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缶詰フルーツは、ビタミンの死体なのか

    以前、レトルト食品に栄養はあるのか、という話を書いた。https://note.com/street_shawarma/n/n54fd95e06d15

    あれの果物版みたいな話である。

    喫茶店のフルーツポンチ、給食のデザート、スーパーの安いフルーツ缶。
    あの缶詰のみかん、パイン、さくらんぼを見ていると、ふと思う。

    これ、栄養あるんか。
    いや、甘くてうまいのは分かる。保存がきくのも分かる。彩り担当として優秀なのも分かる。
    でも、ビタミンまで残っているのかと言われると、どうも怪しい。
    あの透明なシロップの中で、ビタミンCなんて、もうだいぶ前に退職届を出している気がする。

    で、調べると、結論はこうだった。

    半分当たり、半分外れ。

    缶詰のみかん、パイン、さくらんぼにも、ビタミンCはちゃんと残っている。
    ただし、生の果物よりはかなり減る。特にパインは落ち方が目立つ。
    つまり、「缶詰だから栄養ゼロ」は雑すぎるが、「生と同じ顔をして並ぶなよ」と言いたくなる果物もいる、という話だ。

    まず数字を見ておくと、文科省の日本食品標準成分表では、うんしゅうみかん缶詰の果肉は100gあたりビタミンC 15mg、パイン缶は7mg、さくらんぼ缶も7mg。一方で生のほうは、うんしゅうみかんが32mg、生のパインが35mg、生のさくらんぼが10mgである。

    この数字を見ると、なかなか性格が分かれている。

    まずみかん缶。
    これは意外に健闘している。生のみかん32mgに対して、缶詰で15mg。もちろん減ってはいるのだけれど、完全に空っぽになったわけではない。缶詰フルーツ界の中では、まだ「お前、意外とやるやん」と言ってもいい部類だ。
    缶詰のみかんというと、どうしてもフルーツポンチの甘い脇役、あるいは昭和の喫茶店でプリンの横に座っているだけの公務員みたいな顔をしているが、ビタミンCはそれなりに持っている。少なくとも、ただの黄色い飾り玉ではない。

    次にパイン缶。
    これは厳しい。生パイン35mgに対して、缶詰7mg。かなり落ちる。
    もうここまでくると、パイン缶にビタミンCのエースを期待するのは酷である。パイン缶の仕事は、栄養の主役ではない。甘酸っぱさ、南国っぽさ、肉料理の横で妙に場違いな顔をしながらも「いや私は私で必要なんです」と言い張る、あの感じだ。
    酢豚に入っているパインと同じで、パイン缶はしばしば存在意義を問われる。だが、少なくともビタミン面では、かなり丸くなっている。熱とシロップに揉まれて、だいぶ大人しくなった。

    そしてさくらんぼ缶。
    これがちょっと面白い。生が10mg、缶詰が7mg。思ったより残っている。
    もちろん、さくらんぼ自体がもともとビタミンCの大砲ではない。いちごやキウイみたいに「私、栄養も華もありますけど?」というタイプではない。むしろ、ケーキの上にちょこんと座っている、あの赤いお飾り感のほうが強い。
    だが、缶詰にされても案外しぶとい。派手さはないが、地味に持ちこたえる。クラスで目立たないのにテストだけそこそこ取る子みたいなものである。

    では、なぜ減るのか。

    理由は、だいたい3つだ。

    まずは加熱。
    缶詰は長期保存するために、詰めたあとに加熱殺菌する。ここでビタミンCが削られる。ビタミンCは熱、酸素、水にそれほど強くない。根性論で生き残るタイプではなく、わりと繊細である。
    缶詰工場からすれば、菌を殺さないと商品にならない。保存食なのに数日で腐ったら話にならない。だから加熱は避けられない。ビタミンCにとっては気の毒だが、ここは食品工場の都合が勝つ。ビタミンCは、保存性の前ではだいたい負ける。研究レビューでも、果物や野菜の缶詰では、加工初期の加熱でビタミンCのような水溶性ビタミンが減りやすいことが指摘されている。

    2つ目は、シロップへの流出である。

    ビタミンCは水に溶ける。
    だから、果肉だけでなく、周りのシロップにも一部が逃げる。つまり、缶詰フルーツの果肉だけを食べて、汁を全部捨てると、溶け出した分も一緒に流している可能性がある。
    もちろん、だからといって、あのシロップを健康飲料みたいな顔でゴクゴク飲むのも話が違う。あれはビタミン水というより、基本的には砂糖の仕事場である。ビタミンCが少し落ちているからといって、主役はやはり糖分だ。シロップを全部飲めば健康になる、というほど都合のいい話ではない。

    3つ目は、加工のための下処理だ。

    みかん缶なんかは、薄皮をきれいに外して、房の食感を均一にする。
    あの、つるんとした缶詰みかん特有の食べやすさは、かなり人の手が入った結果である。家庭でみかんをむいて食べる時の、あの自然な「果物感」とは少し違う。言ってしまえば、果物をそのまま食べるというより、果物を缶詰という制度に適応させた姿である。
    その過程で、どうしても生の果物の状態からは離れる。食べやすくなり、保存しやすくなり、いつでも同じ味になる。代わりに、みずみずしいビタミンの一部は置いていかれる。

    ただし、ここで雑に「じゃあ缶詰はダメやな」と切り捨てるのも違う。

    ここが大事です。

    缶詰フルーツは、ビタミンCの主役ではない。
    でも、ただの砂糖水に浮いた死んだ果物でもない。

    これが一番正確な見方だと思う。

    生の果物も、実は放っておけば栄養が減る。
    店頭に並んで、家に持ち帰られて、冷蔵庫で数日眠り、切って、放置して、食べる。その間にビタミンCは普通に減る。生鮮だから常に完璧、というわけではない。
    一方で缶詰は、加工時に一度ダメージを受ける代わりに、密封されてからは比較的安定する。だから「生=絶対勝者、缶詰=完全敗北」という単純な勝負でもない。研究レビューでも、加工で減る栄養はある一方で、冷凍や缶詰が栄養を比較的よく保つ場合もあると整理されている。

    結局、缶詰フルーツは何を期待して食べる食品なのかを間違えなければいい。

    みかん缶、パイン缶、さくらんぼ缶に、キウイやいちごやブロッコリーみたいなビタミン補給係をやらせるのは、少し荷が重い。
    彼らの本業は、もっと別のところにある。

    甘さ。
    酸味。
    彩り。
    保存性。
    そして、いつでもそこそこ同じ味で出てくる安心感。

    喫茶店のフルーツポンチに入っている缶詰みかんは、健康番組の主役ではない。
    あれは、あくまでデザートの一員である。パイン缶もそうだし、さくらんぼ缶もそうだ。
    でも、だからといって「栄養ゼロの亡霊」と呼ぶのは、ちょっと気の毒だ。そこまで無能ではない。少なくとも、みかん缶はそこそこ働いているし、さくらんぼ缶も意外としぶとい。パイン缶はまあ……味担当である。現場にはいろんな社員が必要だ。

    だから、缶詰フルーツをどう見るかと聞かれたら、僕はこう言う。

    ビタミンは残っている。
    ただし主役ではない。
    デザート界の脇役公務員くらいの働きはしている。

    それくらいが、いちばん実態に近い。

     
     
    海外と日本を行き来しながら、食と旅とビジネスの現場を歩く実践派。市場も食堂もフレンチ(免許アリ)も同じ目線で観察、リアルな体験で価値を掘り起こすタイプ。現場主義、でも分析は緻密。動いて試して本質をつかむ人。日英仏トリリンガル。

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