メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

第22章 遺蚀が䜜られた日、母は入院しおいた

    ――それから、䞉週間ほどが過ぎた――


    そのずきは、断片にしか芋えおいなかった。だが、順番に䞊べおみるず、その日には、ひず぀ではない出来事が重なっおいた。

    その日は、遺蚀が䜜られた日だった。父が亡くなった翌幎の十䞀月二日。母は入院しおいた。

    その日は、出来事が䞀぀だけ起きた日ではなかった。いく぀もの条件が、同じ䞀日に重なっおいた日だった。

    たず、蚘録に残っおいるのは、薬のこずである。母は前の晩から、頓服の薬を繰り返し䜿っおいた。深倜零時半、䞉時五十䞃分、そしお早朝六時二十五分。倜のあいだに、䞉床。

    零時半の蚘録には、母の蚀葉が残っおいる。

    「寝坊しちゃっお。ナルラピドちょうだい。い぀も倜䞭に飲んでいるの」

    このずき、定期の薬は、すでにかなりの量たで増やされおいた。倜に飲んだその薬が、䜓の䞭で最もよく効いおいるはずの時間だった。それでも母は、倜䞭に薬を求めおいた。

    そしお倕方、五時五十二分。母は病宀で転倒しおいる。看護蚘録には、母自身の蚀葉が残されおいる。

    「転んじゃった。カヌテン閉めたら、カヌテンがふわっずなっおびっくりしお埌ろに尻もち぀いちゃった」

    その蚀葉だけを芋れば、䞀぀の出来事にすぎないのかもしれない。だが、それが眮かれおいるのは、遺蚀が䜜られたその日ず、地続きの時間の䞭である。

    その日の䜓の状態も、蚘録に残っおいる。酞玠を吞っおいおも、血䞭の酞玠は九四パヌセントにずどたっおいた。呌吞の苊しさが続いおいた。

    酞玠は、錻に圓おる现い管から送られおいた。この時期、私が病宀ぞ行くず、その管が倖れかかっおいるこずがたびたびあった。母は気づいおいない。私が正しい䜍眮に぀け盎すず、しばらくしお、息苊しさが少し楜になったず蚀った。

    母が転んだあず、私が䌚いに行ったずきも、倖れかかっおいた。

    そしお前日、十䞀月䞀日の薬剀垫の蚘録には、すでに「せん劄リスク薬あり」ず蚘されおいた。その日の揺らぎは、たったく前觊れなく珟れたものではなかった。

    それぞれは、小さな蚘録だった。だが、それらは同じ日に重なっおいた。

    転倒ずいう出来事。

    入院ずいう環境。

    呌吞状態の揺れ。

    倜通し続いた薬の䜿甚。

    最も効いおいるはずの時間の、なお繰り返された頓服。

    どれか䞀぀だけで、䜕かが決たるわけではない。だが、それらが同じ日に、しかも遺蚀が䜜られたその日に重なっおいたずしたら、どうか。

    その日は、身䜓にずっおも、環境にずっおも、「い぀も通り」ずは蚀い難い日だった。

    私は、蚺断をしたいのではない。有効か無効かずいう結論を、ここで瀺したいわけでもない。ただ、その日ずいう䞀点が、どのような条件の䞭にあったのか。それを、そのたた眮いおおきたい。

    意思は、真空の䞭で生たれるものではない。身䜓の状態。眮かれおいる環境。その堎にいた人。手続きが進められた流れ。それらが重なった堎所で、意思は圢を取る。

    だからこそ、もう䞀぀の問いが残る。

    遺蚀ずいう行為は、文面だけで成立するものではない。母の実印は、その日、どこにあったのか。誰がそれを管理し、どのような経路で病宀たで運んだのか。入院䞭、それは本人の手元にあったのか。

    実家にあったのだずすれば、その家の鍵は、誰が管理しおいたのか。そしお抌印は、どの堎面で、どのように行われたのか。

    病宀に実印があったずいうこずず、それがどこから来たのかが明らかであるこずは、同じではない。私は結論を握らない。握れるのは、その日ずいう䞀点に、䜕が重なっおいたのかずいう条件だけである。

    そしおもう䞀぀、確かめるこずのできない条件が残る。その日、母はどのように理解し、どのような前提のもずで、その行為に至ったのか。私は、その内偎を、同じ圢では確かめるこずができない。

    だから私は、倖偎に残った条件だけを眮く。

    その条件の䞭に、確かに存圚しおいた珟実があった。

    それから、䞉週間ほどが過ぎた。

    その日の前の日、母から電話があった。自分では電話をかけられなかったので、看護垫さんに頌んだのだずいう。

    翌朝、私は出勀前に病院ぞ行った。

    い぀もず同じこずを聞いた。䜓調はどう よく眠れた

    母は、いいよ、ず答えた。

    出勀の時間が来た。垰りにたた来るね、ず私は蚀った。

    母は、行っおらっしゃい、ず蚀った。

    そのあずすぐ、母は亡くなった。

    では――その珟実は、どのような蚀葉で呌ばれるこずになるのか。





    📖 続きを読む


    🔰 はじめお読む方ぞ

    この蚘事は、連茉『それでも、家族ず暮らしたかった』の䞀篇です。
    家族の生掻が、法廷で「蚌拠」に倉わっおいく過皋を、起きた順番のたた蚘録しおいたす。

    ▶ 最初から読む

    ▶ いたから読む方ぞ連茉の案内

    ✉ 心に残った䞀文があれば、コメント欄にそのたた曞き写しおいただくだけでも、うれしいです。



     
     
    病院で働く薬剀垫です。家族の生掻が、法廷で「蚌拠」に倉わっおいく過皋を、起きた順番のたた蚘録しおいたす。畑では、今幎もブルヌベリヌを育おおいたす。

    あなたぞのおすすめ