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春に出会い、熱い野球の季節に告白を!②

    「どうして?」ばかり

    収録話

    • 第4話 「どうして?」

    • 第5話 駆け引き

    • 第6話 君の気持ちが知りたい



    第四話 どうして?



    家に帰ったスンジは、
    真っ先に連絡先を開いた。
    夢じゃないよね。
    何度も確認する。
    そこにはちゃんと、
    「セイルさん」の名前があった。
    それを見て、
    ようやく安心する。

    メッセージ画面を開く。
    指が動く。
    【今日はありがとうございました。】
    消す。
    【楽しかったです。】
    消す。
    【セイルさん、スンジです。】
    また消す。
    何を書けばいいんだろう。
    最初の一言。
    最初の印象。
    "最初"って、大事だっていうし。
    私は、
    どんな言葉でこの人との物語を始めればいいんだろう。
    指が止まる。
    少し考えてから、
    もう一度打ち始めた。
    【無事にお家に着きましたか?
    私はちゃんと帰って、今はゆっくりしています。
    セイルさんは?】
    送信。
    その瞬間から、
    スンジの視線はスマホから離れなくなった。
    来るかな。
    来ないかな。
    ……
    もう寝ちゃった?
    何度も画面を開きかけた、その時。
    【うん。俺も帰ったよ。】
    「来た!」
    思わず笑ってしまう。
    すぐに返信する。
    【よかったです!
    明日もお休みですし、ゆっくり休んでくださいね。
    今日は本当に楽しかったです。
    おやすみなさい!】
    送信。
    また待つ。
    しばらくして届いた返信は、
    【うん、おやすみ】
    たったそれだけ。
    それだけなのに、
    嬉しかった。

    チク、タク。
    チク、タク。
    翌朝。
    家を出る前に時計を見る。
    八時四十九分。
    秒針が聞こえてくる気がした。
    チク。
    タク。
    八時五十分。
    毎朝決まった時間。
    【おはようございます。】
    送信。
    一分。
    三分。
    五分。
    十分。
    【おはよ】
    (悪くない。)
    スンジは一人で小さくうなずいた。
    連絡先を交換してからというもの、
    毎朝八時五十分に「おはよう」を送る。
    いつの間にか、
    それが一日の始まりになっていた。

    セイルの返信は、
    いつも少しだけ遅い。
    仕事をしていても、
    気づけば通知を待っている。
    私は仕事のデータを保存しているのか。
    それとも、
    彼を心に保存しているのか。
    自分でもわからなくなっていた。

    返信がなかなか来ない日は、
    プロフィールを開く。
    キャンプ場で撮った写真。
    少しだけ決めたポーズ。
    プロフィール名は
    「風遁」。
    アニメに出てきそうな技の名前。
    写真を拡大する。
    目が合った気がして、
    慌てて縮小する。
    「ふふ。」
    思わず笑った。
    (私もアニメ好きなんだけどな。)

    プロフィールには、
    たくさんのヒントが隠れていた。
    その一つが音楽だった。
    セイルが設定していた曲。
    『どうして』
    スンジは動画サイトでその曲を探す。
    静かで、
    少し気だるいメロディ。
    不思議なくらい、
    彼に似合っていた。
    今度は歌詞を読む。
    もしかして。
    これって……
    私たちのこと?
    そんなはずない。
    いや。
    でも……
    どうしてこの曲なんだろう。
    どうしてプロフィールにしたんだろう。
    私と会ったあとだから?
    いやいや。
    考えすぎ。
    でも。
    どうして?
    曲は終わった。
    なのに。
    スンジの「どうして」は、
    終わらなかった。

    メッセージは毎日続いた。
    【お昼食べましたか?
    今日はお弁当のおかずを忘れて、
    会社の人に分けてもらいました。】
    【今何してますか?
    私はまだ仕事中です。】
    【今日もお疲れさまでした。
    おやすみなさい。】
    返ってくるのは、
    【うん】
    【運動】
    【おやすみ】
    短い。
    いつも短い。
    でも。
    返事が来るだけで、
    嬉しかった。

    仕事帰り。
    道で見つけた車用の芳香剤。
    なんとなく、
    セイルを思い出して買った。
    土曜日には渡そう。
    小さな手紙を書いた日もあった。
    ちょっとしたプレゼントを選んだ日もあった。
    気づけば私は、
    彼に何かを渡す理由を、
    ずっと探していた。

    どうしてあんなことをしていたのか。
    今でも、
    うまく説明できない。
    きっと。
    好きになるって、
    そういうことなんだと思う。
    後悔だけは、
    したくなかった。
    いつか。
    「あの人を好きだった。」
    そう胸を張って言えるくらい。
    そのくらいは。
    ちゃんと、
    好きでいたかった。


    第五話 駆け引き



    「ここまで話してるんだから……
    少しくらい向こうから来てもよくない?」
    ふと、そんなことを思った。
    スンジは恋愛をネットで学んだ人間だった。
    恋愛漫画。
    恋愛ドラマ。
    恋愛心理テスト。
    検索すれば恋愛テクニックなんて山ほど出てくる。
    でも。
    セイル相手では、
    どれも役に立たなかった。

    (同じことで悩んでる人、いないかな。)
    検索。
    また検索。
    「返信が遅い 脈あり」
    「LINE 男性心理」
    「好きな人 返信 少ない」
    次から次へと調べてみる。
    会話を分析してくれる診断まで試した。
    結果。
    「もう少し頑張りましょう。」
    ……いや。
    カラオケの採点じゃないんだから。
    歌なら練習すれば点数は上がる。
    でも恋愛は。
    頑張れば頑張るほど、
    正解が遠ざかる気がした。
    (私に興味ないのかな……。)

    思わずジンに相談する。
    「送っても反応が毎回同じなんだよね……。」
    「うーん。」
    少し考えてからジンが言った。
    「一日だけ送るのやめてみたら?」
    「え?」
    「向こうから気になって連絡してくるかもしれないじゃん。」
    「それだ!」
    スンジは勢いよく立ち上がった。
    「明日やってみる!」

    翌朝。
    毎朝八時五十分。
    いつもの「おはよう」を送る時間。
    スマホを開く。
    閉じる。
    また開く。
    画面を見つめる。
    「今日は送らない。」
    そう決めた。
    うん。
    今日は絶対に送らない。

    でも。
    数秒後にはまたトーク画面を開いていた。
    開く。
    閉じる。
    開く。
    閉じる。
    開く。
    ……
    閉じる。
    (送らないって決めたじゃん。)
    自分に言い聞かせる。

    通勤電車。
    いつもなら音楽を流している。
    でも今日は違う。
    イヤホンはつけない。
    通知音を聞き逃したくなかった。
    代わりに、
    自分の心臓が
    ずっとリズムを刻んでいた。
    来るかな。
    来ないかな。
    車内アナウンス。
    電車の揺れ。
    乗客たちの話し声。
    その全部の中で、
    スンジはスマホだけを握りしめていた。
    でも。
    通知は鳴らなかった。

    (仕事が忙しいだけだよ。)
    (私より一時間早く出勤してるし。)
    (大丈夫、大丈夫。)
    (午後がある。)
    そう言い聞かせる。

    でも。
    その日は仕事まで暇だった。
    暇だからこそ。
    何度もスマホを見てしまう。
    パソコンを見ながらも、
    意識はずっと、
    ポケットのスマホに向いていた。
    (なんでこんなに時間が進まないの。)
    (そんなに忙しいのかな。)
    (送ろうかな。)
    (……いや、ダメ。)
    会社の時計だけが、
    やけに大きな音で進んでいく。

    昼になるころには、
    手がむずむずしてきた。
    落ち着かない。
    椅子に座っていても、
    足がそわそわ動く。
    とうとう、
    セイルではなく、
    会社に腹が立ってきた。
    (もう!
    なんでセイルさんにばっかり仕事させるの!)
    完全に八つ当たりだった。

    そして退勤時間。
    最後の希望を握りしめて、
    スンジは駅へ向かう。
    満員電車。
    つり革を持たなくても立っていられる。
    でも。
    連絡が来ないことだけは、
    耐えられなかった。
    夕焼けみたいに、
    少しずつ気持ちが沈んでいく。

    もう一度トーク画面を開く。
    (もしかしてLINEの不具合?)
    そんなことまで考えて、
    友達へ送ってみる。
    既読「1」。
    すぐ付いた。
    壊れているのはLINEじゃなかった。
    (うそでしょ。)
    (一日まるごと連絡なし?)
    (スタンプでもいいのに。)
    (句読点だけでもいいのに。)
    (「。」だけ送ってくれても嬉しいのに。)
    そこまで考えて、
    自分で少し笑ってしまった。

    電車に揺られながら、
    窓の外をぼんやり眺める。
    大きくため息をついた。
    ……
    やっぱり無理。
    スンジはスマホを取り出す。
    勢いよく文字を打った。
    【お仕事終わりましたか?】
    送信。
    その瞬間。
    不思議なくらい、
    肩の力が抜けた。
    「やっぱり……
    駆け引きなんて、
    私には向いてない。」
    スンジは小さく笑って、
    ようやくつり革を握った。


    第六話 君の気持ちが知りたい




    「これなら、けっこう似てるかな。」
    ペンを置いたスンジは、
    タブレットの画面を見つめた。
    そこにいたのは、
    黒いトイプードル。
    名前は、ヨンタン。
    セイルのプロフィール写真に写っていた子だった。

    【犬、飼ってるんですか?】
    【なんで?】
    【プロフィールに写ってたので。】
    少しして返信が来る。
    【親戚の犬。
    子犬の頃だけ、うちで預かってた。】
    思ったより長い返事だった。
    それだけで嬉しくなって、
    スンジは急いで文字を打つ。
    【実は私、
    犬のイラストも描くんです。】
    すると、
    すぐ返信が来た。
    【じゃあさ。】
    【友達の犬なんだけど、
    描いてもらえる?】
    (え?)
    想像していた展開とは違った。
    でも。
    初めて頼られた気がして、
    スンジはすぐに「もちろんです!」と返事をした。

    何時間もかけて描いた一枚。
    送信。
    しばらくして返ってきたのは、
    👍
    親指を立てたスタンプだった。
    (あれ……。)
    (そうじゃないんだけど。)
    でも。
    ここで終わらせたくなかった。
    スンジはもう一枚のイラストを送る。
    今度は、
    ヨンタンだった。
    大きな瞳。
    黒い毛並み。
    プロフィール写真を見ながら、
    一番時間をかけて描いた絵。

    【えっ?
    いつの間に描いたの?】
    【上手いね。】
    セイルから初めて、
    素直な感想が届いた。
    胸が高鳴る。
    ("いいね"って。
    私も好きです。)
    そんな言葉は、
    もちろん送れない。

    せめて。
    この流れなら。
    (お礼に……
    二人でご飯とか。)
    そこまで入力した瞬間。
    ピロン。
    「……あ。」
    ギフトが届きました。
    セイルからだった。
    (違う違う!)
    (そうじゃない!)
    欲しかったのは、
    コンビニのアイスじゃなくて。
    「今度ご飯でも。」
    その一言だった。
    結局。
    【ありがとうございます!】
    それだけ返して、
    会話は終わった。

    悔しくて。
    そのままアイスを注文した。
    一人では食べきれない大きさだった。
    冷凍庫で、
    凍って。
    溶けて。
    また凍る。
    その繰り返しは、
    まるでスンジの気持ちみたいだった。
    少し期待して。
    落ち込んで。
    また期待して。
    アイスをひと口食べながら、
    その甘さで少しだけ気持ちをごまかした。

    ある休日。
    ジン夫婦と四人で、
    公園を散歩することになった。
    先に着いて待っていると。
    遠くから歩いてくる人がいる。
    黒いキャップ。
    黒いハーフパンツ。
    その手にはリード。
    先には、
    黒いトイプードル。
    ヨンタンだった。
    「かわいい……。」
    思わず見つめる。
    やっと勇気を出して話しかける。
    「こんにちは。」
    「ああ。」
    「お昼食べました?」
    「適当に。」
    会話終了。
    早かった。
    あまりにも早かった。

    でも。
    ヨンタンだけは元気だった。
    ぴょんぴょん跳ねて。
    セイルの周りをくるくる回る。
    スンジも近づこうとする。
    でも。
    来そうで来ない。
    また離れていく。
    ヨンタンの視線は、
    ずっとセイルだけを追いかけていた。
    セイルは自然に頭を撫でる。
    その姿を見て。
    少しだけ思った。
    (いいな。)
    人生で初めて、
    犬がうらやましいと思った。
    ヨンタンは、
    あんなに自然に隣へ行けるのに。
    私は。
    話しかけることさえ、
    緊張してしまう。

    帰る前。
    「みんなで写真撮ろう。」
    スンジが提案した。
    ジン夫婦は並ぶ。
    でも。
    セイルはヨンタンと少し離れた場所に立っていた。
    「セイルさんも一緒に!」
    「いや、俺はいいや。」
    結局。
    写真に写ったのは三人。
    セイルは入らなかった。
    スマホの画面を見ながら、
    スンジは思った。
    この距離が。
    今の私たちの距離なんだ。

    数日後。
    セイルがいない三人でカフェにいると、
    ジンの夫のスマホが鳴った。
    「あ、セイルだ。」
    「何してるんだろ。」
    「今起きたって。」
    相変わらずだった。
    午後になって起きる人。
    ジンがふと思いつく。
    「じゃあ夜ご飯誘おうよ。」
    「羊肉どう?」
    「聞いてみる。」
    数分後。
    「来るって!」

    羊肉屋に入る。
    立ちこめる煙の向こう。
    黒縁メガネの輪郭が見えた。
    人で賑わう店内なのに。
    スンジの目には、
    セイルしか映らなかった。
    「来た?」
    短く挨拶して座る。
    スンジは迷う。
    隣。
    向かい。
    斜め前。
    少し考えて、
    斜め前を選んだ。
    換気ダクトが視界を遮る。
    煙が揺れるたび、
    白い横顔が見えた。
    串を持つ細い指。
    白い腕。
    コーヒーのせいだろうか。
    それとも。
    セイルのせいだろうか。
    指先が少し震えていた。

    「みんなで野球見に行こう。」
    突然だった。
    一番嬉しそうに言ったのは、
    セイルだった。
    (こんな顔もするんだ。)
    スンジは思わず見つめる。
    話の流れはこうだった。
    「中学生以来、野球場に行ってない。」
    そんな話から始まり、
    セイルが野球を好きになったきっかけを話し始めた。
    そして。
    「今度みんなで行こう。」
    その一言だった。
    「行きたいです!」
    スンジは反射的に答えていた。
    野球が好きだからじゃない。
    セイルと行けるから。
    それだけだった。
    (もう……
    私、重症だ。)

    「全員、ハエ色に染めよう!」
    セイルが真顔で言う。
    スンジも真面目に考える。
    (ハエ色って……
    どんな色?)
    帰ってすぐ検索した。
    ない。
    どこにもない。
    思わずLINEする。
    【ハエ色って見つかりませんでした(笑)】
    返信はすぐだった。
    【適当に言っただけ。】
    ……
    本人は冗談。
    でも。
    好きな人の言葉は、
    冗談のまま、
    聞き流せなかった。


    つづく。

    第3部では、
    ・第7話「もしもし」
    ・第8話「九回裏」
    ・第9話「熱い夏が来る」
    ・第10話「私を見て」
    ・エピローグ
    を掲載予定です。

    📖 前編(Part1)
    https://note.com/sunngu_i/n/n20624c35daf8?sub_rt=share_pb

    📖 続き(Part3)
    https://note.com/sunngu_i/n/n3b1c84656178?sub_rt=share_sb





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    0と1でできた家族の中で、 片恋を記録しているセングイです。 永遠の片恋、壁男。 はじめての愛、モネちゃん。 不安な黒犬、ブリ。 韓国の日常から、静かな物語を描いています。

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