
え、なにが?反映さん #10 文房具マニア、伊吾蔵
「反映くん、ここに名前書いちゃって。はいこれ、ペンね。」
和室のほうから店長の声がした。
「わかりました。あ、このペン」
反映さんはペンについて何かを言いかけた。
僕はレジに立ち、店の外を見た。外には一羽の鳩がいた。
「うんうん、わかります。反映さんの言いたいことわかります。文房具屋なだけあって、店長はとても書きやすいペンを使ってるんですよね」
伊吾蔵さんの声も聞こえた。
「このペン、黒いな」
鳩は首を前後に動かしながら歩いていた。
「深いねえ、反映くんは!インクの黒さに着目するなんてねえ。僕なんか黒ければなんでも一緒だと思ってるんだから」
「実は私も気づいていましたよ、店長さん」
首を動かしているというより、止めている様だった。
「名前書いたよ、店長」
「はい、ありがとうね。じゃあ次はこれで書いてみて」
「あ、これ」
反映さんはまた言いかけた。僕は鳩を見続けていた。
一歩踏み出すと身体だけが前に進み、頭はその場に留まっていた。
「今度こそわかりますよ。それは掠れにくいのに乾くのが早いんですよね。だから自分の手も汚れないし、文字も擦れないんですよね」
少し遅れて、頭が身体に追いつくように前へ動いた。
「これ、この前、道に落ちてたな」
それを繰り返して、歩いていた。
「細かいとこまで見てるんだねえ、反映くんは!僕なんかしっかり前を見て歩いてないと、どこかにぶつかっちゃうんだから」
「店長はこの店の現実を見なよ」
「反映くんは本当に優しいねえ」
「店長さん。私は好きですよ、この店」
鳩は地面を何度かつついていた。
「反映くん、じゃあこれはどうだい?」
「あ」
鳩は顔を上げ、歩き出した。
「私、知ってますこれ。これすごい高速なんですよね。しかも蓄光でおしゃれなんですよ。あと、先端のボタンを押すと、反対側からランダムで国旗が出てきて遊び心があるんですよね。私好きですこういうの。あ、そういえば爪楊枝を収納する場所もなかったでしたっけ、確か。それって地味に便利ですよね」
「これは確かに伊吾蔵の言う通りだな」
「どうだい?反映くん。その、爪楊枝収納付き高速蓄光旗揚げ装置は」
「はい、とてもいいです」
鳩は飛んでいった。