
神話統合体 標本記録簿記録番号B-012「ブラフマーの四つの顔」
マガジンはこちら
[記録官I・倫理委員会付 第十二報告書 提出日:██年██月██日]
記録を開始する。
最後の記録だ。
最後かどうかは、私が決めることではないかもしれない。
それでも、そう書く。
J棟最上階にて、四面状の器官が確認された。
四つの顔が、四方を向いている。
北。南。東。西。
それぞれが、異なるものを見ている。
何を見ているかは、顔の前に立たなければわからない。
立った者が、今のところいない。
私も、立たなかった。
器官の周囲に、記録装置が置かれていた。
誰が置いたかは、わからない。
装置は、動いていた。
録音されていた。
再生しなかった。
乗船者リストを、最後にもう一度確認した。
Na-011の報告以降、名前が増えていた。
最後から二番目を、見た。
読めた。
読んだことを、ここには書かない。
最後の欄は、空白だった。
まだ、空白だった。
施設の在籍記録を、確認した。
前任者は、今日も出勤している。
研究員Kの欄は、最終更新日が三週間前のままだ。
監査官Nからの報告は、一度も届いていない。
届いていないのか、届いているのに私が受け取っていないのかは、判断できない。
記録官I 最終追記:
十二回、記録した。
最初の記録と、今の記録を読み比べた。
最初の記録に、こう書いてある。
「記録を開始する。」
今の記録にも、同じことが書いてある。
変わったのか、変わっていないのかを、
記録する立場の者が判断することは、できない。
判断できないことを、記録する。
それが、私にできる最後のことだ。
最後かどうかは、わからないが。
記録官I
J棟最上階の記録装置は、翌日も動いていた。
録音は、続いていた。
再生した者は、いない。
施設の記録上、J棟最上階に入室した者は、いない。
それでも、録音は続いている。
何かが、話し続けている。
あるいは、何かが、聞き続けている。
── 記録、以上。
最後の記録欄:
ブラフマーの四つの顔×バイオメカニカル化の記事はこちら