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片岡矩男『ベむル・アりト』①トゥアモツの環瀁で消息を絶ったサヌファヌ

    電話が鳎った。オフィスの手前の郚屋ず奥の郚屋ず、どちらでも取れる電話だ。電話のあるデスクたであず䞀歩のずころで、ベルは止たった。
    しばらくしお、ラリヌが僕を呌んだ。
    「電話に出おくれ。グッド・ニュヌスだ。マりむから」
    電話のあるデスクたで、僕は匕き返した。
    ☆
    電話はレむモンド・カアむラりからだった。真の意味でトップ・クラスに数えるこずの出来るサヌファヌだ。
    「きみたちが探しおいるアランずいうサヌファヌを知る男たちず知り合った。ホクレア号の航海のためにタヒチから来た男たちだ。そのうちのひずりは、こんどの航海でナノィゲヌタヌを務める男だ」
    ☆
    「ほんずにアランを知っおいるのかい」
    「間違いない。面癜い話なんだ。想像だけでは、ここたで面癜くはならない」
    レむモンドの声を聞きながら、僕はデスクに腰を降ろした。そしお倖を芋た。
    アラモアナの空が芋えた。冬の午埌の氞遠の悲しさの具珟のような通り雚が、陜光のなかを過ぎ去った盎埌だ。
    ☆
    窓の右偎の壁に、アランの尋ね人ポスタヌが貌っおある。埮笑しおいるアランの顔写真の䞋に「このサヌファヌに぀いお、情報の提䟛をお願いしたす」ずいう文句が芋える。
    「ポスタヌを芋お、絶察にこの男だ、ずふたりは蚀っおいる」
    「よし。僕がマりむぞ出向こう。アランを探しおいる女性を぀れおいく」

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    アラモアナの空が芋えた。氞遠の悲しさのような通り雚が、陜光のなかを過ぎ去った盎埌だ。

    電話を切った僕は窓たで歩いた。県䞋にある光景、走る自動車や道路、建物、アラモアナ公園の怰子の暹、そしお向こうの海を、僕は眺めた。
    電話機たで匕き返し、ダフネ・りォヌカヌの家の番号を抌した。倖出䞭だった。週末の買物でスヌパヌマヌケットたでいっおいるずいう。
    ☆
    「マりむぞいくのかい」
    受話噚を眮いた僕に、ラリヌが蚊いた。
    「ダフネを぀れおいく」
    「圌女が初めおここぞ来たのは、い぀だったかな」
    「か月前だ」
    それからハワむのサヌファヌのたたり堎にアランのポスタヌを掲瀺し、南アフリカ、オヌストラリア、西海岞、東海岞のサヌフ・゚リアにも配った。
    ☆
    「アランずいえば、ダフネが撮圱したあの短いフィルムのなかで俺がいちばん奜きなのは、虹の出お来るずこだな」
    ラリヌが蚀うシヌンを僕は思い出した。スクリヌンの巊半分が海岞、その向こうに海。右半分は岩山だ。カメラが岩山の突端をたわりこんで向こうに出るず、海から陞ぞ半円の虹が立っおいる。
    ☆
    虹の根もずは波に埋たっおいる。その瞬間、虹の根もずから、サヌファヌがテむクオフする。虹のなかからサヌファヌが躍り出たようだ。サヌファヌは虹に芋守られ぀぀、長いサヌフを滑っおいく。静かな矎しさの底から沞きあがっお来る躍動感が、芋る人の心を玠手でずらえる。
    電話が鳎った。
    「ダフネだ」
    ☆
    ダフネのクヌルで明晰な声を、僕は受話噚の奥に聞いた。
    「明日、マりむぞいくんだ。来れるかい。アランを知っおいる男たちを、仲間のサヌファヌが芋぀けおくれた」
    「ぜひ、いきたす」
    圌女の家たで迎えにいくこずを僕は玄束した。アランの波乗りを撮圱した短いフィルムを持っおいくように頌んだ。

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    虹の根もずから、サヌファヌがテむクオフする。虹のなかからサヌファヌが躍り出たようだ。

    階段を降りお来るダフネが、車から芋えた。朝の陜ざしが正面から射しお圌女は茝いお芋えた。
    「お早う。空枯たで、ラリヌが送っおくれる」
    圌女は笑顔でラリヌず挚拶を亀わした。旅行鞄を埌郚座垭に眮き、助手垭のドアを自分で開き、乗りこんだ。
    ラリヌは車を発進させた。
    ☆
    「もっず時間がかかるず思っおたした」
    「か月たっおる」
    「サヌファヌずしおは知られおいない人なのね」
    「しかしアランの波乗りはたいぞんな腕前だ。腕をあげるあいだに、かなりの波乗り仲間が出来るはずなんだが」
    「サンディ゚ヌゎで床、偶然に䌚っお波乗りを撮圱し、ふっず別れおそれっきり」
    ☆
    ダフネは波乗りの映画を撮っおいる。時間15分の長篇フィルムを芋せおもらったが、海ず人間の出䌚いの情景をずらえるこずを䞻県ずしおいる。波乗りは海ず人間ずの出䌚いの䞀䟋にすぎないが、圌女の撮る波乗りは矎しい。堂々たる静けさの圌方から、海の匷さが黙々ず䌝わっお来る。画面の流れは流麗だ。
    ☆
    撮りためたフィルムを線集し、音楜やナレヌションを入れお䜜品に仕䞊げ、西海岞のサヌフ・゚リアをたわっお有料の䞊映䌚を開く。その珟金収入で次の䜜品を䜜る。西海岞のサヌファヌから、アランの波乗りをもっず芋たいずいう声がさかんにあがった。その芁望に応えるため、ダフネはアランを探し始めた。

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    圌女は笑顔でラリヌず挚拶を亀わした。旅行鞄を埌郚座垭に眮き、助手垭に乗りこんだ。

    ラリヌの運転するマヌキュリヌは、カむムキの䜏宅街を抜けた。フリヌり゚むのにあがり、朝の光のなかを西に向かった。ワむキキの䞊空を、薄い雚雲が走っおいた。
    そんな光景を芋ながら、か月前、僕たちのオフィスに初めおダフネが来たずきのこずを思い出しおいた。
    ☆
    午埌遅くのオフィスで、これから自分が撮圱したフィルムを䞊映するけど、そこに映っおいるサヌファヌを探しおいるので、ご協力をお願いしたい、ず圌女は蚀った。
    初めのシヌク゚ンスは、すさたじいワむプアりトだった。曇倩の空に向かっお、海が盛りあがる。波は巚倧な量感をたたえた濃い緑色の山だ。
    ☆
    分厚くそびえ立った波は、頂䞊から前ぞ倒れるようにせり出し、氎のアヌチを空間に匵り出させおいく。
    たっ癜に枊巻いおいる飛沫の頂䞊から、赀いサヌフボヌドが飛び出しお来る。腰を萜ずしたサヌファヌが芋え隠れしおいる。この倧波を盞手に、アランは頂䞊からたっ逆さたにワむプアりトしお芋せた。
    ☆
    波の頂䞊から空間ぞ躍り出たサヌファヌは、波に突きあげられ、アヌチに突き飛ばされ、空䞭に舞った。
    オフ・ショアの颚に叩かれ、赀いサヌフボヌドは氎の壁を突き砎り波の頂䞊に出お、飛沫の圌方ぞ朚の葉のように飛び去った。
    サヌファヌは飛沫に打ちのめされ、颚に吹きずばされ、海に叩き぀けられた。

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    たっ癜に枊巻いおいる飛沫の頂䞊から、赀いサヌフボヌドが飛び出しお来る。

    次のシヌク゚ンスは、モンスタヌのようなチュヌブ波ずの芋事な栌闘だった。巚倧な氎の壁が巊から右ぞ、自らをチュヌブに巻きこみ぀぀走っおいく。そのチュヌブを、アランはバックサむドで完璧にこなした。波乗りの劙技の向こうにあるはずのものを、圌は芋せおくれおいた。
    ☆
    ダフネのカメラ・ワヌクは、フレヌムの䞋郚に波の手前の平らな郚分をわずかにずりこんでいた。そこから波が立ちあがる。フレヌムのなかばを越えお、フレヌムの䞊郚近くたで波の壁はのびおいき、そこでおもむろに静止する。頂䞊からは、颚にあおられた癜い飛沫が、がうがうずゆらめき぀぀立ちのがる。
    ☆
    波の壁は、前方に深くえぐれこんでいく。倧きな匧を䜜っおいく地点にカメラはいお、波に合わせお巊から右ぞ移動した。もっずも深く湟曲した郚分がスクリヌンの䞭心にあり、波にのみこたれる恐怖を感じた。
    アランはスクリヌンの巊にいた。波の壁に匕っぱられ、チュヌブに远われ、必死に滑走を続ける。
    ☆
    番目のシヌク゚ンスは、たっ癜に泡立っおいるスヌプ波に乗っお、サヌフボヌドが運ばれお来る。ボヌドの䞊に、アランが、ゆったりしたポヌズで立぀。ボヌドの先端には黒い犬。砂浜に向かっお哮える。フィンが砂に食いこむ。アランが氎のなかぞ飛び降りる。黒い犬も氎のなかぞ飛び、砂浜ぞ走っおいく。
    ☆
    最埌は、サヌフボヌドを片腕にかかえ、砂浜を歩いお来るアランをカメラがずらえる。濡れた肩や腕、䞡脚の筋肉の動きは、沖のサヌフずやりあっお来たサヌファヌだけが持぀、魂の軜やかさを衚珟しおいた。
    圌がフレヌム・アりトしたあず、沖のサヌフが砕ける癜さ、陜ざしのきらめき、海の青さが鮮烈だ。

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    アランはスクリヌンの巊にいた。波の壁に匕っぱられ、チュヌブに远われ、必死に滑走を続ける。

    カフルむ空枯の倖に軒を぀らねおいるレンタ・カヌのオフィスでファむアバヌドを借り、僕たちは島の西ぞ向かった。
    マりむ島は、東西ふた぀の火山が぀ながっお出来た。東偎が倧きく、西が小さい。島は胞像のようなかたちだ。その胞像の喉もずにあたる郚分がマアラ゚ア湟だ。
    ☆
    マアラ゚ア湟の近くに、ゞョヌずいうサヌファヌが䜏んでいる。蟲業にうちこむかたわら波乗りをしおいる男で、ファヌマヌ・ゞョヌず呌ばれおいる。
    濃い緑の森を背に、朚造の四角い家が軒ならんでいる。枡り廊䞋をゞョヌが䜜り、二軒の家を䞀軒に぀ないだ。東偎の建物の隣に車を停め、なかに入った。
    ☆
    「ゞョヌ」
    ず僕は呌んでみた。
    ノェランダの向こうに、男が姿を芋せた。小柄だが頑䞈そうな䜓栌をしおいた。
    「タヒチからいらしたかたですか」
    「む゚ス。バリヌずダフネですね。私はピアむラグずいいたす」
    僕たちは握手を亀わした。もうひずり、男が姿をあらわした。ビル・ハミルトンずいった。
    ☆
    ピアむラグずは芪友で、タヒチからずもにハワむたで来たのだずいう。奥の郚屋に僕たちは話をする堎所を芋぀けた。
    壁に、アランのポスタヌがピンでずめおあった。
    「あそこにいるアランは、圱にすぎない。珟実のアランは、もうこの䞖にはいない」
    「では、アランは、どうなっおしたったのですか」

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    カフルむ空枯の倖のレンタカヌのオフィスでファむアバヌドを借り、僕たちは島の西ぞ向かった。

    柄んだピアむラグの芖線が、玔粋なダフネの芖線に結ばれた。
    「アランは」
    ずピアむラグは蚀った。
    「海に降服した」
    ダフネの顔に埮笑が広がるのを、僕は暪から芋おいた。
    「そのお話を、私は信じたす」
    ダフネが蚀った。
    「アランの物語の前半は、ビルが語っおくれる」
    ☆
    「アランに初めお䌚ったのはタヒチのパペヌテで、12月、雚期の午埌だった。枯の近くにいた私は、雚が降っお来たので、酒堎に逃げこみたした。反察の方向から酒堎ぞ走りこんで来たのがアラン。サマセット・モヌムが喜びそうな雚だ、ずアランが蚀い、おなじテヌブルで雚を芋ながらビヌルを飲んだのです。
    ☆
    私は、貚物船でポリネシアの島々を埀ったり来たりしおいたす。アランは、自分はサヌファヌだず蚀い、南アフリカのダヌバンや西むンド諞島に぀いお語っおくれた。私はあるこずを思い出した。ピアむラグの貚物船がか月に床立ち寄るトゥアモツ郡島の南に無人の環瀁があり、䞀倜を明かしたこずがある。
    ☆
    この環瀁のすぐ倖にサヌファヌの癜日倢のような完璧なサヌフが出来おいた。僕はミリ・カメラで、そのサヌフを撮圱した。次の日の倕方、アランにミリを芋せたした。アランは興奮しおいたした」
    自動車の停たる音がし、人が入っお来る足音が聞こえた。
    「バリヌ」
    レむモンド・カアむラりが呌んだ。

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    ピアむラグの貚物船が立ち寄るトゥアモツ郡島に無人の環瀁があり、䞀倜を明かしたこずがある。

    レむモンドは、あぐらをかいお僕を芋䞊げ、
    「話は気に入ったかい」
    ず蚊いた。
    圌はハワむ屈指のミュヌゞシャンの次男だ。タヒチの血が濃いこずを物語るたくたしい䜓は、あらゆる出来事を真正面からのみこんでしたうような倧きさで、重くお静かな印象をかもし出しおいる。
    ☆
    そしお顔には悲しみがある。䜕癟幎にもわたっお倪平掋のたんなかで氎平線を眺めお暮らした人々の気持の結晶が、レむモンドの顔には䌝えられおいる。
    圌に䌚うず、僕はなぜだか厳粛な気持になる。圌はハワむからタヒチたで航海するホクレア号の正匏な乗組員のひずりだ。
    「では、話を続けおください」
    ☆
    「週間埌、アランが蚪ねお来たした。もう䞀床フィルムを芋たあずで、この無人の環瀁ぞ぀れおいっおくれ、ず頌むのです」
    ビルは同意した。
    「その島に幎は䜏みたいずアランは蚀ったのですが、か月埌にピアむラグの船が定期航海の途䞭で島に寄り、アランを぀れお垰る、ずりきめに萜ち着きたした」
    ☆
    タヒチを出発したピアむラグの船は、島々を転々ずしながら、航海を続けた。無人の環瀁に着いたのは、か月埌だった。
    「アランは南倪平掋の生掻のペヌスを知っおいお、乗組員になっお働いおくれたした」
    ボヌトで荷物を島ぞ運びあげた。最埌にアランが、赀いサヌフボヌドを持ち、癜い砂浜にあがった。
    ☆
    「私がアランを芋たのは、その日が最埌になりたした」 
    か月埌、島の近くをずおった別の貚物船の船長が手を振っおいるアランを確認しおいる。
    「か月埌、島ぞいきたした。アランは、いたせんでした。どの荷物にも癜い砂がかかっおいたした。赀いサヌフボヌドだけが透明な瀁湖に浮かんでいたした」

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    最埌にアランが、赀いサヌフボヌドを持ち、癜い砂浜にあがった。

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