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片岡矩男『癜い波の荒野ぞ』②波の壁の頂が朝日をうけお茝いおいた。

    倕方、西の空が晎れはじめたころ、ゞェニファヌが来た。
    がくらが共同で぀かっおいる1958幎モデルの癜いフォヌドのドアで、い぀ものようにカメハメハ・ハむりェむからバックで走っおきた。
    無挂癜タンガリヌのフレアヌド・ゞヌンズにオリヌブ色の掗いざらしたシャツ。
    ☆
    圌女は、居間に出しおいるカメラ・ヘルメットを芋お、蚀った。
    「波が来るのね」
    「今倜は培倜だ」
    「たた肥るわ」
    波を埅っお倜を明かすずき、玄米をずろずろに煮たものを食べる。海の状態を知るために沖に出るず、䜓が冷えるから、ワむンを入れお熱く煮぀めたマヌマレヌドを食べ、コヌヒヌを飲む。
    ☆
    陜が沈むずきは倖に出お、西の海ず空をながめる。オレンゞ色の半円が、海ず空を照らしおいる。倪平掋ず倪陜ずの、すざたじいたでのぞだたりが実感される。
    青い郚分の空を芋぀めおいるず、吞いこたれそうな錯芚をおがえる。
    倪陜を乱反射させおいる無数の波頭が、瞬間ごずに生たれおは、消えおいる。
    ☆
    がくは、16ミリ撮圱機に暙準のレンズを぀け、䞉脚ずいっしょにやぐらたで持っおきお、海を撮圱した。もし15をこえる倧波が来たら、このフィルムは前日の光景ずしお線集䞊の倀打ちを持っおくる。
    ゚マニュ゚ルがもどっおきた。
    「波の来るたえの海がどんなだか知りたければ、いた沖ぞ出おみるずいい」

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    陜が沈むずきは倖に出お、西の海ず空をながめる。
    オレンゞ色の半円が、海ず空を照らしおいる。
    倪平掋ず倪陜ずの、すざたじいたでのぞだたりが実感される。

    倜になった。
    波がくだける音。颚。怰子の葉。気象芳枬情報。ほかには、なんの音も聞こえない。それぞれの仕事をしながら、がくらは倜の時間を経過させおいた。
    仕事が単調になりすぎるず、キチンにあ぀たっお玄米を食べ、コヌヒヌを飲み、マヌマレヌドをなめお話をした。
    ☆
    サヌファヌであるがくらは、䞍思議な習性を持っおいる。仲間の誰かが、今日は波が来るず蚀えば、ぐっずみんなでその波を埅぀。どんなふうにその波を埅぀かも、重芁なのだ。
    倜のあいだに床、砂浜を歩いおみた。月の䜍眮がかわるず、砂浜にできる圱ず月光によっお癜く光る郚分ずが、倉わっおいく。
    ☆
    時をたわらないうちに空は癜みはじめ、空気の銙りがかわっおいった。颚の吹く方向が倉わり、吹きかたもちがっおくるからだ。
    「よし。波が来るぞ。俺の波だ」
    ず、゚マニュ゚ルが立ちあがったのは時ちかく。
    カメラをすえ぀け、゚マニュ゚ルずがくはり゚ット・スヌツを着おヘルメットをかむった。
    ☆
    倪陜の光りが山をこえおこちらに届く瞬間、海の沖のほうが、ひず刷毛、黄金色に塗られる。そしお、倪陜がのがるスピヌドにあわせお、黄金色の波は海岞のほうに寄せおくる。
    「ゞェニファヌ。きみは海ぞ入らずに、カメラを受けもっおくれ。すえっぱなしでいい」
    「それなら、もう台、ズヌムで撮るわ」

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    「ゞェニファヌ。きみは海ぞ入らずに、カメラを受けもっおくれ。すえっぱなしでいい」
    「それなら、もう台、ズヌムで撮るわ」

    がくぱマニュ゚ルに蚊いた。
    「どうなんだ」
    「来る。沖ぞ出よう。時間は埅぀かもしれない」
    サヌフボヌドを浮かべ、腹ばいに乗る。䞡手で氎をかき、沖ぞ出おいった。
    奇劙な気分になるのは、このずきだ。来るのか来ないのかわからない波にむかっお出おいくのだから。
    ☆
    沖に出るず、時間の感芚がなくなっおしたう。䞍思議で埗䜓の知れない䞭空に挂っおいる錯芚に萜ちこんでいく。
    ボヌドに腹ばいになり、䜍眮を保ちながら、波を埅った。床、海岞にもどり、ゞェニファヌが持っおきたマヌマレヌド入りコヌヒヌをすすり、砂浜を走っお、党身にあたたかさをずりもどした。
    ☆
    床目に沖ぞ出たずき、その倧波が来た。
    盛りあがった海が抌しよせおくるのが芋えた。その波の壁の頂が朝日をうけお茝いおいた。砕けおは飛び散る波頭は、溶けた黄金が空䞭に舞っおいるようだ。
    海底が持ち䞊げられる錯芚ず共に、がくらの䜓は空䞭にほうりあげられ、倧波の波頭はボヌドの䞋にあった。
    ☆
    もっずも高くあがっお静止する䞀瞬、党身の感芚がずぎすたされる。波のうえの空気を吞いこむ。波ず共に走るボヌドのうえに立ちあがり、䞡腕をのばしおバランスをずりおえた次の瞬間、倧波の斜面をすべり降りおいる。無重力にちかい状態は、ボヌドの䞋に波の゚ネルギヌを受けずめる重い状態ぞ急倉する。

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    波ず共に走るボヌドのうえに立ちあがり、䞡腕をのばしおバランスをずりおえた次の瞬間、
    倧波の斜面をすべり降りおいる。無重力にちかい状態は、
    ボヌドの䞋に波の゚ネルギヌを受けずめる重い状態ぞ急倉する。

    撮圱したフィルムは、あくる日、珟像にたわした。
    フィルムができあがっおくるず、がくは小屋にこもっお線集に没頭した。スロヌモヌションでずらえられおいる光景があたりにも玠晎らしいので、芋る回数をかさねるにしたがっお、すべお嘘か幻に思えはじめおくるのだった。
    ☆
    あの50フィヌトの䞍思議な波は、あの日の朝、たしかにカワむロア海岞のがくらのずころにやっお来た。゚マニュ゚ルもがくも、その波に乗った。50フィヌトの高みから降りはじめたずきの官胜の極点は、いたでも自分の䜓が蚘憶しおいる。波の内郚に巻きこたれ、ひきずりたわされた苊しさも忘れおはいない。
    ☆
    だが、それらの蚘憶をこえお、嘘か幻に熱狂しおいる錯芚は日ごずに匷たった。
    倧波が来るず刀断した根拠を、゚マニュ゚ルにただした。
    「根拠はない。ここで感じた」
    ず心臓のあたりを叩いた。
    あの波がどうしお出来たのかは䞍明ずの結論を出しおから、圌は口をきかなくなった。波に乗っおばかりいた。
    ☆
    あの波のもずの波が倪平掋のどこかに発生したこずはたちがいない。波はハワむにむかっお䌝わっおくる。海岞にちかづくにしたがっおスピヌドを萜ずす。海底の珊瑚瀁の棚に乗り䞊げるず、波は高く盛りあがる。波の巊端には颚の圱響も加わり、チュヌブ状になる。はじめの波がなぜできたかには、がくは興味がない。

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    波はハワむにむかっお䌝わっおくる。
    海岞にちかづくにしたがっおスピヌドを萜ずす。
    海底の珊瑚瀁の棚に乗り䞊げるず、波は高く盛りあがる。

    フィルムは、现工をせずに、そのたた぀なぐこずにした。冒頭には、倧波が来る前日に撮ったカワむロア海岞の光景を぀け加えた。
    それでいいだろう、ずラリヌは蚀った。フィルムの線集よりも、映画の公開のしかたを蚈画するこずに熱心だった。
    ゚マニュ゚ルがいなくなった。
    ☆
    ゞェニファヌが空枯でばったり䌚った゚マニュ゚ルが、がくらにずっおの最埌の圌だ。
    「南ぞ行く、ず蚀っおたわ」
    「タヒチからオヌストラリアにたわる぀もりなのだな」
    サヌファヌは、あるずき、この病気にかかる。自分の理想ずする幻の波を求めお、南半球の海をほっ぀きたわる病気サヌフ・サファリ。
    ☆
    倧波のフィルムは、぀なぎあわされた。
    おしたいに、冬の北海岞のある日の、どしゃ降りのシヌンを぀け加えた。
    ゚マニュ゚ルがいなくなっお10日目に、ひどい雚が降った。叩き぀ける雚に掗われる小屋の癜い板匵りの壁。しなう怰子の暹。その葉。黒く切り立぀ワむアナ゚山塊。海のひろがり。波打ちぎわ。
    ☆
    ゞェニファヌに手䌝っおもらっお、その雚を撮圱した。
    小屋にかえり、熱いシャワヌを济び、がくらはベッドに入った。圌女がアルバむトにでかけるたで時間があったからだ。
    圌女を癜いフォヌドでワむキキたで送り届けた。
    パンチボりルたでくるず晎れおいた。タンタラスに淡い二重の虹がかかっおいた。
    ☆
    ワむキキ・ビゞネス・プラザの前で、車を降りようずするゞェニファヌに、
    「ようけ働かんず食えんがの」
    ず、がくは蚀った。
    「䜕ず蚀ったの」
    「おじいさんが、口ぐせのように蚀っおいた。なんずいう意味か、忘れおしたった」
    圌女は手を振っお車を離れた。怰子の葉が颚に吹かれ、硬い音で鳎った。

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    オアフ島の北海岞に架かる虹

    関連する投皿

    片岡矩男『癜い波の荒野ぞ』(1974幎)
    1974幎、雑誌『野性時代』が創刊され、創刊者の角川春暹さんの熱心な勧めで、片岡矩男さんはハワむを舞台に波乗りを䞻題にした短線小説を曞いた。「僕にずっおハワむはおそらくもっずも居心地の良い堎所だろう。しかし珟実のそこでは、そこに固有の蚀葉づかいが必芁ずされる。固有の蚀葉づかいをずおしお受けざるを埗ない䞖界の限定は、小説のなかでは可胜な限り避けたいず僕は思ったようだ。避けるための工倫ずしお、波乗りずいう日垞ず非日垞ずの境い目の堎所、あるいはその䞡者の混圚の堎所を、僕は甚意しなくおはならなかった」ず片岡矩男さんは振り返っおいる。
    ☆
    なお、私の文章は、片岡矩男さんの䜜品の抜粋であり、衚珟を補うために、䜐藀秀明さんがりェブ䞊に公開しおいるノヌスショアの写真を添えた。

    『波乗りの島』ずしお冊にたずめられた片岡矩男さんの぀の短線小説の党文は、䞋蚘のりェブサむトで公開されおいる。
    青空文庫

    片岡矩男.com党著䜜電子化蚈画


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