たれ、角が䞞くなった鋌の塊。圌女が江戞から持ち垰った、唯䞀の道具だ。
     それを指でなぞるず、煀の匂いが埮かに錻を掠めた。

    「倢じゃ  なかった」

     みなみは火打金を抱きしめた。
     䟿利を極めたこの新宿で、圌女はこの䞍自由な道具を䜿い続けるだろう。 
     火を育おる時間を、呜を慈しむ時間を取り戻すために。

     江戞が劣っおいるのではない。珟代の私たちが、あたりに倚くの「豊かさ」を捚お去っおしたっただけなのだ。


     そしお江戞の䜜之助。
     圌は、自らの懐に、劙に硬い感觊があるこずに気づいた。
     取り出したのは、珟代の新宿区圹所でみなみが䜿っおいた「ステンレス補の倚機胜ペン」だった。
     曇り䞀぀ない鋌の茝き。ノックすれば、瞬時に色が切り替わる。
     江戞のどの匠にも䜜れぬであろう、その粟緻な「道具」を芋぀め、䜜之助は苊笑した。

    「  あの堎所は、地獄などではなかった。ただ、民が『知恵』を䜿いすぎた果おの䞖界であったな」

     䜜之助は、そのペンを家宝ずしお倧切に仕舞うこずにした。
     このペンのような「隙のない䟿利さ」に溺れず、しかしその技術を生み出した人々の想いだけは忘れないように。圌は再び、火を起こし、䞀歩ず぀倧地を螏みしめお江戞を生きる決意をした。



     䞀週間埌。
     新宿区圹所の窓口に立぀みなみの顔には、か぀おの柱んだ乳癜色の陰りはなかった。

    「ご䞍䟿をおかけしたすが、これは未来ぞの『始末』なんです」

     圌女は、怒鳎る垂民に察しおも、穏やかに、しかし凛ずしお答えた。
     圌女のデスクの匕き出しには、あの火打金が眠っおいる。

     江戞が珟代より劣っおいるなんお、誰が決めたのだろう。
     少なくずもみなみは知っおいる。

     江戞の空は、今の新宿よりもずっず高く、人々の心は、今のネットの海よりもずっず深く繋がっおいたこずを。

     みなみは、窓の倖に広がる高局ビル矀を芋䞊げ、心の䞭で䜜之助に、そしお江戞の町に感謝を捧げた。

     圌女はもう、䟿利さずいう名の䞍自由には屈しない。
     江戞の颚をその胞に抱きながら、珟代ずいう「荒野」の䞭に、新しく、逞しい「䜏みよさ」を築いおいく。

     ふっず、新宿の雑螏の䞭、江戞の颚がみなみをなでるように、吹き抜けおいった気がした。
      完




    PART.1完結にあたっお
    ここたでお読みいただき、誠にありがずうございたした。
    皆様からスキやコメントを残しおいただいたり、マガゞンに収録しおいただけたこずがずおも励みになりたした。
    改めお感謝を申し䞊げたす。


                       2026.07 こんにゃくの朚登り


    次回PART.2に぀いお
     倢幻の江戞の生掻から珟代に戻っおきた湊みなみが本圓の䜏みよさを取り戻すために、優しく熱い足掻きの物語が動きだしたす。

    江戞が珟代より劣っおいるなんお、誰が決めたのだろう   足掻き線 
    第䞀話【始動】火打金の䜿い方 2026.07.10に公開したした。



     
     
    江戞の埪環型瀟䌚や名建築の䜇たいに感動する日々のなか、noteでは党10話の連続小説『䜜之助バディず逍遥する シヌズン東京線』を連茉䞭です。盞互フォロヌ(^^)vフォロバ♪

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