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芋出し画像

虹色の呌吞掌線小説

    トガシテツダ

     シャボン玉が、午埌の柔らかな光を吞い蟌んで揺れおいた。
     公園のベンチに座る僕の目の前を、透明な球䜓がいく぀も通り過ぎおいく。近所の子䟛が吹いおいるのだろう。薄い膜の䞊を、䞃色の油膜のような光が絶え間なく流動しおいる。それはたるで、この䞖の矎しさず儚さを煮詰めお圢にしたような存圚だった。
    「きれいね」
     隣に座る圌女の声が、䞍意に耳の奥で再生される。もちろん、そこにはもう誰もいない。ただ、圌女が奜んで぀けおいたシトラス系の銙氎の残り銙が、春の颚に混じっお錻腔をかすめた気がしただけだ。
     圌女――奈緒はシャボン玉のような人だった。自由で、軜やかで、それでいお觊れればすぐに壊れおしたいそうな危うさを持っおいた。付き合っおいた䞉幎間、僕はい぀も圌女がどこか遠くぞ飛んでいっおしたわないよう、芋えない糞で繋ぎ止めおおきたいずいう衝動に駆られおいた。

    「ねぇ、シャボン玉っお、どうしお䞞いか知っおる」
     ある日、海が芋える高台で圌女はそう尋ねおきた。僕は「衚面匵力でしょ」ず無粋な答えを返した。理系男子の悲しい性さがだ。奈緒はくすくすず笑い、ストロヌの先に溜たった石鹞液をそっず吹いた。
    「違うよ。あれはね、䞭にある空気が䞀番心地いい圢を探した結果なの。䞀番優しくお、どこにも角がない圢。それが䞞なんだよ」
     そんな颚に䞖界を解釈する圌女の隣にいるず、自分の䞭の凝り固たった垞識が、石鹞氎に溶けおいくような感芚があった。
     しかし、圌女の蚀う「心地いい圢」は、長くは続かなかった。
     二幎前の冬、奈緒は病に倒れた。進行は驚くほど速く、圌女の身䜓は日に日に透明床を増しおいくようだった。
     病宀の窓から芋える景色を眺めながら、圌女は最埌たで笑っおいた。「私は倧䞈倫。ちょっずだけ、遠くの空を芋に行くだけだから」ず。
     圌女が旅立っおしたった埌、僕はしばらくの間、䜕も手に぀かない日々を過ごした。仕事に行き、食事をし、眠る。その党おが、䞭身のないシャボン玉の皮膜だけで繋がっおいるような心地がした。
    「ねぇ 芋お芋お」
     幌い声に匕き戻される。芋るず、小さな男の子が誇らしげに、特倧のシャボン玉を飛ばしおいた。それはゆっくりず、重力に逆らうように䞊昇し、僕のすぐ目の前でピシャリず匟けた。
     ふず思った。奈緒が蚀っおいた「䞭にある空気」ずは、思い出のこずだったのかもしれない。シャボン玉が割れおしたっおも、その䞭に閉じ蟌められおいた空気は消えおなくなるわけではない。それはただ、自由になっお、再び広い䞖界の䞀郚ぞず戻っおいくのだ。
     圌女ずの思い出も、い぀たでも僕の胞の䞭に閉じ蟌めおおいたら、圌女を苊しめ続けるだけだ。圢を倱っおも、圌女の存圚はこの空気の䞭に、光の䞭に、そしお、僕の呌吞の䞭に溶け蟌んでいる。
     僕は倧きく息を吞い蟌んだ。肺の奥たで届いた空気は、心なしか圌女の銙りがした。
     ベンチから立ち䞊がり、僕はコヌトのポケットに手を入れた。そこには、い぀か奈緒ず䞀緒に買ったたた、䜿う機䌚を逃しおいた小さなシャボン玉のセットが入っおいる。
     僕はそれを取り出し、ゆっくりず蓋を開けた。リングを石鹞氎に浞し、空に向かっおそっず息を吹き蟌む。シャボン玉が宙を舞う。䞀぀、たた䞀぀ず、新しい虹色の呌吞が生たれおいく。それは春の颚に乗っお、どこたでも高く、遠く、青い空ぞず吞い蟌たれおいった。
    「芋おおよ、奈緒」
     僕は呟いた。
     シャボン玉はもう、僕の手の䞭にはない。でも、その茝きは確かに僕の足元を照らしおいる。
     僕は歩き出す。シャボン玉が匟けた埌の、その先にある明日ぞ向かっお。

    了


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    茚城県で補造業かなり珍しいものに埓事しおいたす。 珟代ドラマの掌線、短線小説をメむンに投皿䞭。 たたにピアノで西村由玀江さんの曲を匟きたす。 ゜リスピア第6回超短線小説祭入遞。 第1回文苑堂54字の物語コンテスト最優秀賞特別賞。 第12回自䜜小説の䞀節コンテスト最優秀賞。

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