
自伝的小説「夢のおわり」⑭人生の転機
第13話はこちらから
2001年 夏
人生の転機
人生には転機というものが必ず訪れる。
年初めのお笑い新人グランプリで
最優秀新人賞を撮った後輩コンビは
それを機に一気にスターダムへと
駆け上がっていった。
テレビの影響というのはすごい。
あれ以来、こんな僕らにも
ファンレターというものが毎週来るようになった。
といっても
九対一の割合で相方の方が多かったけれども…。
それでも嬉しかった。
力をもらった。
あるファンレターに
「落ち込んでる時に僕らのネタを見たら元気が出ました。ありがとうございました」
と書かれていた。
正直、自分の為にやってきたネタが
こうやって見ず知らずの人に影響を与えていたなんて驚きだった。
そんな事考えた事もなかった。
今まで家族やバイト先に
迷惑しかけていなかった芸人活動
それが、一人でもそんな事を思ってくれた人がいた事が嬉しかった。
『芸人になってよかった。』
あれから少しずつではあるけど
仕事を貰えるようになった。
そんなある日、同じライブに出演している3組で夏にユニットライブをさせてもらえる事になった。
僕らが一番先輩で、あとは後輩が2組。
その中の1組はレギュラーに上がっては落ちてを繰り返し安定しないコンビだった。
僕らがいうのもなんだが、
正直、人気知名度的にも3組の中で一番なかった。
でも、彼らはすごく面白いコンビで
打ち合わせでも、そのコンビのボケである彼の出すアイデアが断トツに面白かった。
彼のボキャブラリーの豊富さには
いつも驚かされた。
彼らのネタのウケが、あまりよくないのが不思議なくらいだった。
そのライブはお客さんも沢山入り
大盛況で幕を閉じた。
その辺りからか、彼らが徐々に受け入れられるようになっていった。
そして、
2001年のこの年、
今も全国のお笑いファンやテレビ関係者が
毎年その優勝者に注目する
日本最大級の漫才の大会が始まった。
M-1グランプリ
その規模は、全国の北は北海道、南は沖縄まで予選会が行われ、参加者も結成10年以内なら誰でも出場OKという事もあり、参加人数も何千人規模で文字通り最大級だった。
その中でも一番の話題だったのが、
なんと言っても優勝賞金が1000万円という金額。
今は全国区の賞レースが乱立し、賞金1000万円はデフォルトのようになってしまい、当たり前の数字になってしまったが、
当時、関西でおこなわれていた賞レースでは、
最大でも50万円程度だった事を考えれば、これがいかに破格の金額だったのかが分かるだろう。
それは夏あたりから予選会が始まり
2回戦、3回戦・・・とおこなわれ
年末の全国ネットで決勝戦が放送される事が決定していた。
その全国ネットの決勝戦に駒を進める事が出来るのは、たったの10組。
何千組の中から10組だけ。
そんな雲をつかむような、まるで現実味のない数字に、僕たちはお祭りにでも参加するかのような軽い気持ちで臨んでいた。
僕らの上には10年近くの先輩がいる。
そんなの勝てる訳がない。
誰もがそう思っていた。
しかし、
そんなおちゃらけた空気が一変する事となる。
なんと、その決勝の狭き門に、
その後輩コンビが選ばれたのだ。
誰もが予想していなかった快挙。
その快挙に僕らの劇場中が歓喜と興奮に包まれた。
そして迎えた本番当日、
僕らは楽屋のテレビにクギづけになり、
その様子を見守った。
残念ながらそのコンビは優勝こそ逃したものの
審査員を務めた天才とも言われる先輩芸人さんに言われた一言がキッカケで
知名度が一気に広がり
その名が全国に知れ渡った。
たった一言
「今日見たネタで一番面白かった」
この一言で、人生が変わった。
次の日から
昨日まで全くの無名だった彼らが一気にスターダムへとのし上がった。
白紙だったスケジュールは真っ黒になり
休みは無くなり
毎日、溢れんばかりのファンレターが届いた。
それは間違いなく彼らにとって最大の転機だっただろう。
そして、それから20数年たった今
彼は全国区の朝の番組の顔となっている。
あの時、誰にも知られていなかった彼の事を
今は知らない人はほとんどいない。
人生の転機
それはいつ何処でどのように訪れるか分からない。
そして今年もまたあの時期が訪れた。
『お笑い新人グランプリ』
これもまた人生の転機になりうる番組。
今回も予選会の前にネタ見せがおこなわれた。
僕らはそれに驚くほどあっさり通り
予選会もあっさり通ってしまった。
『これが転機になるかもしれない』
そして迎えた本番当日。
僕らは10組中10番目で大トリだった。
トリの重圧に耐えながらもそのネタは前回をはるかに上回り大ウケだった。
普段はあまり自分たちの事をよく言わない僕もこれはウケたと感じた。
「これはいけたかもしれない」
「人生の転機になる」
期待は大きく膨らんだ。
人生の階段を駆け上がり
目の前にそびえ立つ大きなこの扉を開けば
光に包まれた明るい未来が幕を開けるんだ。
そう願って臨んだ結果発表。
人生は、そんな甘くはない、、、。
名前は呼ばれなかった。
無冠に終わった。
目の前の明るい光は、
静かにフェードアウトしていった。
受賞の感想を語るコンビの喜びの声だけがかすかに聞こえた。
人生の転機。
それは誰しも必ず訪れる。
それは決していい事ばかりではない。
そしてそれは僕らにも訪れる事になる。
違った形として・・・
よく晴れた冬の日に僕の目の前だけに
大雨が降っていた。
そんな夜の事だった。
(つづく)

