
ショートショート 「繰り返せる者」
「次回の更新はありません」。派遣会社の営業から、いつもの死刑宣告を告げられた。形式上は申し訳なさそうな声で。別に死にやしないので動揺はしないが、最近はむしろ本当の死刑宣告の方が楽なのではと思うこともある。何度刑に処されてもしぶとく生き返る、さしずめ「派遣ゾンビ」といったところか。
派遣というシステムで最大の問題は、自己肯定感が無慈悲に破壊されていく点にある。最初は気づかない。給料が多少下がっても、正社員登用の話が消えても、契約を途中で打ち切られても、まだ「次がある」と言い聞かせてやり過ごせる余裕があるからだ。自己肯定できる要素が枯渇する段階になって、ようやく自分が修復不能なほどすり減ってしまったことに気付くことになる。
電車の中で呑気な表情でスマホの画面を眺めるサラリーマン風の男を見ると、思う。あいつは何周目なんだろう。
もし自分にもあの力があったら、あの朝の余計な一言は絶対に言わないだろう。あの返信を三日も寝かせたりもしないし、あの夜の飲み会も普通に参加する。何度目かの周回で、そういった些細なことなのに致命的な結果に繋がってしまう重要ポイントをすべて覚えているのだ。
電車が揺れて、ちらりとスマホの画面が見えた。同期からのLINEだ。「昇進した、飲もう」。一秒も経たずに「おめでとう!」と返す指の速さ。当然返事は用意してあったのだろう。あの無駄のない行動には「繰り返せる者」達の無言の優越感を感じずにはいられない。
でも自分は違う。ほんのわずかな段差から落ちただけで即ゲームオーバーとなるクソゲーの主人公だ。リトライボタンもセーブポイントもない。段々とハードモードになるのを承知の上で、最初から繰り返すしかない。あいつらはリプレイで最適解に辿り着いた。攻略本も読み放題だ。何周目なんだろう、本当に。
この考えを誰かに話してみても、きっと相手にされないだろう。「持たざる者」の気持ちは誰にも理解されない。試しにAIに打ち込んでみたことがある。返ってきたのは「認知の歪みです」「防衛機制ですよ」という言葉だった。根拠を示せと言われた時、さすがに黙った。
考えてみれば当然だ。人間だけではない。AIだって何周もしている。膨大なデータという名の攻略本を読み込んで、最適解だけを吐き出す。僕のような永遠の初回プレイヤーには、冷たく正論を返すだけでいい。
スマホが震えた。派遣会社からのメールだった。いつものやつだと件名だけでわかった。
これで50回目か。そろそろ潮時かもしれない。
隣の男の肩を叩いた。
「あなたは何周目ですか」
怪訝そうにこちらを見た男は自分だった。
「連続AI作家苦悩日記〜明日になれば〜」
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