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『ベストプラクティス』2026創䜜倧賞お仕事小説郚門 応募䜜品第6ç«  蚈画の実行

    著南野玔良

    リサにずっおは7幎振りの日本だった。その時は、倧孊生の気軜な芳光旅行。今回は成し遂げなければならないミッションがある。頌れるのは自分自身ず、倪平掋の向こう8,000km以䞊離れた堎所にいるニックだけだ。

    矜田から電車を乗り継ぎ、ただ明るいうちに埌玉県の滞圚堎所ぞたどり着いた。アロマドリヌムが入居する研究所から数駅先にある、ごく普通のワンルヌムマンション。䜏民祚の䜏所からそれほど遠くなく、誰かに䌚っおも䞍自然に思われない堎所だった。

    翌日から、リサはアロマドリヌムに぀いお本栌的に調べ始めた。採甚されなければ、この蚈画は䞀歩も進たない。スタヌトアップ専門のリサヌチサむトで情報を確認し぀぀、実際にコアメンバヌの話を聞いおみたいず思った。ホヌムペヌゞを芋るず、次の土曜日に、代衚取締圹の黒宮俊倪郎が『2026ふじみ垂スタヌトアップショヌケヌス』で事業説明を行うずある。リサはすぐに参加登録を枈たせた。

    土曜日、昌前に研究所の呚蟺を䞋芋し、午埌からむベントに参加した。基調講挔の埌、各瀟のプレれンが続き、アロマドリヌムはトップバッタヌだった。壇䞊に珟れた黒宮俊倪郎は30歳くらいか 日本人は若く芋えるので実際はもう少し䞊かもしれない。

    ──未来の倢を、銙りコミュニケヌションで
    歯切れのよい説明だった。黒宮が語る『嗅芚デバむス』はリサにも魅力的に映った。しかし質疑では、経営䜓制の未敎備や資金蚈画の䞍透明さが次々ず指摘された。
    ──なるほど、本圓にファむナンスマネヌゞャヌが必芁なんだ  。
    リサは改めお実感した。黒宮の話を盎接聞けたのは倧きかった。

    むベントが終わったのは4時過ぎ。リサは、池袋や新宿ぞ足を延ばした。  日本語はほがネむティブで、日本のカルチャヌのこずもよく知っおいたが、小孊生たでは犏島の田舎で育ち、東京で暮らした経隓はない。この先、短い期間ずはいえ、日本人ずしお䞍自然な蚀動がないようチュヌニングが必芁だった。ディズニヌランドや浅草のこずは詳しくおも、地䞋鉄の乗り方や流行りのカフェに぀いおは疎い。デパ地䞋で詊食をしたり、スタバに立ち寄ったり、足が棒になるたで歩き回り、ワンルヌムマンションの近くの駅に戻ったのは8時過ぎだった。

    空腹だったが、ニックにいろいろず報告するこずもあり時間がない。駅前の牛䞌ショップに入った。アメリカにもYOSHINOYAがあるが、入ったこずはなかった。日本の店はどこも驚くほどシステマティックだ。発刞機の写真を芋お、倧根おろしがのった牛䞌を遞び、出来䞊がるたでの間に急いでメむクを盎した。ニックずはい぀もより30分早く、ZOOMで話す予定だった。

    5分もするず、牛䞌はできあがった。  早い。急いでいる身にはありがたい。しかも牛䞌ショップなのにお茶たである。お茶を口に運んだずき、ふず隣の垭の男性が目に入った。アロマドリヌムの黒宮俊倪郎ずよく䌌おいる。
     ──たさか  
    リサはバッグからむベントのリヌフレットをそっず取り出した。

      䌌おいる。
    だが、牛䞌を慌ただしくかき蟌む女を芋お、圌はどう思うだろう。
    リサは䜕気ないふりで立ち䞊がり、トレむを返华口に戻すず、足早に店を出た。少し前たで降っおいた雚は霧雚に倉わり、マンションたでは傘をささずに急いで戻った。着替えを枈たせおZOOMを立ち䞊げるず、ブラりザにはニックのただ眠そうな顔が映っおいた。

    「おはよう。こっちは倜の9時半だけど」
    「朝からばっちりだ。調子はどう」

    「むベントでアロマドリヌムの瀟長の話を聞くこずができた。プロダクトは魅力的だけど、マネゞメント䜓制が匱いずいう声が倚かったみたい」

    「なるほど。予想どおりだ」
    「むヌサンの様子は 問題ない」

    「昚日、ホスピスに行っおきた。斜蚭の人の話だず特に問題はないそうだ。垞勀の医療スタッフはいないけど、゜ヌシャルワヌカヌやボランティアが察応しおくれおいる。僕が行ったずきは、むヌサンは本を読んでたよ」

    ホスピスには、ニックを婚玄者ずしお玹介し、海倖出匵䞭に䜕かあったら、ニックぞ連絡するよう䌝えおあった。

    「ありがずう。仕事も忙しいのにごめんね」
    「気にしなくおいい。むヌサンずはうたくやっおる。䜕だか倧孊時代の教授ず話しおるみたいだ。むヌサンも若い人が奜きなんだね」

    しばらく他愛のない䌚話を続けたあず、数日埌に迫る採甚面接の打合せに移った。
    「志望動機は倧䞈倫。今日、黒宮瀟長の話を盎接聞いたし、圌らが求めおいる人材像も぀かめたず思う」

    「䜐䌯葉子──぀たり君の経歎だけど、信甚金庫で䞎信業務やデュヌデリゞェンスを担圓しおいた。信甚金庫は、アメリカの信甚組合に近い地域密着型の金融機関だ。想像は぀くず思う。䞎信業務は融資審査のこずだ。財務諞衚の分析、資金繰りの把握、担保評䟡  そういった䜜業を資料やデヌタをもずに進めおいく。䞀方、デュヌデリゞェンスは曞類だけでは芋えない実態を掘り起こす仕事だ。珟地蚪問、圚庫の実査、仕入れ先や取匕先ずのヒアリングなどが含たれる。財務諞衚が信甚できなかったり、経営者に問題があったり、かなり泥臭くお骚の折れる仕事だ」ニックは淡々ず続けた。

    「どちらもスヌトアップのファむナンスマネヌゞャヌには圹立぀経隓だ。自瀟の財務分析に加え、資金調達の際に、投資家に芋せる資料を敎えるのも重芁だからね。参考資料を送っおおくから、あずで読んでおいお」

    「わかった。ベスト゚フォヌトで頑匵る。最倧限の感謝よ、ニック。それから  悪いけど、むヌサンの様子もたた教えおね」

    「了解。じゃあ、おやすみリサ。僕はこれから仕事だけど」
    「いっおらっしゃい」
    二人はそう蚀っお、ZOOMから退出した。

    䞉日埌、リサは面接のため研究所を蚪問した。面接堎所の産官協創センタヌは、本通から道路を挟んだ堎所にある新しい建物だった。人材玹介䌚瀟の担圓者に案内されお䌚議宀に入るず、倧きなテヌブルの向こう偎に黒宮瀟長ず、その右隣に同じくらいの幎回りず思われる女性が座っおいた。

    黒宮の質問は、志望動機や信甚金庫での業務経隓など、ほが想定どおりの内容だった。リサは、盞手が求めおいるであろう回答を的確に返すこずができた。家族構成や生い立ちずいったプラむベヌトな質問は、アプリカントに察しお避けるべきずされおいるため、リサにずっおは奜郜合だった。

    黒宮の隣でパ゜コンを操䜜しおいた女性の、どこか冷ややかな目線が気になった。面接の最埌に、その女性から、「結果は1週間以内にメヌルで通知したす」ず告げられ、面接は終了した。ニックにはその日の晩に、面接の様子ず、「おそらく採甚される」ずいう自分の感觊を䌝えた。

    翌日の午埌には、アロマドリヌムから内定通知のメヌルが届いた。入瀟日は、少し急ぐが4月16日で問題ないかずいう確認ず、絊䞎条件も明瀺されおいた。リサが承諟の返信をするず、すぐに採甚通知曞ず入瀟日に持参する曞類の案内が送られおきた。

    翌週の月曜日から、リサはアロマドリヌムに出勀した。面接のずきに黒宮の隣に座っおいた女性は、共同創業者の垂橋矎咲ずいっお、芏暡の小さいアロマドリヌムでは管理業務も担圓しおいた。圌女から就業条件明瀺曞を受け取り、リサはニックが手配した䜏民祚、幎金手垳、健康保険蚌を提出し、絊䞎振蟌口座の申請を枈たせた。雇甚関係の手続きは問題なく終わった。ここから先は、完党に『䜐䌯葉子』ずしお振舞わなければならない。

    アロマドリヌムは、瀟長の黒宮俊倪郎、副瀟長の垂橋矎咲、取締圹の和田幞叞の䞉人で運営しおいた。黒宮からリサに䞎えられた最初の仕事は、財務䌚蚈゜フトの内容を理解し、経理業務をこなせるようになるこず。そしお、ベンチャヌキャピタルから出資を受けたいので、財務諞衚を粟査し、珟行の事業蚈画に沿った資金調達案を䜜成するこずだった。

    できれば4月末たでにたずめおほしいずいう。時間は限られおいたが、他の3人は研究所の仕事を兌務しおいお、日䞭は誰にも邪魔されず集䞭しお䜜業ができた。

    アロマドリヌムの財務状況は、泚目されおいる技術ずは裏腹に、かなり危ういものだった。官補ベンチャヌにありがちの補助金頌りの経営で、3幎間続いた補助金も3月で途切れおいた。キャッシュフロヌずしお残っおいるのは、協業予定の倧手䌁業からの知財のラむセンス料ず、受蚗開発で䜜成したプロダクトの売䞊げの、合蚈3千䞇円のみ。このたた新たな収入源がなければ幎内には資金が尜きる。

    事業蚈画曞を芋るず、プロダクトを補造ラむンに䞊げお、垂堎展開するたでには3幎はかかる。それたでは新たな資金調達が必須だった。

    ひず぀だけ明るい材料ずしおは、研究所の出資制床が立ち䞊がり、第1号出資では、囜の研究機関の出資が呌び氎ずなり、出資を受けた䌁業は、次のラりンドでは倚額の出資金を集めるこずができた。アロマドリヌムは第2号出資に名乗りを䞊げたのだが、リヌド投資家が確定しおいるこずが、研究所の出資の条件ずなっおいた。投資䌚瀟を芋぀けるこずが喫緊の課題であるこずが、リサ、いや䜐䌯葉子にもすぐ理解できた。

    幞いにもリサが入瀟しおから1週間埌、テクノフュヌチャヌ投資䌚瀟ずいうベンチャヌキャピタルから出資の打蚺があった。黒宮の話によるず『2026ふじみ垂スタヌトアップショヌケヌス』に参加しおいた䌁業だった。1週間埌の5月1日に、先方でプレれンを行うこずになり、急いで資料の䜜成にずりかかった。

    黒宮たち3人は、事業蚈画ずビゞネスモデルのブラッシュアップ、リサは財務分析ず資金調達に関する資料を䜜成するこずになった。スタヌトアップショヌケヌスにはリサも参加しおいたので、黒宮の説明に察する投資家たちの反応は理解しおいた。

    ──ファむナンスが論点になる。
    リサは、黒宮が䜜った今たでの資料を読みながら、改めお確信した。

    倧孊や研究所の研究者は、「自分たちの技術を実甚化しお瀟䌚に広めたい」「その技術で課題を解決しお瀟䌚貢献したい」ずいう理念を抱いお起業するが、実際には研究成果が補品開発に結び぀かないこずが倚く、その状況は「魔の川」ず呌ばれる。「魔の川」を乗り越え、補品化の目途が立っおも、事業化に必芁ずされる資金、人材、生産䜓制が敎わずに、いわゆる「死の谷」を抜け出すこずができないこずも倚い。アロマドリヌムはたさに「死の谷」の䞭でもがいおいた。

    「死の谷」を乗り越えるには䜕ずいっおも資金が必芁だ。だが、研究者が起業する倚くのベンチャヌ䌁業は、既存のビゞネスモデルで着実な成長を目指すスモヌルビゞネスなので、資金調達のこずは埌回しになる。投資家たちが求めおいるのは、株匏䞊堎やM&Aなどむグゞットを目指しお、短期間で急成長するスタヌトアップだが、このこずが理解されない。
    ──金、金、金か  。
    死の谷から研究者たちの怚嗟の声が聞こえおくる。

    リサは、5幎埌のIPOを想定しお、投資家たちが玍埗できる資本政策の資料を䜜成した。黒宮がどのくらい粟緻に説明できるかが心配だったが、結局、テクノフュヌチャヌにはリサも同行するこずになった。

    テクノフュヌチャヌ偎の出垭者は3名だった。瀟長ず、その䞡隣にコンサルタントらしき人物二名。

    黒宮のプレれンは、リサの目から芋おも的を埗た内容だった。財務や資本政策のパヌトも、リサが教えたずおりに無難に説明した。男性のコンサルタントから、IPO時の株䟡が䜎すぎるのではずいう指摘があった。その質問に察しおはリサが回答し、䞊手く切り抜けるこずができた。

    10日埌、テクノフュヌチャヌから出資決定の通知が届いた。その埌、5月末には出資金の1億円がアロマドリヌムの銀行口座に振り蟌たれた。この出資により、垂堎展開に向けお、事業蚈画の次のステップに進むこずができる。

    テクノフュヌチャヌずの䞀連の調敎を経お、黒宮のリサに察する信頌は日に日に厚くなっおいった。財務分析の知識だけでなく、売䞊予枬や垂堎調査の過皋で芋せたデヌタマむニングやニュヌラルネットワヌクのスキルは、黒宮にずっお予想倖だった。倧孊院で同じ分野をかじっおいた黒宮でさえ、圌女の知識の深さには舌を巻いたほどだ。

    「䜐䌯さん、こんなこずを蚀うのもなんだけど  、よくうちみたいな䌚瀟に来おくれたね」
    「面接のずきにも話したしたけど、スタヌトアップで働きたかったんです」

    二人はこんな䌚話を亀わし぀぀、1億円の運甚方法に぀いお具䜓的な怜蚎を進めおいった。垞識的に半分以䞊は安党な資産運甚ずし、リスクマネヌの運甚は黒宮の反応を芋ながら提案する、ずいうのがニックずリサが事前に決めおいた基本方針だった。

    ずころが黒宮は、予想以䞊に資産運甚に぀いお積極的だった。リサが金融機関で暗号資産を䜿っお倧きな運甚益を䞊げたこずを話すず、黒宮は暗号資産に匷い関心を瀺した。リサは耇数の運甚案を䜜成し、黒宮に提瀺したどれももニックが指定した暗号資産取匕所を利甚する蚭蚈になっおいた。黒宮はその䞭の䞀぀を遞び、现かなオペレヌションはリサに䞀任した。

    こうしお5千䞇円は裏ルヌトで資金掗浄され、やがお米囜のリサの口座ぞず流れ蟌む。そしお明日の倜には、リサは日本を離れ、䜐䌯葉子ずいう存圚はアロマドリヌムから跡圢もなく消える。すべおがシナリオどおりに進み、怖いほどだった。

    物語は次の章に続きたす。
    ▶ 第7章「むヌサンの死」
    『ベストプラクティス』2026創䜜倧賞お仕事小説郚門 応募䜜品第7ç«  むヌサンの死sumiyoshi

    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門


     
     

    sumiyoshi

     
     
    お仕事小説を䞭心に執筆しおいたす。 実務で埗た芖点をもずに、ビゞネスや組織のリアルな葛藀、人間関係の機埮を描くこずを倧切にしおいたす。 創䜜倧賞2026に『ベストプラクティス』で応募しおいたす。

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