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金色の忘れ物

    本作は実体験をもとにしたフィクションです。人物名や場面の細部は、作品として再構成しています。


    イギリスから帰ってきて、新しい仕事が始まった。久しぶりの日本での生活にも、光貴は少しずつ慣れてきていた。


    利沙のことを思い出さないまま一日が終わることも、珍しくなくなっていた。


    そんな頃、利沙から連絡が来た。


    「金色のスーツ、そっちにない?」


    光貴は、ほとんど考えずに返した。


    「そんなもの圧倒的にない笑」


    本当になかった。少なくとも、光貴の記憶にはなかった。イギリスから日本に引っ越すとき、荷物は全部まとめた。日本でまた開けた。そのどこかで、一度くらい見ているはずだった。


    よりによって金色である。持って帰っていたら、さすがに覚えている。


    一応、クローゼットを開けた。スマートフォンを片手に持ったまま、もう片方の手で服をかき分ける。手前の服を寄せると、その奥に金色が見えた。


    光貴は手を止めた。スーツを引っ張り出し、画面を見た。


    「え、まって」

    「これ?」


    写真を送った。金色のスーツは、普通にここにあった。「圧倒的にない」と送ってから、四分しか経っていなかった。


    光貴は、もう一度スーツを見た。どうやってこれを見ないまま、日本まで引っ越してきたのだろう。荷造りをした自分にも、荷ほどきをした自分にも、聞きたかった。


    スーツは、利沙に送ることになった。


    光貴は集荷を手配し、家にある袋をいくつか出した。使えそうなものの中から、布製の袋を選んだ。少し良い袋だった。


    スーツの袖を内側に折る。変なところに折り目がつかないよう、手でならした。利沙のことを考えながら、袋の口を広げた。


    ゲームに負けて、横から文句を言ってきた顔。こちらも言い返して、また次の一回を始めたこと。袋に入れる前に、光貴は袖をもう一度直した。


    後日、利沙から届いたという連絡が来た。送料はいくらだったか、と聞かれた。


    「いやいいよ」


    払う、と返ってきたので、光貴は金額を思い出そうとした。


    「900円とかやったと思う」


    ほどなく、送料を送ったと連絡が来た。光貴は画面を閉じた。


    それからしばらくして、友人の家に花火を見るために集まった。ほかの友人たちにまじって、利沙もいた。顔を合わせるのは、久しぶりだった。


    「久しぶり」

    「久しぶり!」


    二人とも笑った。光貴は、挨拶のあとも少し笑っていた。何かを続けようとして、うまく出てこなかった。そばにいた友人が話し始めたので、そちらを向いた。


    利沙は明るく喋っていた。光貴も、何もなかったような顔で相槌を打った。冗談のところでは笑えたし、友人に聞かれたことには答えられた。けれど、利沙の方を見ると、次に何を言えばいいのか、一度考えてしまった。


    花火が上がると、みんながそちらを向いた。


    「今の、でかかったな」


    光貴が言うと、近くで誰かがうなずいた。次の花火が開いて、また声が上がった。利沙の声も、その中に混じっていた。光貴は花火を見ながら、横から聞こえる話にも耳を傾けた。


    話が途切れても、次の花火を待っていればよかった。みんなと同じ方を向いているうちは、それほど困らなかった。


    花火が終わったあとも、友人たちは話していた。光貴はグラスを持ち直した。利沙と目が合って、二人とも笑った。そのあと、やっぱり言葉が続かなかった。


    近くで声を聞いて、笑う顔を見ていると、好きだった気持ちを思い出した。


    光貴はグラスを置いた。


    「そろそろ帰るわ!」


    思ったより明るい声が出た。足元の鞄を取って、立ち上がる。まだ話している友人たちに手を上げ、利沙の方にも顔を向けた。


    「またね!」


    利沙が言った。光貴はうなずいて、玄関に向かった。


    靴に足を入れ、かかとを直した。部屋の方から、誰かの笑い声が聞こえてきた。


    ドアを閉めると、話の中身は聞こえなくなった。笑い声だけを背中に聞きながら、光貴は歩き出した。



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